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オレンジ黒クロ

首都ミナルに帰って来て、クエスト案内所に行くと、案内所の青い帽子をかぶったお姉さんに質問攻めにあった。

「なんで、こんな大金が手に入ったんですかー?これは、クエスト成功報酬ではありせんよねー?まさか‼︎町の人を脅したんですかー?」

「あー違う違う。色々あった。それで終了‼︎」

「あーうーん。色々ですかー?まぁ許してあげまーす。はいこれ、2万ミルです」

大きな巾着袋を手渡された。ズシリと重い。

「そんな大金、久しぶりに見ましたよー」

ふふっ。何を食べようかな。

「どこかへ食べに行くなら、私も連れて行ってくださいよー」

気づかれた⁉︎

超能力者かな?魔族にもそんなヤツいたけど…

「断る」

「えーなんでですかー。もうすぐ、仕事終わるんで、待っててくださいよー」

「嫌だね」

お姉さんに背を向けて歩き出す。

「待ってくださいよー」

お姉さんの声が遠のいていく。

そういえば、お姉さんの名前知らないな。

案内所の外に出た時、もう日は落ちていた。空は暗いが、町は出店の光に照らされている。

とりあえず、いい匂いのする方に行こう。

「待ってくださいよー」

遠のいたはずの声が、近づいてくる。

振り返った時には、ゼロ距離だった。

「いい店教えますから‼︎」

近い。

気は進まないけど、いい店があるなら行きたいからなぁー。

「わかった。行こう」

「やったぁーー‼︎もちろん奢りですよねー??」

「今日だけは」

「いぇーい」

お姉さんに手を引かれるがままに進んでいく。

お姉さんは、いつもの青い帽子もかぶっておらず、普段着のようだ。帽子に隠れて見えていなかった髪の毛も今は見えていた。仕事中は帽子の中に隠していたのだろう、お姉さんの髪の毛は腰あたりまであり、髪の根元から毛先にかけて赤から黒に変化していく特殊な色をしていた。目立ってしょうがない。

そんなことを考えている間についた店は小さなバーだった。

「ねぇここがいい店?」

「はい‼︎自信を持って紹介します‼︎」

柄にもなくハキハキ喋るお姉さん。

店の扉を開けるとそこは想像していた通りのバーだった。入って目の前にはバーカウンターがあり、左の壁際には机と椅子が置いてあった。複数人で飲みたい時はあそこに座るのだろう。

お姉さんは直進して、カウンターに座ると、早く座ってというふうに、目で促してきた。

仕方なしに座る。

「店長、例のやつー」

ん?喋り方戻ったな。

どうやらかなりの常連のようで、店長と呼ばれた人間も黙々と何かをし始めた。

「なにでてくんの?」

「秘密ですー」

「はいはい秘密ね。そういや、名前聞いてなかったな」

「私の名前ですかー?」

「それ以外にないけど。早く言え」

初めて会った時、苛立ちを感じたからか、お姉さんに対しての僕の口調が荒い気がする。

「せっかちですねー。お教えしましょう。私の名は…」

なぜかお姉さんの口からドラムロールが流れる。

「ドンッ‼︎サニー・オレンジでしたー‼︎」

やっぱりうざい。

「そう。サニーでいい?」

「オレンジがいいですねー」

サニーでいいっていえよ。

「じゃあ、オレンジ。ついでにいい武器屋とかも紹介してくれない?」

「お安い御用ですよー。私とマクロさんの仲じゃないですかー」

どんな仲だろう。

「ありがとう」

「どういたしましてー」

と、そこで店長が《例のやつ》を持ってきた。

ゴトっと僕とオレンジの前に置かれた皿の中にはよくわからない黒い物体があった。黒い物体には赤いソースのようなものがかけられている。

「なにこれ?」

「なにって、ゴブリンステーキじゃないですか〜」

「ゴブリンってあのギャーギャー言うやつ?」

「はい」

「棍棒持ってるやつ?」

「はい」

「食べるの?」

「もちろん」

「あれって食用なの?」

「基本的には違いますねー」

「それなのに食べるの?」

「はい。店長に以前勧められたんですけど、高くて手が出なくてー」

「ちなみに値段は?」

「2500ミルですー。だから2人で5000ミルですねー」

全財産の約4分の1が削られるだと…‼︎

「まぁそれぐらいならいいや」

「じゃ食べましょう‼︎」

オレンジは目を輝かせてそう言うと、ゴブリンステーキをぺろりとたいらげ、僕もそれにならった。

なんというか、その、うまかった。

支払いを済ますと、武器屋へと舵をとる。

「どんな武器が欲しいんですかー?」

「えーっとあれだなー。黒い系のやつ」

「そのコートみたいな?」

「そうそう」

「それならあそこがいいかなー」

オレンジは頭の中に地図を展開させて唸っている様子だ。

さっきは髪にしか興味がいかなかったけど、よく見ると服が赤一色だった。袖がやたらと広いゆるい服、人間でいうシャツというものに、膝丈より短いひらひらしたスカート呼ばれるものという格好だった。

魔族と人間族との見た目での違いは角が生えているかいないかの違いである。そのため、魔族と人間族が恋に落ちるなんて話も少なくない。

なにが言いたいかというと、オレンジも僕の結婚候補には入るということである。

しかし、そんな目でオレンジを見てみると美しくなくもなくもなくもない。あれ?どっちだろ?

次に家に帰った頃には結婚相手もハワードに選ばれているだろうから、今のうちに恋をしておくのもいいのかもしれない。

と、生まれて初めて自分の恋愛について考えてみたが気恥ずかしくて仕方がない。

「マクロさん?聞いてます?つきましたよー」

「あ、え、なんだっけ?結婚?」

余計なことを口に出してしまった。

「結婚?なんの話ですかー?店に着いたんですよ?」

「あぁ店か」

思考回路を案外フルで使っていたため、なにも気付かなかった。

目の前にある店はさっきのバーと同じくらいの大きさだ。ひとつ違うのは店の塗装が全て真っ黒なこと。

「入りますよー」

オレンジに手を引かれて店内へ。

驚いたことに店内は真っ白。その白い壁に黒一色の武器たちが並べられている。武器が目立つように考えたのだろう。

店内に棚などは一切なく、武器は壁に飾られるように置いてあり、奥にはここが境界線と言わんばかりの長机が置いてあってその向こうには扉が見える。

店主はいないのか?

そうオレンジに聞こうとした時、

「黒さーーん」

オレンジが大きな声で叫んだ。

少しして、奥の扉が開く。

「なんだい?あ、オレンジじゃないか。元気か?」

出てきたのはこれまた黒一色の女だった。黒い髪は肩あたりまでしかなく、黒いシャツを肩まで捲し上げている。下半身はというとこちらは足首まである黒いズボンと呼ばれるもので足首までは締まりがなくゆるゆるとした感じなのだが足首だけがキュッとしまっているなんとも不思議な服だった。そして手には金槌を持っていた。おそらく扉の向こうは作業部屋で武器やらなんやらを作るところらしい。

「お久しぶりですー。元気ですよー。黒さんもお元気そうでなによりですー」

オレンジはゆるーく返した。それに対して黒はああ、と答えると僕の目を見て

「お前は誰だ?」

初対面なのにお前って…別にいいけど。

「こちらはマクロ・オームさん。新人冒険者なんですよー」

僕に変わってオレンジが説明してくれた。

「そうか。これからよろしくな」

そう言って、黒は手を差し出してきた。握手ということだろう。一瞬戸惑ったが僕も手を出して、机を挟んで握手する。

「それで何の用だ?」

握手を終えると、黒は要件を聞いてきた。

「あ、それでですねー。マクロさんが黒い武器が欲しいっていうんで連れてきたんですよー」

マクロだけに黒。

「マクロ・オーム」

急に低いトーンで黒に話しかけられた。なんか怖い。一応きき返す。

「はい?」

「君も、君も黒が好きなのか!?」

トーンが急に跳ね上がって驚きを隠せない。

「ま、まぁ」

「そうかそうか。黒は何者にも消せないからな‼︎全ての色の頂点に君臨するのが黒だ‼︎白も白でいいのだが、白は何かに染まりやすい特性があるからな。よって黒が1番だな‼︎」

早口で喋りだした黒の対処に困り、オレンジに助けを求めようと思い目を向けると、スカートのひらひら部分をいじっていて、こちらに目を向けない。どうやら自分で対処しろということらしい。

無理があるだろ‼︎

「う、うん。激しく共感するよー」

くそっ!感情がこもらない!

口から出た言葉はスカートのごとくひらひらと薄っぺらいものになった。

「そうだろうそうだろう!久しぶりの共感者だ!」

が、しかしそんなことは気にもとめず、黒は新たな仲間が増えた喜びに酔っていた。

「この話をすると、初めて来た客は無言で帰ってしまうからな。少し悲しいんだよ」

黒は目頭を押さえ、床に視線を落とした。

しかしすぐに過去の悲しみを乗り越えた黒は本題に入った。

「で、どんな武器が欲しいのだ?」

「えーと戦闘服の上下と、短剣が二本欲しいな。予算は12500ミル」

「わかった。ちょっと待っていてくれ」

そう言って、黒は奥の扉の中に入っていった。

家には武器という武器がない。魔王家だからなのだろうけど、武器に触ったことはこれっぽっちもない。今までは魔法や体術で魔物から身を守ってきた。まぁ襲ってきた魔物も雑魚ばっかりで、魔法で瞬殺できるものばかりだったのだが。これからは魔法が効かない魔物やらなんやらがでてこないとも限らない。でてきたからといって、いちいちムーちゃんを召喚していたらきりがない。

というわけで、これからは武器で戦おうと思います!

ちなみに魔族も魔物に襲われます★

がちゃっとドアノブが回って黒が出てきた。その両手には黒い剣が握られていた。

「12500ミルで武器に当てるのが7500ミルだとするなら、この辺がいいと思うんだが」

黒は右手を上げる。

「こっちは★15」

黒は続いて左手を上げる。

「こっちは★18」

言い終えると2つの剣を長机においた。

よくよく見ると剣の長さが微妙に異なるらしい。

「2つで、8000ミルでどうだ。ポーチもつける」

「買います!」

そう言ったのは僕ではなくオレンジだった。

「ちょっと待って、それは僕が決めるんじゃないの?」

「いやー買いですよーお得ですよーそれにかっこいいですよー買うしかないでしょー」

ぐだぐだと購入を強制してくる。

「じゃあ買うよ」

これは決して流されたわけではない。事実この剣たちはかっこいいのだ。

★15の方は★18より、みじかく拳4つ分くらいの大きさだ。剣全体が直線だけで構成されていて、とてもシンプルになっている。★18の方は拳2つ分ほど長い。そして★15とは対象的に柄は手に沿うように緩やかにカーブを描いており、刃は瓢箪のようになっていた。

「名前は決めないのか?」

黒が聞いてきた。

「名前?」

「あぁ、こいつらは世界に1つだけだからな、基本的にそういう武器には名前をつけるものなんだ」

「そうなんだ」

名前か…悩むな。

あ、そうだ。オレンジにつけてもらおう。

「じゃあ、オレンジ決めて」

オレンジは急に話を振られて驚きつつも、

「わ、私が決めていいんですかー?」

謙虚な姿勢を示した。

「うん。オレンジが紹介してくれたんだしね」

「じゃあ決めますよー?んーと、まっすぐな方がー【バク】で、グネグネの方がー【アラム】で‼︎」

き、規則性がないだと!

でも、呼びやすいからいっか。

「わかった。そうする」

「こっちがバクでこっちがアラムだな。ちょっと待っていろ」

そう言って、黒は奥の作業部屋に入っていった。


少しして、黒が出てきて【バク】と【アラム】机の上にトンッと置いた。その2つの剣の刃には、【バク】【アラム】と、名前が刻まれていた。

「おぉぉぉぉ!感動ですね!ね?マクロさん!」

「う、うん」

やはり、人の剣を作る技術は魔族の上をいっている。単純に戦闘能力の差から来ているものかもしれないが、きっと、もともと芸術性が高い生き物なのだろう。

「気に入ってもらえたか?」

黒が少し不安げな顔で聞いてきた。

「うん。すごく気に入ったよ。大事にさせてもらう」

そう答えると、黒はほっとした顔になった。

「それはよかった。切れ味が悪くなったら、また来てくれ」

「わかった」

支払いを済ませて、外に出ると空はもう真っ暗だった。

「もう真っ暗ですねー。もう帰りますかー。そういえば、マクロさんはどこに住んでるんですかー?」

「普通に部屋を借りてるけど?」

借りているというか、一戸建てを貸し切っているのだが、それは伏せておくほかない。

「へーまた今度お邪魔させてくださいねー」

「また今度ね」

たぶん家に来ることはないだろう。そう願いたい。

「マクロさん、また明日ー!!」

「うん。また明日」

明日もまた、クエストを受けにオレンジに会いに行くのだ。次の日も、そのまた次の日も、会いに行くのだろう。

自分の人生の目標はなんだっただろうか。

そんな人生最大の疑問が頭に浮かんだ。

でも、今考えることでもないかな。明日にでも考えよう。

そう思い帰宅の途についた。

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