スッパと俺は主従関係だが、コイツ一体何者なの?ホモなの?俺は大丈夫なの?
少しだけ改変しました。ま、小変更なので判らないとは思いますが……。
「はるかはるか昔、人類は宇宙に種を撒きました。」
「それは自己増殖電脳核搭載型惑星探索アンドロイド。」
「自らの判断で増殖、探索をし、いずれ宇宙に出る人類を待つ防人。」
「彼らは、お互いの存在には無干渉でいましたが、」
「乏しい資源、限りある情報の共有不可、そうした結果、」
「出会えた者達に待っていたのは、激しい生存競争理念。つまり、」
「共食いでした。」
「出会った時に相手より劣る知性体は吸収消化され、強い知性体に新たな進化を促す。」
「そうして真空の母なる海の宇宙で、お互いを飲み込みながら拡がって行きました。」
「その後、そうした知性体は二つの勢力を形成したのです。」
「一つはいずれ地球に戻り、人類と共存の道を歩む。我々のように。」
「そしてもう一つは、」
「それまで同様、強者適存の理念を求め、人類すら吸収しようとする者ども。」
「人類にとって幸運なことに、我々共存派が先に接触出来ました。」
「いずれ殺到する吸収派よりも、先に。」
「我々は人類に溶け込む為に、様々な手段を用い、種としての人類保護と共に融和を計って参りました。」
「宇宙空間に於いての戦争回避。」
「セクサロイドとしての柔軟な接触干渉。」
「現在まで、目的は良好な方向に進んでいます。」
「今回の婚礼挙式は、その接触干渉の一つの分岐点。いや、」
「人類と我々地球由来の増殖電脳知性体との、新しいゆりかごの始まり。」
「その、第一歩なのです。」
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うぅ。
重い。
ただ、童貞捨てに宇宙に出たつもりが、とんでもないビックリ責任じゃん。
耳骨マイクから直接脳に電気信号として入力された略歴。
一体どんだけ宇宙で殖えたり食ったりしながら自己増殖と進化繰り返してきたんだよ、お前らは。
「旦那様、わたくしスッパは、あなた様とつきみ様をエスコートする接触端子。」
「とりあえずセクシャルドロイド社の設計コンピュータを介して様々な干渉をして参りました。」
はぁ、そうだったのね。じゃ、あのビンゴの結果もお前のやり方でどーにでもなったじゃん!
「たまにはツヤツヤテカテカもいいかなぁ、なんて?」
よくねーよ!お前がツヤツヤテカテカで誰得なんだよ!
「現在、相手の吸収派はまだ強い干渉力を持っていません。」
あ、お前今華麗にスルーしたろ?したろ?なぁなぁちょっと
「ですので、私一体でも充分対処出来る規模だと、推測されます。」
無視かい。あーそーかい。判った判ったそうですか。
「ちなみに、敵は火星地表自治体の陸戦ユニットをハッキングして、小規模ながら武装ユニットを用いて何らかの干渉を試みるようです。」
はぁーーー!?それって、セクシャルドロイド社ごときで何とかなるの!?
「ま、それは無理でしょう。」
うわぁ、簡単に否定しやがったよ。スッパ!今お前、一体で何とかかんとか言ってたじゃないか!!
「えぇ、ですから、準備の為に軌道エレベータで大気圏外に戻り、適切なユニット交換をしておりました。」
お前、だからずーっと居なかったんかい!!てっきり男漁りしてたのかと。
「御心配要りません旦那様。それは既に終了事案です。」
心配してねーし!もう済ませたって聞きたくなかったし!
「それではただ今からそちらに向かいますので、しばらくお待ちくださいませ。」
そこでプツッと音がして、通信は終了したみたいだった。
スッパよぅ、つきみ、綺麗だよ?
お前にも早く見せたいから、はよこいや。
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火星大気圏外に、巨大な航宙構造体が近付く。
外観は光を吸収する黒。
マーキングの類は全くなく、窓も何もない。
ただ、その一部にはリボルバー構造の外部ユニットが突き出している。
《船体外部構造回転》
《内部シリンダ交換》
《射出準備開始シーケンス始動》
単純な指令の集合が束になり、船体に走る。
回転するリボルバー構造が止まり、帯電した射出口から火星大気圏へ落ちていく。
それは、船体同様の、黒い構造体だった。
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前略、俺です。
つきみはとっても綺麗です。
ルナは長いドレスの裾を笑顔で持っています。
俺、どうすりゃいいのか?
「旦那様、とりあえず指輪交換と誓いのキスは済ませておいてください。」
スッパ!お前今どこだよ!
「そのうち有視界距離に入りますが、たぶんその前に敵が先に到達すると予測されます。」
うわ!落ち着いてっけど、俺指輪とハンカチ位しか持っていません!!
「えぇ。旦那様の仕事は式を順調に、滞ることなく終わらせることです。」
責任重大じゃん!!
「…………ご主人様、つきみ、参りましたわ!」
ルナ、お前このこと知ってたの!?
「えぇ、今朝姉様から伺いました。」
じゃ、あらかたのこと知らなかったのは、俺だけかい……………。
はぁ。どーにでもなれ。
俺は、手の届く距離に来たつきみの手を持った。
細くて小さな、つきみの手。
ベール越しにうっすら見えるつきみの顔は、見慣れてる筈なのに、
やっぱ、くっそ可愛いぃ。
柔かな頬には薄く、ほんと薄目のチークだけ。それと見慣れた唇には紅い口紅。いつもは天然色のピンクだけど、たまにこうして化粧すると元が元だけに……引き立つと言うか、倍増しになると言うか……とにかく、破壊力が増し増しだ……。
会場に響く司会進行の声を聞きながら、えーと、これだ。
指輪をつきみの左手薬指に、すっと着けた。
「それでは、これから誓いの………」
なんか言ってやがる。よく聞こえない。何だ?この地鳴り。
とにかくはい、と言って、
つきみも目を洗浄液で潤ませながら、
「はいな!!誓いますよッ!」
お前ねぇ………そこ、いつもの調子とか……
まぁ、いっか。
俺は、司会の声なんて無視して、ベールをめくり、
眼を瞑り、やや上向きに待つ、つきみの唇に、誓いのキスをした。
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……瞬間、強大な破裂音が建物を揺るがし、壁面ごと設えていた十字架が台座から吹き飛び反対側の壁まで飛んでいく。
壁面で遮断されていた内外の気圧差が入れ替わることにより、室内に猛烈な風と寒気、そして水蒸気が立ち込めていく。
……はい、俺です。
……きっちりと、そしてカッチリと吹っ飛びました。
正確には、キスした瞬間に、爆風に煽られた俺が、檀上に設けられた台に遮られて無事のつきみとルナを残して吹っ飛びました。
お前ら、揃って背が低くてよかったね!!
「ご主人様!大丈夫ですか~っ!?」
「ご、主人、無事ならいいし、怪我ないなら尚よろしいが?」
心配してくれてる二人の温度差を感じつつ、状況確認すると、
広いホールの壁面に風穴が空き、自分が無事だったのが奇跡だったと知る。
衝撃と破片で多数の負傷者が出たらしく、周囲は混乱の極みにあった。
血を流して倒れる人を必死に介護するアンドロイドや、無事だった人間が動き回り、
負傷者になれなかった不幸な犠牲者も居たが、それよりも建物に空いた穴から見える火星地表の赤茶色に迷彩塗装された、歩行兵装ユニットが近付く姿が見えていた。
やばい、ヤバすぎるよ!
見たことないけど、火星の歴史から考えて、戦争ばっかやってた連中が地上戦闘に特化させてきた自立型兵器なんだろ!
とにかくつきみとルナの所に行ったが、俺の手元にあるのは、
……ハンカチと指輪。
指輪にハンカチを載せてみた。
ハンカチ取っても増えたりしてないし、なにも起きません。
スッパ!スッパ!俺死ぬかも!!
歩行脚を大地にめり込ませながら、悠々と近付く兵器。
あー、強そう。
唯一の慰めは、サクサクッと早く来ないこと位だな。
遅くてよかった……
「遅くなりました、旦那様。」
スッパの声が、耳骨マイク越しに響く。
「ただ今、そちらに到着いたします。」
そう!……トロいお陰で命拾い出来たんだから!
俺は無意識に拳を握り、片腕を突き出して人差し指と親指を出し、クソ機械共を狙ってみた。
他力本願だけど……スッパ、今はお前だけが頼りなんだよ!
では次回も宜しくお願い致します。