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05-02 暴露

目の前にはオオカミ男。

そいつをルダイバーは『レニアの兄貴』と言った。

よく見れば、そいつは確かに全身が狼の―― 一人の黒狼族の姿だった。

そいつが、ゆっくりと近付いてくる。


「どうしたんだ、兄貴。ずいぶん長いこと姿を見なかったから国に帰ったと思っていたぜ」


カーティスがオオカミ男に話しかけた。

あのオオカミ男は俺も話に聞いたことがあるCランクの黒狼族のようだ。

もっとも、それは姿形だけだ。

レニアと呼ばれたオオカミ男の手には、あの映像と同じ大型の円形盾(ラウンドシールド)があるのだから。


「――――」


「兄貴?」


話しかけても、黙ったまま近付いてくるレニアに何かを感じたのだろうか。

カーティスが武器を持つ手に力を込めた。


「迂闊に動くな、カーティス。そいつはレニアじゃない、敵だ!」


一触即発。

敢えて俺は注意を促す言葉を口にする。レニアにも聞こえるように。

武器――盾だけど――を持つ手に力が入っていたのは向こうも同じだったからだ。


「――少しは事情を知っている者がいたか」


レニアだった者が俺を睨み付けるが、すぐに興味を失い視線を周囲に巡らす。


「だが、まずは――」


そう言って俺の背後にいる一人に目をとめた。


「――お前からだ、ダグラス」


そう言ったレニアの目は真っ直ぐダグラスを捉えている。


「その目……まさか、主なのか」


「ふん、脱走した割に覚えていたか」


奴の狙いはダグラス?

いや待て、主……脱走……聞き覚えがある。


「神隠しに実験…」


「ほう気付いたか、色々と知っているようだな」


「そうか、神隠しの実験は、異物である自分をこの世界に溶け込ませるための方法を模索していたんだな!」


「その通り。その成果がこれだ」


そう言ったレニアの全身に変化が現れる。

黒かった体毛は徐々に色が抜け落ちて白に変わっていき、そして目は黒から紅に変化した。


「この世界の人間を――レニアを乗っ取ったのか」


「乗っ取るとは人聞きが悪いな。融合だよ。邪魔なので心を殺しはしたがね」


いけしゃあしゃあと抜かしやがった。それを乗っ取ると言うんだろうが!


「こちらにも色々と都合があってな。ただ融合すればいいという物でもなく、幾つも実験をしていたんだ。無論責任を取り、使った検体は全て廃棄するつもりだったのだが――」


そこまで言うと再びその目をダグラスに向ける。


「その前に脱走されてしまってね。そのままと言うのも無責任だろう? 片付けに来た――という訳だ!」


言いながら巨大な円形盾(ラウンドシールド)の縁を持って、そのままダグラスに叩き付ける。

俺の脳裏を、あの映像が過ぎった。


――潰される!


そう思った瞬間、アリスが動いた。


「“自在盾(フレキシブルシールド)”――“三重唱(テルツェット)”」


敢えて会話には加わらず、ここまで入念に準備していたのだろう、アリスが切り札とも言うべき守りを発動させた。

本来それぞれが別個の対象を守る術だが、それを全てダグラスの守りに充てたのだ。


「ぬ」


その甲斐あって、三つの盾はひしゃげながらもレニアの攻撃を受け切った。

受け止められたレニアは不満そうな声を上げる。


「ダグラスさえ処理すればと思っていたのだがな……面倒だな、纏めて始末するか」


レニアからの圧力が増す。

これは本気だ。こっちも本気で対抗しないとまずい。何よりコイツの狙いは――


「ダグラスは下がれ! 奴の狙いはお前だ!」


「ゼン!? し、しかし」


「カーティス、フォルダン、ルダイバーはダグラスを守れ!」


「は、はい!」


躊躇うダグラスを放置し、カーティス達を前に出す。問答無用だ。


「アリスは“自在盾”を維持、ラウとワイルドはダグラスの傍へ!」


「了解」


「はい、先生!」


「分かったぜ、兄ちゃん」


守りは固めた。ならば、攻めるのは――俺だ。


「“魔力相滅ペアリッシュ・ウィズ・イーチアザー!”」


充分な手応え。

どうだ、俺の全力の“魔力相滅”は――


「この力、この強度。そうか、貴様あの忌々しい小僧の化身か」


「!?」


だと言うのに、目の前のこの男には何の痛痒も与えていないようだった。

手応えは有った。なのに、効いていない!?


「どうした、棒立ちだぞ?」


動揺する俺を嘲るレニア。


「ふむ……だが、貴様は今この場で殺す訳にはいかん。命拾いしたな」


「それは、どういう意味だ!」


「貴様を先に死なせる訳にはいかないからだよ。我が先に死なねば計画は頓挫してしまう」


「ならば今死ね! ――“精神破壊(マインド・バースト)!”」


俺は十年ぶりに自分にもダメージを負う、この必殺技を使った。

躊躇はない。

恐らく使わざるを得ない状況になるであろうことは分かっていた。

俺の手には、ポンテールから渡された魔力回路(サーキット)の刻まれた精神感応金属(オリハルコン)が握られている。


刻まれた魔力回路(サーキット)はウィルデカットの造った遅延回路だ

神を殺した際の反動――過負荷を考えてであろう事は想像に難くない。


そう考えて、ほぼ同時に使用した“精神治癒リカバリーオブザハート“は遅延回路を通したところで霧散した。


「それも却下だ」


何故なら、“精神破壊(マインド・バースト)”の効果が発揮されなかったからだ。


「なんで……」


呆然となる俺。まさか、“精神破壊(マインド・バースト)”を防がれるとは思いもしなかった。


「一度死にかけた身だ。あの小僧に対する保険を掛けておくのは当然だろうに」


悠々とレニアが告げる。

そうだった。

こいつは以前ユスティスと戦って半殺しにされているんだ。この技――“精神破壊(マインド・バースト)”を知っていて、対策を取ってくるのは当然だったんだ。


「話の途中だったな。我が今死ねないのは何故か、だったな? それは、まだ準備が整っていないからだ」


準備だと?

俺の疑問に気付いているのかいないのか。レニア――便宜上そう呼ぶ――は話を続ける。


「この世界に溶け込んだと言っても所詮我は外様だ。この世界の有り様に沿った存在にはなれん」


レニアの言葉に、俺の脳裏に大切な三人の顔が浮かぶが、それに構わずレニアは続けた。


「この世界に生まれ落ちなければ、この世界の有り様に沿った存在にはなれんのだ。ならば、我はこのままこの世界で生まれ変わらねばならん」


「だから一度は死ななければならないというのか?」


我が意を得たりと満足そうな顔をするレニア。

だが、それはそう簡単にいく話じゃない。


「そりゃあ無理な話だな。この世界の神が、お前の転生を認める訳がない」


当然だろう。コイツは、この世界の神に生まれ変わって、それでハイ終わりってなるような奴じゃない。

この世界の神なら、コイツが死んだらこれ幸いと放逐あるいは封印するだろう事は目に見えている。


「そうでもないぞ? 何故なら、この世界の輪廻を司る神は不在なのだからな」


は? 不在?


「そんなバカな話があるか!」


「だが事実だ。この世界で輪廻を司るのは絶対神だが、今のこの世界にはその絶対神が不在だ」


その言葉を聞いて、俺は内心ホッとする。

コイツは知らないのだ。ユスティスが既に絶対神に昇格した事を。


「残念だったな。お前の企みは失敗する」


だから、つい言わなくてもいい事を口にした。


「ところが、そうでもない。くくく、いい気なものだな。貴様が原因だと言うのに」


「なんだと!」




『ジェス、いけない! これ以上彼の神の言葉に耳を貸さないで!』




突然レニアとの会話を遮るようにセレ姉の声が頭に響いた。


「セレ姉?」


「ほう、弱体化した()絶対神の登場か?」


セレ姉の存在に気付いたのか、揶揄するようにレニアが言った。


「恨むのなら、そのバカを恨むのだな」


「セレ姉をバカにするのか!」


「そもそもの発端は我ではなく、そいつだろうに」


そんな事はない。

例えそうであっても、コイツが侵略してこなければ何も問題はなかった筈だ。


「――貴様は神ではない。唯の化身だ」


「それに何の関係がある!」


『ジェス、お願いよ。その言葉に耳を貸さないで!』


「つまり、貴様の力の源は、あの小僧だ。貴様が月の神の化身として在るためには、あの小僧も月の神としての力を持っていなければならない」


「それは……」


確かにそうだ。

今まで何の疑問も持たずにいたけど、ユスティスは夜の神に――絶対神になったんだ。なのに、なんで俺は月の神の化身のままでいられるんだ?

ユスティスは俺に月の神を継いで貰うと言った。なら、それはいつからだ?


『ジェス! 考えてはダメ!』


「貴様を月の神として独り立ちさせるまで、あの小僧もまた月の神で在らねばならない」


俺が月の神になるまで…?


「貴様の月の神の力を維持する。ただそのためだけに輪廻を司る筈の能力をそれに充てているのさ、あの小僧はな。ははは、バカな奴だ!」


「なん…だと…」


「そして、肝心の貴様が神になるための方法だが――」


『ジェス! いけません、本当にこれ以上は!』


「我と同じだよ。死んで転生すればいいのだ」


死ぬ…?

俺が死ねば、月の神に転生するって事か?


『ジェス!』






「但し、自殺以外の方法でな!」






『ああ…』


セレ姉の声から力が抜け落ちる。そんなに落胆するような事か?

自殺以外の方法で死ねばいいのなら、今と何も変わらないだろ。


「本当なのか、セレ姉?」


『…はい、先ほどまではそうでした。そして、これでもう寿命による死しか適わなくなってしまった…』


「え、なんで?」


『自殺がダメだと、あなたが知ってしまったからです』


え、なに、どういうこと?


『あなたは怪我では死にません。普通なら即死するような怪我でも、あなたなら再生してしまう』


それは知っている。化身になった後、色々実験していて気が付いた。


『自ら再生を止めれば、それは自殺と同じです』


「あ」


『誰かを庇うのも同じです。その行為が死に繋がると理解してしまったなら、それは全て自殺と見做されてしまうでしょう』


そういう事か、これがレニアの狙いだったんだな。

俺の興味を引くネタで会話を続け、俺に寿命以外の死を選択できなくさせる。

だからセレ姉はあんなに必死に止めようと…


『自殺がダメだと知ってしまった以上、あなたが神に昇華するためには寿命で死ぬしかなくなってしまったのです』


「だ、だけど、神に成れなくても、俺が死ねばユスティスは俺に回していたリソースを本来の輪廻の制御に戻せるはずだろ!?」


そうだよ、俺が神に成れなくなるだけで、何も問題はない。


『あの子に、あなたがただ死ぬ事を見過ごせるはずがないでしょう?』


ああ…過保護だもんな、あいつ。


「俺は、まんまとコイツの罠にかかったって事か」


悔しいが認めざるを得ない。俺の性格を研究してやがる。

いや、俺だけじゃない。ユスティスと、この世界の状況すらも把握している。

コイツは本気でこの世界の神になろうとしている。






 

実は目をやってしまってPCのモニターを眺めるのが辛いです。

治るまで更新のスパンが開いてしまいますが勘弁して下さいませ。

 

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