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龍の愛し子 ー 聖痕の乙女と魔女 ー  作者: 月城 忍
第3章 不可能の証明
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不可能の証明 第11話

 



 この世界は変革の時が訪れていた。


 十二国が四国へと統合されてから五百年以上の時を経て、ラズ国内の龍脈都市の一つ、アクアリウスが落とされたことで、アニキトスという独立国家が生まれようとしている。


 アニキトスの国王を名乗るのは、ルーヴィの王族だったチャニングという男。

 チャニングの目的は世界を支配することにあった。


 独立宣言の際の声明にその方法は記されていないが、人工的に人型魔獣を生み出す確実な方法を知っているチャニングは、人型魔獣を使ってこの世界の主要都市を襲い、そこにいる主要戦力を削って目的を果たすつもりであることは明白だった。


 最初に動いたのはクオーツだった。

 クオーツの女王はオブシディアン、ラズ、ルーヴィの国王に会合を呼びかけた。

 会合の場に国王が来るのならば、人型魔獣に対抗するための術を教えるという条件で。

 呼びかけに応じると即断即決するのなら、対人型魔獣の道具と、その使い方を教える人材を提供する。

 クオーツからの使者は書状と一緒に少なくはあるがその道具を持ち込み、人材を連れてきていた。


 ここ一年、龍脈都市に現れる人型魔獣で甚大な被害を被っていた三国は、クオーツの呼びかけに応じ、少ない数ではあったが人型魔獣に対抗する術を手に入れた。


 会合の場所はラズの龍脈都市、アクアリウス。現在はアニキトスという独立国家を謳っている都市が遠くに望める丘だった。


 アニキトスが次の都市を落とすために動く前に叩きたい。クオーツ女王のそんな希望もあり、三国の国王は二万のずつ兵を引き連れ、魔獣相手に人型魔獣に対抗するための道具の使い方に慣れながら集まった。


 この世界に国が生まれてから、各国の長が一堂に会するのは歴史上初めてのことだった。



 そしてクオーツの女王は不戦条約を提案した。

 それは提案というより、脅しに近いものだった。


 オブシディアンに対しては、応じなければクオーツの先代国王暗殺を公にし、宣戦を布告するというものだった。

 会合よりも前に、既にクオーツとオブシディアンは相互不戦条約を締結。


 ラズに対しては、応じれば戦いに必要な分の人型魔獣に対抗するための道具の提供と、アクアリウス奪還への協力。応じなければクオーツとオブシディアンはすぐに帰還し、道具の追加提供は一切しない。


 ルーヴィに対しても、応じれば人型魔獣に対抗するための道具の提供を。応じなければアニキトスの独立がルーヴィの仕組んだことであり、世界の統一を謀っているのはチャニング個人ではなく、ルーヴィであると判断し、クオーツとオブシディアンでルーヴィに宣戦布告をする。


 ラズはこれまでにも龍脈都市に人型魔獣が現れ、甚大な被害を受けている。そして今まさに龍脈都市の一つが乗っ取られ、次も狙われている可能性がある。

 早急に人型魔獣への対策を取り、アクアリウスの奪還を望んでいた。


 そしてルーヴィはチャニングの行動を何一つ知らず、兵を奪われている。その上、人型魔獣での被害も受けており、更に有らぬ疑いをかけられクオーツとオブシディアンに攻め込まれては太刀打ちできる兵力がない。


 不戦条約に応じるか、国を危機に陥れるかの二択を迫られた。


 ただ、クオーツ女王の提案する不戦条約は、世界を今の四国のまま維持しようとするものだった。

 曖昧な国境線など、協議すべきものは沢山あるが、それらはすぐに答えの出るものではない。

 今は人工的に人型魔獣を量産できる状況にあるアニキトスをどうにかしたい。そのためには今、アニキトスを叩かなければならない。

 今は国同士で今後一切の戦争をしない。それだけを約束し合い、協力してアニキトスに対抗する。

 アニキトスをラズのアクアリウスに戻したあとに、条約の内容は話し合って決めよう。


 そんな内容でもあったので、ラズとルーヴィは脅しとも取れるクオーツ女王の条件に不満を抱きながらも不戦条約を受け入れ、締結した。




 一方、アニキトスは静かだった。三層に分かれているアニキトスは、最下層は市民の区画、中層は貴族の区画、最上層は王城となっているが、最下層は普段通り、中層は無人、王城はチャニングとそれに従う貴族と三万の兵が占拠している。


 数日間、様子を見ていたが、アニキトスが動く気配はなかった。

 アニキトスの王城からならば、各国の兵が続々と集まっている様子も見えるはずなのだが。




 そんな中、タリアはカミールと共にギルバートを探していた。

 チャニングの護衛という立場が変わっていなければ、チャニングが何を考え、どう動こうとしているのか知っているかもしれないという期待を持って。


 しかしチャニングの周囲にギルバートの姿はなく、数日かけて見つけたのは王城の地下にある牢獄だった。


 その地下牢獄の一番深い場所。一番警備の手厚い場所にギルバートは捕らえられていた。


「って、なんで牢獄にギルがいるんですか!」

「俺に聞かれてもわかんないよ! あー、もう! チャニングの動きを知ってると思って期待してたのに!」

「しかもすぐそばに見張りいるし、話しかけただけでバレそうじゃないですか?」


 白虎のカケラに乗りながら、二人は狼狽していた。

 そこは広い空間を堅牢な柵で六つの部屋に分けてある牢屋になっていた。

 その手前は見張りの兵士の詰所になっているのか、牢屋が見える場所に常に二人が待機している。


「見張りが交代の時に隙があれば接触できそうだけど」

「待っても隙ができるかわからないし……あの二人、眠らせちゃいます?」

「……出来るの?」

「やるしかないでしょう」


 二人は白虎のカケラで兵士のそばに移動する。二人の兵士はテーブルを挟んで向かい合わせに座っていて、一人は本を読み、一人はぼーっと牢屋を眺めていた。


 その本を読んでいる兵士のすぐ後ろで、タリアは白虎のカケラから手を離すことなく降り、左手は白虎のカケラに置いたまま、右手はいつでも兵士の背中に触れられる場所に置く。

 そして白虎のカケラから手を離し、触れた兵士を眠らせて、すぐに白虎のカケラに触れる。


「ん? なんだよ。本読みながら寝んなよ、これだって一応、仕事なん、だ、から……」


 すぐにもう一人の兵士の後ろに移動し、その兵士も眠らせた。

 本を読んでいた兵士はテーブルに突っ伏し、牢屋を眺めていた兵士は椅子の背もたれにもたれかかって深い眠りについた。


 タリアはそのままギルバートのいる牢獄に走った。


「ギル!」

「遅かったな」

「まさか、牢屋にいるとは思わなかったの!」


 タリアは後ろをついてきていた白虎のカケラに飛び乗り、牢屋の中に入る。

 すぐに白虎のカケラから降りてギルバートの腕を掴んだ。


「っ! 虎? って、カミール!」

「やっ、久しぶり。時間がないから単刀直入に。ギルバートのここでの役目は終わりにしたいんだけど、ここに残る理由はまだある?」


 白虎のカケラに跨ったまま軽やかに手を挙げて微笑んだカミールに、ギルバートは首を横に振った。


「なら、ギルも乗って! 早くここを出よう!」


 以前、タリアがギルバートを連れ出そうとした際には断られてるため、タリアだけではまた断られるかもしれない。そんな懸念があったので、カミールに一緒に来てもらったのだ。


 早速タリアはアクアリウスの用心棒紹介所へと移動をした。


「……話には聞いてたけど、本当に便利だな」


 白虎のカケラについてはギルバートと再会した時に話してあった。しかし実際に体験したのは初めてだったギルバートは感心していた。


「そんなことより、ひどい臭い」

「仕方ないだろ? アクアリウスについてすぐ、あそこに閉じ込められてたんだから」

「ギルなら逃げられたんじゃ」

「どうせお前が来るって思ってたし」


 アクアリウスに入ったギルバートは惨状を見てチャニングに抗議。そして牢屋に閉じ込められることになった。


「ってことは、何も知らないってこと?」


 カミールは四国の兵が集結している現状を話し、それに対しチャニングがどうするのか知りたかったと伝える。


「ああ、それなら……見張りの話じゃ、主力部隊を貴族の区画に誘い込んで一網打尽にするとかなんとか」

「誘い込んで、か。なるほど。エステル、サラのところに送って欲しいんだけど」

「エステル? サラ?」

「あーー、ギルには後で説明するよ」

「あ、ギルバートも連れて行こうかな。クオーツの戦力だし」

「だったら、先にお風呂ですね。この臭い無理! サラに嗅がせたくない!」

「それじゃ、ギルバートは後で連れてきてくれる?」

「そうしましょう! ギルはお風呂入ってきて!」

「着替えは準備して行くよ」


 ここは用心棒紹介所。遠方から仕事を求めてきた用心棒のための簡易宿泊施設にもなっている。

 中古品ではあるが衣類の販売もしていて、今は用心棒紹介所として実際に稼働しているわけでもないので、商品は在庫としてただ保管されていた。


 それをギルバートの着替えとして与え、カミールは先にサラの元へ。

 ギルバートは風呂に入って着替えを済ませてから、チャニングの屋敷から取り戻していた短刀と朱雀を渡し、タリアがエステルと呼ばれている理由を簡単に説明してから、サラの元へと送っていった。



「ギルバート様っ!」


 サラはアニキトスが遠くに見える丘の野営の中に留まっていた。


「ん?」

「え?」


 タリアがギルバートを連れてサラのテントへと入ると、サラは駆け出し、ギルバートに抱きついた。


「……サラって、あんたのことだったのか」

「お会いしたかったんです、ずっと」

「ちょっと待って! ギル、なんでサラのこと知ってるの?」

「ってか、サラがなんで抱きついてんの?」


 ギルバートがクオーツを出たのは四年ほど前。その頃、サラは王宮内のごく一部でしか活動できず、サラの存在は限られた者のみしか知らなかった。

 タリアはサラにギルバートのことを話したことはある。しかし二人の接点は皆無だったはずだった。


「私、ギルバート様と結婚の約束をしたんです」

「え? ギル……それ本当?」

「まぁ、なんでかそんな話になってた」

「はぁ? サラがギルバートと結婚? そんなの聞いてないんだけど! 誰がそんなこと決めたの!」

「誰って、私が決めました。二種持ちの中で一番年齢が近いですし、何よりタリア様の身内でいらっしゃる。誰よりも相応しいお相手でしょう?」


 聞けば、サラはタリアから聞いたギルバートの話で興味を持ち、オリヴァー邸での事件後、ギルバートの病室に行って本人と会って話し、結婚の約束を取り付けていた。

 サラは後の女王となる予定で、クオーツのため、女王に相応しい相手を探さなければいけないと思っていた。


 ギルバートはクオーツの英雄オリヴァーの養子。身分的にも申し分なく、しかも特殊魔法の二種持ちで後々は聖騎士団の団長も目指すことができる。そうなればクオーツ最強の男が女王の伴侶だ。


「サラが、ギルバートと結婚……」


 生まれた時からサラを知っているカミールは衝撃の事実を知り、放心状態だった。


「それでギルバート様、あの時おっしゃってた目的は達成できたのですか?」

「……それはまだだ。チャニングにくっついてれば会えると思ってたんだけど、あたりつけてたのが別人だった」

「そう、ですか。では、まだお帰りにはなられないんですね」

「悪い。けどこの戦いには参加する」


 サラとギルバートの話を聞きながら、タリアは唇を噛み締め、考えを巡らせていた。


「ギル……もしかして、魔女と連れの男を探してたの?」

「ん? ああ。でもどこにいるのかさっぱりだ」

「チャニング公爵のそばにいれば、会えると思ったのはなんで?」

「それは……コロシアムで一度だけ、嫌な魔力を感じたことがあった。その部屋にチャニングがいて」


 まだリーブラのコロシアムがただ強さを競うための闘技場として使われていた時、そこに出場者として紛れ込んでいたギルバートは嫌な魔力を感じた。オリヴァー邸での事件の際に感じたことのある魔力だった。


 あの時会った女と男がいるかもしれない。そう思ったギルバートは出場者の立ち入ることのできない場所に侵入。そこでチャニングに見つかり、拘束され、荷物の全てを没収された。


 嫌な魔力を感じた人物があの時の女と男であるか確かめたい。そんな思いがあって、ギルバートはチャニングのそばに留まっていたのだ。


「その、あたりをつけてた人が別人だったって言うのは、会えたから、なんだよね?」

「ああ。チャニングはスティグマータの乙女だって、周囲に紹介してたけど」

「は? スティグマータの乙女?」

「でも、あれは違う」

「違うって、なんでわかるの?」

「魔力の質が違う。あれは人型魔獣やあの変な服の女と似てるし、そもそもアイツ、男だった。髪は長くて白いけどな」

「ちょっと待って……白い髪で、スティグマータの乙女って呼ばれてて、でも男? どういうこと?」

「オレが知るかっ」


 理由は不明だが、ギルバートは魔力を感じ取る力が強いのか、近くにタリアがいると直ぐにわかるし、オリヴァー邸での事件の際も誰よりも早く人型魔獣と魔女の存在に気づいていた。

 ギルバートはその感覚を頼りに魔女を探していたようだ。


 そして出会った、『スティグマータの乙女』と呼ばれている白い髪の男。

 ギルバートにしてみれば目的の人物ではなかったので興味は失せたらしいが、タリアにとっては興味の対象でしかない。


「カミールさん、ラズに連れ去られたスティグマータの乙女のことは知ってますよね?」

「うん、ルドルフの捜索に協力したからね。ラズの王都近くで幽閉されてて、その後、変化はないよ」

「……じゃ、私たちの把握してる人じゃないってこと、ですね」


 タリア達が把握している『スティグマータの乙女』。まずはクオーツでオリヴァーと暮らしているナターシャ。そしてラズに攫われ幽閉されている女性。中途半端ではあるがタリアの三人だ。


 ナターシャ以前の『スティグマータの乙女』は既に亡くなっているという認識だった。

 ルドルフの話ではナターシャ以降、生贄にされた少女はラズに幽閉されてる女性で間違いはない。ルドルフや生贄にされた女性達が暮らしていた島は全滅したし、生贄に使われていた龍穴と呼ばれる穴はルドルフが塞いだという話でもあった。

 ルドルフの話を踏まえれば、もう二度と銀髪で銀色の瞳の『スティグマータの乙女』という存在は生まれないということになる。


「ねぇ、エステル……一体の例外を除く……俺はその言葉が気になってるんだけど、どう思う?」


 カミールが気になったのは、ラザラスという人物が書いた報告書の最後の一枚と思われる紙に書かれていた内容だった。


 ー よって、一体の例外を除く他の全ての被験体において、絶望を与えることで確実に魔獣化することが確認された。ー


「確かめたい、ですね……もしその白い髪の男の人が、実験の例外だったとしたら……ギル、その人を直に見たんだよね? どんな感じだった?」

「どんなって言われても……普通だった」

「人型魔獣みたいな感じではなかったってこと?」

「普通に話が出来るし、言ってることは意味わかんないことが多かったけど」

「話したんだ」

「話しかけてきたから。アクアリウスに移って直ぐは同じ牢屋にいたんだよ。時々、どこかに連れていかれて、血を抜かれるとかで、青白い顔してフラフラになって戻ってきて」

「……血、を?」


 ギルバートから聞かされた内容に、タリアとカミールは顔を見合わせる。


「エステル……多分、今……同じこと考えてると思うんだけど……」


 タリアは深く頷いた。


「ギル、もっと詳しく、その人のこと聞きたい! 血を抜かれて、その血をどうしてるとか言ってなかった?」

「その血を? さぁ?」

「なんでもいいの! 何を言ってた? 話したんでしょ?」

「話したけど、他愛もない話ししかしてないし、他は意味不明で」

「なら、その意味不明な方!」

「……これは罰なんだ、とかブツブツと」

「罰? なんの?」

「親友を迎えに行かなければ、とか……」

「それ、どういう意味だろ」

「オレが知るかよっ。死ぬ必要なかったとか、島がどうとか。あ、あと、イケニエ? とか呟いてた気がする」

「……ちょっと、ロルフさんのところに行ってきます」

「エステル! 俺も!」

「お待ちくださいっ!」


『スティグマータの乙女』と呼ばれている男について聞き、確かめたいことができたタリアはすぐに動こうとした。

 カミールもタリアと同じく。


「お二人とも、お待ちになって」


 しかし真剣な表情でサラが止めるので、カミールはハッとして止まった。


「そうだったね、サラ。ごめん」


 カミールが謝ると、サラは困ったように眉を寄せて微笑む。


「ルドルフ様には私から話しましょう。白い髪の男性についても、この戦いが終わった後に明らかになることです」

「……サラ?」

「申し訳ありませんが、タリア様は焦らず、お待ちください」

「……どうして? ロルフさんは私の力のことも知ってるし、もしその白い髪の人が私の思っている通りなら」

「そうかもしれませんがっ」

「サラ、ちゃんと理由を言わないとエステルは聞いてくれないよ?」


 言い淀むサラに、タリアは首を傾げた。

 タリアが中途半端であっても『スティグマータの乙女』だと知っているサラは、クオーツの女王としてタリアを守りたいと思っているのかもしれない。

 しかしルドルフは一緒に旅をしてタリアの力を知っているし、心配には及ばないはずだとタリアは思う。


「タリア様、申し訳ありません。これ以上、関わって欲しくなくて」

「サラ、それじゃぁ、何も伝わらないよ? どうして関わって欲しくないのか言わないと」


 カミールはタリアに、今少しサラに時間を与えてほしいと言った。

 タリアは待つ。これ以上、タリアに関わって欲しくない理由を聞かなければいけないと思って。


「あの……その……タリア様にもし危険が降りかかるかと思うと、気が気じゃなくて」

「どうして、そんなに心配するのかも言うんだよ?」

「それはっ……その……タリア様が、私の……」


 言葉を詰まらせ目を伏せるサラに、カミールは呆れてため息をついた。


「もう、代弁するよ。サラにとって、タリアは初めてできた友達なんだ。そしてこの先、多分、サラには友達が出来ない。だから大切にしたいんだよ」


 タリアは『スティグマータの乙女』でクオーツの最重要保護対象だから、女王として保護する義務がある。

 それとは別に、サラはサラ個人として、タリアが危険な目に遭うのを嫌がっている。

 サラは王位継承権の第一位を持って生まれ、その上、銀髪と銀色の瞳を持っていた。その為、『スティグマータの乙女』の可能性があるとされて必要以上に保護されることとなった。

 同年代の友人はおらず、作ることも叶わず。女王になればますます友人を作る機会などなくなってしまうと覚悟もしていた。


 しかしウィリアムを通じてタリアと出会い、タリアはサラの身分など気にすることなく接してくれた。

 サラが女王になってからもそれは変わらなかった。

 サラにとって、それはとてつもなく嬉しいことだった。


 だからタリアを失いたくない。

 そのために、タリアを危険から遠ざけたいと、ウィリアムとカミールにはタリアに不必要に情報を与えた得ないようにと伝えていた。


(サラがそんなことを考えてくれていたなんて……)


 タリアは素直に嬉しくなり、そっとサラの手を取った。


「ありがとう、サラ。私を守ろうとしてくれて……でも、行かせて」

「タリア様! それはいけません!」

「ねぇ、サラ。私ね、本当にサラのこと、凄いと思ってるんだよ?」


 サラは女王になって二年と少し。まだ十六歳だというのに、オブシディアン、ラズ、ルーヴィの国王相手に脅しとも思える取り引きをした。

 サラの望みは戦争をなくすこと。サラ自身、戦争を知らずに育っている。

 不戦条約を四国で締結させるために、父親の死さえも利用し、人型魔獣が脅威となっている今を逃さず行動を起こした。


「サラのお陰で、子供達に特殊魔法の適正があっても戦場に送り出す心配はなくなったみたいだし」

「子供達?」

「あ、サラ、知らなかったっけ? ウィルとの子供がいるの」

「しかも双子! エステルとウィルをそのまま小さくした子達がね!」

「タリアに、子供?」

「ギルはともかく、サラにはウィルかカミールが教えてるもんだと」

「ウィルに口止めされてた。サラにはタリアの口から教えた方が驚くって」


 タリアにウィリアムとの子供がいるとは知らなかったギルバートとサラは口を開けたまま停止している。

 そんな二人に苦笑しながら、タリアは続けた。


「サラ、あのね……今、私がしようとしていることは、きっとサラの役に立つと思うの。私もサラのことが大切で、その重荷を少しでも軽くしてあげたい。私にできることなんて限られてるけど、それでもできることならなんでもしたい。でないと、サラに頭が上がらなくなっちゃいそうだし」

「サラ、守るだけが友達じゃないよ? お互いに助け合えるってのも友達の醍醐味なんだろうし、それに……エステルに女王様として扱われるのは嫌なんでしょ?」

「ん? 女王って、こいつが?」

「……ギル?」

「……サラ、ギルバートに言ってなかったの?」

「ええ。あの頃はまだ女王ではありませんでしたし」


 タリアに子供がいた事実を知ってからポカンと口を開けたままだったギルバートが、サラが女王だと初めて聞き、口を開けたまま目を見開いて固まっている。


「あっはっはっ! ギル、女王様とも知らずに結婚の約束したの? 」

「あははっ! 考えなさすぎでしょ! 俺の知らないとこですっげー面白いことになってんじゃんっ、ウケるっ」


 カミールと一緒になってひとしきり笑ったタリアは、サラをそっと抱き寄せた。


「サラ、行ってくるよ。でも安心して? 危険なことは絶対にしない。約束する」

「……どんなにお止めしても、無駄なんですね」

「うん。それに私自身が知りたいことでもあるの」

「俺らの思ってる通りなら、この戦いは長引かない。人型魔獣対策の道具だって無限にあるわけじゃないだろ? 短期決戦になった方が戦うみんなにとってもいいはずだ」

「……カミールは私の味方だと思っていたんですけれど」

「味方だよ、いつだってね。たった一人で立ち向かうより、一緒に戦ってくれる友人が心強いもんだって、サラは知るべきだよ」

「この戦いが終わったら、子供達にも会わせなきゃ。さっさと終わらせて、みんなで遊ぼう。それで、あの中庭でお茶するの。その時は、サラの部屋に泊めてね?」


 ゆっくりとサラから離れたタリアは、そのままサラをギルバートに押し付ける。


「慰めるのはギルの役目だからね!」

「な、慰めるって、どうやって……」


 タリアは身振りで、サラを抱きしめるようにギルバートに指示。

 恐る恐る、サラの背中に手を回すギルバートに吹き出しそうになっているカミールを小突き、笑うなと言わんばかりに睨みつける。


「え? あ、ああ……タリア、ルドルフって人はここに来てるって。道具の管理を任せてあるから、保管してるテントに行けば会えるってさ」

「っ、サラ、ありがとう! 行ってきます!」

「ギルバート! それ以上はまだサラに手を出すなよ! それ以上は結婚してからだからな!」


 タリアとカミールはサラのテントを飛び出し、ルドルフのいるテントへと走った。


「エステル、ウィルのこと、サラに聞かなくてよかったの?」


 そんなカミールの問いかけに、タリアは返答に困った。

 ウィリアムとはもう二ヶ月近く顔を合わせていなかったのだ。


「今は、いいんです。重荷になっちゃいそうだから」


 ウィリアムはクオーツの聖騎士副団長としてサラの命を受けて動いているはずで、サラからの書状を持ったウィリアムがラズとルーヴィに入ったことで、四国の国王が会合を開く運びとなった。

 その後、すぐに会合と戦いに備えてそれぞれの国から出兵し、アニキトスを望む丘で出陣の時を待っている。


 敵同士だった国々が一つとなり、アニキトスを攻めようとしているのだ。不戦条約が結ばれたとはいえ、これまで戦ってきた兵士たちにしてみれば、昨日まで敵だった者と今日から仲間として一緒に戦うというこの状況で混乱が生じてもおかしくない。


 兵士のまとめ役は二十三年間どの国とも戦ってこなかったクオーツが担っている。

 決戦の時は間も無くに迫っているのだ。

 ウィリアムが暇を持て余しているとは到底思えなかったし、逆に案件と責任を抱え込みすぎているのだろうとタリアは思っていた。


 そんなウィリアムにタリアが抱えている問題まで背負わせたくない。


 それにタリアは、ウィリアムと想いを通じあわせてから、そばにウィリアムがいなくても心のどこかでウィリアムを頼っているような気さえしていた。

 不安な時、ウィリアムがそばにいてくれたらどんなにいいかと思ってしまう。


 これまでの四年間、協力してくれる人の助けを得て生活してきた。けれど知りたいことは一人で調べ、問題が起これば一人で解決してきた。


 今は、なにか問題に直面するとまずウィリアムに相談をしたいと思ってしまうあたり、タリアの心がどれだけウィリアムに重きを置いているのかがわかる。


「重荷になってもいいじゃん。エステルに頼られたら喜びそうだし」

「そう、ですかねー。でも頼るのは今じゃない気がするんです。それに、私のやるべきことをやれって言われてるし」


 タリアは戦いに向いた能力を持ち合わせていいない。これから始まる戦いに参加することはできない。

 けれどもし、目的の人物が思った通りの存在ならば、この戦いを早く終わらせる手伝いができる。


 それに今から知ろうとしているのは人型魔獣と魔女に関わることでもあった。

 タリアが知りたいのは結果だけではなく、どうしてそのような結果に至ったのかの全てだった。




 第11話 完

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