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03-21 告白

 

『さて、ではそこの二人にも何か褒美を取らせねばな』


「え!?」


「へっ!?」


今度はダグラスとワイルドが吃驚仰天している。そんなに驚くところか?


「…自分はいいです。もし、それでもくれるというのなら、自分の分までこの子にあげて欲しい」


そう言ってダグラスはワイルドを押し出す。


「に、兄ちゃん!?」


『ふむ』


少し考えた後、バイウーがワイルドに提案した。


『少年よ、我は永きに渡り迷宮の虜となっていたため酷く衰弱している』


「は、はい! お話は聞いていました!」


さすがのワイルドも、自分達の種族の神様相手だと畏まるらしい。いつもの傍若無人ぶりが鳴りを潜めている。


『そこでだ。回復するまで、我を汝の内に棲まわせては貰えまいか』


「お、俺の中!? ですか」


ワイルド、お前(しゃべ)りがルダイバーみたいになってるぞ。


『然り。眷属の内こそ我には良き棲家なり。どうか?』


「よ、喜んで! 光栄です!」


『では、対価として“獣化”を与えよう。また、我が認めし者として、一族の名を名乗る事を我の名に於いて許し、またこれを与えん。これからはタイガーウィンドと名乗るがよい』


「え…ええええ!?」


いきなりの展開に付いて行けないワイルドが棒立ちになった。


「ワイルドっ!」


そんな戸惑うワイルドにラウが抱き着く。本当に嬉しそうだ。

コノヤロウ、虎の癖に粋な事するじゃないか。見直したぜ。

俺の心を読んだのか、バイウーがこっちを見てニヤリとする。


「ちっ、認めてやるよ。これで虎族の問題は片付いたってな」


多少気に入らないが、虎族にとって大団円なのは間違いない。

そんな俺にセレ姉が問いかける。


『ジェスは、これで良かったの?』


「ん?」


何が言いたいんだ?


『あの混血の子の事。ジェスが自分の眷属にする事もできたのに、これでいいの?』


ああ、そういう事ね。


「俺は別に眷属が欲しくてやってた訳じゃないよ」


これは紛れもなく本心だ。


「居場所のない奴なら受け入れる事も吝かではない。だけど、自分で居場所を作れる奴のそこをぶっ壊してまで引っ張り込むつもりはないんだ」


『そう。いい子ね、ジェス。お姉ちゃんは、あなたの姉であることを嬉しく思うわ』


ぎゅっ

なでなで


「うわっ! 何すんだよ、セレ姉!」


『いい子、いい子』


なでなで

ぎゅぎゅっ


「は~な~せ~」


『照れないで、じっとしていてね。よしよし』


結局、セレ姉の気が済むまで撫で繰り回された俺だった。


「チロぉおおお~」


その陰でアリスが唸っていたのは気付かないふりをした。全力で。







さて、こっちはこれでいいとして、だ。


「ちょっと護り手と話してくる」


幸い、サエとクミは巨人を殺さずにいてくれたしな。


「ちょ、ちょっと、大丈夫なの?」


「もうこの迷宮は俺の物だ。大丈夫、問題ないよ」


心配するサエにそう言い残して守護者の間へ戻ると、巨人の騎士は既に目を覚ましていた。


「事情は理解しているか?」


《概ね把握している、主よ》


「お前、喋れたのかよ!?」


反応からニュアンスだけでも解ればと思って話しかけたのに!


「ちょっとカミくん、何を急に大声出してるの?」


「気でも触れたのかと心配しちゃうよ~」


何気に酷ぇな、クミ。


「って、あれ? なんだ、付いてきたのか」


「だって、心配じゃない」


「そうだよ~」


「それより、チロはこの巨人と話せたのね?」


「ああ。アリスたちにはコイツの声は聞こえなかったみたいだな」


「ええ」


「うん」


「何も聞こえなかったわ」


《我には意思疎通する相手を選ぶ事ができる》


三人に続けて巨人が口を開いた。

ああ、そういう特性があるのか。

そういや、前の奴も声は出してたもんな。声ってか、あれは気合いだけど。


「お前の名は?」


《我が名はクルーガン》


やけにカッコいい名前だな、おい。


「じゃあクルーガンは、ここの護り手としての役目を続けてくれ。そのうち何か頼む事もあるかもしれないから、その時はよろしくな」


《承知した、主よ》


クルーガンは恭しく頭を下げる。

何だろう、そんな態度を取られると、俺が偉くなったような気になってくる。

気のせいだな、うん。俺はちっぽけな存在だよ。気が大きくなると失敗する小物だ。

分相応、それが一番。よし、大丈夫。


バカな事を考えていたら、三人が近寄ってきた。


「にしても、サエとクミはよくコイツを殺さなかったな。ちょっと感心したよ」


「それは、だって…ねぇ?」


「うん。あのドラゴンさんとだって話せたし、この人とも話ができるかもしれないって思ったらね~」


「やっぱり話が通じる相手を殺すのは気が引けるわよ」


なるほど、そういうもんか。


「私たちは見逃した事なんてなかったね、チロ」


「あー、まぁ魔国じゃ話せる魔物なんて出なかったしなぁ」


その辺りは担当する神の好みとか都合とかあるのかもしれない。

セレ姉にはそういう傾向があるって事だな。


『ジェス』


噂をすればセレ姉がこっちに来ていた。

どうやら向こうも落ち着いたようだ。


「むっ」


するとアリスが俺の腰に腕を回す。何だ、まださっきの事に拘ってんのか?

そんなアリスを見て、セレ姉はくすりと笑う。こっちは余裕の態度を崩さない。


『そろそろ私は戻ります。会えて嬉しかったわ』


「そうだね」


確かに悪くはなかった。何度も頭を撫でられるのには辟易したけどな。


『約束通り、この地と迷宮はあなたの物です』


「ああ、ありがとう」


騙された感が無いではないが、結果的に俺の物になったのだから文句は言うまい。


『そのあなたに忠告を』


「? 何だよ、忠告とは穏やかじゃないな」


『人間がこの地を狙っている事には気付いていますね?』


「そりゃもちろん」


この迷宮で侵入者が見付かったばかりだしな。


『その人間の軍が、すぐそこまで来ていますよ』


「何だって!? どういう事だ、おい!」


詰め寄ろうとしたその場所に、もうセレ姉はいなかった。


「逃げやがった。くそ、人をいいように使いやがって!」


やっぱり、あんたらは似たもの姉弟だよ!







深奥の部屋に戻ると、皆が神妙な顔で待ち受けていた。

あれ? 興奮から覚めたってのとは、またちょっと違う雰囲気だな。


「先生」


「なんだ?」


「先生は……神様なんですか?」


皆を代表して、ラウが俺を問い質す。

ああ、まだその問題があったっけ。正直、忘れていたかったぜ。


「カミくん、どうなの?」


後からはサエの声。声こそ出していないが、クミも同じ顔で見ている事だろう。

これはもう覚悟を決めるしかない。


「ああ、そうだ」


俺はついに自分の正体を明かした。


「でも、みんなにはこれからも今まで通りの態度で接して貰えると嬉しいかな」


ささやかな希望と共に。







ついでと言っちゃなんだが、女性陣の正体も教えた。

アリスが魔族で、サエとクミは異世界から召喚された人間という事も話したのだ。

最初は戸惑っていたが、すぐに受け入れてくれたし、態度も――少なくとも表面上は――変わっていない。それも、きっと今までの交流があったからこそだと思う。

頑張ってよかった。


俺の事は、サエとクミに聞かせる意味もあって、詳しく話す事にする。


「魂はこっちの世界の魔族で、だけど日本で生まれたの?」


「ああ、実は少し前までこの世界はまた別の世界の神に侵略されていてな。そいつに飛ばされたらしい」


「そんな事できるんだ」


異界の神(そいつ)にはできたみたいだな。で、ヒデの勇者召喚に巻き込まれてこっちに戻って来たって訳だ」


「それで、神様になった理由はどうなったのよ」


「だから、その際にみんなとは(はな)(ばな)れになったろ? 俺は召喚魔法陣から落っこちたんだよ。その異界の神のせいでな」


「ええっ!? それで、大丈夫だったの~!?」


「うん、そこを魔族の神が助けてくれたんだよ。眷属だからって」


「よかった~」


「で、友達を助けたいなら力が必要だって言われて、その魔族の神様――魔神の力を受け継いだんだ」


最後をちょっと端折ったが、まぁだいたいそんな理由だ。


「待ちなさい。納得いかないわ、今のところ」


と思ったが、やっぱりサエは誤魔化せなかった。


「なんで私達を助けるのに神様の力が必要になるのよ」


「あ、そう言われればそうだね~」


「なんで気付くかなぁ、そんな細かいところ」


「やっぱり、わざと詳しく話さなかったのね」


「という事は~…わたし達には聞かせなくない話なんだね」


はいはい、分かりました。

俺はもろ手を挙げて、降参の意思表示をする。


「お前たちをこの世界に召喚したのは、その異界の神の使徒どもだからだよ」


「え?」


「わたし達を召喚したのってペッテルの人たちだよね?」


「サエだって疑問に感じていたよな? ペッテルの魔術師にそんな技量があるとは思えないって。それに迷宮で見ただろ、あの動乱を」


「あ、じゃあ、あの宰相さんが――」


「そうだ。あいつも使徒だったんだよ」


「あっ、それに騎士団の副団長さん! あの人が化け物になって死んだのも?」


「そうだ」


俺が裏で策を仕込み、奴らの不安を掻き立てた上でわざと隙を見せ、動乱を起こさせて一網打尽にした。その事実も包み隠さず話した。


「……アリスは全く動じてないけど、知っていたの?」


「うん。人の国での詳しい事は知らないけど、そこまでの経緯は全部教えて貰っていたから」


「俺一人では無理があったからな。協力を得るために魔国の家族には正直に全てを話したよ」


「そうだったんだ…」


そこでサエが思い出したように口を開く。


「ヒデちゃんには、この事は…?」


「ヒデも知ってるよ。あいつには、ここに来る前に話した」


「そっか、あたし達が最後なんだ…」


それはその通りだけど、その言われ方は不本意だ。言うべきか言わざるべきか、これでも結構悩んだんだぞ。


「サエ、クミ、チロを信じてあげて。チロがあなた達をどんなに大切に思っているか、二人は知っているでしょ?」


「うん…それは分かってるよ」


「分かってるわ。分かっている、けど…」


すぐに納得はできない、か。


「チロがあなた達を助けるためにどれだけの思いをしてきたか、それを知ってもそういうの?」


「アリス」


押し付けてはダメだ。そう思い、釘を刺す。


「ごめんね、チロ。でも言わせて」


けど、ダメだった。

こうなったらアリスは止まらない。俺はもう見守るしかない。


「魔神様と同じ力を得たからって、すぐに強くなる訳じゃないのよ。むしろ強過ぎる力の反動で、チロは何度も死にかけたわ」


「え?」


「何でそんな事になるの~?」


「その力を自分の物にするために、チロは十年をかけて研鑽を積んだのよ」


あ、言っちゃった。


「十年…?」


「わたし達がこっちに来て、まだ一年も経ってないよ?」


しょーがないなぁ。


「俺はユスティス…魔神の力を借りて、一度十年前に跳んだんだよ。お前らを助けられるだけの力を得るためには時間が必要だったからな」


説明を聞き、サエはわなわなと震えている。


「そんな、そんな事って…」


「……そっか、それがカミくんの内緒事だったんだね…?」


クミは先日デートした際の話だと気付いた。


「そうだ。俺の秘密はこれで全部だよ」


クミは黙って俺を見詰めている。表情から俺への蟠りは無くなっているように見える。

だけど、サエは違った。俺から視線を外し、目を合わせようとしない。

何かを考えているようだけど、そのまま誰も言葉を発することなく沈黙の時間だけが過ぎていった。







「――先生」


どれだけ時間が経ったのか。沈黙を破り、ラウが俺に声をかけた。


「なんだ?」


「先生はこの場所の支配者になったんですよね?」


「あー、迷宮(ここ)と緩衝地帯はそうだな」


「それなら、もうこの街はなくなっちゃうんですか?」


「なんでそうなる? 何も変わらないよ、今のままだ」


俺の返答を聞き、ラウは嬉しそうに顔を綻ばせた。


「よかったー」


てか、何で街が無くなるって話になってんの?

カーティスやダグラスまでホッとした顔してるし。


「神様同士の内輪話だよ。そこに住む人たちにまで影響は与えない――って忘れてた!?」


「ど、どうしたんですか、先生!?」


「人間が戦争仕掛けてきてるって、さっきセレ姉――バーセレミが言ってたんだよ!」


『ええええええ!?』


早く対策を考えて準備をしないと!







 

リアルが厳しいです。

4月の異動で大シャッフルが行われ、我が部署から人員が減りました…

単純に仕事量が増えています。


3章も後3話で終わりなので、そこまでは今までのペース(週2回)で頑張って投稿しますが、それ以降はちょっと考えさせて下さい。

GWに書き溜めできればいいのですけどね。


3章も終わりと書きましたが、3章と4章は言わば「星の神々の領域の話」として繋がっています。一旦区切りはしますがワンセットなので、できるだけお待たせせず再開したいと考えています。


GWにどれだけ書き起こせるかにかかっていますね。

頭の中にストーリーはできているんですが、文字に起こせるほどイメージが固まっていないんです。

それもこれも忙しいからです。おのれ人事課。

 

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