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陽は昇るか  作者: 桜音
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第4話

あれから暫く経ち、王宮もすっかり片付けられ、朝の静けさはまるで何もなかったかのような空気を醸し出している。

私の生活は変わったようで、その実あまり変わってはいない。

強いて言えば、離宮から王宮に移ったことと、侍女が常にそばにいるようになったことくらいだろう。

この部屋の家具はツェザーリによってセレクトされたらしい。

それらは離宮にあった家具と変わらず、高級であってもその見た目に派手さはなく落ち着いた上品なものであったが、それでもなお私に馴染むことはない。

侍女も皆とてもいい者たちだったが、これまでずっと1人でいることが当たり前だった私にとって、誰かが常にそばにいるということがまず落ち着かなかった。

ツェザーリは一旦、ヴェリニジ王国に戻っているらしい。侍女たちがわざわざ教えてくれた。

なんでも報告や、王位継承権放棄の手続きがあるのだとか。

嵐のように現れて、私の世界を壊した男は今はこの国にはいない。

それだけで、あまりにも穏やかに感じられた。


「おはようございます、ラシェル様。もうお目覚めでしたか?」

「おはよう、アビー。いいえ、ちょうど今起きたところよ。」

朝はだいたいアビーが起こしに来てくれる。

彼女は3人の侍女の中で1番年長でまとめ役のようだ。歳は私の2つ上と言っていた。

もう2人は、ハンナとタリア。彼女らはそれぞれ私の1つ下であった。

3人とも歳が近いせいか、それともあちらの国ではこれが普通なのかはわからないが、とてもフレンドリーな感じである。


これまでは1人でしていた着替えをハンナとタリアが2人掛りで手伝ってくれる。

離宮にいたころは特に誰にも会わなかったため、簡易なドレスを好んで着ていたが、王宮に移ってからは毎日やたらと凝ったドレスを着せられるので、とてもではないが1人で着ることは出来そうもなかった。

着替えが終わると今度はヘアセットとメイクをされる。

ヘアセットはハンナが、メイクはタリアが担当してくれていた。

「それでは、ヘアセットをさせていただきますね。」

「ええ、お願い。」

「はい、お任せ下さい!今日もばっちりドレスに合う素敵なヘアスタイルにして見せますわ!」

「それではこちらも始めさせたいただきますね。」

ヘアセットが始まると同時にメイクも施されていく。

以前と変わらず誰にも会うこともないというのに、こうもがちがちだと全身のあらゆるところが凝って仕方がない。

そう思って一度苦言を呈したことがあったのだがバッサリ切り捨てられてしまった。

曰く「何を仰いますか!ドレスもヘアもメイクもこれでもかというくらいナチュラルですよ。夜会などの時はもっと気合を入れて着飾らせていただきますね。」と。

それを考えるとどっと気が重くなったが、彼女たちに悪気がないのはわかるのであきらめることにした。


あまりにも穏やかすぎる暮らしぶりであった。

それが却って怖くもあった。



「ツェザーリ殿下がお帰りになられたそうですよ。」

そう聞いてからもしばらくは顔を合わすことはなかった。

そんな中、また新たな情報がもたらされた。

本日、国王並びに王妃が正式に発表された、と。

自分のことでさえ蚊帳の外で、ひどく取り残されているような感じがした。

ああ、結局あの頃と一緒だ。


その夜ツェザーリがやってきた。

丁寧にも先触れがあったので、準備は整っている。

「アルコールでも?」

静かに招き入れたツェザーリにアルコールを勧める。

何か話があるのではと思っていた。

「いや。」

私の発言をどうとったのか、きっぱりと断ったツェザーリはそのまま寝台に腰かけた。

彼に倣い、少し間を開けて座る。

一瞬の沈黙。視線を感じた。

トンと肩を押され、倒れ込んだところに馬乗りになられる。

枕もとを照らす薄明りと窓から差し込む月明りにぼんやり浮かぶシルエットの中、青い双眼が天井を背にこちらを見つめていた。

「んっ。」

あ、と思った時には口を彼のそれでふさがれていた。

徐々にそれは深くなっていき、息苦しさを覚える。

彼の舌が唇の間をなぞり、開けと催促をする。

息苦しさももう限界だったが、それでも私は頑なに開こうとはしなかった。

すると、あきらめたのかツェザーリの唇が離れていく。

いつの間にか固く閉じていた眼を開けると、不敵に笑う艶やかな口元が見えた。

そしてまたゆっくりと近づいてくる。

それを認めた瞬間、体の中で何かが弾け、ぶわりと広がった。

「陛下は、仰いました。」

私の口が話し出すと、ツェザーリは傾けていた体制を少し戻して、聞く姿勢を示してくれる。

「『あなたとの結婚は我々がこの国を支配下に置いた証であり、無駄な争いを避けるものだ』と。私は人質としてここに大人しくおりましょう。ならば人質と体の関係を持つ必要はないでしょう。」

「…。そうか、わかった。」

そう言ってツェザーリはあっさりと去って行った。

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