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思惑 ~男の場合~

緊急帰国していた魔国から再度ペッテルに戻ってくると、俺はヒデに話があると言われ部屋に呼ばれた。

ちなみにアリスは引継ぎがあると言って魔国に残っている。後で合流する予定だ。


「何だよ、改まって」


「もうじき行くんだろ? たまにはいいじゃないか。男同士、水入らずで話そうぜ」


ヒデってこんな事言う奴だったっけ? 熱血漢なのは確かだが、何かがおかしい。


「何を企んでいる?」


「た、企んでなんか、い、いないぞ?」


めっちゃ挙動不審じゃないか! 大根にも程があるぞ!

真偽判定の能力がなくても何か裏があるって分かるわ!


「お前に腹芸はできないよ。さぁ吐け、吐いて楽になっちまえ」


「ぐ…」


ヒデは暫く「ぐぬぬ」とか「むぅ」とか唸っていたが、観念したのか程なくして口を開いた。


「実は、サエとクミの事なんだけど…」


おや、ここでサエとクミの名前が出てくるとは思わなかった。

まさか、よりを戻したいとか言い出さないだろうな。修羅場は勘弁して欲しい。


「連れて行ってやれないか?」


「は?」


予想の斜め上過ぎる言葉に、俺は本気で絶句した。


「いやいやいや、いきなり何を言い出してんの?」


「だから、サエとクミを連れて行ってやって欲しいって言ってるんだよ」


「何を企んでいる、貴様」


「た、企んでなんか、い、いないぞ?」


だから、一々挙動不審なんだよ!


「連れて行けない理由は言っただろ。ヒデだって納得したじゃないか」


「…………」


「それを後になってから覆すなんてお前らしくないぞ。何があった?」


ヒデは熱血漢だけあって、自分の言葉を曲げる事はしない奴だ。

もっとも、自分が間違っている事に気付いても曲げないような石頭とは違う。

そこがヒデの良い所だ。


「二人に頼まれたんだよ。お前と一緒に行きたいから説得を手伝って欲しいって」


なるほど、ヒデの考えじゃなくて、サエとクミの企みか。

でもなぁ…


「それでもおかしいだろ、あの二人だってこれには納得したはず……はず? あれ?」


「気が付いたか?」


あの時、サエは無言でクミは唸っていただけだ、承諾していないと言われたら返す言葉がないな。でもそれはヒデも同じじゃ――


「俺はあの時、心の中で納得しちまった」


俺の考えを読んだかのようなヒデの言葉。


「でも、サエとクミは違った。あの時からお前に付いて行くと決めていたみたいだ」


「だけど、戦争の抑止力は――」


「それは俺が頑張る」


「“陽の迷宮”の攻略は――」


「それも俺が頑張る」


おいおい。


「自惚れじゃなく――」


俺が呆れた目で見ている事に気が付いたヒデが言葉を続ける。


「――今の俺とソルなら二人の分くらいカバーできる」


確かにヒデの重力操作は強力だ。

術師二人の抜けた穴も簡単に埋められるだろう。それどころか補って余りある。

それにしたって解せないのは、なぜサエとクミが付いて来たがっているのか、だ。


「俺の大事な幼馴染だ。おいそれと他の男には任せられない。でも、ゼンなら話は別だ」


何やら無理矢理いい話っぽく纏めようとしているみたいだが、そうは行くか。


「その大事な幼馴染を捨てたのは誰だ」


「ぐふうっ……だ、だからさ、色々と悔いの残る結果になっちまっただろ?」


ダメージを受けながらも話を続けるとは、粘りやがる。


「ヒデも後悔してるのか?」


サエとクミではなく、シンシアに走ったのは他ならぬお前だろうに。


「シンシアを選んだ事に後悔はないよ。でも、あの二人にきちんと終わらせてやれなかった事には悔いが残っているんだ」


丁度、使徒が色々策を弄していた時期らしいからなぁ、そうなるのも無理はないか。


「だから、今度こそ二人には悔いの残らないようにしてやりたいんだよ」


「だからって、俺に全部押し付けるんじゃねぇよ」


大体、二人が旅に付いて来たいって話だっただろ。恋愛はまた別の話だ。

あの二人は、単に帰る手段を人任せにしたくないだけだろう。的外れにも程がある。


「ぐ……お、俺は二人の気持ちに応えられなかった。だからこそ、二人には幸せになって欲しいと――」


まだ続けるつもりか。

なら仕方がない、俺は伝家の宝刀を抜く事にする。


「俺、魔国に婚約者がいるんだけど」


「お前になら安心して――なにぃっ!? 初耳だぞ!」


そりゃそうだろう。ついこないだまで、俺ですら知らなかった事実だからな。

「うん、知ってた」とか言われたら俺の方が吃驚するわ。


「それも四人」


「お前ぇ! 異世界ハーレムかよ! 何一人でテンプレ踏襲してるんだよ! ズルいぞ!」


効果は覿面だった。

本音が駄々漏れするくらい、ヒデは取り乱している。


「そんなリアルハーレム男に大事な幼馴染を任せてもいいのか? ん?」


「くっ」


ハッキリ、それと分かるほど葛藤しているのが見て取れる。中々面白い。


「…待て。じゃあ、シーラ姫はどうするんだ?」


「もちろん、断るつもりだ。婚約者達は五人目としてなら受け入れるって言ってたけど。そんな訳にもいかないだろ、一国の王女をさ」


「嫁は受け入れる気があるのかよ。魔国って一夫多妻なのか?」


「そんな事ないぞ、大抵は一夫一妻だ。王族は色々と特殊なんだよ」


結婚相手がいないのがデフォだから、一夫一妻とか言ってられないんだよね。


「な、なるほど。確実に血を残すとか、そんな感じか」


「いや、前にも言ったと思うけど、魔王は血脈関係ないからな?」


魔王の因子は魂に依存する。子供に遺伝するとかないからね。


「まぁいいや。サエとクミにも婚約者の事話すから、それでこの話は終わりだろ」


日本から来た女の子には、こんな話耐えられないだろう。

俺がそう言うと、真面目な顔になってヒデが俺を問い質す。


「ゼン、お前そんなにサエとクミが嫌なのか?」


「今までそんな目で見た事がなかっただけだ」


偽りのない本音である。


「えええ!? 俺が言うのも何だけど、あの二人すげぇいい女だぞ?」


「それは分かるけど、あの二人が俺とどうにかなるとか全く想像できない」


「俺の次に傍にいたのがお前なのに…」


ヒデは呆れているが、サエとクミは今までヒデだけを見ていたのだ。

すぐ傍にいたからこそ、それがハッキリ分かった。

ほんの僅かでも望みを抱く事ができない事実にすぐに気付いた。


だからこそ解せない。二人は何故ヒデの傍を離れてまで付いて来たがっているんだ?

失恋した筈なのに、二人共そんなに気落ちしているように見えなかったのも謎だ。

むしろ、こっちが拍子抜けしたくらいだ。

まぁそれはともかく。


「婚約者の四人も二人に負けないくらい、いい女だから問題ない」


勿論、これも本音だ。


「ちっ、ノロけやがって」


「お前に言われたくないわ」


ヒデとしても婚約者のいる俺に、これ以上は強く言えなかったのだろう。

俺がうやむやにしたとも言えるが、それでこの場はお開きとなった。







「と思ったら、次は王様かよ」


ヒデの部屋を出て自室へと戻る途中、今度は侍女に呼ばれて付いて行った先は王様の執務室だった。


「時間がないので手短に言うぞ。シーラとの婚約の話だ」


またその手の話かよ。

まぁ丁度いい、ここでハッキリさせておこう。


「あー、その事だけどな。実は――」


かくかくしかじか。

ありのままを説明すると、王様の顔は醜く歪んだ。


「シーラを、ご、五番目に、だと…」


愛娘を、それも一国の王女を五人目の妻に、なんて許せる筈もないよな。

ここは二、三発くらいなら黙って殴られてやろう。


「…已むを得ん、許す。だが、俺が在位中に必ず跡継ぎを作れ」


は? 今なんて言った、この人?


「本気?」


「本音を言えば、はらわたが煮えくり返る思いだ」


ですよねー。


「なら、なんで?」


「婿殿は、シーラを見てどう思った?」


突然話題を変えるなぁ。


「どうとは?」


「シーラは混血だ。それも何代も代を重ねた末裔。にも拘らず、あれほど苦労した。婿殿がいなければ、今もまだ解決の糸口すら見つからないままだろう」


苦労したのは魔王の因子を持って生まれたからだが、それも混血故と言われれば確かにその通りだ。


「それで?」


「当然、生まれる子も混血だ」


そりゃそうだ。

更に言えば、俺との間に生まれたりしたら半分以上が魔族になっちゃうな。


「そんな子が世継ぎでいいのか?」


大切な事なので、突っ込んで聞いておく。


「人間は他種族との間に子を設ける事ができる。これは人間だけの特性だ」


例の“可能性”故だな。俺は頷いて先を促す。


「だが、人間は混血を拒絶する。混血の子は排他的な扱いを受ける」


地球(むこう)でも、よく聞いた話だな。

人は自分と違うモノを排除しようとする。

自分が周囲と同じだと安心する。排されずに済むから。


「神は他種族との親交を許す。だが、その後の事には関与しない。我が妻ベアトリスが混血なのは彼女の口から聞いて知っていた。その際、彼女の家が迫害され、苦労して来たことも聞いている。だから、俺は混血のための国を造ると誓ったのだ」


「それはまた――」


随分と奇特な王様がいたものだ。愛って偉大だね。


「だからこそ、婿殿なのだ」


「そこは意味が分からん」


本気で分からない。何が言いたい?


「婿殿は眷属を持たぬ神なのだろう?」


あれ、俺ってそう言う認識?


「我がペッテル国を婿殿の領域にすればよい。ペッテルを婿殿の庇護する地とし、混血を眷属とするのだ」


「それが、あんたの言う混血ための国造りか」


「そうだ」


――悪くはない。

ユスティスからは好きにしろと言われているし、むしろ他の神々から狙われるような行いは喜びそうな気もする。


そもそも、こんな会話しているのに介入してこない時点で、ユスティスもバーセレミも黙認していると見ていいだろう。


「一つ言っておく。俺は、魔神ユスティスの化身だ。その俺の国となると、潜在的に――神々には魔国と同じと見做されるぞ」


ユスティスとバーセレミは黙認しても、星の神々が黙ってはいないと思う。


「構わぬよ。人の身で神々の都合を気にしても仕方あるまい」


おー、男らしい。じゃなくて! 開き直りやがったな、この親父。


「それにな、俺は常々思っていたのだ」


「何を?」


「他種族との親交は認めるのに、何故その結果である子供達の迫害を(バーセレミ)は許すのかと」







『それはね、混血の子は神の庇護を持たないからだよ』


王様に答える事ができなかった俺は、その夜ユスティスにそのまま疑問をぶつけてみた。


「混血だから神の眷属ではないってか?」


『違うよ。どの神の眷属にもなれるからだよ』


「ええと――例えばシーラなら、お前とセレ姉、どっちの眷属になるかを選べるって事か?」


『半分正解。選べるのは全ての神からだよ。でも、それを神々が勝手に決めてはいけないんだ。あくまで、本人が自分で選ばないといけない』


産まれてすぐに選べるような赤ん坊はいないだろう。

で、どっち付かずのまま迫害されるって訳か。


「せめて親には教えてやれよ」


家族ぐるみで迫害されるみたいだし。


『だめだよ、そうすると親の都合で選ばされちゃうからね』


言われれば、確かに夫婦喧嘩の種になりそうではあるな。

家庭不和になったら本末転倒か。


『ついでだから言っておくけど、シーラはもう君の眷属になったからね。大事にしてあげなよ』


はいぃ?


『当然でしょ? 彼女は君を選んだんだから』


「いやいやいや、おかしいだろう? 化身が勝手に自分の眷属作れたら、親神の立場ないじゃないか。普通そう言うのは禁じているもんなんじゃないのか?」


『そうだけど、僕は君を配下に組み込まなかったからね。それができちゃうんだよ』


「おいぃ!? 今さらっととんでもない事口走ったな!」


『そうかい? 姉さん(バーセレミ)も言っていただろう? 君は道化神、新たな神だ。それが、君の神としての属性だよ』


道化は変わらずかよ!

もうやだ、この姉弟。付いて行けない。


『あ、その事だけどね。君、僕らの末弟だから』


「はいぃ!?」


『君の神としての立ち位置』


そんな事、誰も聞いてないんだよ!


『僕の能力はそのまま引き継ぐからね、何も心配いらないよ』


「当たり前だ! これで能力まで変わったら、俺は暫く無能になっちまうよ!」


また一から修行をやり直すなんて嫌過ぎる。


『まぁ、それはともかく。いいんじゃないかな、混血の国』


「お前との会話は突っ込み過ぎて疲れるんだよ。つか、やっぱり容認するのか」


『バーセレミもする筈だよ。これは、姉さんが目指した物でもあるからね』


「親交を許したのも、それが目的か」


『その一つではあるね』


思わせぶりな言い方しやがって。


『姉さんは、君に期待しているんだよ』


「他人事みたいに言うんだな」


『僕は君を束縛するつもりはないからね、君の好きにするといいよ』


「へいへい」


自分から積極的に動く気は無いけど、受け入れるのは吝かではない。

それでも構わないのなら引き受けてみようか。







「そうか! やってくれるか!」


翌日、俺の返事を聞いた王様は嬉しそうだった。


「但し、俺自身は動かない。唯のシンボルだ。それでもいいのなら」


「構わんよ、実務は俺がやる。婿殿は――」


「俺は?」


「シーラと一緒になり、早いところ世継ぎを頼む」


ええ!? そう言う話だったっけ!?

もしかして、してやられた?







 

※混血を排斥するのは人間だけではありません。念のため。


正月に書き貯めた分を放出。続きは未定。

だってリアルの繁忙期はまだまだ続くんだもの。

この不景気に有難い事ではありますが。

 

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