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第35章 饗応と裏の謎


 『神聖なる川』と称される透き通るように澄んだ綺麗な水を豊かにたたえるロトリア川が街の中心部を流れる。

バーラム共和国の首都ウェイレストは四方を囲む山並みと清らかなる川音の調しらべにいろどられた美しい街であった。


 アドリアの最西南端にある港町ベルフォースや南国の開放的なムード一色に染められたルクソニア公国の首都バンドールとは全く異質な閑静なおもむきが感じ取れるどこか落ち着いた街並みが広がっていた。


 混迷期~崩壊期まで大ローラン帝国の首都であった現アバディーン王国の首都ファーナムにも近い場所に位置している。

それは政治的にも文化的にも何か意図するものがあったのかどうか推し量ることはできないが、ここから国境までは、本当に『目と鼻の先』であることを教えられ驚いてしまった。

すべての中枢を担うそれぞれの首都同士が極端に言えば耳を疑わんばかりの至近距離にあるなんてことは、君主制と民主制である・・・何が起こり得るか判らない時代に於いてそれは緊張の糸を張り詰める行為であり、極めて稀なことであると思えた。

しかし、崩壊後の独立分離の時代から現在に至るまで、政治体制は違えと言えど、何ひとつ変化しなかったことは、お互いがお互いを尊重し理解しているからこそ今も友好な関係も交流も続けられているんだろう。



俺たち一行は魔物を撃退したのち、ようやくウェイレストまで辿り着いた。

そして・・・モルガン・デュパールの立っての希望と好意により、彼が住まう屋敷の一室で旅装を解いていた。


「ここは、どこか高貴な貴族のお屋敷にあるようなお部屋ですねぇ~・・・あはっ」


アニーは通された部屋を見渡しながら感嘆するように言葉にして笑った。

たぶん、シックな中にもおごそかさを漂わせる造りが、見慣れたシフォーヌの屋敷を思い起こさせたのかも知れない。

そんなアニーの興味深い視線に誘われるように俺もグルッと部屋の中をひと通り見回した。


「そうだなぁ~・・・でも、この国にはそういう存在はもう無いんだろ?」


「ですねぇ~、王族や貴族なんて身分は遠の昔に廃止されていますからね~」


誰にとはなく投げかけた俺の疑問符の付いた言葉に、ルーカスは同じように部屋を見つめながら答えてくれた。

彼のそんな言葉に頷きながらふと吹き抜ける風を感じ窓辺に目を移せば・・・開け放たれたバルコニーには、サーシャがせがんだのか、彼女がそうしたかったのか・・・マーゴットの胸に抱きしめられたサーシャが夕べの風に気持ちよさそうにはしゃいでいる微笑ましい姿があった。


ソニアは旅装を解きながらルーカスの言葉に反応を示すかのように顔を上げた。


「じゃあ、高位高官になると住めるとかなのですか?」


「ははっ、それはどうか判らないけどさ、もしかしたらモルガンさんの自宅では無く『公邸』なのかも知れないって思っただけだよ~」


「あぁ~~在任中に貸し与えられるお屋敷ってことですね!」


「実情は知らないけど、そうかも知れないねぇ~・・・」


「まぁさ~、国のシステムそのものがアドリアやルクソニアとは根本的に違うんだから・・・ははっ」


その場に居た3人も、俺のそんな苦笑いに得心したように頷いた。



俺は元の世界を知っている。

民主主義とういう基本理念によって選挙という国民の意志で選ばれた者がその国の指導者になっていくシステムは当然ながら熟知している。

王族や公族が世襲することで国を維持しているこの世界のありきたりな君主体制の観念とは異質なものであることも理解できている。

ただ、バーラム共和国の民主制自体が、俺が知っている元の世界と全てにつけて同じ物かというと・・・それに近しいものであることは節々(ふしぶし)からも感じ取れたが、それはそれで大きな疑問として残るものがある。


そこには全ての国民に選挙権があるかと言えば違うようだ。

王族だの貴族だのという特権階級は廃止されたが、末端の奴隷階級が今だ以って存在しているようだ。

そうでないと、奴隷在りきで成り立っている国や者たちからの反発も大きいし、隣国からこの国へと移民してくる者が多すぎると、それが火種となり戦争が勃発してしまであろうことは容易に理解できた。

だから身分制度の完全なる廃止などには至れないようだし、それが隣国との平和維持の為の最低限必須な要素になっているということも納得できた。



・・・・・・・・



 夕食の席を設けてくれたモルガンは、予定時刻より少し遅れたが、それでも俺たちを待たせる事の無いように急いで戻って来てくれたことを伺わせた。

遅れを感じさせるような遅刻でないにも係わらず、初老の身でありながら急ぎ足で駆け付けてきたのであろう。

汗がほとばしる額をハンカチで拭いながら苦笑いを浮かべ、そして給仕係に引かれた席へと慌ただしく腰を下ろした。


「お待たせいたしました!大統領閣下に一連の出来事を報告しておりましたので少し遅くなりましたわぁ~申し訳ありません!」


「いえいえ、立場上、お仕事がお忙しい最中なのに、昨日今日知り合った我々のような素性の知れぬ者にこのようなお饗応もてなしを戴き、こちらこそ恐縮ものです!」


「何をおっしゃる!『命の恩人』に対しどう感謝してよいやら~~この程度のことでは逆にお恥ずかしい限りですわい!ふははっは」


「お気遣い痛み入ります」


俺の申し訳なく思う気持ちを笑顔で笑い飛ばしたモルガンであったが、さすがにアニーが頭を下げながら恐縮する弁には少し慌てたように見えた。

焦るかのように中腰に立ち上がり、逆にペコペコと額を上下させた。

そして優しい笑みを浮かべ、ゆっくりと席を囲む全員を見回した。


「いえいえ、何をおっしゃいますーー!奥方様にも娘さまにも、ゆっくりして戴ければ幸いです・・・それに歳甲斐もなく、こんなお美しい女性方と席をご一緒できることに感激しております!」


そんなモルガンの行為も言葉もこの人物の誠実さを如実に物語っているようで微笑ましく思えた。

年齢に関係なく男という生物はやっぱり美人には弱いのか・・・マーゴットもソニアもその素振りと口振りにクスッと笑いを洩らした。


「サ~~シャだよ~!イヒッ」



・・・・・・・・



 賑やかで愉快な会話の中で時が緩やかに刻まれてゆく。

モルガンは知り合って間もない俺たちを旧知の友のように親しく饗応もてなしてくれた。

それは上級魔物二体が襲撃してくるという危機的な状況下において、若者の冒険者たち一個パーティーが連携良く鮮やかに退けてしまう・・・その上、移動に高価な魔導馬車まで利用しているとなれば不自然さ以上に興味が沸いて当たり前だろう。

だが、彼も政治家の端くれであり、国家の行く末を担う重鎮と言う立場もある・・・こういう風に招き入れてくれた事に、そこに感謝や興味だけでなく何らかの思惑や魂胆があるのかも知れないが、人間である限りそれはそれで良いと俺には思えた。

そんな物が有ろうが無かろうが、それ以上に気の良い紳士に感じられたからだ。


「あの、ビーストテイマーたちはどうなりました?」


「彼らたちは牢獄で取り調べをされておりますよ!」


「なるほど・・・でも簡単には首謀者なんぞは吐かないでしょうね~ククッ」


気になっていたのか、ルーカスはおもむろに昨夜の襲撃事件に触れだした。

それに対しモルガンは、含みのある笑顔を作り軽く頷いた。


「ですなぁ~・・・それでもある程度の目星はついておりましてなぁ~」


俺は彼が目を細めながら口にした言葉に興味を持った。

それはあらかじめこういう事態が有り得ることを『想定』していたと言う事である。


「ほぉ~・・・それはこういう事が起こっても不思議でも何でも無いことだと考えておられると言うことですか?」


「まぁ~、詳しくは申し上げられませんが、そう受け取ってもらっても宜しいかと・・・ふははっ」


モルガンはそう言い切ると気持ちよさそうに笑った。

自分が危険に晒され、一歩間違えば命を落としていたかも知れない出来事であっても動じない、平然としていられるのは、日頃からこういう事態に直面して来たという所以ゆえんだったのか・・・だから何が起こり得ても保てる平常心と腹をくくっていたという事なんだろう。


為政者側の立場としては、こういう『覚悟』も必要なのかも知れないが、こんなことが公人に対し日常茶飯事に起きるようでは身が持たないであろう。

それほどバーラム共和国の政治体制が揺れているのか、若しくはモルガン個人が招いたものなのかは知る由もないが、興味と共に何かに巻き込まれたという変な違和感が俺の脳裏を掠めて行った。

杞憂きゆうであれば良いのだが・・・


「詮索は致しませんが、それはそれで余りにも物騒過ぎませんか?」


一見、どこにそんな殺伐さが渦巻いているやら想像することさえ思い付かないこの華やかで美しい都も、その水面下では何やら不穏な動きがにわかにざわめいているように感じられた。



「ロトリア川は4か国をまたぐ『神聖なる川』なのですよ・・・謎でしたかな?」


俺たちを見つめるモルガンの作る笑顔と、そしてその言葉の真意が何ひとつ見えて来なかった。


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