第6話
バクバクと心臓がうるさい。
お世辞にも和やかとは言い難かったが、せっかくの食事の場を終わらせてしまうことになるのがもったいない気もして、なかなか心が定まらない。
じっと私を見据える目に急かす色はない。
澄んだ青の目を見ていると心が和いでくるような気がした。
ゆっくりと静かに1つ深い呼吸をし、覚悟を決めた。
「陛下は、私のことをどうお思いですか?どう、なさりたいのですか?」
一思いに放った言葉が、思った以上に直球なものとなってしまい居た堪れない。
俯いてしまいたくなるのを堪えていると、ツェザーリが何となく意外そうな表情をしたような気がした。
まさかこんなことを聞かれるとは思わなかったに違いない。
「こちらの都合で振り回したことを反省している。これからは不愉快な思いはさせたくないと思っている。」
静かに語られるその内容に、驚きのあまり微動だにできない。
ただ自分の目だけが、徐々に見開かれるのが感じられた。
「どうすれば笑うだろうか。」
心の中で自分を叱咤して何とか口を開く。
「私に、興味がなかったのでは無いのですか?単なる人質なのではないのですか?」
何とか出た声は情けなく震え、最後のほうは聞き取れないのではというほどに尻すぼみになってしまった。
「確かに私はあなたとの結婚をこの国を支配下に置いたことの証だと言ったが、人質と言うような意味を含んではいない。それに初めて話した時から好ましく思っていた。」
これまた予想外の告白だった。思わず嬉しくなってしまう反面、腑に落ちなくもあった。
「その割にはほったらかしだったではないですか。」
言ってすぐ後悔した。まるで子供のようではないか。
「どうにも仕事を優先してしまうきらいがあって、誤解をさせたならすまない。他意はない。今まで国を治めるのに忙しかっただけだ。」
言い訳めいたことを言うツェザーリが少しだけおかしかった。
それにしても、あんな形ではあったが結婚してだいぶ経つというのに、この人のことを全然知らないのだと痛感した。
「それに人質と言う意味で妃を娶るなら他をあたっただろう。何しろあなたは後ろ盾もなく国民には実在の人物かも知られていなかったのだから。」
言われて納得してしまう。相変わらず視野の狭い自分に嫌気が差してくる。
「その様子だと城下での噂を知っているのだな。」
「ええ、聞いたことがあります。」
「それなら王妃発表後どんな風に言われているかも知っているか?」
「いいえ、存じ上げません。」
そう答えて自分がいつの間にか国民のことを忘れていたことに気づいた。
はじめの頃は城下の様子も気にはなっていたのだが、侍女に聞いたところで悪い噂や実情はもたらされぬだろうと思い結局聞かなかったのである。
「王妃が発表された後、国民は今までの待遇の復讐にあなたが国を売ったと思ったようだ。」
「…そう、なのですか。」