第7話
そう取られても仕方がないとわかっているつもりだった。
でも実際に事実を突きつけられると、どうしても心がざわめくのを禁じえない。
「しかし、あなたが逃した使用人たちが、あなたは国を救った英雄であると風潮して噂を払拭したようだ。実のところ、もしかしたらいいように働くかもしれんとは思ったが、まさかこれ程の働きをしてくれるとは予想だにしなかった。だが、彼らのおかげで大した反感もなく国をまとまめることができた。これも王妃のお陰だな。」
使用人の思わぬ行動に驚きつつ、どこかほっとしている自分がいた。
含み笑いを見せるツェザーリに、彼らがどのような話を流したのかが気になるところではあったが、なんとなく聞いても教えてくれないような気がした。
それに詳細がどうであれその話がすんなりと受け入れられたのは、支配されたこの国の現状が国民にとってそう悪くないというのが大きいだろう。
この国は早くも以前と何ら変わることなく機能し始めており、実質的には統治者が変わっただけのように感じられた。いや、むしろそれどころか大枠では既存の体制を尊重しつつも細かいところでより良い政策がなされている。
侵略してきたのが他の国であったなら、あるいはツェザーリ以外であったならばこうはいかなかっただろう。
「…私は何もしてはおりません。それで国がうまくまとまったと言うのであれば、それは使用人の機転と陛下のご尽力によるものに他なりません。」
「まだまだだが、王妃にそう言われるのは嬉しいものだな。」
このころには嫌というほど感じていた。ツウェザーリの手腕を、そして…。
和やかな空気の中、ティーカップが目に付き何気なく口に運んでみる。
紅茶は少しばかり冷めてしまっていたものの、上質な茶葉だからか十分おいしいと感じられた。
「これまで言葉が足らなかったようですまなかったな。イーニアスにも再三言われた。」
「イーニアス様は陛下に遠慮がないのですね。」
「幼いころからの付き合いだからな。」
「そうでしたか。」
「ああ。しかし、イーニアスにあれ程言われたにもかかわらず、結局あなたに拒絶されるのが怖くて自分で会話の機会を設けることもできなかった。避けているようであったし、あまりにも頑なな態度に実のところ今日は離縁を申し渡されるのではと思っていた。」
まるで考えもしなかったことを言われて驚いたものの、どこか面白おかしく語られるそれは本心なのかあるいは冗談なのか掴みきれない。
「今宵はとても楽しかった。お誘いに感謝する。ところで王妃さえ良ければこれからは共に食事をするのはどうだろう?」
「ええ、喜んで。」
これまでずっと碌に会話もしなかった。言葉を交わしても事務的で堅苦しいものばかりだった。
それなのに今日はあまりにも自然に会話を楽しむことができた。
思ってたよりずっと、不器用で優しい人。
もうとめられないと思った。
ただ、心に巣食うものによって動きを封じられたかのように、どうしたらいいのかわからなかった。