第27章 勇気ある告白
静かだった。
ただ静寂という名の緊張感を漂わす沈黙だけがこの空間を満たしていた。
そんなピーンと張り詰めた空気が今にも弾けてしまいそうなほどに痛く感じられてしまう。
俺が投げかけたその言葉にマーゴットは驚いたように目を見開き、金縛りに遭ったかのように身動ぎもせずに俺の顔を凝視し続けた。
いくら『高次元ハイスキル』の存在を知っていても、こんな風に明白に問われることは想像もしていなかったんだろうと思う。
傍らのアニーもルーカスも、そしてソニアも、そんな彼女から放たれる言葉を待っているんだろう・・・息をするのも忘れたかのようにじっとマーゴットを見つめていた。
そんなみんなの熱いに視線に焼かれながら彼女の戸惑う表情を目の当たりにすると、あまりにもストレート過ぎた問いに少し事を急ぎ過ぎたのではないだろうかと苛まれ、場の空気が醸し出す雰囲気的にも自身の気分的にも、俺は興味とは逆に拙い事をしたような気持ちに陥ってしまった。
「マーゴットさん、申し訳ないです・・・唐突になっちゃって!」
「・・・・」
「言葉にしなくても全然構いませんから~・・・俺の聞き方も悪かったし、すみませんでした!」
俺は素直に彼女に対し頭を下げた。
マーゴットはその言葉と素振りに我に戻るかのように視線を俺から天井へと移し、首を2、3度軽く横に振りながら小さな溜息をひとつ吐いた。
「いえ・・・」
「何となくスキルの事考えたらマーゴットさんが魔人族の『上位種』なんじゃないかと思えて・・・本当に不躾過ぎて申し訳ないです!」
「大丈夫です。でも・・・」
「でも?・・・」
「ショーヘイさんにしてもアニーさんにしても・・・どうして『上位種』のことや『高次元ハイスキル』のことをご存知なのでしょうか?」
彼女の疑問は当然のように思われた。
常人が知ることも無い事柄をさらりと口にする我々に疑念が有っても不思議でも何でもない。
「『知る者ぞ知る』存在を我々が知っているのが不思議に思えますか?・・・」
「はい・・・」
「そうでしょうねぇ~当然だと思います。その疑問に対して何から説明すれば良いか・・・困りましたねぇ~ははっ」
「ショーヘイさん、俺からマーゴットさんにお話しましょうか?・・・ククッ」
ルーカスは、俺がマーゴットに対し唐突に投げかけた言葉に気まずさを漂わすその場の空気を察知したのか、はたまた『使徒』としての役目と感じたのかは判断できないが、笑いを零しながら俺の方へと気遣いの表情を見せてくれた。
俺はそんなルーカスの提案に快く頷いた。
『渡りに舟』なのかも知れない・・・説明するにもどこからすれば良いやら迷いも戸惑いもあったし、自身で『上位種』であることの正体を明かしていくよりも、この場はルーカスに任せた方がより適切な気がした。
「そうだね~・・・ルーカスさんに任せようかな?」
「了解しました!」
そう言うと、彼は屈託のない笑顔を見せた。
マーゴットとすれば、自身の正体を明かしてしまうような『高次元ハイスキル』を無配慮に発動した後悔はあるのかも知れないが、それを知る者が過って存在していなかったいう自己中心的な裏付けと無警戒さもあったんだろうと思う。
ショーヘイのストレートな問い掛けにも正直仰天してしまったが、それ以上に『高次元ハイスキル』=『上位種』であることを、スキルを発動することでバタバタと意図も簡単に倒れ行く魔物たちの姿を目の当たりにする心地よさに酔しれてしまい、頭の片隅に常に置いておかねばならないそんな大切な事柄であったにも係わらず、自身の思考の中から完全に抜け落ちてしまっていたことは否めない。
その快感にも似た爽快さが、顧みれば・・・浅はかであり迂闊であり、そして何に益しても不覚であったことに、今更ながら気付かされてしまう。
油断だけじゃない、それは自身の自惚れ・・・マーゴットは自分の行為がどこか愚かにも思え情けなくなってしまった。
確かに、この世界の人口比率から考えてみても知る者の数なんて皆無に等しいのだから・・・そんな警戒なんて必要無かったと言ってしまえばそれで事足りてしまう事柄だったのだろう。
発動したい気分や衝動で発動すればそれで良かったし、問題となるようなことも無かった。
『変わったスキルを発動する凄い使い手がいる』・・・ギルドで噂になってもただそんな風な話題で済むだけのことだった。けれど、今回だけは違っていた。
誤算と言えば大誤算だったのかも知れない。
・・・・・・・・
安全地帯の空気は、各々の飛び交う思考の中で、いろんな意味も含め重く圧迫するかのように澱んでいた。
「マーゴットさん、実力の片鱗さえも見せない方たちなので判らないと思うけどさ・・・実はね!」
「はい・・・」
「君のスキルの事や上位種の存在を平然と語るショーヘイさんやアニーさんが不思議でたまらないんでしょ?」
「はい・・・とっても!不思議で、不思議でなりません!!」
彼女の正直な思いであろう。
素直なまでにそう言うと、ルーカスが次に語るであろう言葉を待つかのように興味深さを漂わす瞳で彼の顔をじっと見つめた。
そんな彼女の視線に少し照れ臭くなったのか、ルーカスは頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「うん・・・そうだよねぇ~その気持ちは理解できるよ!でもね、単純にさ、逆に考えてみればイイんじゃないのかな?ははっ」
「へっ?!逆って・・・?」
マーゴットはその言葉に首を少し左へ傾げた。
彼の謎掛けのようなその言葉の意味が上手く呑み込めなかった。
ルーカスはそんな彼女の仕草と表情を楽しむかのように話を続けた。
「何で秘密にしておきたい事をさらりと口にしてしまう人がこの場に居るのかってことを!もっと簡単に言ってしまえば・・・それを知っている人間って誰なのかってさ~そんな人間って普通は居ないし、極々限られた存在なわけだよね?」
「えっ?!」
「俺さ~マーゴットさんをこのパーティーに誘う時に言ったよね?特A級の方々がいるよって!ははっ」
「あ、はい・・・あっ!」
「何となく解ったかな?・・・回りくどい言い方になったけどさ~どう?」
こんな誘導してゆくような暈した言葉を解釈してくれるかどうかは疑問だったが、彼女が自覚のある『上位種』であればその意味為すところの判断も話の流れも理解できるはずだと思う。
ルーカスはマーゴットの顔を覗き込むかのように見つめ、彼女からの言葉を待った。
「・・・・」
「ん?・・・どうかな?」
返事を催促するかのようなルーカスのその言葉に、マーゴットは自分なりに噛み砕いた考えを部分的に纏めながら見つめ返し口を開いた。
「それって・・・ショーヘイさんもアニーさんも『上位種』ってことなのでしょか?」
「呑み込めたのかな?・・・そう言うこと!解ったようだねぇ~ははっ」
「えぇーーーー!・・・えぇーーーーー!!」
正に絶句であった。
マーゴット自身としては半信半疑で口にした言葉であったが、ルーカスにあまりにもあっさりと肯定されてしまったことに驚いてしまった。
そんな彼女を優しい笑顔で見つめていたソニアが徐に口を開いた。
「あの~突然言葉を挿んで申し訳ないんですけど・・・このパーティーは、一般人であるわたしにしたら一生の財産になるぐらい凄いパーティーなんです!ショーヘイ様やアニー様のことを対象に喋っておられますが、ルーカスさんご自身だって『上位種』なのですよ。だから・・・わたしにとってはこんな凄いメンバーたちとご一緒できるなんてことは夢のようでもあり、きっと一生で一度きりであり、もう二度とないかも知れない程の経験であり出来事なのです~あはっ」
笑顔で興奮気味に語る彼女であったが、自身に取ってその憧れであるかのような想いへの熱さは隠さなかった。
傍らでその言葉を聞いた俺はソニアに苦笑いを浮かべた。
「ソニアさん、それは少し大袈裟なんじゃない?俺たちはそんな大層な者でもないでしょう・・・ははっ」
「・・・・」
ソニアの想いを黙って聞いていたマーゴットに、アニーも静かな中にもどこか慈しみのある笑みを浮かべながら口を開いた。
「だから、試すような格好になることを申し訳なく思ったのですけれど・・・今回ルーカスさんにマーゴットさんを誘ってもらったのは、不思議なスキルの使い手がどんな人物なのか知りたかったからです。そしてそれは確信に至れました・・・わたしたちの『仲間』だって!あはっ」
「・・・はい、わたしは・・・」
自身の正体を白日の下に晒すことに戸惑いも抵抗も無かったわけではないが、そこまで自分たちのことを素直に語ってくれるメンバーに隠し通し惚けることはできないとマーゴットは思った。
「うん・・・」
「わたしは・・・皆さんがご想像されている通りの者です!そして・・・」
マーゴットは躊躇いながらも意を決したかのように言葉にした。
その言葉は、今日初めて出逢ったばかりの気心も通じ合っていない、それにも益して正体は判ったとは言え、実際素性も定かで無い者に語るべき内容ではない。
それは彼女にとって・・・今までの生活を根底から覆してしまうことになるやも知れぬことであり、真実を語るには余りにも重みのある、そして勇気のいる告白であったように感じられた。
俺たちはそんな彼女の想いも気持ちもしっかり受け止めなければならない。それが大切な責務なんだ。
「わたしは・・・魔人族の上位種『ハイマジシャン』なのです!」




