勇者への一歩
2代目魔王人間族の首都に殴り込み‼︎
魔王城の城下町でそう囁かれていたのは昔の話。
「おぉぉぉぉ‼︎ここがミナルか‼︎おっきいなぁ」
思わず口に出してしまった。
僕が今いるのは、アダン国の首都ミナルだ。家から、大体歩いて100日くらい?グリフォンで飛ばして、3日くらいのところにある。
やっぱり、人の往来が激しくて苦手だな。
「魔王様〜‼︎」
と、叫びながら走ってきた奴を殴る。
「馬鹿野郎‼︎人にばれちゃいけないんだろ‼︎」
「は、はい。すいません」
「で、何の用だ?」
「あのですね〜。ここ何十年か首都ミナルを見つけることができず、ずっと彷徨っていた私共でしたが、ついに、ついにミナルに来ることができましたーー‼︎」
もう一発殴る。
「端的に言え、端的に」
「はい。それでこれからどうすればよろしいのかと、思いまして魔王様に聞きに来た次第でございます」
「あぁ。言ってなかったな。お前はもう帰れ」
「はい?ここまで付き従って来た私に帰れと申すのですか?」
「うんそうだ。帰れ」
「ですが…」
「帰れ」
「わかりました」
「それでいい」
「ですが、一つお願いが…」
「なんだ?言ってみろ」
「自己紹介をさせていただいてもよろしいですか?」
「誰にだ?僕はもうお前を知っているぞ?」
「まぁ、いろいろあるのですよ」
「そうなのか?」
「それでは…私の名前はミラ・ハワードでございます。種族は、まぁ魔族なのですが、グリフォン族でございます。今まで、魔王様の手となり足となり、支えてまいりましたが、ここで魔王城へ帰還しなければなりません。皆さんどうもありがとうございました‼︎」
「………」
「魔王様、私の用はすみましたので、魔王城に帰還いたします。あ、弟様になにかお伝えすることがあれば、私にお申し付けくださいませ」
「ん〜。そうだなぁ。頑張れって言っといてくれ」
「かしこまりました。それでは」
ハワードは一礼すると、どこへともなく去って行った。
「ふぅー。さてどうするかな?」
ハワードを帰らせたはいいものの、何をするのか決めていない。
「まずは、装備かな?」
商店街に入って武器屋を探す。
意外とすぐに見つかり中に入る。
「いらっしゃい‼︎何をお探しですか‼︎」
ごついお兄ちゃんが元気よく挨拶してくれる。店の壁には剣やら斧やらいろいろ立て掛けてあって、怖い。
「えーと。黒いマントとかってあるかな?」
「マントっすか?それなら、これはどうですか?」
と、お兄ちゃんが渡してきたのは、僕の体をすべて覆い隠すような、大きいマントだった。
「これなら、10ミルで売れるけど」
それくらいの金なら持っている。
今の僕の所持金は400ミル。
家には数え切れないほどの金があるが、旅に持ってきた金は、ここまででほとんど使い果たしてしまった。
10ミルをわたして、マントを受け取る。
マントを着ると、
「あんたは黒髪だから、黒いマントが似合うね‼︎武器は要らないかい?今なら、★4くらいのを500ミルくらいで売るけど?」
★というのは、人間が勝手につけた武具の価値で、★数が多いほど希少なものとなっていく、★の鑑定は国がしており、手数料は無料らしい。
★4か。★4は下の中くらいの、言うなればそこまで強くない武器だ。
「別にいらない。それより、この辺で冒険者とかに仕事与えてるとこ?ってどこにあるの?」
「クエスト案内所のことか?それなら、店を出て左の突き当たりにあるぞ」
「わかった。ありがとう」
クエスト案内所の中は、とにかくうるさかった。鎧と鎧がこすれる音。喧嘩をしているのだろうか、喚き散らす人間もいる。広間のようになったところに、大きくて丸い机が等間隔に置かれており、冒険者たちがたむろしている。
それを無視して突き進むと、カウンターのようなものが見えてきた。
赤、黄、青と鮮やかな色の帽子をかぶった女が3人立っていた。
赤の人に声をかける。
「おねいさん。クエスト案内してよ」
おねいさんは、僕の方を見ると
「クエスト受注は初めてですか?」
と、笑顔で聞いてきた。
「うん」
「それでは、青色の帽子をかぶった女性にお話しください」
と、終始笑顔で受け答えをするおねいさんは綺麗だった。
気を取り直して、青のおねいさんに声をかける。
「初めての方ですねぇー。でしたらぁー。冒険者登録が必要になりまぁーす。お名前をここにお書きくださぁーい」
青のおねいさんはとても軽かった。
渡された紙に名前を書いた。
丁寧に、魔王、と。
「魔王さんですねー……????本名をお書きくださーい」
しまった‼︎
「ごめんごめん。冗談だよ」
なんて、書こうかな?
マオウだから、マから始めよう。マ、マ、マ、マクロ‼︎
次はオウ?オウ、オウ、オー、オーム‼︎
「僕はマクロ・オームだ‼︎」
「別にー声に出さなくても結構ですよー」
「あ、うん」
次は雑にさっさと書いた。
「はいー。とうろくかんりょーしましたー。これで、あなたも今日から冒険者でーす。はいこれ」
なにかカードのようなものを渡された。
「これはですねー。冒険者証明書といって、自分が冒険者であること、並びに自分の冒険者としてのランクを証明するものになりまーす。ランクは色で階級が決められていてー、上から白、青、緑、赤、黄、茶、紫、黒となっておりまーす。今はあなたは黒ですねー。冒険者でいう雑魚ですねー雑魚。頑張ってください」
うざいな。
「わかった。ありがとう」
証明書をコートのポケットにしまう。
「ついでにここで、クエスト受注していきますかー?」
「できるのか?」
「はいー。もちろん」
「じゃあ、頼む」
「わかりましたー。これはどうですか」
カウンターの上にスッと出された紙を見てみると、クエストに関することが書いてあった。クエスト内容は隣町への薬の配達だ。
「これはですねー。討伐系じゃないので、楽だと思いますよー。おすすめですー」
薬か。人の役に立てるなら受けよう。
「じゃ、それで頼む」
「わかりましたー。これをとどけてくださーい」
そう言って、大きい箱を渡される。中を見ると、草だらけだった。
「あっちの町にもクエスト案内所があるので、そこでクエスト達成証をもらってくださーい。それをここまで届けてくれた暁には〜〜〜報酬がまってまーす‼︎では、行ってらっしゃーい」
報酬か、貰ったらちょっと良いもんでも食べようかな。
薬箱の紐を肩にかけて、クエスト案内所を後にする。
外に出ると、陽の光がまぶしく、とても気持ちよかった。
今、2代目魔王改め、マクロ・オームは勇者への道を進み始めた。
これからどんどん償いからそれていきます。たぶん。