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第18章 悠久の時をともに

「ハイヒューマンは時空の狭間からしか転移してこない人種」



アニーの祖父に言われたこの言葉で・・・時空の狭間の管理人から言われた言葉を思い出した。


「ハイヒューマンであることを悟られないように」


今ようやくその言葉の真意が理解できた気がする。

『ハイヒューマン=転移者』であるということ。それは、異世界からこの世界に流れ着いた人間であることを意味するということだ。

そして人並み外れた能力保持者であるが故、それを誰かに利用される可能性があるということへの勧告だったんだ。

バラバラだったパズルがここでひとつ繋がったように感じられた。



・・・・・・・・



居間では、苛立いらだちの表情を浮かべたアニーが、部屋の中をあちらにこちらにとせわしく往復している。

そんな素振りを見かねた母親が彼女を諫めた。


「落ち着きなさい、アニー!」


「『ご主人さま』がお爺ちゃんのところから帰って来ないんだけど・・・」


「心配しなくても大丈夫よ~もうすぐ帰ってくるでしょうから・・・」


「やっぱり、迎えに行ってみる~~!」


「お話が弾んでいるのかも知れないから・・・とにかく今は待っていましょう~!」


母親も心配性のアニーの言動に少し困り果てていた。



・・・・・・・・



「創造神と出会ったであろう?・・・お前はけっこう気に入られたのじゃな!ハイヒューマンとして転移させらたということは・・・ふはっは」


「私には『時空の管理人』だと名乗られました」


「そうか、そうか・・・ほっほっほ」


「・・・はい」


アニーの祖父は腕組みをしながら楽しそうに笑った。


「あのお方に名前など無いのかも知れん。我々が『創造神』と呼んでいるだけで・・・」


「私が出会ったのは・・・やはり神様だったのでしょうか?」


「目に見える見えないは関係ない。この世界にも、お前の元いた世界にも、あの方は存在しておられる」


「・・・・」


「そしてお前は、どういう経緯いきさつかは知らんが、ハイヒューマンとしてこの世界へたどり着いたということは事実だ!」


「はい。その通りです・・・」


「うむ・・・あそこは、時空の狭間は人間しか通れない空間なんじゃよ。だからこちらの世界へ已む無き事情で来るときは、通常はヒューマンとして転移してくる」


「そしてお前が普通のヒューマンならアニーとは『えにし』を繋ぐこともなかったじゃろぉ~」



・・・・・・・・



「アニーは生を受けてから17年・・・まだハイエルフとしての自覚も覚醒もしておらん!それはワシが封印しておるからじゃ・・・」


「え?!」


「生まれた瞬間・・・銀髪の娘だったのじゃ・・・エルフは大抵が金髪蒼眼として生まれる」


「銀髪はハイエルフの証なのじゃ・・・普通のエルフは弓術が得意なのだが、ハイエルフは何百年に1人ほどしか存在しない希少種な上、異常なほど魔力が高いのじゃ!」


「エルフの上位種がため、エルフ族の中では『神』や『精霊』、『王』のように扱われてしまうしのぉ~!」


「その事を村の人たちは知っていて『姫』と呼んでいると・・・」


「そうじゃの~あのを取り上げた産婆も見ていたからのぉ~・・・人の口に衝立ついたてを建てるというのはなかなか難しいものじゃ~ほっほほ」


「解る気がします・・・」


「何にせよ、生まれたばかりのこの娘が、そんな『神』のように皆に崇められるのは不憫ふびんと思い、アニーの親とも相談して、この娘が成長するまでその力を封印することにしたのじゃ・・・」


「封印できるのは外見と一部能力だけじゃ、本能までは封印できない」


「まぁ~~ハイエルフとして覚醒したら・・・アニーは今より更に美しくなるぞ!もう美の女神のようになぁ~ふはっはっは」



上の二人の姉を差し置いて、何故アニーが『姫』と呼ばれるのか・・・その理由が理解できたような気がする。

俺はそれ以上言葉にせず、ただ祖父の話を黙って聞いていた。



「だから、アニーが『縁』を繋ぐのは、ヒューマンではなく、当然ハイヒューマンであり・・・」


「そのハイヒューマンが求めるつがいは『ハイエルフ』と決まっている~それは変えることの出来ないこの世界のコトワリなんじゃ!」



笑い顔の中にもどこか真剣な眼差しを浮かべ、俺に言い聞かせるように彼は言った。

何故そうなるのか理解などできないが、この世界のコトワリが少し見えた気がした。

でも・・・俺はハイヒューマンだからアニーに惹かれたんじゃない。

久我昇平としてアニー・ベルハートという女性に惹かれているんだと思いたかった。



・・・・・・・・


・・・・・・・・



「だから、アニーが『えにし』を繋いだ人間を連れて帰ってくるということは・・・」


「想像できるか?」


「はい。何となく・・・」


「それは、お前が『ハイヒューマン』であるという証なんじゃ~~ふはっは」


「でも例えば・・・ただ単なる友達をココへ連れてきたのかも知れないとは思われませんか?」


「それはどうかのぉ~まずありえんじゃろなぁ~!」


「何故でしょう?」


「アニーが友達を1人連れ帰るならそれは同性じゃろ。異性が混じるなら数人になるはずじゃ」


「あっ、なるほど・・・」


「敢えて異性のお前を、それも1人だけ連れ帰る意味がわかるか・・・」


「何となく・・・」


「お前は何者だ?」


「ハイヒューマン・・・です」


「ふむ・・・ではアニーは?」


「お話からだと・・・ハイエルフかと・・・」


「そうじゃのぉ~~」


「お前たちはどうやって出逢った?ギルドで知り合ったか?お互いの友人の紹介で知り合ったか?・・・どうじゃ?」


「いえ・・・・」


「偶然を装った必然だったのじゃろう?~何が切っ掛けなのかワシは知らんが・・・」


「・・・はい」


「そしてお前たちは思ったはずじゃ、『自分にとっての相手の存在』が何なのか知りたいと・・・」


「・・・・」


確かにそうだ。

起こり得ぬ場所で、起こり得ぬことが、起こり得ぬタイミングで起こった。

これは紛れもない事実だった。

そして、俺もアニーもこの出来事による結末を知りたいと願った。



「ハイヒューマンとハイエルフはお互いがお互いを求め合う『運命』なのじゃ・・・それはいくら偶然を装っても必然なんじゃよ~」


「お前たちは知らず知らずに惹かれ合ってたはずじゃ・・・違うか?ほっほほ」


「お前はアニーが嫌いか?好かぬか?」


「いえ、もう掛け替えのない存在として俺の心を埋めています」


「そんなアニーが連れ帰るのが誰なのか・・・ワシらには事前に理解できていたんじゃよ」



『運命』という言葉は重かった。

俺がそれを、彼女を背負えるかと考えると自信がない。

けど一人で背負うことではないんだ・・・それが『つがい』になることなんだとわかった。

求め合う二人なら、背負うのも二人である・・・

運命という言葉にもてあそばれている感覚は抜けないが・・・繋ぐ『えにし』の先にあるものが見てみたい。




・・・・・・・・



・・・・・・・・




「ここから先は、可愛い孫を思うジジイの独り言だと思って聞いてくれ~」


そう言うと、アニーの祖父は優しい一人の好々爺の顔付になった。


「アニーがこの世に生まれた時点から、遠くない先にハイヒューマンが現れることは想像できていた。そして、お前が現れた・・・」


「お前もアニーも何事もなければ1000年以上生き続けるであろう・・・外面上の成長が止まった時点の姿でな!」


「そして・・・そんな『悠久の時』をアニーとともに流すであろうお前にジジイからのお願いじゃ・・・」









『末永く可愛がってやってくれ・・・』

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