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はじめのクエストくらい1人でできるもん

「はい。確かに受け取りました」

薬草箱を渡して、クエスト達成証を受け取る。今いるクエスト案内所は、ミナルの案内所ではない。隣町の案内所だ。

どこの町でも、案内所は設置されているそうで、クエストを受注できるようだが、報酬は首都ミナルでしか受け取れない。報酬を受け取れるのは早い者勝ちで、報酬が良いクエストなどは、多くの冒険者が受注しクエストクリアの速さを競い合うのだという。

この町はヤナルダというそうだ。

とても小さな町で、住んでいる人も100人ほどだ。

さて、クエスト達成証も貰ったし、ミナルに帰るか。

小さい酒屋の様なクエスト案内所の出口に向け歩き出した時、出入り口の扉がドンッと大きな音を立てた。

驚いて振り返ると、案内所のお姉さんも驚いている。もう一度扉を見ると、扉?近くね?扉が外れて飛んできていた。

バコッ‼︎

扉は僕の頭に直撃した。

幸い角じゃなかったから、そこまで痛くない。それより、誰だ?扉飛ばしたやつは。

扉を壁に立てかけて、扉のあった方を見ると、金髪の人間が一人、倒れている。

あ、起き上がった。

ゆらゆらと起き上がった人間(男っぽい)は、うつむいて、ふらふらと僕に向かって歩いてくる。近くまで来て、僕の両肩をガシッと掴むと、顔を上げた。人間は目から涙をボロボロこぼしていた。

「ま、まもにょのちゃいぐんがぁせめてきみゃしたぁ」

人間は喋ったが、呂律が回っていない。

何を言ってるのやら。

そこへ、案内所のお姉さんが駆けつけて、翻訳してくれた。

「魔物の大群が、攻めてきたそうです。でも、おかしいですね。ここら辺は魔物は出現しないのに…」

そう言われればそうだ。ミナルからここまで、歩いて30バム(60分)はあるのに魔物には出会わなかった。

「冒険者さんは、魔物の様子を見に行ってもらえますか?倒さなくても結構です。様子を見るだけでいいので…」

「あのさ〜、それって、倒したら報酬はでるの?」

「え?まぁそれは…でも、まだあなた新人ですよね?絶対無理ですよ‼︎魔物の強さにもよりますが、大群と言えるだけの数があるはずです。最低でも、黄の冒険者10人は必要ですよ‼︎」

報酬でるのか‼︎

「でるんだったら、行くわ。町の人も困ってるだろうし」

「え?ちょっと待って」

ずっと肩を掴んでいた、人間の手を払って、出口から外へ出る。

耳を澄ませて、魔物の足音が聞こえるかどうか探る。

あっちか。

僕は北に向かって走り出した。


町の外に出ると、遠くの方に砂埃が舞っているのがわかる。

数的には、100匹くらいかなー?

あの数でこられたら、町の人はひとたまりもないだろうな。

もう町の人の避難は完了してるかな?

「取り敢えず、倒すか」

魔物の大群との距離が1ギャン(1キロメートル)を切った時に右手を空に掲げる。

「我に仕えし魔の竜よ。今、我が元に舞い降りて…あれ?なんだっけ?舞い降りて…もういいや。召喚‼︎バハムート‼︎」

多少グダグダでも召喚はできる。たぶん。

久々だなぁ。この感じ。なんか、少し腕が軽くなるんだよなー。力が吸い取られるっていうかさ。

目の前の地面に、紋章のようなものが浮かび上がって、そこに赤い光が降り注ぐ。

バサッバサッ

上を見上げると、翼の生えた巨大なバハムートがゆっくりと降りてきていた。

バハムートは赤い皮膚をまとい、長い尾と黒い爪が生えた腕を4本、そして、とてつもなく大きな翼を持っている竜だ。

バハムートは空中で方向転換して、僕の顔を見つめてきた。クリクリした黄色い目はとても綺麗だ。

「魔王様〜召喚はちゃんとしてくださいよ〜。ちょっと出にくいんですよ。で、なんのようですか?」

紹介しよう。バハムートのムーちゃんだ。

「ごめんごめん。えーっと、ムーちゃんさ、あそこの魔物パーッと倒せる?」

「え?お安い御用ですよ。じゃ、ちょっと行ってきます」

「いってらっしゃーい」

ムーちゃんは、羽ばたくとあと500キャン(500メートル)ほどに迫った魔物の大群に一瞬で近づき、口に何やら光の塊のようなものを作り始めた。が、突如光の塊作りをやめて、こちらに向かって飛んできた。前脚に何かを持っているようだ。僕の前で急停止して、しゃべりだす。

「魔王様。なんか、こいつが話したいことがあって言うんですけど」

「ん?なに?」

よくよくムーちゃんの前脚に掴まれている物を見ると、魔物だった。俗に言うゴブリンというやつだ。棍棒を持っている。

「ギャーギャーギァァ‼︎」

「ムーちゃん。何言ってるのかさっぱりなんだけど?」

「あ、魔王様にはわからないのでしたね。訳しますと、人間が、俺らの洞窟から宝物を盗んだから、取り返しに来た。ということらしいです」

「よくわかるな」

「はい。僕も一応、魔物っていう分類なんで」

「そうなんだ。で、その人間ってのはどんなやつなの?」

「ギィャー」

「金髪らしいです」

「金髪?心当たりがある」

そう。あの、扉をぶっ飛ばしたやつだ。

「ちょっと探してくるから、その子たち引き止めといて」

「はーい」


クエスト案内所に戻ると、床で寝ている金髪の男がいた。お姉さんに介護されているらしい。

「冒険者さん‼︎魔物はどうなりましたか?やっぱり無理ですよね」

「無理じゃないんだけど、ちょっとね。それよりこいつ借りてくよ」

「え、ちょ、まって」

戸惑うお姉さんは置いといて、男の胸ぐらを掴んで、持ち上げて担ぐ。

「まってって言ってるでしょ‼︎」

お姉さんがキレだしたので、走って逃げた。


「はぁーはぁーこいつであってるのか?」

ゴブリンの前に金髪の男を投げ出して聞く。

「ギャー」

「あってるらしいです」

「そうか」

なら、後はこいつを起こすだけだな。

「おーい。起きろー。お前が引き起こした災厄だろー。自分でどーにかしろよー」

「んんにゃろー」

男が喋った。

「おーい起きろって」

「ばきゃやろぅ」

「こいつ殴っていいか?」

「どうぞ」

拳に全身の体重を乗せて男を殴る。

メキメキッ

顔面の骨が二、三本折れたような音がして、男が飛んでいく。男はズザァーと顔面を地面に擦り付けて止まると

「いっっってぇーーー‼︎」

世界に届け‼︎俺の声‼︎とばかりに声をあげた。

「おい。お前、こいつらの洞窟からなんか盗ったのか?」

「は?なんの話?うわぁぁぁあ‼︎ドラゴン‼︎」

ムーちゃんを見て驚いたようだ。

「おい。話を聞け。そのドラゴンが持ってるゴブリンの洞窟からなんか盗ったのか?」

「え?魔物の洞窟?もしかしてこれのこと?」

そう言って、男が取り出したのは黒い球体だった。

「これ、綺麗だから拾ってきたんだよ。でも、これ持ったら途端に魔物の量が増えてさ。全速力で逃げてきたわけよ」

「事情はわかった。お前それ、あいつに返せよ」

「嫌」

即答!?

「もう一発殴ってやろうか?」

「ギャー」

「やっちまえ‼︎だそうです」

「これ金になると思うんだよね」

「てか、それなんなの?」

「ギャーギャーギァァ‼︎」

「俺の親父の金玉って言ってます」

……………………………………………。

「じゃあいらない。返すわ」

渡されたゴブリンの金玉は意外と重かった。

「じゃあなー」

男はそう言って、走り去っていった。

「なんだったんだあいつは」

「ギャーギ」

「早く返せ‼︎だそうです」

「わかったよ。ほいよ」

手渡しで金玉を渡す。

「ギ」

「ありがとうって言ってます」

「宝物は返したんだから、あの大群引き連れて帰れ」

「ギャーギャー」

「こいつ送り届けてきます」

ムーちゃんが魔物の大群にゴブリンを返すと、ぞろぞろと来た方向に帰って行った。

「金玉が宝物ってどんなだよ」

「そうですね」

「ムーちゃんおつかれ。帰っていいよー」

「了解です。では、さようなら」

ムーちゃんは空に帰って行った。


案内所に戻ると案内所のお姉さんが、奇跡でも目の当たりにしたような顔で、迎えてくれた。

「どうやって倒したんですか!?」

「倒したっていうより、帰したって感じ」

「土にってことですか?」

「違う」

「まぁいいです。町の人と話し合って、報酬金額を決めるので、ちょっと待っててください」

「はーい」


10バム後


「2万ミルでどうですか‼︎」

意外と高額‼︎

「うん。それでいい」

「ではこれをどうぞ。これをミナルの案内所に持っていけば、お金と交換してくれます」

そう言って渡されたのは、クエスト達成証より2まわりほど小さい紙だった。

それを丁寧にしまう。お姉さんに礼を言って、案内所の外に出ると町の人で溢れかえっていた。

「ありがとうございます‼︎」

町長らしき一人の男が前に出て来て、頭を下げた。

「ありがとうございました。あなたのおかげで、わたくしたちは死ぬこともなく、町の建物が壊されることもありませんでした。あなたがいてくれたおかげです。これからは、町をあげてあなたを支援していくつもりです。本当にありがとうございました」

「別に支援とかはいいよ。お金ももらったし、ただ、次にこの町に来る時までに、案内所の扉をちゃんと治しといてね」

「「「はい‼︎」」」

大音量だな。

「あのーすいません。わたくしども、まだあなたのお名前を存じ上げてございませんでした。できれば、お名前を…」

「あぁわかった。僕の名前はマクロ・オーム。これでいい?」

「マクロ・オーム様ですね。ありがとうございます」

「じゃ、ミナルに帰るわ」

「はい。お元気で〜さようなら〜」

町の人々の声を背中に受けながら歩く、ミナルまでの帰路は達成感に溢れていた。

何を食べようかなー。

新しい防具とかも買おうかなー。

2万ミルだしなぁ〜。

はぁーー。


夕日に照らされた草原にたたずむ黒いマントを纏った少年は、自分の足が地面についているのを確かめるように、大きな一歩を踏み出したのであった。

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