ノベル・アロー号のルート
一日の就航を終え、港に停泊中のノベル・アロー号は、臨時出航の準備のため、エンジンを超低速でアイドリング状態のまま、入港する漁船の余波で時折その船体を上下に浮き沈みさせていた。
200人乗りのノベル・アロー号はたった一人の乗船客、木島倫太郎を乗せるとそのままゆっくりと港を旋回して湾の外へ出た。
船は陸地に近い部分を沿うように航行しながらS裏、U裏、M崎を経て、例のO岬を目指した。
水族館、イルカのショウで有名な海洋公園、海鮮料理の旅館や出店・・・
ノベル・アロー号のルートには、乗船客にとって「目の保養」となる風景が飽きることなく続いている。
木島倫太郎は白く泡立つ海面に目を落としていた。
(やはり船の旅は捨てがたい。しかし・・・)
年々乗船客は減少傾向にある。
大渋滞を覚悟しながらも、伊豆へのマイカー族は増加し続けている。
(なぜだ?・・・・そんなに車がいいのか?)
しかし、倫太郎自身、そんな風に思いながらもI高原には自分のクラウン8で出かけた。I高原にもノベル・アロー号が就航しているにもかかわらず・・・
「O岬からH田へ回り込み、その後は最短距離で港に戻ってくれ」
曇天で薄暗くなりかけた空模様を心配し、倫太郎は船長に指示を出した。
翌日、仮設ハウスの設置が3時間ほどで終わり、乗船切符売り場は、仮説ハウスに移った。それから1週間後、元の乗船切符売り場の解体作業が始まった。
キンブルは芦沢のショウ・ルームで打ち合わせをしていた。
「つまり・・・・本国に帰って出した見積もりでは、飛行船一機、日本円でおよそ5000万、そんなところでしょう。アメリカでは『God Year』などのロゴを船体に描いてアドバータイズメント(広告)料を稼ぎ出しています。それが燃料費となるというワケデス。『God Year』はそれによって業界トップになりましたよ」
「5000に広告料・・・・・・」
芦沢は心の中で素早くソロバンの玉をはじいた。
木島倫太郎にとって、1億はおそらく世間の100万・・・ここでこの見積もりを自分の会社に一旦通し、利益を上乗せして1億に・・・そして広告料は??
「アドバータイズはどのくらい取れるものかね?」
「週1000ダラーというところでしょう」
「週30万以上か、月120万・・・ということ?」
「そうなりますね」
「そうか、よし!やろう。木島は『1億?2億?・・・』と聞いてきたくらいだ。君にも稼いでもらうよ」
「Thanks!」
翌日木島邸を訪れた芦沢は、木島倫太郎のその穏やかな口から、意外な言葉を聞くことになる。
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