第29章 広がる世界の果て
「そっかぁ~~マーゴットさんは俺を探しに縁もゆかりもないこのルクソニアに来ていたんだぁ~!」
「はい・・・そういうことです」
「なるほど、それで『流れ』で傭兵やりながら情報を得ようとしてたわけか~・・・ようやく納得できたわ!最初に噂を小耳に挿んだ時、すごく不審に思っていたんだよ~凄腕の冒険者なのに何で固定パーティーを組まず傭兵まがいのようなことをココでやってるんだろうってさ・・・腕に自信がある者なら普通は最大都市バサラッド目指すだろうに~~~ってね!ははっ」
「はい。でも、その甲斐がありました。やっと出逢えました!それもお目当てのルーカスさんだけでなく、ショーヘイさんやアニーさんにまでも・・・感激以外の何物でもないです!」
彼女の本音だと思う。
『ハイドラゴン』の存在を追っているうちに『ハイヒューマン』と『ハイエルフ』にまで繋がってしまった。
ヨトゥンの言葉ではないが「『縁』の繋がりとは広がりを意味する。そしてそれは無限に広がる可能性を意味することと同意語だ!」を思い出してしまう。
正にその通りだと思う。
今回の旅の主旨である『伝説の黙示録』探しというものが無ければ出逢うこともなかったであろう。
そしてそれは俺の、そしてアニーと二人の進むべき道を指し示した。
「まぁ~俺もマーゴットさんのこと『流れ』なんて言えないんだけどね!」
「へっ?!」
「実は仲の良い冒険者は多いんだけど、俺も固定パーティー組んでなかったし!別に組みたくない理由なんて無かったんだけど・・・生来の無精ってのか面倒臭さがり屋なもんで~ははっは」
「なんかルーカス様らしいですねぇ~ぷぷっ」
ソニアは口に手をやり横目遣いで笑った。
ルーカスは頭に手をやり照れ臭そうに周りを見回し苦笑いを浮かべている。
そんな彼に、マーゴットもそして俺たち夫婦もどこかルーカスらしい繕いに笑みが零れた。
俺から時計回りにルーカス、ソニア、マーゴット、アニー・・・そして娘のサーシャで囲む丸テーブル。
今日という日の特別な出逢いとダンジョン攻略の慰労を兼てのささやかながらも和やかで楽しい時間を流していた。
勿論、慣れぬ場所でお利巧さんをしていたサーシャも褒めてやらねばならないのだが・・・
「マーゴ、マァ~~ゴ、マーゴはとってもキレイ!!~~うひっ」
サーシャはフォークを片手に突如椅子の上へと立ち上がり、じっとマーゴットを笑顔で見つめながらそんな言葉を発した。
そんなサーシャの突然の、それも思いも掛けぬ言葉に彼女は目を見開いて驚いていた。
キレイと感じる観念は基準があるわけでなし、個々に思い感じる感性であり、それは人様々で判断が尽きかねるが、美しいものは美しいと愛でる気持ちに嘘偽りはないのだろう・・・実感として幼いなりにも自分の目に映ったありがままの思いを口にしたんだと思う。
確かに黒フードを脱いだ彼女は傍目から見ても誰しもが頷く美しい女性であることに変わりはない。
透き通るような白い肌にストレートなロングヘアーを後ろで束ねた黒髪にエキゾチックなまでの黒い瞳、そしてその美しさを更に際立たせるような隈取りのワンポイント・・・アニーとはまた違う魅力的な女性美を醸し出していた。
サーシャもそんな彼女から日頃見慣れたアニーやソニアとは毛色の違う異質な『美』を感じ取っていたのかも知れない。
マーゴットは驚きとともに少し恥ずかしさを覚えたのか、頬を染めながら俯いてしまった。
そんな初々しい姿もまた彼女の違う一面を見れたようで俺には嬉しくも可笑しくもあった。
「ソニアもマーゴもキレイ、キレイ~~~!」
そう言いながら嬉しそうにふたりへと忙しく視線を移す。
ピョンピョンと小さく椅子の上で跳ね上がる姿は本当に可愛かったのだが・・・サーシャの傍らに座るアニーの目元は行儀の悪い娘の突拍子もない行動に少し吊り上がり、今にも爆発しそうな顰めっ面になっていた。
「これっ、サーシャ!お行儀が悪いです!!ここではやってはいけないことよ!」
カミナリが落ちた。
すっかり母親稼業が板に付いたそんなアニーもどこか可愛く思えてしまう。
でも俺もアニーもよく理解している。
『本日一番の頑張り屋さん』はサーシャだったってことを!
・・・・・・・・
『港一番館』のディナールームの開け放たれた窓から流れ込む光景は、実に南国であることを証明するかのようなムードを漂わせていた。
漆黒ではなく一面蒼く染まる夜空へと月が昇り、その月から零れる明かりが立ち並ぶパームツリーの間から煌々と射し込んでいる。
この街に住む者とすれば見慣れたありきたりの光景なのかも知れないが・・・
そんな窓越しから飛び込んでくる目を奪うような景色は、ぎっしりと建物で埋め尽くされたバサラッドを知る俺にとって、それは映画のワンシーンのようにとても美しくロマンティックな趣を感じさせ、そしてその空間の中に解き放たれた心がゆっくりと癒され溶け込んでゆくような快感を浸らしめた。
きっとアニーとふたりだけなら肩を寄せ合いいつまでも眺めていたい景色に思えたが、現実はそうもいかない・・・アニーは食事を済ませたサーシャを伴い、就寝の準備をする為に部屋へと席を外して行った。
そんなアニーとサーシャを微笑みながら見送った後、ルーカスは酒が入りだした席で口を開いた。
「マーゴットさん、いや、マーゴさんでいいかな?サーシャちゃんもそう呼んでいたし・・・ククッ」
「はい。そう呼ばれる方が嬉しいかもです~あはっ」
「うん。それでさぁ~~マーゴさんは俺たちと出逢って取り敢えず自身の目的を達成したわけだけどさ・・・これからどうするのかな?何か考えているの?」
俺も聞いておきたいと思っていた事柄だったのだが、ルーカスも気になっていたのだろう・・・俺の気持ちを代弁するかのようにマーゴットに問い掛けた。
この宿屋は一般客を入れないシステムの為、ホールは混み合うこともないし他人目を気にすること無くゆったりと時間を流せる。
それ故に憚れるような込み入った会話も多少は許されるだろう。
「あぅ・・・何も考えていません。あまりにも突然過ぎる出来事だったので・・・」
その問い掛けにきょとんとしながら、マーゴットは慌てて言葉を繕った。
さも有らんや・・・彼女にとって今日の出来事は想像も及ばないまるで突然降って湧いたような話だったんだろうし、まず第一意は『ハイドラゴン』との接触であり、それが今日までの彼女を動かす全てであり、益してその後のことなんてまだ頭の中にもイメージする余裕なんてなかったんだろうと思う。
「俺はさ、俺は・・・ソニアさんもそうするようだけどさ、俺はショーヘイさんとアニーさんの旅に付いて行こうと考えているんだ!」
彼のその言葉に隣に座るソニアは大きく頷いていた。
「へっ?・・・それはおふたりの『使徒』としてですか?」
「『使徒』としての役割を果たしたいとも思うが、やっぱり興味かな?先に広がる未来が見てみたいんだ!それが何なのかを!!」
「・・・・」
ルーカスは思いを込めたような熱い眼差しでマーゴットを見つめた。
その視線に彼女は何も言葉にできなかった。
そんなマーゴットを見つめながら俺は会話に言葉を挿んだ。
「う~~ん、確かにルーカスさんのお父さんから色々と話は伺ったんだけど、俺自身咀嚼できないものは今だに多い。そのひとつが『使徒』って位置付けなんだけど・・・使従関係でも何でもないのにそう捉えられることに何か変な違和感があるんだけど!ははっ」
「確かにそうかも知れませんが、俺もマーゴさんも単独では『時の監視者』になれませんし『大厄災』に対し立ち向かっていけません。それを纏めるリーダーが必要なのですよ。それが『ハイヒューマン』のショーヘイさんであり、『ハイエルフ』のアニーさんなんです!」
「うん、ウルマスさんにそう言われたのは事実だし、実際そうなのかも知れないけど・・・俺自身何も見えてないのも事実なんだよ。だからどういう風にしたら良いのかが解らないってのが現実なんだ」
「それで良いのではありませんか?・・・」
「うん?!」
「だって、未来なんて誰にもわからないんですから~~だから手探りしながら歩いて行くんじゃないんですか?あはっ」
「その通りですよ~ククッ」
マーゴットの言葉にルーカスもソニアも笑いながら頷いている。
確かに彼女がさりげなく口にしたその言葉は、過去も現在も、そして未来も変わらない生きて行くことの、自分がこの世界に存在して行くことの不変の真理なんだと思えた。
俺とアニーの歩いて来た道はレールのように予め敷かれたものでは無かったじゃないか・・・その時その時にふたりして悩み迷い歩いて来た道だったはず。
足を掛けた階段もそうだった。
先に見える物など何も無かったが、一段上るごとに目に映る景色そのものが変化してきた。
その繰り返しで『理』を新たに創ったではないか。
『目の前に広がる世界を素直に受け入れろ』・・・出逢う人たちから言われ続けてきた言葉。
それは何も闇雲に前だけ向いて歩くことではない。
解らない予測できない未来だから、目の前に広がってゆく世界からひとつひとつ手繰り寄せていく・・・そして形あるものにしていくことなんだ。
『未来を創造』すると言うことはこういうことなんだろう。
それは与えられるものでなく自らが選択していくことなんだ。
改めて『広がる世界の果て』に何があるのかを知りたいと思った。




