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第31章 妨害工作


 巨大この上ない大木が2本、街道を遮断するかのように倒れていた。

何か強大な力で恣意的に薙ぎ倒された・・・そんな表現が当て嵌まりそうな街道の塞ぎ方だった。

原因は定かではないが、遠目でさえ、どうも大木そのものが老朽し幹が腐り果て自然に倒壊したような様子には見受けられない。

折れ口からは弱々しい朽ちた黒さでなく活き活きとした白さを覗かせている。


そこに意図が働いていたのかどうかは判らないが、何者かが計画的に木を倒したようにも思えた。

それが実際、人為的に企てられたものなのか、はたまた魔物の為せる脅威なのか・・・判断し得る情報が何ひとつ無い中では、どこか不自然極まり無いその光景だけが得体の知れない不明瞭さとして脳裏へ渦巻いていゆく。

それは俺たちの旅の目的を知る者がその進路を故意に妨げようとしたのか、また別の何か、誰かが要因でそうなったのかは知る由もないが、街道を往来する者にとって迷惑千万であることに違いは無かった。



すでに排除する為に数人の男たちが大木を移動させようと汗を流していた。

そんな光景を窓越しに眺めていた俺は馬車が止まると同時にドアへとすかさず手を掛けた。


「ちょっと手伝いますかぁ~ははっ」


「ですね。俺も行きます!」


「私共も参ります!」


俺とルーカス、そして御者2人の男4人が倒木現場へと急ぎ足で駆け出した。

飛び出していく俺たちに窓から顔を覗かせて状況を見ている女性たちも心配そうな表情を浮かべている。


「あなたぁ~~周りにも注意して下さいね!」


「あぁ~~そうだな。了解!!」


俺はアニーの不安そうな言葉に振り返り、軽く手を挙げて応えた。

ハイエルフである彼女の『第六感』が、言葉に例えることのできない何か不穏なものを感じさせたのかも知れない。


 こちら側には商人の荷馬車が2台、定期馬車が1台、俺たちの馬車も含め魔導馬車が2台、そして倒れた木を挿んで対向側は荷馬車2台が立ち往生し、その復旧作業を見守っている。

国境が近いとは言え、駐在するルクソニア側の国境警備隊が駆けつけてくるには時間を要しそうだし、そんな淡い期待も持てないだろう。

今この場にいる者でこの状況を打開しなければ解決しそうになかった。

定期馬車から降りた男性たち数名に商人に随行する従者たちが、人間の胴の何倍もあろうかという大木2本を移動させる為、掛け声と共に歯を食いしばり力の限り引き摺っていた。

もう1台の魔導馬車からも俺たちが駆け出したのに釣られるように御者2名が慌てて駆けつけてくる。


集まった全員で動かそうとするもその重さは半端ない。


「動かないなぁ~~・・・」


商人の従者らしき男が汗を拭いながら口にした。


「ショーヘイさん、これ破壊でもしないと移動させるなんて無理かもですよ?」


「そうだなぁ~・・・この人数じゃ動かせそうにないかもな。それよりルーカスさん、折れ方を見てみなよ。この倒木には斧での切り口が無いし、人間がっていうより巨大な何かが突撃ってのか、勢いよく突っ込んできて薙ぎ倒したって感じだよね。どう?・・・」


「確かに言われてみれば・・・でもこんな大木に突撃できる何かって何なんでしょうかね?・・・並大抵な奴じゃないですよ?ククッ」


「そうだなぁ~・・・」


「レッドボアかブラックベアーの仕業かも知れませんなぁ~!」


俺とルーカスの立ち話を傍らで聞いていたのか、如何にも身なりの良い白髪交じりの老紳士風の男性が言葉を挿んできた。

きっともう一台の魔導馬車に乗車していた人物なんであろう。

俺とルーカスは促されるようにその声の主へと視線を移した。

さしずめ貴族か高位高官のような立場の人物らしく、その正装からもそんな漂う気品の欠片が感じ取れた。


「レッドボアかブラッグベアーって・・・あいつら上級の魔物ですよ。こんな往来の激しい人目につく場所に出没するんですかね?」


突然掛けられた老紳士のその見解なる弁には少々驚いたが・・・

ルーカスはすかさずそれに反応するかのように言葉を返した。

この辺りを縄張りとして活躍してきた冒険者である彼にとって、どういう魔物がどういう場所に出現するのかは当然ながら理解しているんだろう。


「どうでしょうねぇ~・・・自然倒壊でもなく、人間の仕業でもなければ、こんな大木を倒せるのはその手の魔物しかいないでしょうよ!ふははっは」


老紳士はルーカスや俺をじっと笑顔で見つめ、口髭をさすりながら小気味よく笑った。


「・・・かも知れませんね」


老紳士の推察は至極明快で真っ当に感じられた。

俺はその言葉に頷きながら森の中をじっと見つめた。

深くも無く浅くも無い、木漏れ日が零れて来るような清々しさを感じさせるが、立ち並んでいる大きな木々は奥に神聖なるやしろが奉られているような参道をどこか思い起こさせるおもむきを感じさせた。




・・・・・・・・




 人力で移動させることが困難となると破壊するしか排除する術がないのだが・・・何せ、ここに立ち往生する中で、それなりに魔法なり武芸なりを習得し実践経験のある者は数少なかった。

そうなると冒険者であるうちの一行が前面に出て作業を実行せざるを得ない。

その破壊の際に破片が散らばらり、煽りを食らって怪我人が出ても困るわけで事前にそれなりの準備をしておくことが必要になる。


俺とマーゴットで氷系魔法に変異させた『ウォールオブエレメンツ』で倒木の周りへと少し高めの氷の壁を既成しておく。

土壁を作るよりも大気に含まれる水分を利用し氷壁を既成する方が後始末が楽に思えたからだ。


「準備OKだ!!」


「こちらもOKです。いつでも行けます!」


「わたしもOKです!」


氷壁を張り終え退く俺とマーゴットへ、ルーカスとソニアは笑顔で手を振った。


さすがに魔脈の上と言えど、アニーに怪我人へのハイヒールの連続や『メテオ』発動なんぞはさせられないし、ルーカスやマーゴットにしても『高次元ハイスキル』を発動すれば簡単に事容易(たやす)い作業ではあるが、ここはダンジョンではなく公道である、どこに誰のどんな視線があるか知れたもんじゃない・・・出来得る事なら目立たないよう控え目にしておきたかった。


「アニー~~念の為にバリアをエリア内の人たちへと張っておいてくれるかな!」


「はい。了解しました!」


アニーはコクンと頷いた途端に詠唱を始めた。

どうやら巨大な倒木を破壊する為の必要な準備は万端整ったようだ。


「いきまぁ~~~す!!」


氷壁の中でソニアとルーカスが巨木破壊の為に打撃スキルを連続発動した。

森林が両脇に迫る街道である・・・破砕する際に雷撃や火炎スキルを発動することで万が一でも類焼する事態などあってはならない。なれば打撃スキルが最も有効な手段であることは明らかだった。




ズカッ、ザクッ、ドガッ、ドゴッゴゴゴォーーー、ズカーーン




・・・・・・・・



 

 事後処理現場では従者や御者や一般乗客たちが、ルーカスとソニアが木っ端微塵に砕いた木片を片隅へとける作業をしてくれている。

サーシャはアニーとソニアに手を引かれ、みんなと一緒に作業を手伝っている。

キャッキャッという笑い声が洩れてくる・・・きっとこんな面倒で手間な作業も幼い彼女には楽しい出来事のひとつなんだろう。

そんな微笑ましい光景を眺めていると自然に笑みが毀れてくる。



「ありがとう!君たちにはどう礼を述べて良いやら・・・本当にありがとう!!」


満面に笑みを浮かべながら近づいて来た白髪交じりの老紳士が俺の手を取った。

突然のその行為に対しどう受け答えして良いのか戸惑った。

何せ困っているのは老紳士だけでなく、ここに立ち往生している俺たちも含め全員なんだから・・・


「私はバーラム共和国大統領の第一補佐官であり外務担当大臣を兼務しているモルガン・デュパールと申す者であります。実はこれは私への嫌がらせではないかと思っとるんですよ!」


「へっ?!」


傍らに立つマーゴットがその紳士に対し俺よりも早く反応した。

その面食らったような表情が面白かったのだが、それ以上に真剣な眼差しを向けるモルガン・デュパールと名乗る男の言葉が気になった。


「それは国の重要ポジションに就いておられる方への脅しを含めた強迫行為と言うことでしょうか?」


「たぶん・・・そうだろうと思われる」


「そうなる何かがあるということですね?」


「うむ、その可能性は・・・高い」


幾分歯切れの悪い口調ながらもそう言い切った。

国を動かす立場にもなれば、否応無しにこういう出来事に遭遇する機会が多いのか慣れているのか・・・意外にも言葉尻から感ずるよりは平然としており落ち着いて見える。

まぁ、それが個人的なものか政治的に標的になっているのかは知る由もないが、そこにドロドロした不惑の何かを感じずには居られなかった。自身としても先日の刺客の件もあったし・・・裏で蠢く者たちの存在はどこにでも潜んでいるものなんだと改めて再認識させられてしまう。


「なるほど・・・詮索は致しませんが、これが魔物を利用した人為的な妨害工作と受け止めておられるならば、今以上に更なるご自愛下さい!」


「ありがとう・・・ところで、恩人のあなたさまは?」


「あっ、これは申し遅れました。わたしはショーヘイ・クガと申します。私共一行はアドリア王国からの旅の途上なんですよ~ははっ」


「ほぉ~~旅で魔導馬車ですか?・・・これは大層な御尽ですなぁ~ふははっ」


「うぅ・・・」


貴族にも見えない若造たちが乗り込む魔導馬車をじっと眺めながら高笑いする彼の笑顔に、俺は苦笑いしか返せなかった。


抜かった。

これには言い繕いができない。





 何にせよ、この出来事が我々に関した妨害で無いとは100%言い切れないが、たぶんモルガン・デュパールというバーラム共和国の重臣に対する『勧告』めいたものである確率は高そうだと俺には思えた。



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