第20章 精霊と精霊
エルフの森から帰宅した2日後、俺は久しぶりに冒険者ギルドへと顔を出した。
そして、軽食堂に溜まっているいつもの顔を見つけた。
「おろ?ショーヘイ、帰ってきていたのかぁ~?」
「あぁ、ただいまぁ~ははっ」
「あれ?アニーちゃんは一緒じゃねぇ~~の?」
ロークは俺の周りをキョロキョロと見回しながら不思議そうな表情をした。
一緒じゃないのがそんなに不自然なのかと思ったが、フローラもクロエも確認するように周りを見ていた。
「ショーヘイがアニーと一緒じゃないのって珍しくない?」
「ほんとだ!『珈琲にクリープ』が入っていない状態なり~イヒヒッヒ」
「何なんだぁ~その例えはよぉ~?」
「へ?知らない?・・・常に一対であるべき物が片方でも欠けると意味を為さないって格言なり~!無知は困るなりよぉ~~フンッ」
ビックリした!
クロエの言葉に驚きはしたが、何か逆に可笑しくなってしまった。
元の世界の商品名がこの世界で聞けるとは・・・俺よりも何年も前にここへ転移した人がいたんだろう。
こんなのが流用されていると云うことは・・・調べればもっと元の世界を匂わせるものに出会えるのかも知れない。
もしかして・・・このアドリア王国は狭間を介して日本とリンクしているのかも知れない。そんな考えがふと頭を過った。
「マジかよぉ~知らなんだぁ・・・」
「馬鹿はさて置き、アニーはどうしたのよぉ~?」
「馬鹿ってなんだよぉ~~馬鹿って!」
「お黙り!!」
「お座り!!」
「な、何で俺が犬なんだよぉ~~!」
この仲間といると本当に心が落ち着く。
アニーと同じで、彼らも俺の異世界ライフには欠けてはいけないスパイスのひとつなんだろうと思えた。
「ははっは~~ちょっとね、里の爺様にお使いを頼まれて行ってるんだ!」
・・・・・・・・
出立の朝、二人を見送る為に集まってくれた人たちと挨拶を交わしている時、アニーの祖父が俺を呼び止め傍らに立った。
「バサラッドへ戻ったら、アニーをある方のもとへ遣わせてくれるか?」
「はい?・・・」
「アニーにとっては『覚醒』に必要なお方なんじゃ~!」
「わかりました・・・」
「アニーよ、アニー~~~!ちょっとおいで!!」
祖父は優しい顔つきで可愛い孫を手招きした。
「何?お爺ちゃん・・・」
「ふむ、バサラッドに戻ったらこの手紙を託けて欲しいんじゃが・・・頼めるか?」
そう言うと、祖父は蝋で封印された巻き手紙を彼女に手渡した。
「大丈夫です。預かって持って行けばイイんだよね?」
「そうじゃ、そして直に手渡ししておくれ~ほっほほ」
「はい!」
その手紙の意味するところは俺には読み取れないが、何も知らされていないアニーは、祖父に向かって満面に笑みを浮かべ大きく頷いた。
・・・・・・・・
その手紙の届け先は、バサラッド東地区の俺たちの住居からほど遠くない閑静な屋敷街にあった。
いわゆる王族や貴族の住むエリアと位置付けられている場所だ。
アニーは一軒の大きな邸宅の前に佇んでいた。
「ここって・・・英雄ヒュウガ様のお屋敷じゃ・・・」
首を傾げながら独り言をつぶやく。
「お爺ちゃん、何の用事なんだろう~~ヒュウガ様のお屋敷に・・・」
晴れぬ疑念は消えないが、意を決して門を叩いた。
・・・・・・・・・
黒服の執事に通された控え室・・・
正体不明の緊張だけがドンドン高まり、どこか落ち着かない表情でそわそわしていた。
「お待たせ致しました。奥様のお部屋へとご案内致します。どうぞ、こちらへ!」
アニーは執事に先導されながら奥様と呼ばれる女性の部屋の前まで案内された。
コンコンッ
「奥様、アニー・ベルハート様をお連れ致しました」
「どうぞ~お入りくださいなぁ~」
「どうぞ~」
扉を開けた執事に促されるように部屋へと歩を進めた。
そこには、にこやかに笑みを湛える若き夫人が立っていた。
「さぁ~こちらの席へ・・・」
「はい。ありがとうございます」
アニーはお辞儀をしながら手招かれた席へと腰を下ろした。
彼女はアニーが腰を下ろすの確認して、自分も正面の席へと腰を下ろした。
アニーを見つめるこの女性は本当に美しい・・・
どこがどうとかではなく、女性の目から見ても飛び抜けて美しく見える。
造形美のようなどこか冷たく感じる美しさではなく、暖かい視線をくれる目元、優しい笑みを浮かべる口元・・・言葉を失う、言葉にできない美しさというのを初めて知った。まさに『美の完成品』それに尽きた。
まるで『女神さま』にでも出会ったような気分・・・アニーにはそんな風に感じられた。
「エルフの森からいらしたそうですねぇ~」
「はい。村長をしております祖父から手紙を預かって参りました」
「あら~~ホランドから?それはご苦労さまねぇ~ふふっ」
「いえ・・・・」
祖父を名前で呼び笑顔を浮かべるこの美しい女性に、理由もなく照れてしまい頬を染め俯いてしまった。
「あら、わたし自己紹介していませんでしたね。シフォーヌ・ヒュウガです。お手紙届けて下さってありがとう。アニーさん・・・」
自己紹介をしながらアニーへとお礼の会釈をするシフォーヌ。
「えっ!もしかして・・・ヒュウガ様の奥様なのでしょうか?」
「そう。ジロータ・ヒュウガの家内でございます・・・ふふっふ」
「あぅ・・・」
思わず声が洩れてしまった。
自分に接してくれているこの女性が『英雄ヒュウガ』の奥様だというだけでアニーは卒倒しそうになった。
「そんなに堅くならないで!わたしも元はエルフの森の民だったんだから~アニーさんと同郷なのよ~」
「えっ?!」
「あら、そうだった!アニーさん、お話は後にしましょう~先にホランドからのお手紙を読ませていただくわ~お返事がいるかも知れないし・・・いいかしら?ふふっ」
「はい・・・」
シフォーヌはアニーから受け取った手紙の封印を剥がし、そしてそれに目を通した・・・
・・・・・・・・
精霊 シフォーヌ・ヒュウガ 様
不躾にも100数年ぶりの突然なる便りを失礼致します。
積もる懐かしい話もございますが、それはまた後日といたしまして。
この手紙を開かれている先には、我が孫のアニー・ベルハートが居るものと思われます。
この娘はシフォーヌ様と同じく『精霊』でございます。
私が封印しておりますので、本人も『精霊』であることに自覚はございません。
ですが、すでに番となるハイヒューマンと『縁』を交わしております。
『理』による出逢いを果たしてしまった二人が寄り添い合えば、封印も遠くない先に解けてしまうことでありましょう。
そこでお願いではございますが・・・
封印が解けてからでは本人の動揺も大きいものと想像致しております。
その事態を避けたいと願うジジイの我儘であると言えばその通りでありましょう。
叶うものなら・・・
シフォーヌさまのお力をお借りして、わが孫を『精霊』へと導いてやっては頂けないでしょうか。
願わくば『精霊』としての「あるべき姿」をご享受戴ければ幸いかと存じます。
甚だ手前勝手なお願いでは御座いますが、お聞き届けのほど、何卒宜しくお願い申し上げます。
エルフの森 村長 ホランド・ベルハート




