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03-18 互いの秘密

プレッシャーを乗り越えたルダイバーは、その後も次々と罠を解除していった。

俺が後ろで睨みを利かせているからか、それとも本人の元々の性格なのか、慢心する事もなく黙々と解除に励むその後ろ姿は、俺ですら頼もしく感じるほどだ。


――罠の解除はもう大丈夫だな


こうなると次は鍵の解除が気になるところだ。

鍵自体は罠よりも構造が単純なので、単体なら問題ないと思う。

ここで問題になるのは、鍵に罠が付いている複合型だ。

俺がいるうちに経験させておきたいというのが俺の考えである。


「ねぇ、カミくん」


「なんだ?」


休憩中、俺が自分の考えに耽っているとサエが話し掛けてきた。


「さっきの、死んでも生き返らせる事ができるって本当なの?」


「あー」


場の雰囲気に口を滑らせたアレか。

周囲を見渡せば、全員が俺達を見ていた。


「本当だ。色々制限はあるけどな。目の前で死んだばかりなら、まず間違いなく蘇生できる」


普通の魔法師ならどれだけの高みに達しても届かない秘術だが、神の化身たる俺には問題なく使用できた。


「他でベラベラ喋るんじゃないぞ」


念を押すように釘を刺す。精神に楔を打ち込む事も考えたが、止めた。

こいつらにそこまでの事はしたくなかったからだ。もしこいつらから秘密が漏れても後悔しない。そう自分に言い聞かせて終わりにする。


「もちろんです、ゼン様」


「例え拷問されても口を割らんぞ」


「大丈夫だ、です」


「安心して欲しい。信頼を裏切るような事はしないよ」


「先生を裏切るような事はしません! ね、ワイルド?」


「お、おう」


「ワイルド!?」


「おう、任せろ!」


異世界組は、ありがたい事に皆即答だった。

約一名怪しいのがいたが、それはラウに任せよう。きっと大丈夫。


アリスは聞くまでもない。なんせ全て知っているしな。

勿論、転移組も大丈夫……と思ったら、こちらも約一名不安そうな顔をしているのがいた。


「……カミくん、いったい何が――」


――あったの?


そう聞きたかったのだろう。しかし、それは叶わなかった。


「サエちゃん」


そう口にしようとしたサエをクミが止めたからだ。

クミは俺が自分から話すのを待つと言ってくれた。それはサエも含めての事みたいだ。

とは言う物の、クミも疑問に思っているのは間違いない。


二人の気持ちはよく分かる。

俺自身忘れそうになるが、俺は皆より十年早くこの世界に来ているんだ。


――それほどの魔法をいったいいつ身に付けたのか?


自分達の経験を振り返って俺に当て嵌めた時、そんな疑問が湧くのもよく分かる。

思い返せば、ヒデにも話しそびれた事だった。つまり、それを話すと言う事は全てを話す事と同じって事だ。


うーむ、彼らよりむしろ身内の目に疑惑の色が濃くなったな。

ちょっと迂闊だったか? でも仕方ないよな。新たな解除師の誕生に比べたら、俺個人の問題なんて些細な事だと割り切ろう。







先へ進むと、順調に難易度が上がっていった。

罠の、ではない。罠を取り巻く周囲の状況が、だ。


罠のある場所が必ずしも安全とは限らない。ルダイバーが罠の解除で動けない時でも魔物が現れるようになったのだ。


もっとも、ルダイバーが動けなくとも“ビースト”に新たに参入したダグラスがその穴を埋めている。


「いけー! 兄ちゃん!」


むしろ観戦者(ワイルド)の声援が他の魔物を引き寄せたりしてるのだが、それはこっちで叱っておこう。







ィィィィィィ…


またこの音だ。

観察していると、魔物の外皮が固い時に限り、ダグラスはこの音を発している。


「時々聞こえる、この音は何かしら」


「あ、聞こえてるのは、わたしだけじゃなかったんだね」


気のせいとでも思っていたのか、クミよ。


「これはダグラス兄さんです。虎族は金属を操る事を得意とする種族ですから」


「ほー」


「兄ちゃんは巫女様にしか使えない筈の金気(ごんき)を使えるんだぜ。すげーだろ!」


「金気?」


「金属の気の事さ! これを操る事で、金属を変質させたり意のままにできるんだ!」


「なるほど」


――とすると、やはりあれは高周波で確定か


「ワイルド、それは他人に話すなといつも言っているだろう」


戦闘を終えたダグラスがワイルドに拳骨を落としながら会話に加わった。


「こっちの兄ちゃんだって秘密を話してくれたんだぞ。だったら別にいいじゃないか」


涙目で頭を押さえながらワイルドが反論する。


「分かっているよ。だからこそ間違った事は言うなと言っているんだよ」


「どういう事だ?」


「うん。自分のこの力は虎族の金気とは全く別物なんだ」


あ、って事は――


「そう、これは“隠されっ子”として得た能力だ」


こっちの心の準備も待たず、いきなり本質に切り込む発言かよ…







ダグラスに限らず、“隠されっ子”は“神隠し”に遭っている間の記憶を持たない。


それが今までの常識だった。


“神隠し”なんて非常識な話をしているのに常識とは笑わせる。

でも、そんな考えを持ったのは俺だけのようで、皆は神妙な顔をして黙って聞いていた。


「“神隠し”に遭う以前の記憶を持たないのは本当なんだ。だけど、“あそこ”にいた頃の記憶はハッキリと残っている」


そこがどこかは判らない。

だけど、そこでは自分と同様に大勢の人々が以前の記憶を失い何某かの実験を受けていたという。


「その実験と言うのは?」


「解らないんだ。自分には何をしていたのか、されていたのかも判断できなかった」


「実験していた相手は?」


「それも、よく分からない。ただ、白い髪に紅い目をしていた人間だったのは覚えている」


――人間?


「人間というのは間違いないのか?」


「判らない。そこにいた多くは獣人だったと思うんだけど、みんなだんだんと獣の部分を失っていくんだ。そして、それは自分も例外ではなかった」


なるほど、そこで奪われたと。

だからダグラスは獣部分を持たないのか。


「それも実験の結果なのか?」


「恐らく、としか言えないよ。そこにいた面々はそれと引き換えに何かの能力を得ていたね、自分の“獣化”やこの力と同じように。ただ――」


ダグラスは言い難そうに言葉を止めた。


「ただ?」


敢えてそれに気付かない振りをしながら先を促す。


「――その後も実験は続いて、そしてそれきり二度と戻ってこない者も多かったんだ」


「そうか」


ダグラスが“獣化”やその力を忌避する理由が解った。

ダグラスにしてみれば、それらは常に忌まわしい記憶と共にあったんだな。


「どれだけそこにいたのか判らなかったけど、そんな日々が続いた後、主の目を盗んで脱出する事をみんなで決めたんだ」


ちょっと待て。


「主って、その白髪で赤い目の奴の事だろ? 何人いたんだ」


「え、一人だけど?」


一人!?


「なら、そこで捕まってた奴は何人いたんだよ!?」


「百人は下らなかったと思うよ。ただ、逃げる時に見たけど、そことは別に同じような部屋がいくつかあったんだ…」


たった一人で数百人を管理してたって事かよ!?


「何者だよ、そいつは!?」


「だから、解らないんだってば」


くそ、もどかしい!


「チロ、そこまでにして」


「そうだよ~、ダグラスさんのせいじゃないでしょ」


「何をそんなに拘っているの、カミくん?」


拘る?


「それは決まってるだろ! もちろん――あれ、なんでこんなに気になるんだ?」


「あたしに解る訳ないでしょ…」


腑に落ちない。俺は何故、ここまで焦ったんだろう?


「……済まない。話を聞いてて、なんか興奮しちゃったみたいだ」


自分の気持ちが腑に落ちないまま、それでも俺はダグラスと皆に謝罪した。


「大丈夫、気にしていないよ」


ダグラスは笑顔で受け入れてくれた。

勿論、他の皆も同様だ。


「そういう事もありますよ」


「自分の事のように親身になってくれたからこそ興奮したのではないかな」


「大丈夫だ、です。俺達は分っている、ます」


“ビースト”の信頼が痛い。俺はそこまで崇高な人間ではないんだ。


「兄ちゃんが許したなら、俺からいう事はないぞ」


「ワイルドったら、何でそんなに偉そうなの。私は、先生には何か引っかかる点があったんだと思います。それは、きっと大切な事なんじゃないでしょうか」


引っ掛かる点、か。そうかもしれない。でも、そこがどこなのか自分でも、もう分からない。だけど、そんな事があるのか?


「それが、どこが気になったのか、自分でも解らなくなっちゃったんだよな」


「カミくん……あなたねぇ」


正直に言ったら、サエに白い目で見られた。どうしろと!?


「騒がせて済まない。気持ちを切り替えて先に進もうか。今日、Cランクを頂こうぜ」


うん、俺必死。必死に場を誤魔化そうとしてる。

そんな俺の苦し紛れのCランク頂き宣言に対して、


『賛成!』


カーティス達は一も二もなく賛成し、


「いいね、そうこなくちゃ」


ダグラスは普段の言動とは似合わない獰猛な笑みを見せ、


「ほんとすげーな、このまま一日で二十階まで行くつもりだぜ」


「先生たちならできちゃうわよ。わたしは何も心配してないわ」


ワイルドは感心し、ラウは信頼を寄せてくれる。

アリス達は言わずもがなだ。俺達が初級迷宮で躓くなど有り得ないと解っている。


半ば勢いだけで言ったセリフだったが、雰囲気は一新できたようだった。


「よし! じゃあ、行こうか」


俺達は地下二十階を目指し、行動を再開した。







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