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04-02 真意

さて、ギルドを抱き込んだところでやる事がある。

この緩衝地帯は星の神々の領域と言っても獣人ばかりだ。

俺が知りたいのは“妖精の雫(フェアリードロップ)”の事。つまり妖精族の国はどこにあるかって事だ。


「ここのギルドなら少しは情報があるかもと思っていたんだがなぁ」


緩衝地帯とは、ほぼ全ての獣人族が集まる場所。妖精族は来なくとも、妖精族と付き合いのある獣人はいるだろうと思っていたのだ。

結果は惨敗だった。何一つ情報らしきものがない。

蔵書の中には妖精族の国どころか、妖精族の事すら書かれた物がないのだ。

アンビエンスに確認を取ったが、過去この緩衝地帯に妖精族が現れた事はないそうだ。

“妖精の雫”に至っては、アンビエンスすら初耳という為体(ていたらく)だった。


「早くも行き詰ったな」


早すぎんだろ。まだ1ミリも進んでねえっての。

一瞬、眉唾かとの考えが頭の片隅を過ったが、情報源はセレ姉なのだ。

もう疑いたくない。もうセレ姉にあんな寂しい顔はさせないと改めて誓う。


「何か見落としている事があるはずなんだ」


闇雲に出かけて偶然にもそこへ行き当たるなんて考えられない。

何某かの情報――それもできるだけ信憑性の高いもの――を得てからでなければ出発できない。


ラウを鍛えつつ、情報収集に明け暮れる日が暫く続いた。







待ち望んだヒントは意外な所から齎された。

夜に嫁――もう開き直ってそう言っちゃう――とのイチャラブを終えて眠りについた、その後の事。


『やあ、久しぶりだね』


「本当にな」


こんなタイミングで来るとは、こいつまさか出歯亀やってないだろうな。

ふとそんな事を思い付いた。


『嫌だなぁ、僕にそんな趣味はないよ』


丸聞こえだった。


「それは済まなかったな。で、何の用だ?」


その返答に、ちょっと安堵しつつ用件を聞く。


『うん。ちょっと報告とお願いとヒントをね』


「またいつもと違って要件が多いな」


『君にとっても他人事じゃないからね』


「ほほー、と言うと?」


『僕は“夜の神”になったんだ。眷属たちの頑張りのお陰でね。君の功績もあるよね。ありがとう、助かったよ』


何の事やら訳が分からなかった。


「別に前から“夜の神”だったろ? 以前、そう聞いた覚えがあるぞ」


『それが実はちょっと違うんだ。以前の僕は詳しく言うと“夜と月の神”だったんだよ』


「そこにどんな違いがあるのか分からないんだが」


『月とは夜を象徴するもの。そこには昼――太陽との対比が込められているんだ』


それは分かる。


『太陽に対しての月。昼に対しての夜。これまでの僕は姉さんに付随した存在でしかなかったんだ』


それも分かる。だけど――


「それが今とどう違うんだ?」


『では逆に聞こうか。夜とはなんだい? 君の持つ知識で言葉にしてごらん』


と言う事は、今聞いたのとは別の言葉で表せってことだよな。

俺の持つ知識。態々そんな言葉を持ち出すって事は、日本――地球の知識を使えってことか…

ん? 地球?


「えーと……夜とは惑星に於いて陽の当たらない側の事」


『そうだね。陽の光――太陽は生命の誕生に深く関わっている。それ故に人は太陽を中心に物を考える節がある。だけど、視点をもっと大きくしてみれば――』


「太陽は宇宙の極一部、と言うか一点だよな。そして昼とは惑星上だけの現象だ。対して夜は――宇宙その物」


ユスティスは満足気に頷いている。


「お前、絶対神になったのか」


『その通り。正解だよ』


「それは、おめでとう。ところで眷属の頑張りとか俺の功績って何の事だ」


『もちろん、迷宮攻略の事だよ。君も含めた眷属が攻略を進めて発展を遂げたお陰で僕は神の位階を昇ったんだから』


え、そうなの?


『言ってなかったかな。そもそも迷宮攻略による眷属の発展は神の代理戦争という側面を持つんだよ』


「それは前に聞いた」


『でも、そこに僕らへの特典がなければ神々は誰も従わないよね?』


「…確かに」


言われてみればそうだ。自分の得にならない事を誰が好き好んでやろうと言うのか。

それが過保護な姉の弟贔屓のために、なんて理由であれば尚更だ。


「セレ姉が諸神にまで格を落したのは、せーの!でスタートを切れるようにって意味もあったのか?」


『そうだよ。よく分かったね』


バカにしてんのか、この野郎。


「でもアレだな。なんかお前が絶対神になりたくて頑張るって違和感しかないんだけど」


『さすが僕の化身だね。よく分かってるじゃないか』


今のは皮肉で言ったんだよ!


『初めはね、絶対神に成りたがる他の神々(れんちゅう)を高みから見下すためって意味合いだったんだよ。鼻で笑ってやろうと思ってね。絶対神にならない程度に差を付けて遊んでいたんだ』


「今更だけど、色々酷ぇな」


『そうかい? でもね、そうしている内に奴が現れた』


奴?


『もう忘れたのかい? 外界の神(アウターゴッド)の事だよ』


ああ、アレか。


『奴がこの世界に現れたのは偶然じゃないんだ。絶対神不在のこの世界は酷く不安定でね、奴からしたらいい鴨に見えたんだろう』


「だから絶対神になる事を急いだのか」


この世界を守りたくて単身戦いを挑むくらいだもんな、こいつは。


『でも、一足遅かったみたいだ』


…何だって?


「今なんて言った? どういう事だ!?」


『奴は僕の感知から逃げ延びた。まだ生きている』


まさか!?


「おい! 放っておけば死ぬって話じゃなかったか、おい!?」


『奴は、この世界に食い込む事に成功した。その上で自分の存在情報を書き換えているみたいだ。僕にも奴の居場所が特定できない』


「――倒さないと拙いんだよな?」


『もちろんだよ』


「どうすればいい?」


『僕にも居場所が特定できない以上、この世界の記録情報を洗い出すしかないね』


「そんな事ができるのか!?」


『世界樹ならこの世界の全てを記録しているよ。だから君には世界樹の巫女に会って欲しいんだ。それで道が開ける』


「そうか、まだ間に合うんだな。それで、その世界樹はどこにあるんだ?」


『妖精族の国にあるよ。巫女は代々妖精族の誰かが交代で務める事になっているはずだからね』


「その妖精族の国がどこにあるか分からないんじゃ、ボケぇええええ!!」


長々と話を聞かされた挙句、問題が一番最初に戻ったわ!


「そこまで言うなら、妖精族の国がどこにあるか教えろって話だよ、まったく」


誰も知らねーんだもん、これがさ。


『うーん…教えるのは構わないけど、それじゃ上手くいかないよ、きっとね』


「なんでだよ」


『誰も知らない。分かる人がいない。それがどんな意味を持つか、よく考えてごらんよ』


言われて、ちょっと考える。

こいつがこんな言い方をするって事は、俺は答えを知っているって事だ。ただ気付いていないだけ。


『そういうメタな考え方は、よくないと思うなぁ』


苦笑しながらユスティスが言う。つまり、この考え方で間違ってないって事だ。


誰も知らないと言う事は? 知っていて隠しているということは考え難い。秘密は隠しておける物ではないからだ。

なら、隠しているのでなければ……本当に誰も知らない。つまり、誰も会った事がないって事だ。

ギルドで調べた時から思ってはいたんだ。余りにも情報がなさすぎるこの状況は――


「やっぱりそうか。こっちと全く交流がないって事だな?」


『そう。彼らにとって、本当に仲間だと言えるのは、同じ妖精族だけなんだ。彼らの神に招待されて来たというならともかく、僕の指示で来たなんて言っても誰も相手にしてくれないだろうね』


「八方塞がりじゃないか。くそ、難問だな」


『とにかく、何でもいいから切欠を見付ける事だね。そうすれば、それがヒントになるはずだよ』


切欠にヒントか。

そうか、俺は答えばかりを追いすぎていたのかもしれない。

視野を広く持って、違和感を感じるようにするべきだったんだ。例えば獣人の領域には無い筈の何か。それがきっと道を切り開いてくれる。


「それはそうと、何だっけ。お前の要件って報告とお願いとヒントだったか? これで全部か?」


報告は絶対神になったぞーって事とヤツが生きてるぞって事だろ?

お願いは世界樹の巫女に会って奴の居場所を突き止めろ、だよな。

ヒントは…今のか?


『何で君はそうやってすぐ僕を追い返そうとするかなぁ』


「何だよ、まだ何か話したい事でもあるのかよ」


『姉さんにばっかり甘えて、僕には甘えてくれないのは理不尽だと思うんだよね』


甘えて欲しいのかよ!?


『いきなり甘えていいよって言われても君も照れ臭いだろうから、まずはお話でもしようよ』


誰も照れてねぇよ!







『僕が“夜の神”になった事で“月の神”の座が空位になるんだけどね』


結局話はするのかよ。


『君にはその席に着いて貰おうと思っているんだ。というか、もう決定だけどね』


「事後承諾じゃねぇか」


“道化の神”じゃなくなるなら何でもいいけどさ。

中身はともかく、字面が酷過ぎるんだよな、この肩書きって。


『本当はね、“月の神”だけじゃなくて、眷属も任せようと思っていたんだよ。でもさ、確かに混血たちにも神の庇護は必要なんだ』


混血は人間と他種族が交わり生まれる。身体に獣部分がある獣人より、外見上に違いの無い魔族との間に生まれる混血の方が圧倒的に多いのが実情らしい。

ユスティスとしちゃあ、眷属の血を引く混血が庇護を受けないまま放置されている現実に忸怩(じくじ)たる思いがあるのだろう。


『だから、変わらず魔族は僕が治めるよ。君は混血達を助けてあげてね』


「へいへい」


それは俺も異論はないから別に構わないよ。


『それで、君は次代の“月の神”になる訳だけども、道化の属性はそのままだからね。“月と道化の神”になるよ』


うおぉい!?


「道化は無くならんのか!?」


どれだけ俺を道化扱いすれば気が済むんだよ!? 泣いちゃうよ、俺ぇ。


『そうは言うけど、道化の属性は便利なんだよ? 普通は神に昇華したら眷属以外には俗世への関与は許されなくなるんだ。でも道化の属性持ちだけは、それが無くなるんだよ』


「え、まじ?」


そんな便利機能が付いてたのか、この属性。


『うん。俗世に関わりまくりだね。大人気間違いなしだよ、かっこいー』


絶対バカにしてるだろ、お前。


『まじめな話をするとね。道化という属性には隠された意味があるんだよ』


「と言うと?」


『自由』


は?


『道化という言葉に隠された真意さ』


「なんでそうなる?」


『道化とは傍観者のことだよね。事象を観察し、それを表現、または皮肉る事で笑いを取る。そこに主観はないじゃない?』


「一つ足りない。そこには観客の共感が必要だ」


でなければ引かれるだけ。笑いを取るどころか場を白けさせるだけだ。

この場合、観客とはそこに住む人々の事なのだろうから。


『そうだね。でも、だからこそなんだ』


ますます訳が分からなくなってきたぞ。


『傍観するだけでは、ただ世界から切り離されただけの存在だよね。そうではなく、世界に関わりを持ちつつも自由である者。それが道化という言葉に込められているんだよ』


何だか、ただの言葉遊びに聞こえるんだが。


『傍観者であり、また当事者でもある。この世界で生まれ、別の世界で育った君だけが持つ属性なんだよ。そんな君に、僕も姉さんも期待しているんだ』


だから重すぎるんだって、お前らの思いはさ。


『ごめん、ごめん。それは僕らの勝手な押しつけだから気にしなくていいよ。君は君のやりたいようにやっていいんだ』


へいへい。それくらいなら、まぁいいよ。







 

という事でユスティスとの会話回でした。

気楽に書けて、しかも書いていて楽しい。

 

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