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第19章 空に舞うブーケ

この世界のコトワリという難解なパズルがひとつ、またひとつと埋まっていく。

元の世界の既成概念も俺の固定観念も木っ端微塵に打ち砕くこの世界の概念・・・

でも俺は、この世界で生きている。そして生き続けて行くつもりである。

それが、俺に与えられた『宿命』でもあり『運命』なのかも知れないと思えるようになってきた。



村長である祖父の部屋から降りると、アニーが不安そうな顔をしてそこに立っていた。


「遅かったですねぇ~心配しました・・・」


「あれっ?待っていてくれてたのかぁ~~ははっ」


「だって、挨拶だけなのに、すごく遅いし・・・」


俺は予想外の出来事に戸惑った。

まさかアニーが迎えに来てくれてるとは・・・

心配顔の中にねる仕草のしおらしさが何とも可愛く、そして愛しく思えた。


「ははっ、ゴメン、ゴメン・・・気を遣わせちゃって!」


「お爺ちゃん、けっこう難しいから・・・」


「大丈夫だったよ~いろんな話を聞かせてもらったし!」


「・・・・」


「でも、心配して迎えに来てくれたこと・・・ありがとうね!」


「うん・・・」


俺はそう言って、しおらしく傍らに立つアニーをそうっと引き寄せた。

そしてやさしく抱きしめた。



「お父さん、お母さんも待っているんだろう?家に戻ろうかぁ~・・・」


「うん・・・」


アニーは嬉しそうに、俺の胸の中で静かに目を伏せた。



・・・・・・・・


・・・・・・・・



「アニーには、まだ自身が『ハイエルフ』であることは伏せておこうかのぉ~いずれわかることじゃが・・・ほっほほっ」


祖父はどこか楽しそうに高笑いをした。

にこやかなその笑顔は・・・きっと俺と話したことで肩の荷が少し降りたんだろうと思う。

逆に、後はお前に任せたとでも言われたようで肩が急に重くなった気がした。


「わかりました。私が『ハイヒューマン』であることも彼女は知りません・・・」


「うむうむ・・・機が熟すのはそんな遠くない先ではあろうが・・・」


「・・・・」


「しばらくは、今のままのお前たちで、お互いを見つめ合えばよいじゃろぉ~~」


「はい。そうします・・・」


「よしよし、くれぐれもアニーをよろしく頼む!ふはっはっは~~」



本当にこの世界のコトワリはすべてにつけ俺の範疇外にある。


たとえ、ハイヒューマンとハイエルフでなくても・・・ヒューマンとエルフの2人であってもアニーとは『えにし』を繋げられた気がする。

それはコトワリに反する俺の思い上がりなのかも知れないが、男と女の出逢いは理屈じゃないと思っている。

誰かに操られったような『運命』を素直に受け入れるのではなく・・・悠久の時の中で、コトワリを越え、『運命』が何なのかを二人で探して行きたいと思う。



・・・・・・・・


・・・・・・・・



開けた扉の先には温かい家族の匂いがした。

元の世界ではスッカリ忘れてしまっていた匂いだった。

そこには家族全員が勢揃いしていた。



「ただいまぁ~~!」


アニーのその声に全員の視線が玄関に立つ俺たち二人に集まった。

恥ずかしいやら・・・照れくさいやら・・・

俺は彼女の傍らで視線を上げられず、頭を掻きながら軽くお辞儀をした。



「あら?・・・戻ってきたわよ~アニーたち!」


「おう、戻ってきたかぁ~~さあさっ、こっちへこっちへ!」


アニーの母親も父親も笑顔で二人を迎え入れてくれた。

とりわけ父親は嬉しそうで・・・俺たち二人を料理で一杯に盛り付けられたテーブルの方へと手招いてくれた。



「アニーの『ご主人さま』のショーヘイさんねぇ~・・・初めまして姉のミリアです!あはっ」


今回の結婚式に招いてくれた一番上の姉がすぐさま駆け寄り俺に挨拶をくれた。


「あっ、この度はおめでとうございます。挨拶が遅れましたが、ショーヘイ・クガと申します」


「やめてよぉ~~堅苦しい挨拶なんて抜きにしましょう!・・・でも、ありがとうございます。アニーと一緒に来てくれて!」


肩の力抜きなさいよとでも言いたげに、ミリアは俺の肩をポンッと叩きながら返礼してくれた。


「わたし、アニーのすぐ上の姉のマリンでぇ~す。こいつは下の弟イアン、こっちがレスター・・・」


「長男のレスター・ベルハートだ!よろしくなショーヘイ君!!ははっ」


「こいつとはヒドイなぁ~マー姉ちゃん!俺イアンです。よろしくねぇ~!」


兄弟それぞれに笑顔で自己紹介をしてくれた。

俺はその度に軽く会釈をしながら笑顔を返した。

ミリアもマリンもやっぱり美人だった。この一家の女性は本当に美人揃いだ。

さすがにエルフ族は美形が多いとは聞いていたが・・・これには呆気にとられてしまう。

その上、兄も弟も俺と比べれば遥かにハンサムだし・・・横に立っているのさえも我ながらイヤになった。



「ショーヘイさんて、アニー姉ちゃんの将来の旦那さまなのかな?イシシッシ・・・」


「まっ、イアンったら!お子ちゃまのアニーにはまだ早いわよ~~ねぇ~アニー?」


「・・・・」


「・・・・」


イアンとミリアの言葉に頬を染めながら俯くアニー・・・

俺はと言えば、言葉を繕うこともできず、視線を照れ隠しに上に向け苦笑いだけを浮かべていた。


「まぁ~二人とも照れて可愛いわねぇ~~あはっ」


「挨拶が遅れたなぁ~私がアニーの父のクレマン、そして妻のエランだよ」



いつも笑みの絶えない家族・・・アニーを見れば、この家族があったからこそ今の彼女がいるんだと感じた。


「ミリア~~あなた明日の用意は出来ているの?明日なのよ~わかっているのかしら・・・」


ミリアさんは、明日この家族から新しい家族を作るため旅立つ。



・・・・・・・・


・・・・・・・・



木の茂みから洩れてくる光が本当に心地よい。

そして緑いっぱいに溢れる森の中を・・・新郎新婦を祝福するかのように、優しい風がサワ~サワ~と葉を揺らし奏でながら通り抜けてゆく。


集落から少し入ったところにある広場・・・

たくさんの列席者に見守られ、婚姻の誓いを立てる二人・・・


隣を見やれば、アニーの笑顔がほころんでいる。

姉の結婚式というだけでなく、いつの日か迎えるであろう自身のその日に重ね合わせているんだろう。

俺にはそんな風に思えた。



幸せって何だろう?・・・

元の世界では考える余裕もその気もなかったし、それは他人事でしかなかった。

今考えると本当に淋しい人生を送っていたんだろうと思う。


地震というアクシデントに始まった転移だったが・・・俺はこの世界へ来れて本当に良かったと思う。

アニーと出逢い幸福感というものを教えてもらい、そしてそれを心から感じている自分がいる。

今回、アニーの両親や兄弟にも、家族の温もりを垣間見せてもらった。


これからの長い人生、いろんな事があって当たり前だろう。

でも、俺の隣にはいつも笑ったアニーにいて欲しい。

お互いの存在が何かなんて簡単に答えが導き出せるものではないが、時間が許す限り、隣りに寄り添い合って笑える二人になりたいと思う。



「ミリア~~おめでとう~」


「おめでとう~~♪」


「おめでとう~姉さん~!」


ミリアは幸せ溢れんばかりの笑みを浮かべ、

胸に抱えたウェディングブーケを・・・

この幸せを次の誰かに贈るために・・・


空へと放り上げた。






秋の青い空に

次の幸せを届ける『白いブーケ』が舞った。



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