プロローグ
モンベリア王国、鉱物が豊富な国。
それによって栄華を極め、黄金宮ありと語られている。
それはさて置き、城下では豪華絢爛な王宮の片隅にひっそりと佇む離宮に王と侍女との間に生まれた王女が隔離されていると実しやかに囁かれている。
樹々が青く芽吹きはじめ、森が爽やかに生い茂っている。
窓から見る景色は、春の訪れを告げているが、なぜだか鬱蒼として見えた。
室内もどこか薄暗く、肌寒い。
1日の大半を過ごすこの部屋には、控える侍女もなく、ただ1人である。
食事は用意されるが、使用人は最低限しか居らず、着替えや湯あみなどほとんどのことは1人でこなしている。
自分の肩書だけで見れば、この生活は異常かもしれないが、物心ついたときからこうだったので、私にしてみればこの生活が当たり前であり、不便さを感じたことはない。
むしろ、王女とは名ばかりで、父である国王が侍女を気まぐれで手折った末に生まれた私には過ぎる生活である。
母は、花嫁修業のため侍女として王宮に出仕をしていた男爵家の令嬢であった。
貴族ではあったが、本来ならば国王とは生涯関わることがない身の上であったため、子を生したことで側妃として召し上げられたものの、周囲の風当りは相当に強く、私を生んでしばらくするとあっけなく亡くなってしまった。
王妃はとにかく私のことを嫌っていた。
王妃は美人で聡明であったが、最も勢力を誇る公爵家の出であるためか、プライドが高く勝ち気な性格であった。
当時、王妃には既に5歳と3歳の王子がいたため、王妃の座も王太子の座も安泰なのは明らかであったが、男爵家の令嬢ごときが女の子といえども王の子を生し、側妃になったのが余程気に食わなかったに違いない。
父は私のことを複雑そうに見ていた。
しかし、父は次第に私のことを見ないようにとしているかのようになり、いつしかその目は私を映さなくなった。
父は母を愛していたわけではなかった。
位も低く、大人しかった母には国王の誘いを断る術などなかった。
そんな母を気まぐれで手折って死なせてしまい、少なからず罪の意識を感じていたのかもしれない。
私に対しては関心を示さないことで王妃の脅威から遠ざけてくれていたのだろう。
知らぬ間に月日は経ち、今日で私は18歳になった。
第一王子は23歳、第二王子は21歳になっている。
国王がまだまだ健在であったがために、王太子は定められてはいなかったが、誰もが第一王子がなるものだと思っていた。
しかし、第二王子も非常に優秀で、国民からの信も厚く、王妃の気質を受け継いでいる2人は何かにつけて競い合ってはいたが、あくまでも仲の良い兄弟の枠を出ることはなかった。
しかし、それは突然に脆くも崩れ去った。
夏がもう間もなく終わろうかという頃、国王が病に倒れたのである。
国王は今も辛うじて息はあるものの、意識もあやふやで回復は見込めず、先も長くないという。
いまや国内は混乱していた。
それに付け込んで善からぬことを企む一派の狸爺どもが、言葉巧みに第二王子を唆し、王の座をめぐる王子たちの争いが一気に激化したのである。
今は内輪で揉めている場合ではないのに…。
こうしている間にも間違いなく脅威は迫ってきている。
日が沈んでいく。太陽はまた必ず昇る。
それをいつまで見れるだろうか。
私はー
陽は昇るか
(彼女は幸せになれるか)