第33章 召喚獣の存在
魔物なる獣の性なのか、はたまた操られるがままに動かされているのか・・・重量感のある地鳴りのような足音を響かせながら土埃を舞い上げ、何のためらいも躊躇も無く街道を横断し、野営地へと怒涛の突進をしてくるレッドボアの勢いは凄まじい。『猪突猛進』その言葉に尽きる。
『テイム』
対象物を手懐けて使役したり、仲間にすることを意味する。
この世界におけるテイムスキルは一種の催眠術の応用である。
受ける側も掛ける側も種族的に近いものでなければ効果が薄い。
魔物や魔獣を操り使役するなら『魔人族』や『獣人族』が最適と言われるのはその所以である。
エルランド・ドラゴニスの見解を借りるならば、進化の過程における『原種』なのだから、その種族が近い存在であって当たり前なんであろう。
またテイマーの能力によって、魔物や魔獣の種類やクラス、テイムできる時間などに違いはあるようだが・・・
確かにレッドボアもブラックベアーも上級に位置付けされる魔物ではあるが、テイムを受けているこの2体は大きさで言えばクラスは中型・・・さしずめ能力的にはC級あたりではないかと思われた。
近き存在と言えど、最上級の超大型をテイムできる使役者など皆無なのかも知れない。
もしそれが可能な者が存在するとなると、それは我々のような『上位種』しか考えられないであろう。
それが幸いと言えば幸いしたようには思えたが、それでも並大抵とは言えない強敵であることに変わりはない。
ルーカスは口を一文字に結び、歯を食い縛りながらその突撃を盾で真面に受け止めた。
ドガッ、ドッシィーーーン、ズンッ
ドドッ、ズズッズズズーーー
「くぅーーー!」
苦痛の悲鳴が洩れる。
体長3M以上、重さは遥か1tを超えようかという巨体である。
そんな生半可ない怪物の勢いに後ろへ押し戻されながらもルーカスは踏ん張る。
流石に身体能力が長けている『上位種』だからこそ、正面からその突進を受け止められたんだろう。
例え最高ランクであるA級の冒険者だって1人ではこの突進を防ぎ凌ぐことは不可能である。
勿論、同じ盾職を生業としてきたロークも然りである。実力はかなり高レベルな域にまで到達しているとは言え、呆気なく踏み倒されていただろうシーンを想像することは容易であった。
それを傍目に見て取ったソニアが叫びながら飛び込むように勢いよく首筋へと一撃を叩き込む。
「アッパァ~~~~カッーート!」
レッドボアは、ソニアのその一撃に大きな体を少し横へと揺らした。
致命傷にはならないが、よろける程にそれなりのダメージは受けたようだった。
レッドボアに少し遅れてブラックベアーも野営地へ雪崩れ込もうと駆け込んできた。
俺はすぐさま片膝を付くようにしゃがみ込み、目の前の地面へと左手をついた。
防御壁を既成するスキル『ウォールオブエレメンツ』では短縮詠唱と言えど間に合わない。
咄嗟にユニークスキルの『創造変換』を使う。
『土壁既成!!』
ズガガガガッガァーーーー
瞬時に目の前へと大きな壁が聳え立つように姿を現した。
物質そのものを構成する粒子が進化できるものに限り変換できるユニークスキル。
土を壁に創造変換することは当然理に適い、容易い。
ズドォーーーン
勢いよく突進して来た敵は突如の障害物に止まることはできない。
モロに土壁に激突し後方へと翻筋斗を打って仰向けに倒れ込んだ。
それを気配で感じ取った俺は、既成した土壁を横からすり抜け倒れ込んだ敵へと斬りつける。
スラッシュの連打。
バシュバシュ、ズガッー
横ではルーカスがバッシュとシールドチャージを同時発動しながらヘイトを反らさないようにレッドボアの憎悪を釘付けにしている。
ソニアはそんな敵に対し、アッパーカットを連続に叩き込む。
さすがに連続で斬りつけらられた首筋は大きく裂け、鮮血を噴水のように辺り一面へと撒き散らしていた。
倒してしまうまでにはまだ時間を要しそうだが、それでもHPはかなり削り取ったようだ。
俺は片手剣によるスラッシュの連打から両手剣に持ち替える為・・・
「マーゴさぁ~~ん、後ろからブラックベアーにスタン系魔法をお願いできるか?!」
「はい、了解しました!」
土壁の後方にいたマーゴは俺の言葉に大きく頷きながら敵が視認できる位置へと小走りした。
そして無詠唱で『ルーン・プリズン』と叫び、半透明な魔法の檻をブラックベアーに投げつけるかのように発動した。
巨大な熊は瞬時、その檻の中に閉じ込められたかのよう動きが止まった。
それを確認した俺はアイテムBOX(無限バッグ)から両手剣を呼び出す。
そして後方のアニーとマーゴの女性二人へと振り返り指示を出した。
「召喚獣をビーストテイマーに!!」
「了解!!」
同時にコクッと頷き、返事がシンクロする。
意識を集中する為なのか瞬時目を閉じた二人は、思念で指令を伝えるかのようにそれぞれの『召喚獣』を操り始めた。
上空で静止していたハーピーとフェニックスが野営地から街道を挿んだ森の方へと羽ばたいてゆく。
きっとその光景を見て取ったテイマーたちは意識が操る魔物から離れ、『召喚獣』からの攻撃を防ぐ為に自己防衛へと走るであろう。
そうなれば意識の乱れから魔物たちへの催眠効果も薄れるに違いない。
がしかし、凶暴なものたちの行動がそれで止まるわけではない。
操り使役されているという洗脳は解除されるかも知れないが、彼らの闘争本能は一度火が着けば留まることを知らない・・・それは恐怖に怯え自ら退くか、もしくは勝敗が決するまでは終わらない。
勝利に雄叫びを上げるか、敗北に屍を晒すか・・・本来魔物であり野獣とはそういうものであり、人間のように和睦なり和解などという中途半端な落としどころも思考もない。
だから、こちら側がそれに対し為さなければ為らない行動は短絡的ではあるが、反面、厄介で面倒極まりない代物なのである。
ただテイマーからの催眠・洗脳効果が薄れると、当然ながら暴走するだけで意のままには動かない。
それがモルガン・デュパールに対するものなのか、俺たち一行に対するものなのかは今は解らないが、何らかの意図する目的を達成することはできない。
こちらにしても、今の現戦力では目前の魔物に相対することで精一杯である。
そういう意味では、後方に控えるテイマーへの攻撃に『召喚獣』の存在は戦力として非常に大きかった。
「く、くそったれがぁーーー!」
「マズイぞ!・・・一旦下がろう!!」
テイマーたちは這う這うの体で逃げ惑う。
風系魔法のウィンドカッターで反撃は試みるも、ハーピーには翼で脆くも跳ね返され、フェニックスにはブレスで消滅させられる。
何の足しにもならない攻撃・・・それには多少の焦りの声が洩れた。
獣人族なのだろうか、夜目が効くのか闇に包まれた森の中を右へ左へ木々を盾にし只管駆けずる。
『召喚獣』たちはそんな彼らを追い詰めるように範囲を絞って誘導してゆく。
次第に次第に森の奥では無く、彼らは無意識の中で逆に俺たちが対峙している街道側へと誘われていた。
催眠・洗脳効果の薄れたレッドボアはただ一介の魔物としての本能しか無かった。
ブゴ、ブゴォ~ー
傷ついた体をものともせず鼻息を荒げる。
だがしかし、ルーカスもソニアもそんな不死身のような相手に怯むでもなく、手を休めること無く果敢に攻撃を続ける。
クラスが中程度でも上級の魔物を二人だけで攻め切るのは至難ではあるが、この状況下では文句も言えずただ耐え凌ぐしか術が無かった。
そんな攻防が続く中、モルガンを囲む魔法スキル保持者たちが二人へと援護をくれた。
「ファイアーボール!」
ソニアが傷つけた肩口から首筋への切り口へ火炎弾が撃ち込まれた。
これにはレッドボアも悶え苦しんだ。
苦痛に顔を歪めるかのようにその場で怯み立ち上がった。
それを見て取ったルーカスは瞬時に防御体勢から攻撃体勢へと切り替えた。
そしてその場で飛翔するかのように剣を振り翳し高く飛び上がった。
『ドラゴン・リィーーープ!!』
そう雄叫びを上げると、一気にレッドボアの顔面から首筋にかけてハイドラゴンの高次元ハイスキルを斬り下ろした。
魔物の動きが止まった。
ソニアは両手剣を構え直し、ルーカスのスキルに続くかのように動きの止まった敵に『ソニックブーム』を叩き込んだ。
それを見守る周りの人間たちの手が息を潜めるかのように止まった。
レッドボアの頭が胴から物の見事に切り離された。
そして霧散するかのように、巨大な体がその場で弾けて砕け散った。
ボッ、ボッボォ~~~~ン!
「うぉーーーー!!」
「やったぁ~~!!」
歓喜が巻き起こった。
しかし何もこれで万事終わった訳では無い。隣に視線を移せば、土壁の先にはまだブラックベアーもテイマーたちも残っている。
その光景を見届けた俺はハイスキルである『クリティカルラッシュ』でブラックベアーを一気に攻めたてるも、『ルーン・プリズン』が解けたのか俺の連打を巨大な腕で受け流しながら魔物は立ち上がろうとしている。
HPは表面的な行動以上に削れている筈ではあるが、さすがにしぶとさは半端ない。
ブラックベアーの鋭く伸びた爪は危険だ。
中級の魔物や野獣なんぞ一撃で引き裂いてしまう威力がある。人間であればひとたまりも無かろう。
ここは奴が攻撃体勢を整えるまでに形を着けておきたい。
俺は意を決したように握る柄に力を籠めた。




