第2話
一瞬にして、それも物音を立てることなく開かれた扉から、滑り込むようにして現れた2人の男。
1人は長身でスラリとした肢体ながら、服の上からでも全身に綺麗に筋肉が付いているのが容易く想像できる、金髪碧眼の青年。
もう1人は、隠し切れない鋭さを宿した目に、体格もよく、日に焼けた健康的な肌であるにもかかわらず、好々爺然とした雰囲気の男であった。
「お寛ぎのところお邪魔致します。」
「茶とは、余裕だな。」
「最後の晩餐と思いまして。」
自分で入れたお茶をまったりと飲んでいる最中だった。
「えらく気が早いのだな。」
「そうでしょうか。」
青年のマントには夥しい血が付着している。
「気になるか。」
「いいえ。」
「正確に誰の血とは言えまいが、王子らの血も混じっているだろな。」
「そうですか。」
「王は我々が見つけた時には既に他界していたようだ。王妃は部下が処分した。」
聞いてもいないのに尚も言葉を重ね、まるでこちらの反応を窺っているかのような男に、不快感を覚える。
「そう言えば、まだ名乗っておりませんでしたな。これは失礼を致しました。改めまして、こちらはヴェリニジ王国第一王子のツェザーリ・ヴェリニジ殿下。私は第二騎士団団長のワイアットと申します。」
押し黙っていると青い目がじっとこちらを見ており、こちらにも名乗ることを強要する。
「ラシェルです。」
「ラシェル、か。あなたにぴったりの名だな。」
皮肉か同情か、あるいは両方なのか、王子の表情からは窺い知れない。
「そう言えば、こちらはやけに静かだったが、使用人はどうした?逃したのか?」
「私のような者に使用人はもとより付いてはおりません。」
「そうか、まあよい。どちらにしても使用人をどうこうするつもりはないので安心するがいい。」
「それに、意外といい様に働くかもしれん。」
何か囁いたようであったが、それは聞き取ることができなかった。
ただ、王子の形のいい薄い唇の端が僅かばかり上がった気がして、何となく不気味であった。