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01-01 牢獄

目を覚ますと、そこは牢屋の中だった。


(牢屋と言うか、独房?)


所謂、格子の嵌ったソレではなくて、隔離部屋のようなアレだ。アレとかソレじゃ判らないと思うが、何かぼうっとして頭が回らないんだ、勘弁して欲しい。


瓶が置いてあるので、水でも入ってないか確認しようとして嫌な事を思い出した。瓶は便所の代わりではないかと言う、一部ファンタジーのアレだ。


(だからって避けていたら話は進まないよな)


意を決して覗き込んだ。幸い、この瓶は便所では無く水瓶だったのだが、そこには異変が映っていた。


(誰だコイツ!)


そう、水に映った顔が、俺の顔では無かったのだ。しかし、右に左に自分の顔を動かすと、水に映った顔も同様に動く。やっぱり俺の顔なんだろうなあ。それに、この顔…何か見覚えがあるような…?


「分かった! 小学校に入った頃の俺の顔に似てるんだ!」


似てると言うか、まんま俺の五、六歳の頃の顔だ。言わば、十年程若返ったと言うべきか。


「ん? 十年…?」


つい最近聞いたフレーズだった。


『十年前に飛ばしてあげるよ』


「もしかして、体も朔行する…?」


間違っていないような気がする。だから時間朔行でも苦痛が生じるのではないだろうか?

だがそこで新たな疑問が湧いてくる。なぜユスティスは、それを俺に伝えなかったのか。俺が悩む姿を目の前で見ていたのに。

オマケにアイツは俺の心を読める。間違いなく、アイツは俺が何に悩んでいるかを知っていた。一言告げれば済んだ話ではないか。

だけど…誰に聞くまでも無く、俺はその答えを知っている気がした。


(試したんだ、俺の決意を。 俺の覚悟が、どの程度なのかを)


頭に来た。今度会ったら絶対殴ってやる。一発と言わず、何発でもやってやる。


(あの野郎、絶対に性格悪い)


でも、取りあえず悩みの種が一つ減ったのは確かだ。それだけは有難かった。







とは言え、今の状況は全く変わっていない。まずは現状を冷静に考えてみよう。


疑問その一

ここはどこだ?


独房らしい事は判るが、どこの独房なんだ。何故独房なんだ。

そこで周囲を眺めてみる。小さいが窓があった。

今の背丈では少々高い位置にあるが、頑張れば覗けない事もない。


“ちゃり…”


窓に近付こうとしたら足元から妙な音がした。恐る恐る足元を見ると――


「なんじゃこりゃああああ!」


俺の右足首には鎖が嵌められていた。




冷静に考えたら独房に入れられる程だ。これくらいの事は、当たり前と言えば当たり前だった。


(現代日本ならともかく、牢屋に入れたから手錠や足枷を外すなんて普通無いよな)


そう考えたら納得した。いや、納得したからって、じゃあ鎖が嵌ったままでいいかと言ったらそれは話が別だ。それはそれ、これはこれだ。

ご丁寧に鎖の先には鉄球が付いているし。邪魔な事、この上ない。


(外すとしますかね)


幸いな事に俺の荷物は部屋に転がっていた。中にはピッキングツール等も入ったままだ。まあ、武器には見えないだろうしな。


「しかし、用心深いんだか、そうでないんだか、訳が分からんな」


そんな独り言を呟きながらカチャカチャやってると、すぐに鎖は外れた。

足枷の部分に鍵が掛かっており、その構造は至って単純。錠前と言う概念の初期の初期にある構造だった。


「ふ、俺に開けられない鍵は無い」


俺的に一度言ってみたかったセリフNo.1だ。

現代の電子錠は、理屈はともかく実際に開けるには俺の手に余ったので口にできなかった憧れのセリフだ。だが、この異世界なら言っても大丈夫そうだった。

こんな所で夢が一つ叶ったぜ。




「うわー、ここから落ちたら死ぬわー」


鎖を外して眺めた景色は絶景だった。むしろ、絶景と言うより絶壁だった。

想像してみて欲しい。崖の上に建つ荘厳な城。その崖側の絶壁の途中にある小さな窓。


「それがこれだ」


うん、(ここ)から出るのは無理。そう結論付けるのに時間は掛からなかった。


「となると、(こっち)なんだけど…」


鍵を開けるのは簡単だ。確認してみたが、足枷と大差無い。

問題は、ここから出た先がどうなっているかだ。


内部構造までは判らないが、ここが崖の上の巨大な城っぽい事は判った。つまり、ここから出た所で誰かに見つかったら逃げ場が無いと言う事だ。


「さて、どうしたものか…」


ゲームとは違い、コンティニュー無しの一発勝負だ。慎重に考えないと。

しかし、ここに留まるのは悪手と思える。何故ならここは独房、罪人を置いておく場所だからだ。弁明する機会があるならともかく、そんな機会があると楽観視などできない。


大体、ここはファンタジーっぽい世界だ。この独房が、それを物語っている。ユスティスも魔族とか魔王とか言っていたしな。

そしてファンタジー世界と言えば中世だ。そして中世と言えば…

魔女裁判。


「やっぱり、ここから出よう」


黙ってここにいたら死ぬだけだ。それより、僅かでも可能性のある方に賭けよう。


“カチャカチャ…ピン”


(よし、開いた)


“ぎいぃぃ…”


右見て、左見て、も一回右見て。


(誰もいないな? よし、行くか)


目が覚めてから凡そ一時間後。俺は牢屋を抜け出した。







取りあえず、誰かにばったり出くわすのはまずい。そんな事態に対処するために、隠れられる場所を確保したい。そう思って扉がある毎に気配を伺い、中を確かめてみるのだが…


(この階層は牢屋ばっかりかよ)


そうなのだ。どうやら牢屋ばかりの階層らしく、当たりに出会わない。そして牢屋はどれも空っぽだった。捕まっていたのは俺だけとか、泣ける。


(こんな巨大な城に忍び込む盗賊とかいないだろうしなぁ)


立地的にも無理があるだろう。そう考えると、ここに捕まるのってどんな奴だろう。俺はどうやって捕まったのかな。


そんな事を考えていたら、前方から人の気配がした。よく耳を澄ませば足音も聞こえる。それも一人じゃない。複数、少なくとも二人はいる。


(やばい、どこかでやり過ごせないか)


牢屋は全て独房だ。中に入りさえすればやり過ごせる。だけど、近過ぎる。

扉を開閉すれば音がするからバレる。聞こえないくらい遠くに行こうとすれば、今度は足音でバレる。

進退窮まった。


(どうする、どうする、どうする)


自問するが、答えなど出て来ない。そうしている内に足音はどんどん大きくなってきた。会話を交わしているようで、話し声も聞こえる。


「お嬢様、こんな不衛生な牢屋などにお嬢様が態々足を運ぶ事など御座いません。 すぐに戻るべきです」


(ああ、全くその通り。 今すぐUターンして帰ってくれないかな)


心の中で、思わず相槌を打ってしまった。


「マリアまで来なくていいのに。 私が会いたいだけなんだから」


(そんな事言わず、帰った方がいいよ)


「そう言う訳には参りません。 子供とは言え罪人とお嬢様を二人きりにさせるなど」


(そうそう、子供とは言え罪人と会うなんて…ん?)


「聞けば私くらいの年の頃と言う話です。 そんな子供がどうやってこの城に入り込んだのか、なぜ危険を冒してまで入り込もうと思ったのか、直接話を聞いてみたいの」


(まさか、向かう先は俺のいた独房か?)


「王族の居住区に入り込むと言う事は、因子持…あ」


(…あ)


目が合っちまった。

固まる二人、俺とお嬢様。


お嬢様の容姿は、あれだ、不思議の国のアリス。あのアリスにそっくり。金髪ストレートロングに碧眼。違うのは青いエプロンドレスじゃなくて、黒いレースの瀟洒なドレスってところだ。


「きゃああああああああ!」


そんな俺の感想を引き裂く悲鳴が上がった。但し、お嬢様では無くメイド。マリアと言ったか、その名に似合わない、おばちゃんの方からだ。


「脱走よ! 罪人が脱走しているわ!」


くそ、現実逃避し過ぎた。どうする?ここは、お嬢様を人質に取って――


「…………」


また目が合った。

お嬢様は怯えるでも無く、しっかりと俺を見詰めていた。まるで俺を観察するかの如く。その目は何故か、自分を人質には取らないだろうと言う、信頼にも似た眼差しだった。


「――ちっ」


その目に気後れした俺は、それでも後退では無く前進を選んだ。戻ったところで、牢屋しか無い。脱出するなら前へ出るしか無いのだ。急ぎ、お嬢様とメイドの脇をすり抜ける。


「…あっ」


その際、お嬢様が微かに声を上げた。何でそんな名残惜しそうなんだよ。

しかし、こっちはそんな事に構ってはいられない。早いところ、この危地を潜り抜けなくてはならない。

だが、その先の階段を上った所で、俺はすでに脱出のチャンスが失われていた事を知った。階段の出口は、全身鎧を身に纏った騎士達に囲まれていたのだ。







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