流れ流れて人の街 俺はそう、ドラゴンメイドライダーなのさ
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ドングリさんの背に乗り、メイド服のフリルをはためかせながら空を行くこと5日。その間に見た景色と言ったら、贅沢なんてもんじゃなかった。
我らが進む先に見えるのは地平線の彼方まで続く大森林。左右を見れば茶褐色の岩肌が盛大に裂けた大渓谷。何がどうしてそうなったのかわからないが、緑のカーペットが一直線に続いてゆく面白風景だった。
地平線が見えるってことは多分この星は丸いんだな、なんて考えながら、俺もオメガも目に映るもの全てに一々大興奮していた。
森林の左右に見える渓谷の平地部分には、時折ガゼルのような一群が走っているのが見えたり、他の肉食動物にそれらが狩られているところが見えたりした。ナショナルなジオグラフィックワールドか、アニマルなプラネットワールドをライブで楽しんでいる気分だった
森林地帯の方は、我が家のあった山と同じく針葉樹がニョキニョキ生えていた。ただ、それがあまりに等間隔に密集していて一直線に広がっているもんだから、神経質な神様がこの世をデザインしたんだと言われたら信じてしまうほどだ。整然としつつ鬱蒼としているよくわからん森なもんで、生き物はたまに飛んでるチュンチュンバードの群れくらいしか見れなかったなあ。
ともあれ、何もかもが新鮮だった。俺が生前から知っていた外と、今いるこの世界の外は全然違った。見たこともない不思議なんてそれこそファンタジィなドラゴン様であらせられるドングリさんくらいだったけど、目に映るものの一つ一つは知識として「そういうものもある」と知っていたものだったけど、それでも全然違った。どこを見たって規模が違う。目に収まりきらない情報が毎秒ごとに飛び込んでくる。
こんな森は見たことない。あんな渓谷も見たことない!! テレビや写真でしか見たことのなかった剥き出しの大自然が眼下に広がる光景は、これまでの数年間真っ白な世界に生きていた俺たちにとって正にナチュラルなドラッグだった。
しかし、この五日間は人間の営みってやつを拝むことが全くなかった。ふつふつと謎が浮かんできた。俺たちはなんでそんな僻地に住んでたんだっていう疑問。そして、なんでそんな僻地に不逞の輩がやってきたのかという疑問。
「ドングリさん、ボスって世捨て人かなんかだったんですか?」
我が家を離れてから迎える5回目の夜。飯も食い終わり、ボスの趣味が全開のふわふわパジャマに着替えた俺たちはドングリさんに訊ねた。
「世捨て人、というか……んー、自由な人かなあ。最近はたまたまそういうところにいただけっていう感じ?」
ドラゴンにとっての時間の感じ方はよくわからんが、おそらくめちゃくちゃゆったりしているんだろう。少なくとも俺たちが生まれてからの数年間は家に引籠り続けたというのに、それを最近という範疇に収めるあたり感覚が全然違う。
「テクネさんと知り合って随分経つけど、普通に人里に住んでいたこともあったよ。いつ頃のことかは忘れたけどね。今向かってるのも前にテクネさんが住んでたところだよ。ベリーフィールドって街」
時間の感覚がゆったりしてるドラゴンをして随分となると、どんだけ前なんだよ。というか街とかあったんだ。あんまりにも人間を見ないから都市文明とか亡び去ってるものだと思ってたわ。
「俺の感覚からすると数年間引籠り生活してる人は世捨て人なんですが……。で、ベリーフィールドってどんな街なんです?」
我が家になぜかあった寝袋的な布団に包まりながらドングリさんに聞く。ちなみに寝るときはドングリさんの背中で寝てる。割と鱗の隙間みたいな場所があって収納に困らず、就寝にも快適なのだ。
「前に見たときは、そうだね、なんか赤かった。屋根がね、全部赤いんだよ。あと、やたら爆発が起きてたね」
なにその街。紛争地域なの……? 爆発が頻発してる所為で屋根が全部赤いのも政治的な主張をしているように感じちゃうよ。
「あ、爆発っていっても、人死にが出るようなものじゃなさそうだったよ!! 大っきな市場とかもあってニンゲンで賑わってたし、そこの人達も爆発を気にしてなかったみたいだから!!」
そうは言っても爆発を気にしない地域住民ってのはなんか嫌だな。俺たちが浴場でちょっと爆発させただけでボスがすっ飛んできたくらいなのに。ボスが常識人に見える街とか嫌だぞ。
俺の微妙な雰囲気を感じ取ったのか、ドングリさんは言った。
「楽しそうな街だと思ったけどね。へーきへーき。こわくないよ」
怖いんじゃなくて嫌なんだけどな。
そんな俺の不安はさておいて、オメガもワクワクしている様子だ。
「やりましたトラック。マスターが過ごした街ですよ。私たちもマスターの吸った空気を吸えるんです。次に会ったときに話したい話題が増えます。ドキドキしてきました」
お前がドキドキすると俺もドキドキすることになるからやめてくれ。感情を無視したドキドキなんて動悸と同じだ。
「明日の昼頃につけるだろうから楽しみにしててね!」
そりゃ楽しみなんだけど、ちょっとなあ、不安がなぁ。そもそも俺が目覚めてから話したことがあるのって二人と一匹だしなあ。どんな社会か、どんな文化かもわからん人達と話すことになるかもしれないのは不安だな。初めての海外旅行って感じ。それも前情報なしのハードコア設定。
それにこれまで疑問にも思ってこなかったけど言葉通じるの? やだなー。
「ん? トラックは公用言語に不安があるんですか? 私やマスターと話せているんですから問題はないですよ。我々が使っているのは統一言語。声帯を持つ生物なら大概は我々と同じ話法で話します」
「えっそうなの? なんで?」
「なんでと言われても、私はそう言うものだとしか……」
いつも痒いところには手が届かないオメガさんだ。
そんな俺たちの話を聞いて、ドングリさんが思いがけないことを俺に言ってきた。
「トラックくん、そういえば言ってなかったんだけどね。口調、どうにかした方がいいかも」
口調? なんでまたそんなことを気にせねばならんのだ。
「へ? どういうことですかドングリさん? 俺何か粗相でも? 確かに丁寧な喋りって得意じゃないですけど……」
「そっか、今までテクネさんとオメガちゃんとしか会話なんてしてこなかったんだもんね。別に丁寧かどうかは関係ないんだけどさ、君自分の性別ってわかってる?」
ドングリさんがおかしなことを聞いてくる。そんなの出会ったときに言ったのになあ。
「ドングリさん。俺は男ですよ? それがどうし……あっ」
そうか俺って今、
「そう、気がついた通り。君は女の子だ。男の子の人格がその身体に宿ってるってのを知ってる人ならいいけど、これからはアレかなぁ。多分普通の人は君を見たときに人格が二つありますなんてわかってくれないし、その容姿で男言葉を使ってると……ね……?」
ドングリさんの言葉に俺は頷くしかない。これまでの生活では俺は一個人として人格を認められてきたが、そんなのはそれこそ俺たちだったから成り立ってたんだ。
「多分説明なんかしても信じてくれる人は限りなく少ないと思うよ。僕もテクネさんちのコじゃなかったらそんなにすんなりとは受け入れられなかったもの」
マジかぁ、まあ一人称を「私」にするのくらいはわけないけど、普通のおしゃべりにも気を使わなきゃいけないかもしれないのはシンドイなぁ。
「ふふっ、トラックのその粗野な性格が矯正できるかもしれないんですね。とってもいいことです」
「別に俺が喋らなくてもオメガが喋ってくれればいいじゃんか」
「あなた本当に自分がそれをできると思っています? 私と会話するとき以外は条件反射で口を動かしているじゃないですか。絶対にボロが出るか、私と同時に喋ろうとして不自然にむせますよ」
そうですね、返す言葉もないですね。
「とりあえずさ、明日街に着いてから考えてみればいいんじゃないかな? トラックくん今は気に留めておくだけでいいよっ。僕から言い出したんだけどね!」
ドングリさんはそう言って笑った
「明日からはトラックちゃんですね。気をつけて下さい、トラックちゃん?」
オメガが心底楽しそうに俺を馬鹿にする。
「だー! うるせえな!! もう知らん、寝よ寝よ!!」
仕方ねえだろ。我が家には鏡がなかったし自分が女だって認識が薄いんだよ。体つきも貧相でザ・雌って雰囲気じゃねえし。用を足すときだってオメガにお任せだったしな。それになんてったって、「俺」自体はずっと男として扱って貰ってたもんな。性に対してろくに考えてなかったなあ。
でもそうか、俺は女になっちゃってたんだよな。このままじゃオレジョだ。あんなもん仲間内だから通じるルールだよな。でもなあ、なんかなあ。
ちょっぴりドヨドヨしながら、その日は寝た。
◼︎
そして翌日。テッカテカに晴れた空は突き抜けるような青!! この世界で初めて感じるうだるような暑さ!! 汗で服が肌に張り付いて気持ち悪い!
遠方にはいよいよ街が見えた。本当にドングリさんが言ってた通り赤い!! って何あれ、やったら幾何学的な建物の配置のような……。円形の建築群がひい、ふう、みい、よ、いつ。円の一つ一つが街になってんのかな。それぞれの円の中心の広場から放射状に街路が伸びてら。他と比べると大きな円を中心に、四方に丸が配置されてる。いってしまえばサイコロの五の目だな。
空から見てるからよく分かるけど、やたらと整った街だなこりゃ。丸の外周はあれ、農地ですかね。ベリーフィールドっていうくらいだからナントカベリー的なのがいっぱい取れるのかしら。
いやはや、この世界の人間たちの住む街を見ていると感心ししちゃいますね。だって俺の生きてた日本て言えば、街といえばカオス。かっこよくいえば有機的。神経細胞かってくらいゴッチャリした街路がばーと広がってて、迷宮だったもん。
しっかし人がいねえなぁ。
「建物の中にはしっかり人間の生体反応が見て取れますよ。この暑さに参ってしまっているのでは?」
「確かに、あっちいもんな。でも暑いからって畑仕事もやらんのか?」
「それは、あれではないですか? お昼ご飯とか?」
オメガと二人だけで話しててもラチがあかない。
するとドングリさんが声を上げた。
「見てみて!! あの真ん中のまるのとこにあるお花がスッゴい建物! あそこだよー、あそこがテクネさんが前に住んでたところ。今は別の人が住んでるんだね。テクネさんとはお花の趣味が違うみたい。あーでも、そんな変わってないなー。ねえ、ちょっと近くで見てみよっか!?」
どこどこ? なんて探す間もなくドングリさんはすっ飛んだ。急に動かないでドングリさん、びっくりするから!
ドングリさんは家に迫るなり「うわー」とか「おほー」とか小声でブツブツ言っていている。
なるほどね、ボスもこんな街に住んでたんだね。割と街の中心部っていうか、華やかなトコじゃないか。何で俺たちと隠居なんてしてたんだろ。
ドングリさんの首の横あたりまでよじ登ってボスが住んでいたという家も見てみる。
赤毛の女の子が花壇に水をやっているようだ。
なんていうの? 第一村人発見的な感動っての? ボス以外の人間なんて初めてのだからドキドキしちゃう。
「おおお、女、の子ですね。こここここに住んで、らっしゃるのののでしょうかぁ?」
オメガさんあなた人見知りだったんですか。ドングリさんは平気だった……わけじゃねえか。俺たち漏らしてるし。
それでも話しかけるかを提案する段階でギッチギチに緊張してるとか勘弁して下さい。というよりこのドキドキってお前のせいかよ。
ドングリさんがなんか変な感じに感動していたり、俺たちがドギマギしていたら、女の子がこちらを振り返った。
こういうのは第一印象が大切なんだよな。俺たちメイド服だけど変じゃないのかな? 比較対象がこれまでいなかったからよくわからん。さてどうしよう。
なんて考えていたら、女の子の顔がどんどん驚愕の色に染まってゆくのがわかった。
そうだ、俺たちは慣れたけどドングリさんめっちゃ怖い!!
目があった瞬間に絶対捕食者だってわかる御姿じゃないですか!!
町娘がドングリさんなんてみたら多分ショック死しちゃう!
俺たちはせっかく第一村人(町人?)を発見したというのにそれどころじゃ無くなってしまった事に気がつき、ドングリさんに叫ぶ。
「「ドングリさん!!」」「忘れてた!!」「忘れてました!!」「ドングリさんとても」「めっちゃ怖」「恐ろしいです!! 一旦引きましょう!!」「つーか町にドングリさんが突然来たら普通は大混乱ですよ!!」「ね、ね引きましょう!!」
あまりに慌てたせいで俺とオメガの発言がゴッチャゴチャになっている。こういうこともあるのか。
俺たちがむせているとドングリさんもハッとしたようで、一気に上空へ舞い上がってゆく。
ですからドングリさん突然動くのわぁ〜。
これまでの道中で1番の速度が出てたんじゃないだろうか。気がついた時にはベリーフィールドの町ははるか後方にあった。
「ごめんねトラックくんオメガちゃん。つい懐かしくなって自分がドラゴンだってことがすっぽ抜けてたよ。前来た時なんかは結構普通に町を飛んだりしてたんだけど、人間の社会って移り変わり早いもんね。もう僕が普通にあの街に出入りしてたのを知ってる人達は死んじゃってるや、きっと」
どんだけ前の事なんですかボスが住んでたのは。
とにかく、俺たちはせっかく街まで来れたというのに変なところで足踏みをする事になってしまった。
どうしたもんでしょうかね、いやはや。
街に来ました。第一町人発見。




