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オメガ、俺は君の頭の中にいる  作者: 金沢書庫
極小コミュニティ内の人造人間女子の頭にトラック転生系男子が紛れ込んだ場合【序】
8/11

そりゃそうだよね。お約束だよね、と過去を振り返った俺は思う事だろう

今日は短い


7/19 気になったところを諸々手直し

7/20 ドングリがトラックたちへ言った「テクネと似てない」発言を「似てる」に変更。物語的によろしくなかった。

 ドングリさんは良い方だ。柔らかな口調で大らかで、どんな時でも相手の行動を待つ余裕がある。

 なんてったって、半狂乱の俺たちを叱責するでもなく、無責任な言葉で慰めるわけでもなく、ただ何も言わずに待ってくれたのだから。


 壊れてしまった我が家を見て、オメガもちょっと壊れてしまった。

俺の声が、思考がオメガに届かない。「おい」とか「まて」とか、そんな言葉しか俺には浮かばなかったけどさ。

 そして、ろくに言葉にも気持ちにもできない俺を尻目に、オメガの感情はどんどんと肥大化していった。

 終いには俺が身体を動かすこともできなくなってしまうほどで、どんどんとオメガはおかしくなっていった。

 オメガは落ちていた腕を見てひとしきり泣いた後、我が家の瓦礫を素手で掻き分けボスがどこかにいないか必死に探し始めた。

 俺もオメガも落ちていた腕を直視できなかった。腕だとわかっても、それを直視すればボスの死を認めてしまう事になりそうで怖かった。

 ボスの死を認めたくないと同時に、ボスの生存を信じる事が出来ず、判断の材料になりうる要素を無意識に排除しようとしていた。

 その結果、俺は無気力に、オメガは狂気に甘えてしまったのかもしれない。


 オメガは付近に生体反応が見られないなんて無視して、爪が割れて血が出ているのも無視して、なんかの破片で指が裂けてしまうのも無視して、がむしゃらにボスを探していた。

 俺といえば、痛いなとか、辛いなとか、なんでかなとか、身体を動かしてオメガを止めなきゃとか、考えるだけで何もできていない。


 正直現実感がない。数年過ごした家がぶっ壊れているのも、いつもあんなに身近にあったボスの気配が感じられないことも、オメガが変になってしまっている事も。

 そもそも死んだはずの俺が今こうして何かを感じていること自体おかしいんだから、現実感なんてモノは俺が覚える感覚ではないのかもしれないなとすら考えていた。


 視界に入る瓦礫の中に変な動きをしている物体がチラつく。俺が掛けていたお片付け魔法がエラーを起こしているのかもしれない。空間が壊れてしまったせいで定位置を失ったアレコレが、片付く側から散らかって、浮いては落ちて、浮いては落ちて。あの出来損ないの魔法は今のオメガに似ているのかもしれないなと俺は思った。

 いや、魔法じゃない。ボスは魔法なんてものは無いと言っていた。便利で素敵な万能の力なんて無いと。確かにあそこでエラーを起こしているっぽいお片付け魔法に、俺は微塵も魔法っぽさを覚えない。

 もしかしたら俺たちはボスの魔法で作られたのかも、なんて思っていたけど、きっとそれもない。

 だって、オメガがマジカルな万能の力で作られていたのなら、今のこんな状況はありえないのだ。泣き叫びながら、手を真っ赤にしてボスを探しているなんて、全然合理的じゃないし。

 生体反応が確認できない以上ボスはここにいるわけないのだ。探すだけ無駄なのだ。手を傷つける意味なんてないのだ。

 だから、意味のない動作を繰り返すオメガも、意味のない動作を繰り返す俺の作った法も、似ているんだ。どちらも揃って出来損ないだ。


 虚無、もう俺は虚無感でいっぱいだ。

 そんな俺の虚無感が伝播したのか、オメガが唐突に動作を止めた。慟哭の叫びも消え、狂ったリズムのシャックリが変拍子みたいなリズムを刻む。

 諦めか、絶望か、オメガからどろどろした感情の波が伝わってくる。心を色に例えることがよくあるが、じゃあこれは何色だっていうんだろう。


 黒?


 いやそんなのじゃない。無だ。色んな色が足されてどろどろの無になったんだ。もうここに色なんてない。


 静止した時間は、優しいドングリさんの言葉でゆっくりと動き出した。


「君たち、何も言わずにただ聞いて。今から言うことはきっととても大切」


 俺もオメガも何もする気力がない。ドングリさんの声も、聴いてるというより、ただ入ってくるだけ。空気みたいな、そんな感じ。


「まず、テクネさんは簡単に死なない。これは絶対。というより、彼女は死ねない。彼女が死ぬほどの状況なら、僕たちは多分ここでこうやっておしゃべりもできないはずだよ」


 オメガが少しだけ反応した。でも動いたのはまだ心の隅っこだけ。


「次に、落ちてた腕だけど、君たちちゃんと見てないよね。もう一度見てみなよ」


 オメガからは明確な情動を感じた。これは拒否だ。


「オメガちゃんは無理みたいだから、トラックくん動いてあげて。大丈夫、こわくないよ」


 俺は無感動のまま、やけに重たい身体を動かす。


「ほら、見てみて。この手、知ってる手?」


 惚けた気持ちのまま、ぼんやりと落ちている腕を見る。ボスの手といえば、幾度となく俺たちをシバいた手だ。それは今でも触感を思い出せる。ボスの手は、小さな小さな子供の手だった。


 そう、小さな子供の手だった。

 じゃあ目に映るこの手、誰の手??


「これテクネさんの手じゃないよね、絶対。だからここで手を吹っ飛ばされた、あるいは手以外を吹っ飛ばされたのはテクネさんじゃないよ。恐らくここで何かがあって、何かの結果誰かが吹っ飛ばされて、吹っ飛ばされた結果家も削れちゃったんじゃないかな」


 オメガが生気を取り戻してゆくのを感じる。

 俺も少しだけ何かを取り戻してきた気がする。


「結構ゴツゴツした手だから、ここに来た誰かは男じゃないかなぁ。まあそれしかわかんないけどさ」


 男?


「いや、多分だけどね。僕もテクネさんの交際関係とか詳しく知らないし、そういう手をした女の人がいたのかもしれないけど、今の段階でそれを考えても仕方ないさ」


 思考力が次第に戻ってきた。

 こんな四方に山しかない辺鄙な場所へわざわざやってきた誰かがいて、それは多分男だったって、何でだ。


「ぬふふ、今色々な事に何でだって思ってるでしょ? 君たちはすぐ顔に出るね。それも露骨に。そういうところテクネさんそっくりで面白いよ。まあ、それをこれから考えればいいんじゃないかな。元気を出す足がかりにしてみよう」


 ドングリさんは優しい。慰めというにはあまりに状況説明的な言葉が、俺たちに染み込んで行く。俺たちに必要な言葉をゆっくりと、的確に授けてくれる。


「もう一度言うね。テクネさんは死んではいない。その理由を僕の口からいうことはできないけど、これは確実。君たちより長く生きてて、むっかしからテクネさんとの付き合いがある僕が言うんだから、とりあえずそういう事にしてよ。無理に信用しろは言わないけど、心の隅っこに僕が言った事を置いといて」


 俺はこの優しいドラゴンを信じる。お前だって信じてるだろ? オメガさんよ。

 うん、大丈夫だ。半狂乱だったオメガはもういない。言葉は帰ってこないけど、こいつの心はもう無じゃない。


「とりあえず、お家も住める状態じゃないから、早いところどっかに行かないとね。でも、もう夜なんだよなあ。どうしよっか? 僕が風除けになるから、君たちはマシな状態の部屋を探して寝てきたら? おっと、でもその前に、手をどうにかしなきゃね」


 ドングリさんがそういうと、ジンジンしていた手がみるみる元の感覚を取り戻してゆく。

 なんじゃこれ、どうなってんだ。巻き戻し?


「あ、多分君たちニンゲンにはできない事だから、考えなくてへーきへーき。そういうものだと思って」


 人間にはできないってどういうことだろうと思っているうちに、気付けば手の感覚が完全に回復していた。


「多分喉の方もあれになってるかもしれないけど、そっちはいっか。何でもかんでも元どおりにすればいいってもんじゃないよね」


 ドングリさんに言われて、この短時間で喉が使い物にならない状態になったのだと知る。

 これまともに喋れるまでに何日かかるんだろう。


「さ、とにかく睡眠睡眠。明日にはもう移動を始めようね。ここにいてもきっとテクネさんは来ないよ。長距離の飛行になるから英気を養ってね!!」


 促されるままに俺たちは壊れた家の中に入って行く。

 とりあえず寝よう。

 このぶっ壊れ方からして、俺たちの部屋は消し飛んでしまっているだろうなあ。床に寝るのかなぁ。


 そうして見方によっちゃあ箱入り娘だった俺たちは、いよいよもって外の世界へ進んで行く事になったのである。

第一部 カァァァン!!!

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