聖痕の乙女 第10話
盛り込みすぎて文量が多くなってます(15000文字超え)
「それではこれより、薬酒と疲労回復魔法を合わせての実験の第一回目を始めます!」
「……元気だな」
「えー、なぜ疲労回復魔法かと言いますと、薬酒が治療目的で作られたものであること、ウィルが常に疲労困憊であるために効果の実感が得られやすいからです!」
「……もう、飲んでいいか?」
「あ、極度にお酒に弱いとかはないですか?」
「いくら飲んでも酔わない」
「じゃ、飲んでいいですよー」
昨夜、龍脈が他の魔法の影響を受けないという事実を確かめ、先程、龍脈の小瓶に入れた薬酒に疲労回復魔法が付加されたことも確認出来た。
この二ヶ月、出口の見えない調べ物ばかりの日々。そんな日々からの解放に、タリアは嬉しさでいっぱいだった。
ウィリアムは作業台の前に座り、その後ろにタリアが座り、背中に触れながら魔力を視る。
「おっ、もう一部の疲労回復魔法が散らばり始めました!」
「体の変化は特にない」
タリアの実況を聞きながら、ウィリアムは体に起こる変化を記録する。
ウィリアムの体内に入った疲労回復魔法が大きな変化を見せたのは十五分後だった。
「完全に身体中にに行き渡ったみたいです」
「こっちは変化あったかわからないな。疲労回復を体感するって実は難しいんじゃないか?」
「……確かに」
疲労は「疲れた」とか「しんどい」などの自覚症状があればわかりやすいが、逆に回復した時の自覚症状はなんだろうかと、二人は考える。
すっきりした。何を基準にすっきりなのか。
例えば、訓練や戦いの後に疲労回復を行えば実感は得られやすい。
しかし日常において蓄積された疲労は、どんな自覚症状を持って回復したと言えるのか。
「目覚めがいいとか?」
「明日にならないとわからないな」
「昼寝してみましょうか」
「今は眠くない」
タリアは唸りながらも魔力を視続けている。
疲労回復魔法の粒子は全身を循環し、目測ではあるが普通に疲労回復魔法を使った時と同じくらいの量もある。
「そもそも、疲労回復魔法を使った後の体の変化なんて気にしたことなかったな」
「私も。試す魔法の選択肢を間違えましたね」
「うーん……間違ったとは言い切れない。やっぱり、一番に試すべきは回復系だと思うし」
特殊魔法の適正者の数が一番少ない回復系魔法。その数を補うことが最優先であることは間違い無いのだが、怪我人を実験台にするわけにもいかない。実験のためにわざわざ怪我をするのも、初回でやるべきでは無いと判断した。
目を閉じたままのタリアは動くことが難しいが、ウィリアムはただじっと観察されている時間が惜しい。
何時間もその場から動けない可能性も考慮して、作業台の上には三十本の小瓶のストックと、ウィリアムの持ち込んだ仕事の資料が山になっていた。
ウィリアムはまず、龍脈の小瓶に薬酒を移し替える。
普通の瓶で二ヶ月保つという薬酒が、龍脈の小瓶だとどのくらい保つのかを確認するため。
そこに特殊魔法を付加して、魔力を保っていられるのかも観察するため。
今後の実験のため。
使用目的はなんであれ、龍脈の小瓶と薬酒を使った実験は今後何度も行うことになるので、いくつあっても多すぎることはない。
「そういえば……楽器、増やしたんだな」
「……ええ。色々と事情が」
ただ黙って作業をするのもつまらない。魔力の観察も変化があるまで待機に近い。
(会話はありがたいけど、その話かー)
眠ったことで忘れていた楽器問題を思い出し、タリアの心は一気に重くなった。
「どれも良い品ばかりに見えた」
「全部貰い物です。弾けないんですけど」
これまでの経緯を話すと、ウィリアムの体が小刻みに揺れた。声には出さなかったが、笑ったのだ。
「まー、人に聴かせたくない気持ちはわかる」
「ウィルも何か楽器を?」
「一通り、嗜む程度には。基本くらいなら教えようか」
ウィリアムは貴族の生まれ。幼い頃から英才教育を受けていたため、十三歳までに色々と叩き込まれていた。
「誰かに教わりたいのは山々ですが、ウィルは遠慮しておきます」
「なんで」
「いつだって忙しいでしょう。床で寝るくらい、寝る間も惜しんで色々やってるみたいだし」
ウィリアムが度々研究室の床で寝ているので、理由を聞いたことがあったタリアは少々驚いた。
ベッドで眠ると寝すぎてしまうので、あえて仕事の合間に床で寝ているとういうのだ。寝にくいため、寝過ぎないという理由で。
そこまでして時間を惜しんでいる人に、楽器を教えてもらうための時間を割いてほしいなどと言えるわけがなかった。
「気遣いは有難い。わざわざ時間を取るのではなく、研究の合間にならいいかな、と」
初日の今日、タリアは魔力の変化を視るため動けない。
しかし、疲労回復魔法がどのくらいの時間で消えるのかを把握できれば、ずっと視る必要はなくなる。
「自分で始めた研究なのに、タリアの力に頼りっぱなしで……何か、タリアの力になれればいいと思ってた」
「別に、私一人の力だけじゃないです。昨日の資料だって、ウィルじゃなかったら見つけられたかどうか」
「まー、やっと役目を果たせて安心はできた。それでも、今後もタリアなしじゃ何も進まないから」
液体に魔法をかける方法を探すのはウィリアム。小瓶の中身を考えるのはタリアと、役割を分担していた。
昨日、先に薬酒を持ってきたタリアに、ウィリアムは焦っていた。次は龍脈を調べると言ったタリアに、また焦った。
昨日、ウィリアムは資料を見つけたものの、それが本当に自分の求めているないようかどうかもわからずにいたのに、タリアは次の段階へと進もうとしていた。
もし、翻訳した資料が求めている内容ではなかった場合、調べ物は振り出しに戻ってしまう。
スタート地点から動けないウィリアムと、どんどん先に進んでいくタリアとの差が開いてしまうことに焦っていた。
翻訳中の資料が求めていた内容も含まれていたので、なんとか足並みを揃えることができて安心はしたが、この研究にはタリアの存在が不可欠なのに比べ、ウィリアムはいてもいなくてもいい存在と言える。
だからこそ、こうして何の見返りも求めず協力をしてくれているタリアの力になりたいと、ウィリアムは考えていたのだ。
「……リュートは弾けます?」
「随分と弾いてないけど触れば、基本くらいは思い出せると思う」
「なら、研究の合間に、少しだけ」
タリアはウィリアムの気持ちを汲み、申し出を受け入れることにした。
「ん?」
「どうかしました?」
「なんか……違う」
「違うって、何が?」
「体が……」
「何か変化が?」
実験開始から三十分が経過していた。
「これ、多分、すっきり、だ」
薬酒の移し替えはすでに終わり、ウィリアムは仕事の資料に目を通していた。
「いつもより効率がいい。頭が冴えてる感じがする。話しながらでもしっかり内容が入ってくるし」
「……それって、いつもぼんやりしてたってことじゃ」
「これが疲労のない状態なら、そういうことかも」
「疲労困憊なんだろうとは思ってましたけど、作業効率に影響が出てたんですね」
「……疲れてるなんて思ってなかったけど、疲れてたんだな」
聞けば、ウィリアムの夜の睡眠時間は約三時間だった。それと昼寝で三十分程度。
「少なすぎ!」
「死にやしない。もう四年はこんな生活だし、毎日これを飲めば平気だ」
(そりゃ、死にはしないかもしれないけど)
タリアの心配をよそに、ウィリアムは仕事が捗ってご満悦な様子。
(ま、いいか。数は少ないけど、短い睡眠時間でも効率の上がる人もいるし)
目を閉じたままのタリアにウィリアムの様子は見えていないが、それでも上機嫌なのだと察していた。
(ん? 毎日これを飲むって……あ、限界を知るのにちょうどいいかも)
ウィリアムが飲む分の薬酒にはタリアが疲労回復魔法をかけることになる。
タリアはこれまであまり特殊魔法を使わないようにしてきたため、自分の限界を知らないでいた。
一番魔法を使ったのは王都レオに入るまでの二週間。危険の伴う旅路だったし、特殊魔法を得たばかりのギルバートがいたので回復系魔法を酷使したが、魔力が枯渇することはなかった。
回復系魔法の適正者が治癒魔法を使えるのは三人から十人程度で、人数は使い手の持つ魔力の量で変わる。
タリアの場合、治癒魔法よりかなり強力な完全回復魔法を使っても、使いすぎて魔法が発動できないという状況には陥らず、どれだけの魔力を保持しているのか把握しようがなかった。
(小瓶を量産したら試させてもらおーっと)
まだ、龍脈の小瓶の数は限られている。当面の実験に事足りない程度しかないので、無駄遣いはできない。
またやってみたいことが増えたが、焦る必要はないと思い直した。
「あ……明日の実験、というか観察はどうします?」
「そうだなー……普通に疲労回復魔法かけて、どのくらい魔力が体内に残るか調べるってのは?」
「それにしましょう!」
疲れの取れ具合を比べるのは非常に困難なので、普通にかけた特殊魔法と、小瓶の魔力がどのくらい体内に残るのかを比較する。
今後、攻撃系魔法や防御系魔法でも実験する際には、魔力の体内保持時間の比較と、実際の効果の継続時間を比較することに決まった。
そして実験開始から四時間後、タリアはウィリアムの体内から疲労回復魔法の魔力が完全に消えたことを確認。
ずっと魔力を観察し続け疲れているだろうタリアを休ませたいと、ウィリアムは解散を提案した。
タリア自身、ずっと同じような体勢でい続けたことと、魔力の観察に集中していたために疲れていたこともあり、ティータイム前ではあったがその日は解散することになった。
そしてウィリアムは、夜に部屋に来ることになった。
リュートといっても物によって形も音も違うし、弦の本数も違う場合がある。教えられる代物であるかを先に確認したいということで。
タリアはそれに了承し、部屋に戻ってゆっくりと過ごすことにした。
部屋に戻るとフィオナが入手してくれたリュートの教本があり、夕食まで、それを見ながらリュートに触れた。
夕食後、お風呂に入ってからもリュートに触れてはみたものの、一筋縄ではいかないと実感。やはり誰かに教えてもらいながら学ぶのが一番楽で効率的だと再確認した。
そして夜が来た。約束通り、ウィリアムがタリアの部屋に来た。
「ウィル! とりあえず一曲何か弾いてください!」
ウィリアムの来訪を待ちに待っていたタリアは開口一番にウィリアムの実力披露を求めた。
「……いきなりですね」
タリアはウィリアムが来る前からリュートに触れ、音を出してみた。音は出る。しかし曲を奏でるとなると先は長い。
父マティアスが弾いてくれていたように弾きたい。今すぐに弾きこなすのは無理。だから弾けると言っていたウィリアムに弾いてもらおう。
そう思って待ち構えていた。
「ダメ、ですか?」
「私も人前で弾くのは苦手で」
「でも、教えてくれるのならウィルの演奏を聴くことになりますよ」
「教えるのが前提だし、弾くとしてもフレーズ毎にでしょ。タリアが一曲丸々聞き役に徹することはないかと」
「えーー! そんなーーー。可愛くおねだりしたら弾いてくれます?」
「こんな時ばかり? でも、そうだな……タリアが先に一曲弾いてくれるなら」
「うっ……」
「人前で弾くのが苦手なのはお互い様だ」
リュート片手ににっこり微笑むウィリアムと、悔しそうにウィリアムを見上げるタリア。
「で、どうする?」
ここで断れば、ウィリアムは一曲全部をタリアに披露してくれることはないだろう。
リュートを教えてくれる間は、弾いたとしても本当にワンフレーズだけになるだろう。
そう思ったタリアは悩む。
「先にタリアがアルフーであの曲を弾いてくれればいい」
「……あの曲って」
「確か、こんな感じの……」
ウィリアムがリュートで奏でたのは、前の世界でタリアが好きだったアニメの劇中歌。曖昧な記憶を頼りに音を探しながら繋げたそれらしき曲。
(ぐはっ……心がえぐられるっ……)
ワンフレーズだけではあったが、ウィリアムはリュートをきっちりと弾いてみせた。
しかもたった一度だけ耳にしただけのはずなのに、音階もリズムも完璧にタリアが弾いていた通りに。
(異世界の人にアニソンが広まるのは抵抗ありまくるんだけど……やっぱリュート、好きだなー)
タリアの父マティアスは楽器全般を扱えたけれど、好んで弾くのはアルフーとリュートだった。
両方とも持ち運びやすく、場所を選ばないから。という理由でよく弾いていたのかもしれないが、タリアはその二つの音色が一番好きだった。
どこか懐かしい気持ちになる。優しい気持ちになる。もっと聞きたくなる。タリアにとってはそんな音だったから。
タリアは心を決め、ケースにしまいこまれていたアルフーを取り出した。
「その気になったのなら、移動するか」
「移動って……」
ウィリアムは上を指差す。
「屋上での練習を再開するきっかけが欲しい、って言ってたし。いい機会だと思うけど?」
嫌だとは思った。その反面、ウィリアムの言う通りだとも思ったタリアは、無言のままに屋上へと続く階段へと向かう。
(多分、この機会を逃さない方がいい。問題を先送りにしても、いいことなんてない)
そう、自分に言い聞かせながら、階段を上る。
(あーー、緊張する……)
緊張するからと言って逃げ出してはだめだ。一度逃げたら、次に機会が来ても逃げてしまうかもしれない。
逃げるのは簡単だが、弾けもしない楽器が送られて来て、また悩む時間が増えるだけだ。
そんなことを考えながら、いつもの定位置に腰かけた。
元は要塞として機能していた旧王城。西の塔の最上部は狭間胸壁という凹凸のある背の低い壁になっていて、低い部分はタリアの胸の高さほど。踏み台を使ってそこに座り、目下に広がる篝火の灯る大庭園を見ながらアルフーを弾くのが楽しみだった。
(……やっぱり綺麗。この景色、本当に好きだ)
二ヶ月ぶりに腰かけて、改めてその場所が好きなのだと再認識したタリアは自然と動いていた。
(指が少し硬い。練習してないとダメだなー)
アルフーで弾いたのはあの曲だった。
恥ずかしさは消えていた。ウィリアムが視界に入らないせいもあるのだろう。
聴いてもらっている、という感覚はなく、いつも通り、好きなように弾いていた。
「そのまま、最初から繰り返して」
ウィリアムの声に我に返ったタリアは一瞬、演奏を止めそうにはなったが、そのまま弾き続ける。
踏み台を足掛かりに飛び上がったウィリアムが、タリアの隣の出っ張り部分に座り、リュートの音を出し始めた。
何をするつもりなのかとアルフーを弾き続けていると、二つの楽器の音が調和しだす。
(伴奏がついた……嘘でしょう?)
たった一度耳にした曲をリュートで再現させてみせたウィリアムは、二度目は聴くだけ。三度目には即興で伴奏をつけた。
(なにこれ……気持ちいい!)
タリアは変わらず自由に弾いている。それを上から見ながら、タリアの音に合わせて、息を合わせてウィリアムはリュートを奏でる。
それからタリアがどんなにアレンジを加えようとも、ウィリアムはそれに完璧に応えた。
(面白い! もっと……もっと……)
色々試してみたくなったタリアは曲を変えてみた。それでもウィリアムは合わせてくれるので、曲目を何度も変えた。
随分と時間が経ち、名残惜しいと思いながらもタリアは手を止めた。
キリがないと思ったし、忙しいウィリアムを引き止めるのも心苦しくなったからだ。
「最後はウィルだけで」
タリアの声に、ウィリアムは小さく頷いて最後の曲を弾き始めた。
(ロープレのサントラっぽい……この景色に合いすぎるっ)
タリアの知らない曲ではあったが、華やかでもあり、儚げでもあるリュートの音色によく合う曲だった。
(嗜む程度、なんて嘘。父様ほどじゃないけど、すっごく上手いもん)
壁に寄りかかり、タリアは目を閉じた。リュートの奏でる音で音楽を聴きたいと切望していた。それが叶い、その音を堪能したくて。
リュートの音が止んでも、タリアは動かなかった。余韻を楽しみながら、大庭園に灯る篝火を見つめていた。
「そろそろ中に戻ろう」
「うん……もう少し……先に帰っていいですよ?」
「そんな寂しいこと言わない」
座っていた場所から飛び降りたウィリアムは音も立てずに着地。タリアに向けて手を差し出した。
「名残惜しいのは私も同じ……今、ベッドに入ったらとてもいい気分で眠れそうだろ?」
(……確かに)
差し出された手を取ると、それを待っていたウィリアムはタリアの手を引いた。
急に引っ張られ、着地の態勢も取れていなかったタリアは地面に向かって落ちる。
それをしっかりと受け止めたウィリアムはタリアを優しく抱きしめていた。
「演奏がこんなに楽しいなんて、初めて知った」
「そう、ですか」
「タリア……」
「はい」
「……いや、なんでもない。それじゃ、私はこれで」
タリアから離れたウィリアムは優しい笑みを浮かべ、方向を変えてすぐに壁に飛び乗り、そのまま消えた。というか、飛び降りた。
「…………は?」
ここは屋上、タリアの部屋は三階から少し階段を上った先の中三階とも言える階層にあり、ここはその上。
ウィリアムの消えた壁に飛びついたタリアは身を乗り出して下を覗いたが、ウィリアムの姿は見えなかった。一階の大広間の灯りがあるので、しっかりと地面は見えている。
「なんて超人……って、忘れてたけど、あの人、聖騎士だったっけ」
攻撃系魔法と防御系魔法を使えば、この高さから飛び降りても平気なのかもしれない。
聖騎士の訓練を見て、その身体能力の高さを知っているタリアは心配するのをやめた。
「はー、いい夜だった! 癒された! リュートいいわ! あれを弾きこなせるようになったら楽しいだろうなー」
タリアは上機嫌でアルフーとリュートを持ち、部屋に戻る。
大切な物なのでしっかりとしまって、それからベッドに入った。
この時すでに、タリアの脳内からはウィリアムに抱きしめられたことは消去され、アルフーとリュートの音の余韻に浸りながら気持ちの良い眠りについた。
※ ※
翌朝。
フィオナが来る前に気持ちの良い目覚めを迎えたタリアは顔を洗いながら、フィオナが来たら昨夜アルフーの練習を再開した話題が出るだろうと予測していた。
その日は聖騎士団の駐屯所に行って訓練に混ぜてもらう日。他の日ならば朝食前の一時間を体力作りに充てるのだが、訓練に混ぜてもらう日ならば朝食までゆっくり過ごし、午前中は駐屯所にいる。
しかし、いつもの時間になってもフィオナが現れない。そんなことはこの二ヶ月で初めてだったので、一時間ほど待ってフィオナの部屋に行ってみることにした。
もし熱でも出して寝込んでいたら大変だと思ったのだ。
そして部屋を出ようとした時、バスケットを持ったフィオナが現れた。
「ご心配をおかけしたようで申し訳ありません」
朝食を部屋で食べられるようにと準備をしていたので、いつもより遅くなったと説明したフィオナだったが、部屋の中を見渡して「その必要はなかったのかも」と呟いた。
「フィオナさん?」
いつもとは違うフィオナの行動に疑問を投げかけたタリアに、フィオナは困ったように微笑を浮かべる。
「申し訳ありません。早とちりだったようです。昨夜、ここに第二王子様がいらしたのかと」
「第二王子が? なんで?」
「昨晩はタリア様のアルフーと、別の楽器の音も一緒に……」
「あっ……」
「もし朝までご一緒でしたら、タリア様にはしばらくベッドで休んでいていただこうかと」
「いや、そ、それは……だい、じょうぶですっ。うんっ、それは、大丈夫……」
最近のタリアはウィリアムの研究の事ばかりで頭がいっぱいで、この西の塔に移住して来た目的と意味を失念していたが、タリアは第二王子の婚約者として王城に住むことになったのだ。
そんなタリアの部屋に、夜、侍女であるフィオナが部屋に戻ってから、つまりタリアが一人になる時間に誰かが来訪した。演奏が聴こえていたので、二人きりでいたことは明白。
アルフーを教える前に現物を確認しに来ただけのウィリアムに演奏を頼んだことから、流れで一緒に演奏をした。という事情は当人にしかわからない。
だから当人以外は、タリアの婚約者である第二王子が人目を忍んで来訪した。と、勘違いをしてもおかしくない状況だった。
(やばいなー。軽率だった。ここに来て第二王子と一切関わってないから忘れてたけど……一応は婚約者なんだし、気をつけなきゃいけなかったんだ)
夜に第二王子以外の異性を部屋に招き入れるということ自体が軽率だったと、タリアは猛省する。
(誰かを部屋に入れたってことだけで、異性か同性かはわからないはずだけど……西の塔の人たちは第二王子が来たと思っているわけで……結構、まずいかも)
少なからず、タリアの部屋に誰かが来ていたことは噂になる。その噂の根源となる人たちも、フィオナと同じ勘違いをしている可能性が高い。
そうなると、第二王子かその周囲に噂が伝わった時、第二王子は「自分以外の誰か、別の男を連れ込んでいた」と思う可能性が高い。
第二王子もタリアを形式上の婚約者と見ているので、別の男を連れ込んだと思っても気にしないかもしれない。しかし、形式上とはいえ、仮にも婚約者が別の男を連れ込むなどあり得ないと騒ぎ立てる可能性もある。
タリアは婚約が破棄になっても一向に構わないが、オリヴァーの顔に泥を塗ることはしたくない。しかもオリヴァー不在の間に自分が起こした問題で。
(第二王子に直接弁明した方がいいのかな……でも、どうやって会うのか分かんないし、できれば会いたくない)
タリアはしばらく悩んだ後、少し様子を見ることにした。
もし、第二王子から苦情が来たら弁明すればいいし、第二王子から何も言われなければ「タリアが何をしようが興味がない」ということで弁明もする必要がないだろう、と。
フィオナが用意してくれた朝食を部屋で食べ、いつもと同じ時間に聖騎士の駐屯所に向かう。
「タリア……今日は来ないかと思ってましたよ」
すでに、第二王子とタリアの逢瀬の噂は聖騎士団にも伝わっていた。男女が密かに会うのが逢瀬だが、密かに会っていたという噂が瞬時に広まっていたらしい。
それだけ、第二王子が婚約者を迎えたという事の大きさを物語っている。
「しかし、ちょうど良かったです。リアムが怪我を」
「えっ、ユーゴでも治せないくらいの怪我なんですか?」
「さっき、ウィリアム副団長と手合わせした際に、ちょっと」
(ウィル、来てたんだ。めずらしっ)
駐屯所に来て真っ先に訓練場へ行ったタリアだったが、ユーゴに連れられ、そのまま医務室へと向かう。
医務室には足を骨折したと思われるリアムがベッドに横になっていて、タリアを見て罰が悪そうに顔を背けた。
「あははっ、タリア、気を悪くしないでくださいね? 今朝、タリアの噂を聞いて……とうとうタリアがほかの男性のものになってしまったって少しショックで。手合わせ中に耳にしたものだから、気を取られて怪我をして」
タリアを見て顔を背けた理由についてリアムに変わって説明をするユーゴも、タリアの噂にショックを受けていた。
「その噂、実は……」
二人には話してもいいだろうと、タリアは事情を説明する。
「ああ、そういうことでしたか。どうりで……副団長、珍しく力加減を間違えたって言ってましたし」
タリアの噂を耳にした際、リアムはウィリアムと手合わせ中。リアムはその噂に気を取られて一瞬ではあったが上の空になり、ウィリアムはその噂が実は第二王子ではなく自分であると知っていたので驚き、手加減を誤った。
「なんか……リアムは私のせいで怪我をさせてばかりですね」
「タリアの前では格好いい兄でありたいんですけどねー」
「そこまで代弁しなくていい」
「しかし、こう言ってはなんですが……安心しました」
噂通り、タリアが第二王子と一晩を過ごした。という事実がなかったと知ったリアムとユーゴは、心底安心していた。
妹が婚約して、いつ男女の仲になってもおかしくはないと理解しつつ、その日が来ることを恐れてもいたと話す。まだ妹になって一年とはいえ、可愛くて仕方のない妹がほかの男のものになるとは考えたくなかったと。
二人に可愛くて仕方の無い大切な妹だと言われ、くすぐったそうに笑うタリアは、二人の想いに幸せを感じていた。
ただ、やはり第二王子以外の男性を部屋に招き入れるのはどうか、という注意も受け、タリアは「二度としない」と二人に誓った。
聖騎士団駐屯所での訓練を終えたタリアは一度自室に戻り、風呂で汗を流してから昼食を。
その後、ウィリアムの研究室に向かった。
先日、勢いよく開けた扉の先にウィリアムがいた一件があったので、ノックをしてからそっと扉を開ける。
扉付近にウィリアムの姿がないことを確認してから入室。見回すと、ウィリアムはソファーで寝ていた。
その手にはしっかりとなにかの資料が握られていて、資料を確認中に眠ってしまったのだと思われる。
静かにウィリアムに近づいたタリアは、そっとウィリアムの頭に手を延ばした。
(特殊魔法が少ない……使いすぎたのかな)
その日は疲労回復魔法をかけた薬酒と、ただの疲労回復魔法を比較して魔力を観察すると決めていたため、ウィリアムが寝ていても構わず、タリアは魔法をかけてみることにした。
その前に試したいことがあった。
ソファーで寝ているウィリアムの左足はソファーから落ちている。タリアは床に座り、ウィリアムの左足に寄りかかった。
(うん、思った通り……)
タリアが魔力を視る時、対象のものに触れて目を閉じると魔力が視える。
目を閉じて視る。つまり、目ではない『なにか』で視ているということで、対象にさえ触れていれば、対象を正面で視る必要はないのかもしれないと考えたのだ。
いま、確かめたのは背中で触れている状態でも視えるのか、ということ。
タリアの仮説は正しく、触れているのは背中であっても、まるで正面にウィリアムがいるかのように魔力の流れが視えた。
魔力を視るのに必要なのは、触れている対象の魔力を視る、という意識だけ。どこに触れようが、どんな態勢でいようが、その意識さえしっかりあれば観察は出来る。ということだった。
(よし、これで観察が少し楽になるぞ!)
タリアは時計とクッションを持ってきて床に置き、先ほどのようにウィリアムの左足に寄りかかって魔力を観察。時々目を開けて時間を確認した。
疲労回復魔法をかけて観察しようとも思ったが、寝ているウィリアムに体感の記録はできないと諦め、寝ているウィリアムの魔力をただ観察してみることにした。
それからしばらくすると、生活魔法の白い魔力が少しだけ変化。頭の魔力循環の速さが増した。
「んっ……タリア、そんなとこでなにしてる」
「寝ている人の魔力を視る実験してました」
「へー。その態勢で?」
「はい。この姿勢でも魔力が視えることがわかったし、寝ている人が起きる時の魔力の流れも確認できました。このまま疲労回復魔法をかけてみても?」
「どうぞ」
このままの態勢で観察ができるなら、と、ウィリアムは手に持ったままだった資料の続きを読み始めた。
「わっ、一瞬で全身に広がった!」
「速いな」
「なにか、体に変化は?」
「まだ、なにも」
タリアは寄りかかっていたウィリアムの足に手を載せて疲労回復魔法をかけた。
疲労回復魔法をかけた薬酒を飲んだ場合、魔力が全身に広がるまでに十五分かかっているのに比べ、直接疲労回復をかけると一瞬で全身に広がった。
部屋にはウィリアムが資料をめくる音しかなかったが、少ししてその音も止む。
「まだ五分か」
資料から時計に目を移したウィリアムが動いた。左足の位置を出来るだけ変えないように気を付けながら起き上がった。
「いい感じだ。かなりすっきりしてる。どうしようもなく疲れてたのに、それが一切なくなった」
「そんなに疲れてたんですか? 昨日も疲労回復試してたのに」
「疲れてる方がいいかと、寝ずに運動し続けてみた」
「……なるほど。昨日より特殊魔法の魔力がかなり少なかったのはそういう理由でしたか」
「で、そっちは?」
「直接魔法をかけた方が早いです、確実に……うわっ!」
「そのまま、魔力視てていい」
「な、なに?」
「移動させるだけだ。ずっと床にいるよりいいだろ」
クッションに座り、ウィリアムの足に寄りかかり、膝を立ててリラックスした状態だったタリア。
そのままの態勢を維持させて抱きかかえたウィリアムは、タリアをソファーの上に置いた。
二人は密着した状態でソファーに座っていて、タリアの肩にはウィリアムの腕が載っている。
「……これはっ!」
タリアは目を閉じて魔力を視つつ、ウィリアムの左足を持ち上げる。踵をソファーに載せさせて膝を折らせると、ウィリアムの太ももに背中を預け、膝を肘掛にした。
「うん、気に入った!」
ソファーの上に両足を投げ出し、肘掛のある背もたれもある。よりリラックスした態勢で魔力の観察が続けられることに、タリアはご満悦だった。
「私を……座椅子代わりに……」
「ウィルのお陰で、床よりとても快適です」
「……それは良かった」
タリアの行動に呆れたウィリアムだったが、ソファーに移動させたのは自分。タリアの呆れた行動の原因を作ったのは自分だったと思い直し、文句を言いたい気持ちを堪えた。
実験開始から三十分後。
完全にウィリアムに体を預けていたタリアが自立して座り直した。体は完全にウィリアムから離れている。
「実験終了、か?」
「はい。やっぱり直接魔法をかけると早いですね」
「そうみたいだ。多少効き始める時間に差はあっても、効果は変わらない。十分な成果だな」
タリアは疲労回復魔法の魔力の粒子が消えたので、魔力を視ることをやめた。
昨日と今日の疲れ具合を比較することはできなくても、きちんと疲れが取れたという実感が得られているので、昨日も今日も疲労回復の効果はあったと言える。
直接魔法をかければ五分後には疲労回復を実感。龍脈の小瓶の薬酒に魔法をかけ、それを飲用すれば三十分で疲労回復を実感。ウィリアムでしか試していないので、効き始めには個人差はあるだろう。それは追い追い実験で確かめていくことにする。
「次は回復魔法、試したいです」
「そうだな……あ、今朝怪我させた人が」
「リアム? それなら今朝、完全治癒魔法かけたから明日には完治しますよ? って……リアムで試せばよかったのか!」
「……リアムの怪我、知ってたのか」
「あーー、はい。怪我の経緯も」
「って、明日には完治するって言ったか?」
「……はい。綺麗にポッキリ折れてたみたいなので、そのくらいかと」
タリアの完全治癒魔法、そんな治癒魔法をタリアが使えるとウィリアムは知っていた。タリアが王都レオに来た直後のオリヴァーの報告書と、その後の検査の報告書には目を通していたから。
しかし、タリアの魔力を視る目と同様に半信半疑だった。治癒魔法でさえ骨折の治療に数週間かかるのに、タリアは一日で治せるなど不可能、もしくは実は骨折を治したのではなく、打撲程度だったのではないかと思っていた。
けれど今回はリアムに怪我をさせたのはウィリアムで、手加減を誤り攻撃した際に骨折させた自覚があった。その上、骨折したと思われる足も見ている。
そんなリアムの足が明日になって治っていたのなら、タリアの完全完治魔法が報告書通りであると目の当たりにすることとなる。
「本当に、たった一日で」
「実際にどのくらい時間がかかっているかはわかりませんけど、寝て起きらた元通りっぽかったです」
「……タリアの力も検証の余地が大いにありそうだな」
「この研究のついでに色々と試させてもらおうと思ってました」
ウィリアムにとってタリアは研究に不可欠な存在ではあったが、魔力を視る目以外は防御系魔法と回復系魔法の二種持ちという認識をしていた。
この二ヶ月でタリアが事実を大げさに話す性格ではないと理解し、二ヶ月経った今、タリアの口から完全防御魔法の存在を耳にしたことで、ウィリアムはやっと、タリアの力が他者とは違うものなのだと実感した。
タリアはウィリアムに聞かれるまま、自分の力について話す。
完全回復魔法で骨折程度なら一日程度で治してきたこと。ドリスの治療さえも出来たこと。
完全防御魔法はリアムで試し、リアムの体感では十分程度、どんな攻撃でも完全にダメージを受けなかったこと。
どれだけの魔力を保持しているのかも把握できていないこと。
タリアが自分の魔力を視られないことはウィリアムも知っているが、自分自身に特殊魔法を使えないことも話した。
「真逆だ……」
「ウィル?」
ウィリアムの呟きに、タリアは首を傾げる。何が真逆なのかと。
「私の場合、魔力の量は人よりも多い。しかし、自分にしか使えない」
防御系魔法は基本、自分にも他者にも使うことができる。防御したり、衝撃を吸収したりを対象の全体にかけるという特性があるためだ。
しかしウィリアムにはそれができないという。
「どれだけ私に魔力が余っていても、ほかの誰にも使えない……それをどうにかしたくて」
自分の手に視線を落としたウィリアムは、なにかを思い出すように黙り込んだ。
その無言がどんな意味を持っているのか、なんとなくではあったが察したタリアもしばらく口を閉じる。
ウィリアムが思い出しているのは、自分の無力さ。他国の戦争に赴き、仲間に特殊魔法を使えないことでなにか悲しい出来事に見舞われたのだろうと。
自分の特殊魔法を誰かに付与することはできなくても、特殊魔法を持ち歩けるのなら解決する。そう考えて、研究を始めたに違いない、と。
(ウィルって攻撃系魔法しか見せてこなかった。防御系魔法じゃ試せないってことだったんだ)
初めて龍脈の小瓶を見た日、ウィリアムは攻撃系魔法を付加したした水を小瓶に入れた。
龍脈の性質上、他の魔力の影響を受けないと証明した時も、攻撃系魔法を使った。
それは攻撃系魔法に、魔力を放出して対象物を操るという性質があるからだ。
ウィリアムは防御系魔法を他者に使うことができない。この実験においては龍脈の小瓶内の薬酒にも防御系魔法は付加出来ないという可能性も示唆していた。
短く息を吐き出したウィリアムが視線をあげてタリアを見る。
「その、完全防御魔法と完全治癒魔法は、実験するとしたら聖騎士団内のみにした方がいいだろう」
「はい。オリヴァーさんからも、そう言われてます」
「ただ、もしもの時のため、小瓶に入れての研究と観察はした方がいいと思う」
タリアにしか使えない完全防御魔法と完全治癒魔法。それも小瓶に入れて保存できるのなら、この先、大量生産して使うことも可能になる。
特に完全治癒魔法を大量に生産できるのであれば、出所を明かさないようにして一般の人に使うことも可能になるだろう。
そんな可能性も考慮して研究はするべきで、その実験体には聖騎士団を使うことになった。
頻繁ではないが、任務に出て怪我をして帰ってきたり、訓練中に怪我をすることは避けられないので。
タリアは長期観察用の棚に完全回復魔法と完全防御魔法をかけた小瓶を加えた。
すでに、タリアが使える一般的な回復魔法と疲労回復魔法、一般的な防御魔法と衝撃吸収魔法をかけた小瓶は作ってあった。
その中の魔力がどれだけ保たれるのかを観察するための棚を用意してあったのだ。
「攻撃系魔法を付加する方法も考えないといけませんね」
「そうなんだが……難しいと思う。放出して操るのも、筋力強化も、障壁も、意思が通う範囲に限るってものだし」
「意思が通う範囲、かー。飲み薬だと全身に魔力が分散されちゃっいますもんね」
「試すだけ試すか。タリア、私の魔力の変化を視てくれないか?」
試しに、ウィリアムは小瓶に全身の攻撃系魔法の身体強化魔法を付与。その様子をタリアが観察する。
「……ウィルの全身にかかっちゃいました」
タリアに報告を受けなくても、小瓶にかけたかった魔法が自分にかかったことをウィリアムは実感していた。
ウィリアムは他者だけではなく、龍脈の小瓶にも魔法がかけられないことが発覚した。
「明日、リアムにかけてもらう。怪我の様子も見たい」
「今後も協力を要請することが多くなりそうですね」
「そうだな。タリアの事情も知ってるし」
聖騎士団になにかとお世話になっているタリアだったが、魔力を視る目に関しては秘密にしている。
そのことを知っているのはウィリアムと、リアムとユーゴの三人のみ。
研究を進める上で、ウィリアムが出来ないと判明した魔法付与は研究に不可欠。攻撃系魔法に関してはリアムに付与してもらうのが一番だろう。
「小瓶での完全治癒魔法も、観察したいしリアムかユーゴのどちらかが怪我した時、って限定した方が良さそうですね」
「そうだった……機会が激減するな」
「何もさせてもらえなかった今までよりはマシです。そうだ! もう一人、協力者にしたい人が!」
「聖騎士でか?」
「いえ、サンドラさんです。この薬酒を作った人」
タリアはサンドラに全てを話し、協力を要請したいと考えてはいたが、タリアに魔力が視えることも話さなければどんな研究をしているのかを詳しく話せない。
タリア自身のことを話してもいいのか判断に困ったため、前回は話していないができることなら話したいと思った。
しかし、その判断はウィリアムが下すことのできないもの。サンドラ自身が研究に不可欠な存在かを考えると、現状ではサンドラの薬酒こそが重要で、サンドラ自身は加えなくても研究はできる。
と、いうことで、サンドラには何も話さないでおくことになった。
この日の目的であった直接疲労魔法をかけて観察することは終了したので、ティータイムを挟んで夕方まで今後の研究内容について話し合った。
まず、明日からは攻撃系魔法と防御系魔法を。リアムとユーゴのどちらかが怪我をしたという報告が入り次第、治癒系魔法を試す。
どの特殊魔法を試すにしても、直接魔法をかける方法と龍脈の小瓶の薬酒にかける方法とを比較する。
龍脈の小瓶の薬酒を複数本飲んだ場合の効果の違いなども調べることにした。
第10話 完




