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龍の愛し子 ー 聖痕の乙女と魔女 ー  作者: 月城 忍
第1章 聖痕の乙女
4/50

聖痕の乙女 第4話 ①

 


 王城の周囲を取り囲むようにある貴族の区画。その区画の中は大きく分けて二種類の貴族が住んでいた。


 一つは爵位貴族や準爵位貴族と呼ばれている世襲制の貴族。爵位貴族は王族の血統。準爵位貴族は貴族の血統。代々深く政治に携わっている者で、王都内と地方に土地と屋敷を持ち、管理している農村部からの税が主な収入源となっている。


 もう一つはナイト貴族と呼ばれている一代限りの貴族。国のために働き武勲やなんらかの功績が認められた場合に貴族の称号が与えられた者で、その武勲や働きに応じて収入を得ている。

 聖騎士になる時に与えられるのは後者だ。特殊魔法を持っていて貴族になっても、その子供に強い魔力と特殊魔法の適性が現れるかどうかはわからないからだ。


 そんな貴族の区画の、王城から一番離れた場所にオリヴァーの屋敷があった。

 そこまで辻馬車と呼ばれる、誰でもお金を払えば目的地まで乗せてくれる馬車で移動しながら、タリアの扱いについて決定した内容の詳細をオリヴァーが説明する。


 この国には里親制度というものがある。

 十三歳になって特殊魔法の適性ありと判断された子供は皆、親元を離れ、養成学校内にある寮で生活することになる。

 ただし王族や貴族の子供は例外で、家から近い養成学校に通わせてもいいし、家庭教師を雇ってもいいことになっている。

 また、王族や貴族は金銭的余裕もあるので、養成学校に通う子供達の里親となって個人的に支援することも可能だった。

 里子として迎えた子供がなんらかの功績を納めたりすれば、里親にも恩恵がある。里子が聖騎士にでもなれば国にとって有益な人材を支援した功績を認められ、ナイト貴族であっても場合によっては準爵位貴族になれることもあるので、里親制度を利用して子供を支援する貴族は多くいた。

 親のいない子供の場合は里子ではなく養子になる場合もある。


 だからオリヴァーもその里親制度を利用してタリアを引き取り、家庭教師をつける算段となっている。


 家庭教師にはタリアの力について理解し、秘密にできる人材が国から派遣されることとなる。

 家庭教師以外の人間には、タリアは特殊魔法の二種に適性があったため、オリヴァーが支援しているということにする。

 ギルバートも二種持ちではあるが、タリアとは違い戦闘に特化した適性なので、家庭教師よりもより実戦に近い経験が詰める学校に行かせた、ということになっていた。


 屋敷には使用人もいるが、できる限りタリアの特別な力の存在が知られないよう、防御系魔法と回復系魔法の二種持ちであること以外は伏せるようにと注意を受けた。


 オリヴァーの屋敷は大人の男性ほどの高さの壁に三方を囲われ、通りに面した境界は生垣と薔薇のアーチがある。

 そのアーチの前で馬車は停まった。


「……意外と小さいですね」

「ははっ、リアム達の屋敷と比べればな」


 周辺の区画はナイト貴族の住む屋敷が並んでいて、デザインは違えど同じ大きさ、敷地の広さも同じなのだが、リアムとユーゴの屋敷を見ていたタリアはその小ささに驚いた。建物も庭も半分以下に見えたのだ。


「あいつらは遠くてもいいから二家族で住みたいって言って、あの壁に近い土地に屋敷を建てたんだ」


 聖騎士に与えられる土地と屋敷。貴族の称号は本人、伴侶の両方が死亡した時に消滅し、屋敷は国に返還される。一代、一家族向けの屋敷なので、リアムとユーゴの希望には合わなかった。

 双子が揃って聖騎士になるという事態が初めてだったし、ユーゴが回復系魔法の使い手であることも考慮され、私生活においてもリアムの保護下に置ける環境を作ることになったのだとオリヴァーは言う。


 通りから屋敷の玄関までは真っ直ぐに石畳が敷かれている。その両脇は手入れの行き届いた芝生となっていた。リアムとユーゴの屋敷の半分以下とは言え、十分すぎるほど大きな庭だ。


(わっ! リアル執事とリアルメイド!)


 石畳を歩いていると、玄関から誰か出てくる。燕尾服に身を包んだ初老の男性と、メイド服に身を包んだ男性と同年代の女性だった。その後から慌てた様子で飛び出して来たのは、白いシャツ、灰色のベスト、黒いネクタイに黒いズボンという出で立ちの二十代後半の男性だった。


「旦那様、おかえりなさいませ」

「ただいま。なにか変わったことはあったか」

「特にはございません。昼過ぎに届きましたタリア様のお荷物はお部屋に運んでござます」

「了解した。タリア、紹介しとく。この屋敷の管理をしてるジェームズとカーラ。その息子のアランだ」


 ナイト貴族の屋敷にはそれぞれ、その屋敷を管理する使用人の家族が住んでいた。言うなれば、一代限りの貴族に与えられる屋敷は使い回し。その家の主人とその伴侶の両方が死亡すれば屋敷は国に返還され、新たに貴族の称号を得た者に与えられる。主人のいない屋敷にいつでも新しい主人が住み始められるよう、使用人家族は国から雇用され、その屋敷内の使用人用住居で生活し、常に屋敷を整えておくという仕事が与えられていた。


「タリアの身の回りの世話はカーラに頼んである。それと、貴族の振る舞いを教えて貰え」

「はい。タリアです。よろしくお願いします!」


 一代限りの貴族は、それまで庶民として生活していた者が多いので、新たに貴族の称号を得た者への教育係も使用人家族の勤めだった。


 挨拶を済ませ、タリアはカーラに屋敷の中を案内してもらう。

 玄関を入ると広間があって、左手はキッチンとダイニング。右手は応接間と書斎。

 広間の奥には正面の壁に向かって階段があり、踊り場から左右に分かれて二階に昇れるようになっていた。

 左右に分かれた階段の下は洗面所とトイレになっている。

 そして二階は五部屋。四つのベッドルームと、ゲストルームが一つあると言うことだった。


 右側の階段を昇るとオリヴァーが使っている主寝室と、ベッドルームの中で一番小さな寝室の二つがあって、小さい方はギルバートの部屋。

 左側の階段を昇ると同じ大きさの部屋が二つとゲストルーム。一つはリアムとユーゴの部屋。その隣に空いていた部屋がタリアの部屋になる。ゲストルームは主にリアムとユーゴの家族が泊まる際に使っているとのことだった。


「昨日、女の子を引き取ることになったと聞いて喜んでおりましたのよ」


 そう言うのはタリアの世話を頼まれたカーラ。これまでオリヴァーは男の子しか養子に取らなかったので、タリアが来るのを楽しみに待っていた。


「ドレスも小物も可愛らしくて、荷解きが大変楽しゅうございました」


 侍女のフィオナが用意してくれたドレスや小物は、今日着ているドレス以外は箱に入ったままオリヴァーの屋敷に送られた。

 それを受け取ったカーラはタリアが到着する前に全て箱から出し、ドレスはクローゼットに。髪飾りなどの装飾品はドレッサーに整頓してしまい終えていた。


「やっぱり、多いですね」


 昨日、滞在していた部屋に届けられた箱の状態であっても多いとは思っていた。

 しかし、箱から出されてハンガーに吊るされている状態を見ても、やはり多いと思ってしまう。

 クローゼットの中には二十着のドレスが収まっていた。


「これは貴族のご令嬢が普段お召しになるものですし、丁度いい量でしたわ。それにしても、どれもタリア様に良く似合いそうなものばかり。これを注文した方はとても趣味がよろしいですわね。サイズが変わって着られなくなってしまうのがもったいないわ」

(普段着だったんだ、これ……動きにくいのに!)


 今朝、フィオナに着せてもらい、現在も着ているドレス。足首まで隠れるスカート丈。重ねられたレースとフリルでボリュームのあるスカートに、階段の昇り降りに、馬車の乗り降りに気を使い、邪魔で面倒くさいとタリアはうんざりしていた。

 そんなドレスと似たようなシルエットのドレスたちに、タリアは手持ちの服で過ごしたいと心のそこから思った。


「あ、そうそう。社交界のドレスもオーダーしませんと」

「社交界? オーダー?」

「あら、このドレスも全てオーダーですわよ?」

「えっ」

「貴族のお召し物は全てオーダーです。体にぴったりなサイズで作ることはもちろん、色や柄、生地の質感も全て」

(日本じゃウエディングドレスであっても作る人少ないのに、普段着までフルオーダーとか凄すぎるでしょう!)

「社交界用のドレスは何色がいいかしら」

「あ、あの……社交界って私も行くものなんですか? そもそも、何をする場なんでしょうか」

「社交界は貴族同士の交流会のようなものです。大人はもちろんですが、貴族の子供は十三歳で社交界デヴューをします。そこで結婚するに相応しい相手を選ぶのです」

「結婚!」

「ええ。とはいえ、初めはご婚約だけ。そのままご結婚することもあります」

「ちょ、ちょっと待ってください! 結婚なんて、相応しい相手を選ぶなんてそんな!」

「いいえ。よく考えてくださいませ。この国で『生きる英雄』と呼ばれているオリヴァー様とお近づきになりたい方たちは大勢いらっしゃいます。そんなオリヴァー様が里親になるということは、それだけタリア様に類いまれなる才能を見出したからでしょう。その上、こんなにも可愛らしくていらっしゃる。誰も放っておいてなどくれませんわ。あら、社交界を待たずに爵位貴族様から晩餐会のお声がかかるかもしれませんわね」

「あの! 私は魔法の勉強がしたいですし、結婚も考えたことないですし、お世話になるのはとりあえず一年と」

「まぁ大変! そうでした。とりあえず一年間でしたわね」

「そうなんです。だから」

「急いでドレスを用意いたします。それからご令嬢らしい作法に、ダンスもお教えしないと」

「あの、ですから」

「時間はいくらあっても足りませんわ! 家庭教師の方がいらっしゃる時間以外を全て使っても」


 タリアは部屋を飛び出していた。カーラが勝手に話を進め、タリアの言葉を、意向を全く聞き入れる気がないと判断し、助けを求めるために。


「オリヴァーさん!」

「なんだ。夕食はまだだぞ」

「結婚なんて考えたくもありません!」

「は?」


 ドレスの裾を捲り上げて階段を駆け下り、オリヴァーを探し、書斎でその姿を見つけて駆け寄る。


「私、強くなりたいんです! 剣も扱えるようになりたい! 魔法だって勉強したい!」

「あ、ああ」

「社交界とか結婚とか本当にどうでもいいんです!」

「タリア様! 家中を駆け回るなんてみっともない!」


 カーラの声が聞こえ、タリアはオリヴァーの背中に隠れた。

 怯えた様子のタリアに困惑するオリヴァーの前に、息を切らせたカーラが現れた。


「オリヴァー様、申し訳ございません」

「ちょっと、状況を説明してくれ」


 カーラはタリアが社交界に出入りするための作法や教養を急ぎ教えること。またその必要性を長々と語る。

 カーラの言い分と、先程タリアが訴えた内容で状況を把握したオリヴァーは、どうしたものかとため息を吐き出した。


 オリヴァーも自身の立場は理解している。タリアの本当の事情を知らない人間の方が大多数を占める中、カーラの言う通り、タリアとの結婚を望む貴族は多いだろう。

 しかし、国の上層部はタリアの扱いに困り、現状は問題を先送りにしているだけ。タリアの扱いが確定するまでは、タリアが国の最重要保護対象だと知られるわけにはいかない。

 それを隠し、貴族の令嬢のように早いうちに婚約や結婚をしてしまってから「実は最重要保護対象でした」となってしまえば、その結婚相手とその家族にもタリアに特殊な力があると知らせることにもなる。

 結婚相手とその家族全員、その家に関わる全ての人間が信用に足り得るのかは相手次第。

 最悪はタリアを使って悪巧みをする可能性だってある。

 そうならないように当面城に閉じ込めておくか、オリヴァーの保護下に置くかの選択をしたのだから。


「二人の言い分はわかった。しかしカーラ。こいつはとりあえず一年面倒をみるだけで、その先はどうなるかわからない。社交界や結婚までは考えなくても」

「これだから殿方はっ。例え一年だけであっても、オリヴァー様が目を掛けた子が野放しになれば、貴族間で取り合いになることは明白です!」

「確かにそうかもしれないが」

「逸早く嫁ぎ先を決めて差し上げないと、貴族の権力争いに巻き込まれて大変な目に遭うのはタリア様なのですよ!」


 言い返す言葉もなく、何かを考え始めたオリヴァー。

 二人の会話を黙って聞いていたタリアは、雲行きが怪しくなっていることを察知していた。


 何かを決意したように、短く息をついたオリヴァーが口を開く。

 嫌な予感しかしないタリアだったが、オリヴァーの世話になる身としては、オリヴァーの下した決定ならば受け入れるしかないのかもしれないと思った。


「カーラの言う通り、こいつを貴族の権力争いの餌にはしたくない。結婚相手を見つけてしまうのが手っ取り早いのも分かる。だが、ほかに手を考える時間をくれ。ただ、どう転んでもいいように社交界に行けるほどの教養と作法は必須だ。タリアは不満かもしれないが、それができたら俺が剣を教えてやる」

「本当ですか!」

「一年以内に教養も作法も、カーラに合格を貰えたらな」

「はい! 頑張ります!」

「それならばカーラも文句はないな?」

「もちろんでございます」

「まー、タリアも領主の孫だし、上の三人よりは教えやすいだろ」

「左様でございますね。特にギルバート様……大変に苦労いたしましたが、未だに言葉使いさえ身に付かずーー」

(三ヶ月……三ヶ月で剣を教えてもらえるようにする!)


 オリヴァーとカーラが思い出話を始める中、タリアは心の中で固く決意を固めていた。

 適性を認められている防御系魔法と回復系魔法は家庭教師が教えてくれることにはなっていた。

 しかし、どうしても強くなりたい気持ちが捨てられないタリアは、例え一人であっても強くなる方法を考え、体を鍛えたいと思っていた。

 それなのにカーラは家庭教師が来る時間以外の全てを貴族の教養や作法を教える時間に充てようとしていたので、自分を鍛える時間がなくなってしまうことに焦りを感じたのだ。


 大人二人が懸念しているように、貴族の権力争いに巻き込まれることはタリアも望むものではない。

 オリヴァーに剣を教えてもらえるのなら、元聖騎士団長に教えてもらえるのなら、強くなれないはずはない。すぐにでも教えてもらいたい。


 その両方の望みを叶えるため、カーラに教わるのは最初の三ヶ月だけにして、残りの九ヶ月は強くなることに全部を費やす。剣も、魔法も手を抜かない。

 この国で特殊魔法の適性を二種持っている者は希少。剣で身を守ることができ、その二種を駆使して戦場で役に立てる存在だと認められること。それが叶えば、もっと実力をつけるために結婚は後回しになるのではないか。そんな期待も持てる。


 そのためにもまずはオリヴァーに剣を教えてもらえる環境を作ること。それが重要だった。


 広間にある振り子時計が時間を告げる。時刻は六時。


「食事の時間だ。移動するか」


 オリヴァーの言葉に深くお辞儀をしたカーラが動き出す。その後に続いて書斎を出て応接室を抜けて広間に出たその時。


「たっだいまー!」


 大きな声と共に玄関の扉が豪快に開き、焦げ茶色で強い癖のある短髪の女性がオリヴァーに「よっ」と軽く右手を挙げて笑顔で入ってくる。


(誰?)


 タリアは初めて見る女性だったが、先頭を切ってダイニングに入って行く。そして迷うことなく席に着いた。


(奥様、かな?)


 カーラにチェアサービスを受けて席に着いたタリア。その隣にオリヴァー。オリヴァーの正面にその女性が座っている。

 オリヴァーは無言で、カーラが注いだお酒を口に運んでいた。

 カーラがそれぞれの席にナイフやフォークを並べ終えた頃、ジェームズが厨房からワゴンで料理を運んできた。


「あ、今日はアタシの分も用意してたの?」

「はい、今日あたりドリス様がお見えになるだろうと、オリヴァー様から伺っておりました」

「さっすがオリヴァー! そして夕食をちゃんと準備してくれてるジェームズもさすが!」


 オリヴァーが無言のままなので、このドリスと言う女性の話は振らない方がいいのかとも思ったが、紹介くらいはしてもらえないものかとタリアはオリヴァーを見た。


「あの、オリヴァーさん」

「あーー、こいつはドリス。物乞いの類だ」

「ちょっとオリヴァー! その紹介はひどいんじゃない?」

「物乞いじゃなきゃなんだ。いつもいつも食事時に現れやがって」

「だってジェームズのご飯が美味しすぎるんだもん!」


 ジェームズは恐れ入ります、とだけ言って、テーブルの中心に白いパンを置いた後、三人の前に前菜を配る。

 王城での食事は三食共に豪華なコース料理。前菜に始まり、魚料理が三品と肉料理が三品。食べきれない量を提供される。それを少ししか食べない。

 しかしオリヴァー邸では適度な量が提供されるようで、タリアは少し安心した。


「キミがタリアちゃんだね。噂通りホント可愛い!」

(噂ってなに……)


 まじまじと顔を凝視されていることに困りつつ、その噂について問えば使用人にもタリアの事情を聞かれることになると思い、口にしないでおく。


「アタシはドリス。一応、防御系魔法研究所の所長。ドリーって呼んで?」

「はい。タリアです。よろしくお願いします」

「いやね、もっと早く会いたかったんだけど、ほらギル君が養成学校に入ったって聞いて見に行ってたら面白くなっちゃって」

「ギルはどうだった?」

「いいね。教えたことどんどん吸収するし、一年後には聖騎士養成学校間違いなし!」

「ま、二種持ちだし、当然だろ」

(ギル、頑張ってるんだ。それに聖騎士養成学校だって……エリートコースまっしぐらじゃん)


 どこか自慢げなオリヴァーと、ギルバートを褒めちぎるドリスを見て、タリアもどこか嬉しくなる。


「あの、お二人のご関係を聞いても構いませんか?」


 ドリスがオリヴァーの妻ではないことは、会話の内容で察していたタリア。

 しかしオリヴァーには物乞いの類だと紹介された。幾度となくジェームズの料理を食べるために来訪しているのはわかった。ギルバートの話が出るまでのオリヴァーの様子を見る限りでは、ドリスの一方的な来訪に迷惑しているようにさえ思えた。


「オリヴァーはね、私の研究対象だったの」

「実験道具の間違いだろ。くだらない実験で危ないことばっかりさせやがって」

「なによ。その実験のおかげで聖騎士長にまでなれたんじゃない」

「実力だ。お前のお陰なんかじゃない。絶対にな!」


 どうやらオリヴァーはドリスに何度も酷い目に遭わされてきたらしく、言葉は多少汚いが紳士風の落ち着いた表情や立ち居振る舞いをどこかに忘れ、嫌悪感を態度に表していた。


「お二人とも、仲がいいんですね」

「でしょー?」

「良いわけあるか!」


 意外にも子供っぽい内面を見せてくれたオリヴァーに嬉しくなり、タリアはふふっと声を出して笑った。


「ドリー、お前も役に立つんだな」

「どう言う意味よ」

「タリアの緊張が少し解れた」

「そう?」

「タリア、今日初めて笑ったの、気づいてなかっただろ」

「……そう言われてみれば」

「初日だから緊張してるんだと思って様子を見てたが、安心した。すぐには慣れないだろうが、自分の家だと思ってくれていい。気遣いなんていらないからな」


 優しい言葉にタリアは自分でも気づかないところで緊張していたことを知り、優しい眼差しにホッとした。


「オリヴァーさん、私を引き受けてくれて本当にありがとうございました」

「だから、気を使うなって」

「……はい」

「よーし、タリアちゃんの緊張も解れたことだし食べよう! ジェームズの料理、本当に美味しいから遠慮しないで食べな!」

「お前が言うなっ」

(こんなに楽しい食卓は久しぶりだ)


 王城で一人静かに黙々と食べるしかできなかったタリアには、会話のある食卓は本当に有難いものだった。

 その上、ダイニングの近くに台所があるせいか、料理が温かい。王城では運ばれてくるまでに冷めきってしまった料理ばかりを口にしていたから、温かい料理を口にするだけでも嬉しかった。

 そして何より、ドリスの言った通りジェームズの料理の腕は確かで、王城で食べた食事より美味しくて幸福感に満たされた。






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