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第30章 進路は西へ


 薄っぺらい雲が重なりたなびく空の下を魔導馬車は一路バーラム共和国の首都ウェイレスト目指して西へと走る。

斬り裂く風は初夏の暑気を含み少しねとっと肌に纏わりつく。

元の世界では天候が不順な『梅雨』と呼ばれる風物詩に差し掛かる時節ではあるが、この世界でも日ごとに変わる目まぐるしい空模様は同じであった。

今日は幸いにも晴れ間を見せてはいるが天気予報の無い世界・・・この後、空の気分次第ではどうなるのか予測もつかないが、暫くはお天道さまを仰ぎ見ることは可能のようだ。


本当に何ら変わりのない季節感に今や驚きを感じることさえ無くなって来たが、それでも似ているようで全く以って理解し難い、当たり前であると考えて来た『既成概念』も『固定観念』も吹っ飛ばしてしまうこの世界独特の異質な観念や仕来りには今だもって苦笑は絶えない。

でも、そんな異世界に転移できたこと、そして元の世界に居ては味わうことの無かった幸福感にどっぷり浸っている今の自分が嬉しく思えてしまう。

他人から見れば不自然な、且つまた意味不明なニヤけた笑みを零しているんだろうなとは容易に想像できたが、でもそれが心の底から湧き上がる実感なのだから仕方がないであろう。


俺たち一行は、バーラム共和国からアバディーン王国、そしてロンバルディア皇国にある最終目的地ポートルースへと抜けて行く旅程を予定している。

車内にはそんな府抜けた笑みを洩らしている俺を筆頭に妻のアニーと娘のサーシャ、そしてルーカスにソニア、マーゴットの6人が狭い空間に膝を付き合わせていた。

10人ほどは乗れるスペースはあるとしても肩を寄せ合い座ることに変わりはない。

そんな窮屈な狭間の中でもみんなの笑顔は絶えない。暫し愉快で穏やかな楽しい時間が流れて行った。


結局マーゴットも俺たちの旅に同行することになった。

ルーカスの薦めも多少はあったように感じられたが、『ハイヒューマン』や『ハイエルフ』という予想だにしなかった大きな副産物は伴ったが『ハイドラゴン』に出逢うという当面の目的を果たした彼女には明確な次なる目標が頭の中に描けていなかった。

だからルーカスの言葉に惹かれた。


『先に広がる未来が見てみたいんだ!それが何なのかを!!』


この言葉に心が揺り動かされたことは否めない。

自分としても見てみたい、知りたいと考えたからに違いない。

それは村の賢者から聞かされた『使徒』としての役割を本能的に持っていたからかも知れないが、でも今はそれ以上に目の前に広がっていく世界を知りたいと思った。

この世界の果てに広がる何かを、そして自分が何の為に『上位種』としてこの世界に生を受けたのか・・・知りたいと思った。

そのキーパーソンはショーヘイでありアニーであり、そしてそこに集っていくであろう『使徒』と呼ばれる存在に自分が身をおく意味を知ってみたいと思った。

『王と妃』の立場であるふたりは自分のことを『仲間』と呼んでくれた。

そんな気さくなふたりに惹かれたことも事実だ。

開けるのか立ち塞がるのか、今は何も見えない未来をこのふたりとそして『仲間』の為に尽くしてみたいとも考えた。

それがこの世界における自分の『役割』であり『使命』であるならば・・・



・・・・・・・・



 太陽は真上から少し西へ輝きを移した。

遮るものが無い街道では、盆地を駆け抜けてゆく車内にときおり初夏の風に誘われるような爽やかさも通り抜けたが、しだいに午後のその照り返しが夏を匂わせ蒸し暑さを滲ませてきた。

この辺りの気候は湿度が少々高めなんだろう。


「ショーヘイさんご一家は、何で遠方のロンバルディアなんて国の首都ポートルースを目指しておられるのですか?何か目的があるのでしょうか?」


マーゴットの率直な疑問にルーカスもソニアも興味津々なる輝くような瞳を寄せてきた。

ただ闇雲に同行するのではなく、気持ちを固めた以上は旅の意図を知っておきたくて当たり前である。

マーゴットの言葉はイコール、ルーカスにしてもソニアにしても然りであろう。

その問い掛けに対し、俺の口から放たれる言葉を待つ彼らたちの真っ直ぐな瞳に映る期待感は熱いまでに感じ取れた。

確かにこの数日間、そのことに一切触れてこなかった彼らに得体の知れな好奇心も興味もあったんだろうと思う。

ただ単なる家族旅行なんて言い訳はもはや通用しないであろうし、俺自身としても殊更ことならそんな詭弁きべんを語るつもりも更々ない。彼らには何時か真の目的を話しておかなければならないとも常々考えてきた。

そうすることが『仲間』に対する信頼であり、目的を共有することでもあり、共に未来へ向け歩いて行くということなんだろう。

それが今このタイミングなのかも知れない。



「追い追い話そうとは思っていたんだけど・・・」


俺は生真面目な顔を繕うでもなく、頭を掻きながら少し照れ臭いような表情を浮かべて口を開いた。

全員の凝視した目線が俺を刺し抜く。


「はい・・・」


「実はアドリアの王太女さまからの頼まれ事なんだよ~ははっ」


「へっ?!・・・王太女のマリナ様直々のご依頼なんですか?」


『王太女』という言葉にビックリしたようにソニアは目を見開いた。

それは同時に『ハイヒューマン』ではあるがまだ正式に公表も控えられている俺の人的交流の広さを知るに至ったことに驚きを隠せなかったんだと思う。

『腐れ縁』ではあるが、そういう『えにし』が導かない事には普通は繋がらないことなんであろう。


「ははっ、そそっ、有体ありていに言えばそういうこと!」


「ひゃーー!ショーヘイ様はすでに王族ともご懇意なんですかぁ~・・・びっくりです!!」


刺客との接触で会話からも薄々感じ取れてはいたのだろうが・・・ソニアには自国の王族との懇意な関係が本当に驚きでしかないようだった。

そんな呆気に捕らわれた彼女を横目に微笑みながらルーカスは話を戻した。


「その王太女殿下は何をショーヘイさんご一家に?」


「無理難題を頼まれたよ!世界の平和と秩序を守る為のものを探して来て欲しいってことなんだぁ~ははっ」


「平和と秩序・・・ですか?」


「そうなんだ!」


首を傾げ訊ねるマーゴットに俺は苦笑し、ルーカスもそんな俺の表情に笑みを洩らした。


「何か大層な依頼事ですねぇ~ククッ」


「うん、確かになぁ~・・・まぁ、みんなは知らないと思うけどさ、俺も正直この仕事を請けるまでは知らなかったんだけど・・・」


「はい・・・」


「『伝説の黙示録』って聞いたことあるかな?・・・」


「初耳ですね~」


「だろうね~・・・これを知っている人間も限られているようだし!」


「その『伝説の黙示録』とやらが平和と秩序を守ることに関係しているのですか?・・・」


マーゴットの首の傾げは尽きないようだ。

さも有らん・・・ルーカスにしてもソニアにしても突拍子も無い話なんだろうから。

そんな彼らを笑顔で見回しながら俺は疑問に対し言葉を結んだ。



「そういう意味で捉えてもらって良いと思う!」



何故に依頼されたのか、それがどういう物なのかを噛る俺たち夫婦以外の者にとっては頭上に『?』が灯るほど不思議なものに思えて至極当然であろう。

俺たちでさえ、いやこれを求める全世界の人間たちでさえもその内容は解らないんだから・・・


俺は車内という密室の空間で同乗者であり旅の同行者であるみんなに事の次第を、この旅の目的を説明した。

それは単なる知り得ることの説明で終始したわけではない。

この話を共有するということは同時に多かれ少なかれ責務を背負うということだ。

そして今やこの『旅』にはもうひとつ『上位種』との出逢いというスパイスが加味されていた。




・・・・・・・・




 そんな極々内密なマリナからの依頼内容を説明することに暫し時間を割いた。

アドリア王立図書館の名誉館長クロフォード・リンデンバーグ、王国の書庫管長であるジョスラン・バルビエ、そしてソニアの祖父であるエルランド・ドラゴニスやルーカスの父親のウルマス・アールグレーンから教えられた事柄を瞳を輝かせるみんなに伝えていった。

聞かされる方もドンドンと時の流れを忘れるかのように話にのめり込んでいた。


そんな車内の熱気とはかけ離れたところで、陽は少しずつ少しずつ西へと傾き始めている。



「ソニアさま~~!」


「へっ?!・・・はい!!」


「道の前方で馬車が数台立ち止まっているのが見えます。何かトラブルでも起こっているんでしょうか?」


御者のその突然の言葉にソニアだけでなく、この場の全員が瞬間に客車から顔を出しその光景を確かめた。


「盗賊でも出たんでしょうかね?」


「こんな陽の高い内からか?・・・」


俺はその間近に迫ってくる光景を眺めながらルーカスの言葉に反応した。

確かに大小の馬車が3~4台街道を塞ぐように無作為に止まっているのが見える。

国境に近いし何か異変でもあったんだろうか・・・そんな不安が少し心をよぎった。






「何があったのかしら~~魔物が出没したのでなければいいのですが・・・」

アニーのその何気ない言葉に変な胸騒ぎを覚えた。


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