第25章 黒魔導士
「ショーヘイさん、そっちへ二体向かっています!」
「了解!こちらは対処できるから・・・ソニアさん、ルーカスさんのフォローを!!」
「ソニア、了解しました!」
ルーカスが前線で止める傍らをすり抜けるように、二体の人狼であるライカンスロープが後ろに控える俺たち目掛けて向かってきた。
俺はすぐさまソニアに指示を飛ばした。
『昨夜の今日か』と呆気に捕らわれるほどの圧倒される勢いに押されてしまった感も拭えないのだが・・・早速、俺たちはバンドール郊外のダンジョン『クリスタルの祠』の三層へとクエストを請け潜っていた。
まあ、昨今ではこのように冒険する事自体が自身としても珍しいわけなのだが、久しぶりに魔物を相手にすると『命のやりとり』であるにも係わらず昔を思い出してどこか心が躍る。
一層はノービスクラス、二層はD級~C級クラス、三層はB級クラス、最下層はA級以上と、自分たちの実力に合わせてた報酬と経験稼ぎができるようになっていた。
この手の複合ダンジョンはアドリア王国には存在していなかったので、どこか新鮮に感じられた。
そんなB級の三層に潜れたのは、ルーカスがB級冒険者であり、且つ又パーティーのリーダーを務めてくれたお蔭だった。
俺やアニーは潜在力とは別物の認定クラスC級で冒険を中座した為、単独では三層に潜ることができないし、同じくC級のソニアに至っても高みを望み過ぎるような無理を強いる訳にもいかないので、今回はひとつ格上のB級階層を選択することで落ち着いた。
また、国や所属する冒険者ギルドが違っていても冒険者カードを提示することで、どこのギルドであってもクエストを請けられるとういうシステムは合理的に思えたし、その上、子連れの冒険者もけっこう多いのか、ギルド内には託児所もどきの施設が用意されていた。
御者に子守させるのも気の毒だと思ったのか、アニーはギルドの託児所を今回利用することにし、サーシャを預けた。
部屋の外から垣間見るに・・・サーシャと同じような年頃の子供が多くいる。そんな中でサーシャは馴染みの無い場所も手伝ってか、少し人見知りをしながら係りの女性に伴われていた。
そんな彼女を見送りながらもアニーは内心ハラハラしているのか、少し刹那そうな表情を浮かべていたが、半日のことだ・・・親の心配を他所に彼女は彼女なりに打ち解けて行くだろう。
例の『マジシャン』と呼ばれていた女性には、運良く冒険者ギルドで出会うことが叶った。
彼女は決まったパーティーに所属しているでもなく、傭兵のような形で毎回どこかのパーティーに気の向くままに参加していたようだ。
因みに・・・ルクソニア公国の冒険者ギルドのパーティー上限は5名のままだ。
ままだって言葉の表現がおかしいのかも知れないが、この手の複合ダンジョンの存在を考えれば、ここでは冒険者の生死に係わるような被害がアドリアと比べると少ないのかも知れない。
アドリアの冒険者ギルドが指定したダンジョンにしてもフィールドにしても、本当に冒険者たちの被害が多かった。
それは逆に考えれば、難易度が高い低いの問題では無く、報酬や経験値欲しさに冒険者たちが無謀な挑戦をしていたのだとも言える。
この世界における最大都市バサラッドに集まる冒険者は半端なく多い。だからルールを無視した上に敵を甘く見るような輩たちも多かったんだと思う。
その点、バンドールの冒険者ギルドは、出現モンスターの実力を考慮した上で、秩序良くLv相当の住み分けの特化と徹底を実践している事が伺えた。
命の駆け引きである・・・危険防止にはこういう決め事は必要であろう。
・・・・・・・・
手持無沙汰のような素振りでギルドの待合ベンチに腰掛ける彼女に、ルーカスは躊躇いもなく近づいて行った。
俺とアニー、ルーカス、ソニアの4名ならパーティー上限の5名には1名の空きがある。そこに件の彼女を誘うという計画だったのだが・・・上手く話に乗ってくれるかどうか『やきもき』もしたが、それは要らぬ心配だったようだ。
『案ずるより産むが易し』とはよく言ったものだ。
噂になっている彼女を急造のうちのパーティーに誘うことは意外と容易だった。
「パーティー待ちでしょうか?」
「・・・はい」
彼女は不審そうな目で、にこやかに微笑みかけるルーカスを見上げた。
「良かったら、うちのパーティーに参加しませんか?」
「どこへ行かれるのでしょうか?・・・」
「アドリア王国からバンドールへ旅をして来た知り合いの特A級の実力者たちと今一緒にいるのですが、『クリスタルの祠』のニ~三層あたりでお互いの実力試しを気軽にしようかということになって・・・こちらは4名ですし、それで何方か1名補充しようかと!」
「隣国のそんな凄腕の方々とご一緒のパーティーなんですか?」
彼女はルーカスのその言葉に、顔を深く覆う黒フードの中から更に視線を上げ、瞳を輝かせながらそう問い返した。
その目を見れば興味があることなんぞ一目瞭然である。
彼女にしてみても一般の冒険者たちとパーティーを組んでも物足りなさばかりが募っていたのだろう・・・ルーカスはその表情からそう感じ取った。
「そうです。ご興味があれば如何ですか?先約があるなら別ですが・・・」
「先約はありませんが・・・」
「冒険者クラスで言えばC級認定ですが、潜在的な実力は特A級が2名います。そんな実力者を見てみたいと思いませんか?あまり表沙汰にはできませんが話のネタにはなりますよぉ~ははっ」
ルーカスは特A級に俺とアニーだけをカウントして、自身はB級であることを前面に出す方が何かとやり易いのか計算外とし彼女に笑った。
ハイヒューマンにハイエルフ、それにハイドラゴンが加わるようなパーティーなんぞ、古今東西どこを探しても見当たらない代物だ。
いや、見当たらないどころか、これがこの世界における初めての出来事となる。
大袈裟に言えば『世紀の一大イベント』であると言っても実際過言すぎる事でもないだろう。
それを知るソニアが興奮しているのも解る気もするが、俺たちはそんな大それた者でもないし、逆にそんな風に思われること自体を歯痒く感じてしまう。
「そうですね・・・実力とクラス認定は別物ですから~うふっ」
彼女はそう言うと、ルーカスの顔へと不思議な笑みを浮かべた。
マーゴット・キャバリエ 19歳♀(黒魔導士)
職業柄なのか、または他人目に姿を晒したくないのか・・・全身を覆う黒いフード付きコートを纏う彼女は『魔人族』であった。
コートの切れ間から覗く肌は、色白のアニーよりも更に透き通るかのように白い。
『魔人族』はいろんなタイプに分かれるのだが、彼女自身はヒューマン族と見分けがつかないような姿形をしている。見分けがつかないと言うより正確にはヒューマン族そのものに見受けられた。
『魔人族』の系統はヒューマン系、デーモン系、鬼人系と分かれている。
エルフの亜種であるダークエルフ族の派生と魔人族の系統の派生は根本的に毛色が違っている。
進化の形態そのものが違うのだ。だから一括りに『魔人族』と言っても、中身は多種多様な種族の集まりの総称に過ぎない。
また、ヒューマン系とヒューマン族との見た目の違いは、化粧を施したように目の周りに歌舞伎役者のような隈取があるのが特徴で、彼女の場合、目の周辺を目尻にかけて切れ長に縁どられた漆黒の隈取が透き通るような白い肌をより引き立たせ、それがチャームポイントとなり彼女の美しさを際立たせる魅力ともなっていた。
美人と評判が起つのが理解できた気がする。黒髪に黒い瞳が本当に美しい。
身長はアニーと丁度同じぐらいの中背で少し華奢に見えるがスタイルは良い。
元の世界で言えばパリコレでウォークするモデルのような印象を受ける。
そんな彼女を傍目から見ていると・・・ロークがこの場に居れば鼻の下を伸ばしそうな気がして、俺はひとりほくそ笑んでしまった。
そんな美しい彼女が『魔人族』であることが、俺の興味を更に擽った。
ウルマスの言葉ではないが・・・この女性との出逢いが『縁』が惹き寄せたものだとすれば『ハイインフリータ』とか『ハイマジシャン』とか呼ばれる『魔人族』の上位種である可能性が無きにしも非ずである。
もし、仮にそうだとすれば・・・名誉館長が推測した『魔王』=『ハイマジシャン』の仮説は脆くも崩れ去るが、そもそも彼女自身が上位種であるかどうかも不明であるし、まぁ、話がそんなに短絡的にトントン拍子に進むとは思えない。
ただ不思議な魔法を使うという噂がとても気になるし、事実関係を確かめてみたいという思いは募るばかりだ。
それはパーティーを組んだ冒険者たちが普段見慣れたスキルでないということ・・・高次元のハイスキルを使用したってことなのだろう。
俺が彼女に惹かれる一点が正にそれである。
大昔に・・・と言っても6年ほど前、この世界に転移したての頃にギルドで耳にした『スキルMAX』は常人ではありえないって言葉・・・だから俺は自身のスキルステイタスを晒すことを控えてきた。
ただ単に俺の場合は『宝の持ち腐れ』で発動の仕方から内容まで何ひとつ解らない状態からのスタートだっただけに、ロークたちと連なることで日々学習する羽目にはなったが。
高次元ハイスキルは上位種だけが発動可能なスキルである・・・だから不思議な魔法がどんな物なのか見てみたいという興味が膨らんで仕方がない。
・・・・・・・
ルーカスの盾をすり抜けた二体のライカンスロープが俺たちを目掛けて剣を振り上げた。
俺は防御からすかさず斬り掛かる体勢へと身構えたその時・・・目の前のライカンスロープ二体を包み込む球体が何処からともなく出現した。
人狼は球体の中で完全にスタンしている。
そして・・・大ダメージを受け続け、藻掻き苦しみの表情を浮かべたのち呆気なく霧散した。
俺もアニーも一瞬の出来事に驚愕しその場で固まってしまった。
「スプレイションフィールド・・・」
目の前で起こった現象にアニーが独り言のように呟いた。
アニーは全属性に通じているし、魔法系ハイスキルは習得も熟知もしている。
その発動されたスキルを目の当たりにして、それがどういうものなのか瞬時に理解できたのだろう。
『闇魔法の高次元ハイスキル・・・』
アニーはボソっとそう口にすると、傍らに立つ黒魔導士マーゴット・キャバリエをじっと見つめた。




