表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/136

第28章 辿り着いた想い


 夕なずむ頃、バンドール郊外のダンジョン『クリスタルの祠』を後にした俺たちパーティーは一路冒険者ギルドを目指し歩いていた。



ソニアはこのパーティーでのボス討伐が嬉しかったのか、戦闘の余韻に浸っているかのように今だ冷め切らぬ興奮の笑みを絶やさなかった。

考えてみれば『上位種』4名が顔を揃えるパーティーなんて、稀な、いや稀どころか史上初めての編成だ。またそれを知っているのも自分だけだという歴史の生き証人的な快感もあったんだろうと思う。

卑下するわけでも、自分たちを過少評価するわけでもないが・・・俺にしてみれば『上位種』なんて、常人より少しだけ抜き出た能力があるだけの者でしかないと思うのだが、彼女にすればどうもそうでもないらしい。


そんなソニアの天を舞うような気分とは裏腹に、アニーはギルドの託児室に預けたサーシャが気になるんだろうか、見た目にも少し焦り気味に急ぎ足で歩を進めている。

慣れぬ環境に戸惑いを覚えたであろう愛娘が気になって気になって仕方がないのだろう。居ても立ってもいられない・・・そんな想いが胸一杯に広がっていることを隠さなかった。

すでに冒険者ではなくひとりの母親に戻っているんだろう。

そんな好対照の表情を見せる二人を垣間見ていると可笑しくなって自然と笑みが零れてしまった。

そして心配性の妻に言葉を掛ける。


「アニー、大丈夫だよ!サーシャはお利巧さんしてると思う!!」


「だといいけど・・・グズって皆さんを困らせてないかしら・・・少し心配です!」


アニーは俺の言葉に少し俯き加減に視線を落した。

そこには娘を気遣う母親の顔があった。



「えっ?!アニーさんとショーヘイさんはお子さんがいらっしゃるんですか?」


傍らを歩いていたマーゴットはびっくりしたように突如口を開き、俺とアニーを交互に忙しく視線を動かした。

お互いが『上位種』であることはダンジョン内で確認できたが、これまでの経緯が全く以って皆無な彼女にしたら、その何気ない会話が驚愕の内容であっても不思議でも何でもない。

ハイヒューマンとハイエルフは『血脈を残せない』

それが不変の真理であり、何ら疑問を挿む余地も無い当然のことであり、そして彼女が知り得る『この世界のことわり』であったのだから・・・この瞬間までは。



「そうだよ、びっくりしただろ?ククッ」


前を行くルーカスは、俺たち夫婦の会話に目を白黒させるマーゴットに笑いながら振り向いた。

彼女にしてみれば衝撃でしかなかったんだと思う。至極真面目な顔つきで彼を凝視した。


「びっくりも何も・・・それって『ことわり』を超えたってことなんです・・・よね?」


「そそ、ショーヘイさんとアニーさんは『禁忌』に触れ、そして『神の領域』へと足を踏み入れたってことさ!ははっは」


ルーカスは小気味よく笑いながら爽快な笑顔をマーゴットに向けた。


「おいおい・・・その言い回しは俺とアニーが何か触れてはいけないものに敢えて触れてしまった『異端児』のように思われるじゃないか・・・うぅ」


「ある意味そうじゃないですかぁ~~・・・間違ってないと思いますよ?ククッ」


俺の戸惑いの苦笑いにルーカスは『何を今さら』と言いたげな表情を浮かべ笑った。


「あぅ・・・」


「それって・・・ショーヘイ様とアニー様は『血脈を残せない』ことわりがあったのかも知れないけれど、ルーカス様やマーゴット様は『血脈』を残せるってことですか?」


このパーティーに自分が存在している興奮が覚めやらぬという表情浮かべたままのソニアにまたひとつ興奮が加わったのか、新しい何かを発見したような面持ちで目を輝かせながら言葉を挿んできた。

何事に関しても、増して知識としても情報としても持ち得なかった『上位種』に興味が尽きぬ年頃なんだろう・・・実際、こんな踏み込んだ話はその道の賢人と呼ばれる研究者たちでなければ知り得ることでもないであろう。

そんなソニアの問い掛けに対し、ルーカスは優しい笑みを浮かべた。


「うん。俺やマーゴットさんは、たぶん血脈を残せると思うよ。但し・・・『上位種』としてのハイドラゴンやハイマジシャンは残せないだろうけどさ!」


「それは同じ『上位種』として、ショーヘイ様とアニー様とは何かが違うと言うことですか?」


有体ありていに言えばそういうことになるよな!ははっ」


「あっ、ルーカス様のお父さまのウルマス様が、そう言えば『王と妃』や『使徒』なる位置付けのことを言われてました・・・そういうことなんだぁ~」


ソニアは納得したかのようにひとり頷きながら、ショーヘイとウルマスの会話を頭に思い浮かべた。

ルーカスもマーゴットもソニアのそんな表情を楽しんでいたが・・・

ただ彼女の疑問に付き合うには気もそぞなアニーもいることだし、増してこんな秘密裡な話題は歩き話をする内容でもないし、切り時が必要に思えた俺はみんなの顔を見回しながら声をかけた。


「おいおい、ここは天下の往来だし、誰に聞かれているか知れたもんじゃないし、この話はこの辺でいいんじゃないか?」


「そうですね~~・・・取り敢えずギルドへ急ぎましょう!アニーさんも気が気じゃないだろうし~落ち着かないでしょ?ククッ」


ハラハラドキドキしている心配性のアニーへの気遣いもあったんだろうと思うが、この場で賑やかに交わす世間話のような会話でも無い事にルーカスも気付いたんだろう。

目を細めながら優しい笑みをアニーへと零した。


「はい・・・」


「報告とサーシャさんを引き取ったら、後ほどマーゴットさんを囲んで食事会でもしましょう!それでいいですよね~ショーヘイさん?!」


「OK、OK~~ルーカスさんにお任せするよ!」


「了解です!!」



 出逢いは『異なもの奇なもの』・・・魔人族の上位種『ハイマジシャン』であるマーゴットに今日という日に出逢えたことがこの未来さきに何を暗示していくのか今はわからないけれど、またウルマスの『未来を創造』せよという言葉の意味も咀嚼できないしその意味為す含みも呑み込めないが、何かが少しずつ変化していることだけは実感できる。

それがルーカスやマーゴットとの出逢いなのか何なのかは上手く説明などできないが、今は『えにし』が繋ぐ目の前に広がって行く世界を素直に受け止め歩いていくしか術が無い。

それが神の仕組んだプログラムであろうが無かろうが関係はない。分かれ道を、岐路を最終的に選択をして行くのは神では無く俺たちなんだ。

そして・・・その未来にあるものが何なのかを手繰り寄せる為に今は一歩一歩踏みしめて行かねばならい。ただ今はそれでイイのかも知れない。

それ以上のものを望む必要も無いのだから・・・『明日は明日の風が吹く』そんなスタンスで良いのかも知れない。



初夏の黄昏時は、春の名残なごりを乗せた爽やかな風と夏の匂いを漂わせる温かい風が空で交差するように舞っていた。

そんな風を体と心で感じながら俺たちは少し急ぎ足でバンドールの城門を潜った。



・・・・・・・・



マーゴット・キャバリエ ♀ 19歳

北方のエイブラム王国・・・大ローラン帝国の衰退期に独立した王国のひとつである。

彼女はその中の魔人族の村で生まれ育った。所謂いわゆる、ハイマジシャンの生誕の地として『ことわり』の中で存在している場所であるらしい。

『上位種』は魔人族の中でもヒューマン系にその存在は許されているらしく、竜人族のルーカスの翼とは異なる天使のような翼が生えるのが特徴らしい。

勿論、マーゴット自身も今や当然ながら自己制御できるようにはなっているようだが・・・幼少の頃は柔らかい羽毛のような翼が歳の頃の同じ同族と全く異質で違うことがたまらなく嫌であったらしい。

物珍しさも手伝って触られるのは不快以外の何物でもなかったと笑って教えてくれた。

村の長老の緘口令と賢者の指導で制御できるようにはなったが、どこかエルフ族の『精霊』などと神聖化されるのとは別物の『異端児』とか『腫れ物』に触るような待遇が続いていたそうだ。

魔力が長けている、いや逆に長け過ぎていることが神聖化を通り越し畏怖になっていたんだろう。

今となっては脆くも崩れ去った推察ではあるが、名誉館長であるクロフォード・リンデンバーグの説であったところの『魔王』とか『化け物』的な位置付けをされていたのかも知れない。

そんな生活が続く中、耳にしたのがルクソニア公国に同じように翼をもった『ハイドラゴン』が生まれるという話を聞かされたことだった。


その『ハイドラゴン』が現時点に実在するのかどうかなんて彼女にはそんな深い思慮は必要なかった。

えにし』が繋がれば絶対に出逢える・・・確固たる情報も無いまま、そんな博打のような信念だけを抱き修行に出ると村を後にしたようだ。

ルクソニア公国の首都であり、この国の最大の冒険者ギルドに顔を出すことで、何か得られる情報があるのではないかと固定でなくソロの傭兵としてあちこちのパーティーに参加していたんだと教えくれた。

そして・・・それが今日という日に実を結んだ。

それが偶然なのか必然なのかなんてもうどうでも良かった。

現実のものとして『ハイドラゴン』の存在を知り、そして幼少より教えられた『ハイヒューマン』と『ハイエルフ』が自分のこの目の前にいる。

そんな彼らが自分の事を『仲間』だと呼んでくれることが彼女には無性に嬉しかった。

村を修行という名目ではあったが半ば嫌になり逃げだしたことには変わりはない。そんなどこか後ろめたい引き摺った想いが『仲間』という言葉で救われた気がしていた。




『やっと辿り着けた』




そんな感激の想いがマーゴットの胸一杯を満たしていた。

えにし』はやっぱり繋がった・・・わたしの想いの全てはこの瞬間に集約されていたんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ