03-05 調教師 ーThe Beast Tamerー
彼らをいつまでも狼族の三人と呼ぶ訳にもいくまい。
と言う事でお互いに自己紹介した。
「俺は“ビースト”のリーダー、カーティス。アタッカーです」
カーティスは革の軽装備に竿状武器の戦士だ。長い柄に包丁みたいな先端の武器はヴージェと言うらしい。攻撃力に秀でているそうだ。
四肢が狼になっているカーティスだが、狼の手でよく武器が扱えるなぁと思ったら、爪は鋭いけど指は人と同じように長く、関節も同様に曲がるので問題ないらしい。ただ、太く力強い反面、人と同じだけの器用さは望めないようだ。
「オレはフォルダン。前衛だ」
フォルダンは重装備に身を固めた、両腕と尻尾が狼の戦斧使いだ。前衛だけど盾を持たないスタイルか。くそ重い戦斧を軽々と振り回すだけあって火力は凄いが、ヘイト管理ができないのがネックだ。
魔物が多くなると地理を活かすとか上手く捌く方法を考えないといけないから、仕上げるのに時間が掛かりそうだなぁ。
「俺はルダイバー。射手だ、です」
ルダイバーは両足が狼で、軽装備に弓と言う完全に後衛の物理アタッカーだった。未だに慣れない敬語を使おうとする。例の最初に噛んだのもコイツだ。腕が狼じゃないから腕力に劣る事がコンプレックスみたいだけど、俺としてはコイツがキーマンだと思っている。
俺達の自己紹介は簡単だ。魔術師と錬金術師が二人。俺は雑用係と言っておいた。
そしたら、やたらと喰い付かれた。
「兄貴が雑用係!?」
「呪術師じゃなかったのか!?」
「あの魔法は何だったんですか!?」
「う、嘘じゃないぞ。俺は呪術師で魔法師で雑用係だ」
「「「そ、そんな…」」」
「……(じー)」
「ああ…後、解除師でもあったかな。それに斥候なんかもやるな」
後ろからのプレッシャーに耐え切れず、そんな事まで口にする俺弱ぇ。
結果的に戦闘以外なら何でも熟す、つまり一言で言うと雑用係と言う事で落ち着いた。あれ? 最初に戻っただけじゃないか、おかしいな。
ギルドに戻り、パーティーの申請をしたら却下されたよ。
それを告げた受付嬢の言い分はこうだ。
「“ビースト”とのランクに開きがあるため、ゼンさんたちに利があり過ぎるのです」
つまり、ランク外とDランクでは同一パーティーにはなれないと。
これも、緩衝地帯特有のルールみたいだな。
地力を身に付けるために来たのに、楽しちゃいかんと言う訳だ。
「あ、忘れてた。はいこれ」
俺は鉄証に上がるためのメダルを差し出した。
「え!?」
一瞬驚かれ、そして一拍置いてからの疑惑の眼差し。
「……不正はダメですよ?」
ありゃ。どうやらカーティス達に手伝って貰ったと判断されたらしい。
「いやいや、これは普通に自分達で取って来たよ?」
「そうだ! ゼン様たちは自身の力で地下五階に辿り着いた!」
様はやめろと言うに。
カーティス達の態度が今までと違い過ぎるせいか、疑惑が晴れない。
「信じられません。普通、どんなに早くても一週間前後掛かるものなのに、半日なんて、いくら何でも有り得ません」
受付嬢は頑なだ。
しかし、これは順番を間違えたかな。先にランク上げて、明日にでもパーティー申請すればよかったんだ。
これは問題だ。こうなると、俺達はCランクに上がるまで常に疑惑の対象となってしまう。
「何と仰られても、疑惑がある以上、すぐの対応は出来かねます。調査してからでないと」
受付嬢は意固地になりつつあるし……どうしたもんか。
「聞き訳のない女だ」
「受付嬢如きが大口を叩きおって」
「どうしてくれよう」
「だから、それをや~め~ろ~! 反省したんじゃなかったのか」
「申し訳ありません!」
「はっ!? つい…」
「癖になってた、ました」
俺はカーティス達がキレないよう窘めつつ、今後について考える。
ところが、ここでサエが新たな波紋を投げ掛けた。
「ところで、あたしたちのパーティー名はどうするの? ザヴィアのまま行くの?」
「それもあったか。リーダー不在のまま名乗るのも問題あるよなぁ。それにカーティスたちと合流する事も考えると、何か別のを考えた方がいいかもな」
“女王様と愉快な仲間達”とかな。
ギロッ!
すっげえ怖い目で睨まれた!
何で分かったんだ!?
「コホン…パーティー名は後でもいいだろ。ランクアップも……地下二十階到達までは諦めた方が良さそうだ」
チラッと見ると受付嬢が恐縮している。引くに引けなくなったのかもしれない。
それでも毅然とした態度は崩さないのは大したもんだ。こんな緩衝地帯なんてところで働くだけのことはあるのかもしれない。
「ならササッと攻略しちゃう?」
部屋の掃除でもするかのようにアリスが言う。
アリスにとっては初級迷宮なんて家事と同じ感覚か。そりゃそうか。
「いや、カーティスたちを鍛え直すのを優先する。攻略は、そのついででいいだろ」
カーティス達には初級迷宮を踏破するくらいの実力を身に付けて貰うつもりだ。なら、どの道結果は付いて回る。急ぐ事はない。
「ゼン様、すみません。俺たちが足を引っ張ってしまって…」
「何と詫びればいいか」
「兄貴ぃ」
とか言いながら、また土下座してるし。
冷静になってみると結構暑苦しいなコイツ等。
「もういいから、今日は一旦引こう」
俺の言葉にカーティスたちは渋々と言った体で立ち上がった。
「お騒がせしました。今日は帰ります」
受付嬢にそう言うと、皆を引き揚げさせる。
夕暮れ時のギルド、そこに併設された酒場は非常に賑わっていたが、そこにいた全ての人達に一部始終を見られていた事など気にもしないで、俺も彼らに続いてギルドを後にする。
翌日、俺達には“調教師”の二つ名が付いていた。
「もうパーティー名これでよくね?」
俺達の新たなパーティー名が決まった瞬間だった。
二つ名の由来は考えるまでもない。俺達がカーティスたち“ビースト”を手懐けていたからだろう。
カーティスたちは狼族の中でも特に凶暴な黒狼族なのだ。
だからこその戦闘力。だからこその傍若無人。そんな彼らを言葉一つで地に這わせ、今では犬のように従わせている(ように見える)。然もありなん。
実際彼らは故郷でも手に負えない暴れん坊だったらしい。
成人すると半ば厄介払いでもするように、この緩衝地帯に送り込まれたと言う。
また、強さを標榜する彼らにしても、それは意に沿う事だった。
そして、その彼らの強さはこの地でも大いに発揮され、立場を盤石の物としていった。
「だけど、それが通用したのも地下十五階までだったんです」
「罠か」
「な、なぜそれを!?」
ペッテルの初級迷宮でも罠が出始めたのがその辺りだったからだ。
力押し一辺倒では、その先へ進むのは難しいだろうな。
あれ? でも、
「Cランクに上がった奴はどうやって進んだんだ?」
「俺、知ってる、ます。レニアの兄貴が通って行くのを見た事があるんだ、です」
「ほうほう」
レニアってのは、話に聞いたCランクの黒狼族の事だろう。
「こう…シュパパって感じで罠を避けていくんだ、です」
「何の参考にもならねぇな!」
反射神経で避けまくってんのかよ! 力押しと変わんねぇよ!
「お前らには無理だったと」
「その通りだ、です」
いや、それを聞いてむしろホッとしたわ。
体力だけで罠を越えていくような奴とは会話が通じない気がしてならん。
「それでDランクのまま燻ぶっていた訳ね」
「面目ねぇ、姐さん」
「誰が姐さんよ!」
「ぶふっ」
ギロッ!
睨まれた! そう言うところが姐さんと呼ばれる所以だと思うんだ! 決して口にはしないけどな!
「ま、まぁ、そう言う突き抜けちゃった奴を真似しても始まらない。できない奴にはできないなりの方法で攻略するしかないのさ。――と言う訳でこれだ」
そう言って俺が取り出したのは練習用の鍵と罠だ。
俺もお世話になった懐かしいブツを机に並べていく。
「三人の中で一番手先が器用なルダイバーに俺と同じ解除師になって貰う」
「解除師、ですか?」
「鍵開けや罠を外す事を専門とする職だ。分かり易いだろ」
「兄貴と、同じ…」
何やら感動して震えている。いや、そこ感動するポイントじゃないからね?
「俺、やる、ます」
「そ、そうか。やる気になってくれたのなら何よりだ」
ルダイバーは下肢が狼の獣人だ。腕が獣パーツのカーティスやフォルダンと比べるとどうしても腕力に劣る。しかし、手が人間と同じと言う事は器用さにおいて勝ると言う事でもある。実際それを活かして射手をやっていたんだろうし。
「お前たちの戦闘力に関しては言う事はない。実際Dランクまで上がっているんだしな。今後必要になって来るのは、各々の役割をハッキリさせる事と連携だと思う」
「連携ですか」
「そうだ。そのレニアって奴のように、一人で何でもできるようになる必要はないんだ。パーティーとはチームの事だ。それぞれがやれる事をして、お互いを補う。それが今以上に強くなるための方法だ」
ビーストは三人しかいないけどバランスはいい。今はこれで行けるところまで進めて行く。その上で、足りない部分は更なる人員で補うしかないけど、今は俺達がそれを担おう。
「ま、今日は基本をルダイバーに教え込むから、迷宮は明日からにしよう。連携を基礎から叩き込む。その上で、ルダイバーは宿に帰ってきたら解除師の訓練だ」
「おおお! 俺はやるぞ!」
「ふはは! オレだって負けんぞ!」
「俺、頑張る、ます!」
うんうん、いい感じだ。単に強くなれるのが嬉しいだけかもしれないが、勢いって大事だからね。
「男って単純よね」
「そこは獣人も同じなんだね~」
「チロが楽しそう」
盛り上がる男達の裏で女達が個々に感想を述べていた。
「ランクアップの問題は何一つ解決してないって言うのに」
「ね~」
君達、せっかくの盛り上がりに水を差すんじゃありません。
週末更新できなさそうなので、無理矢理更新します。
次回更新日未定。