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ヒンデンブル  作者: 中矢良一
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モンゴル熱気球

 芦沢は、その金を持って、すぐに町場の高利貸のところへ出向いた。

 先ほど木島から受け取った封筒より 150万の現金を 取り出し、そこ1社への返済は完了した。

 しかしその手の金融屋がまだ4件残っている。

(銀行と親類、知人は後回しとして・・・・とりあえずもう少し金を引き出す方法を考えよう)


 芦沢は、自分の倉庫へ戻り、アンティーク家具の中から、猫足のアールデコ調丸テーブルを選び出した。

「200万はしないな。20万だ、どう高く吹っかけたとしても・・・」

 芦沢の独り言が、倉庫の床に響いて自分の耳に痛く突き刺さった。

「熱気球か・・・・・・いくらくらいかかるんだろう?」

 芦沢は己の悪行に、いくらかでも善の言い訳をしたかった。

 丸テーブルを大きなヤワラ(家具を傷つけないための大きな厚手の布)で包み、ライトバンに載せ終わった芦沢は、その足で伊豆のI高原に向かった。

 そこで、以前、熱気球を飛ばすオーナーの経営するペンションに泊まったことがある。

(150万は無理だとしても・・・ちょいとした言い訳にはなるだろう)

 3月の初めではあるが、伊豆は多少寒さの残る日々が続いていた。

「ユニティ」・・・・ペンションのオーナーは元々、グラフィック・デザイナーであり、文字に関する特許をいくつも持っていた。その文字のひとつがペンションの名前になっている。


 久々に訪ねる芦沢をオーナーの大川誠一は、歓待してくれた。

 そのペンションの家具は全て芦沢のコーディネイトによるもので、輸入家具や、そのとき芦沢がついでに仕入れたEMジーン・エキスパート、という蓄音機があるペンションとして雑誌に取り上げられ、一躍I高原トップのペンションに上り詰めた経緯があった。


「早速なのですが・・・・・・」

 芦沢は大川に、熱気球の話を始めた。

「・・・・なるほど・・・・そうですね。1920年か、その少し前のお生まれでしたら、おそらく、熱気球に乗られたのは、1925年から1930年ころ、つまり昭和の初期ですね」

「おそらく・・・・・・」

「熱気球はモンゴルのフェイ兄弟が1783年6月に、焚き火の煙が上空に昇るのを見て思いついたものです。空気は熱すると膨張して密度が下がります。密度が下がれば周りの空気より軽くなりますので、空に向かって浮かんでゆくのです。しかし、途中で熱が冷めますから、その都度バーナーで空気を温めてやるわけです」

「ほ?!なるほど・・・・モンゴル人の知恵は素晴らしい。上空から初めて地上を見下ろしたのはモンゴルの人々でしたか!!」

「その通り。モンゴルの人々は日本人に良く似た顔をしています。またモンゴルには日本の相撲に似た格闘技もあり、私は一度行ってみたいと思っているのです。そのときには、芦沢さん、一緒に行きましょうよ」

「そうですね・・・・・・ぜひとも」

(今はそれどころか京都に行く金もない)

 芦沢は大川の順調で、健全な生活ぶりが眩しかった。

「熱気球を作るには、どのくらいの費用が掛かるものなのですか?」

「そうですね?・・・・私の持っているものですと、150万から200万でできますが下は50万から上はきりがないでしょう。芦沢さんがお作りになりたいのですか?」

「え?・・・ええまあ・・・いや友人が」

「それは嬉しいことですね!私に協力させてください。予算も低く抑えることができると思います」

「ありがとうございます。できれば見積もりなど、とっていただけますか?」

「わかりました。1週間ほどお時間をいただけますか?」

「もちろん結構です」

「今日はお泊りになられますか?」

「いや、今日は仕事の途中なので、いずれまた。そうそう、その 友人をこのペンションに連れて来ましょう。相当なお金持ちです」


 席を立った芦沢の耳にEMジーンのホーンから、心地よいチェロの音が心を諭すように流れ込んできた。


「ヒンデンブル ・・・ 第4話(瑞穂のスーツケース)」へ

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