表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/107

02-29 復活

『使徒の殲滅ご苦労様。この国はおろか、もうこの世界に使徒はいないよ』


懐かしい顔で、そのくせ十年前と変わらぬままに話し掛けてくるユスティス。

だから俺も十年前と変わらない態度を取る事ができた。


「お、そうか、そりゃよかった」


『うん。だから、これからは自由にしていいよ。好きに生きていいんだ』


「前にも聞いたぞ、それ」


だから俺は、今まで好き勝手してきたんだ。

でもユスティスは、そう感じていないようだった。


『本当にそうかい? 僕には色々と周囲に気を遣っているように見えるけどなぁ』


「だから心を読むんじゃねぇよ。俺は俺の意思を曲げた事はなかったぞ」


『なら聞くけど、迷宮攻略で能力を使わなくなったのは何故だい? 鍵開けや罠解除を使わなくなったのは何故だい? 主にしろ、守護者にしろ、君が本気で倒そうと思えば一瞬で決着が付いたよね?』


「ぐ、それは…」


『 “魔力相滅ペアリッシュ・ウィズ・イーチアザー”と言ったかな、あれは見事だったよ。”減衰する魔力(マナディケイ)”の対生物版とは考えたね。自分も同じ効果を受ける対象とする事で“攻撃”と言う概念を覆した。喰らった相手は抵抗する事も許されずに魔力が枯渇する』


その通りだ。

魔法や魔術――当然、錬金術も――の“攻撃”を受けた相手は“抵抗(レジスト)”する。その“抵抗”が成功するかどうかは別として、相手に“抵抗の機会(チャンス)”を与えてしまうのが魔法や術の“攻撃”だ。


魔力相滅ペアリッシュ・ウィズ・イーチアザー”は、俺も相手も等しく魔力を失う。

そうする事で相手に“抵抗する機会”を与えないのだ。

その癖、魔力が無限の俺は全く影響を受けないと言うね。「共に滅べ」なんて言いつつ、相手だけが一方的に不利益を被るのだ。詐欺もいいところだろう。


『君は他の神の機嫌を気にしすぎているんだよ』


そりゃ気にするだろ。他人の家で乱暴狼藉を働けば、裁かれる事になるのはこの世界でも変わらない。


『自分がそうする事で、僕や魔国の名声、評価が下がるんじゃないかって躊躇っているよね』


「そりゃそうさ。誰が好き好んで家族を悪者にしたがるよ」


『でも、そこがもう間違いなんだよね』


どこが間違ってるんだよ! あんまりふざけた事言うと俺だって怒るぞ!


『僕と眷属は、この世界において悪を担う存在だ』


はい? 今なんて言った?


『君さ、最初に思ったよね? 人間と魔族が敵対していないのはテンプレに反するって』


む、確かに。十年も前の事だが、それはハッキリ覚えているぞ。


『君のその考えは正しい。魔族は憎むべき敵。僕は他種族を滅ぼす魔神。それがこの世界の正しい在り方なんだ』


でも迷宮の攻略で種族が発展するって言うなら悪なんて不要だろ。そもそも争う理由がないんだから。


『それがバーセレミの狙いさ。彼女は僕を悪者にする事が耐えられなかったんだ』


あー、過保護な感じあるわ、あのバカ神。凄く納得した。


姉さん(バーセレミ)は本来、この世界の絶対神なんだ。なのに、このシステムを構築したせいで、諸神にまで格を落としてしまった』


それはまたなんと言うか、過保護もここに極まれりだな。


『その上、人間が迷宮攻略を放棄してしまったからね。更に力を失ってしまったんだ。バーセレミにはこのシステムが完全にマイナスに働いたんだよ』


それは、やるせないな。

しかもシステムを作った本人だから、他神(たしゃ)に不満を与えないよう、神託で誘導する事すら控えて、ただ只管に人間が迷宮に来るのを待っていたってところか。

きっついなぁ、人間ってよく見捨てられなかったよな。


『まぁ、それはどうでもいいんだけどね』


いいのかよ!


『君に自由に生きろと言った手前、僕には強制できないけどさ、僕や魔族を気にして行動を控えるのはやめて欲しい』


「でも、それでベル母様に迷惑を掛ける事はしたくないぞ」


魔王(かのじょ)はそんなこと気にしないよ。むしろ、君のためなら自ら世界を滅ぼす事も躊躇わないだろう。だって、世界を滅ぼす事こそ魔族の本能だからね』


「いくらなんでも、そんなことは――って、本能!?」


やばい、思い当たる節があるわ。




――そんな事になったら、私は世界を滅ぼさないでいられる自信が無いわ――




やっぱりあれは本気だったのか。ううっ、冗談だと思いたかった…


「だ、だからって何も自分から悪に染まらなくても――」


『まぁ、そうだね。僕が言いたいのは、僕らの事を思って自分の考えを曲げないで欲しいって事なんだ。だいたい、普段から君は考え過ぎる癖があるよね』


「ぐさっ! だって、思い付いちゃうんだから、仕方ないだろ」


『何も考えないヤツよりは百倍マシだけどね。でもそれで躊躇しちゃうのはダメだよ。いざという時に自分を縛っちゃうのはダメさ。僕らは相手を見下すくらいで丁度いいんだよ』


「それはつまり…傍若無人に振舞えと?」


『そうさ。他の神の領域でも好きなだけ罠を外し、鍵を開けて迷宮を攻略していいんだよ。主や守護者も倒したい放題さ』


「あ、そう…でも、それで他の神様の怒りを買ったりしたら?」


『そんな狭量な(やつ)は倒しちゃえばいいよ。ねじ伏せていい』


おいぃ!? また随分と過激だな!


『君にはそれができるだけの力があるからね』


ほんとかよ!? 俺って、そんな強かったの!?


『他者の心を殺せるって最強の能力だよ?』


む、それは確かにそうかも。


「でもさ」


『何だい?』


「そこまで悪に拘るのに、何でお前は一人で異界の神と戦ったりしたんだ?」


そんな、回復に十年も費やさなければならない傷を負ってまでさ。


『そうか、やっぱり君は気が付いていたんだね』


「まあな」


これまで、ほんの短い時間しか関わらなかったけど、それでも解るよ。

お前がこんな危険な仕事を俺一人に背負わせるような奴じゃないって事くらい。


「この十年、全く音沙汰なかった事で、返って確信した」


『最後の最後で詰めを誤っちゃってね。奴を取り逃がしちゃったんだ』


ほー、お前から逃れるとは、異界の神も中々やるな。


『そのまま追えるほど僕の負ったダメージも軽くなくてね。更に君を十年前に送り込んだ事で力尽きちゃったんだよ。今まで休息を取らなければならないほどに疲弊してしまったんだ』


「そこまでして俺に肩入れした理由は何だ?」


『前にも言ったよね、利害が一致したからだよ。どの道、僕は休息を必要としていた。だけど、そのまま放置するほど楽観できる状況でもなかった』


「使徒か」


『うん。君は楽勝だったって思ってるかもしれないけど、それは十年掛けて魔国の使徒を一掃してあったからだよ』


「あ、やっぱりそうなんだ」


敵の中枢って割には数が少ないと思ってたんだよな。

だから、まだどこかに隠れてるのかと思って慎重にやってたんだ。


『そうだよ。君のいない未来では、この国は完全に使徒に乗っ取られていたからね』


げ、まじか。やっておいてよかったぜ、魔国の掃除。


『それで焦った使徒どもの自滅があったのと、姉さん(バーセレミ)も頑張って減らしていた結果が今回の状況さ』


なんだよ、バーセレミも動いてたのか。

だったらそのまま一掃してくれりゃよかったのに。俺が苦労したのは何だったんだ。


『でもその結果、国王が迷宮攻略を宣言しちゃったでしょ? あれのせいで、姉さんは動けなくなったんだよ』


意味分かんねえよ。どう繋がるんだよ、それ。


『自分の眷属が有利になるように神が手を貸しちゃいけないんだよ。種族が争わずに発展するためのシステムだけど、これは神々(ぼくら)の勢力争いでもあるからね』


――え。


「おい、俺魔国で散々手伝っちゃったんだけど」


『構わないよ。とっくに順位を覆せる程生易しい差じゃなくなってるからね』


「でも文句を言う奴はいるだろ?」


何処にでもそう言う奴はいるもんだ。何にでも文句を付ける奴がな。

日本じゃ小学校上がりたてのガキですらそんなのがいたくらいだぞ。


『負け犬は勝手に吠えさせておけばいいよ。僕は気にしない』


おお、強気だな。ちょっと羨ましい。


『とにかく、奴らが人手不足だったからこそ、君は反撃する隙を得る事ができたんだよ』


なるほどね、納得したよ。国王は、洗脳すらされていなかったもんな。


「――それで?」


『何がだい?』


「肝心の答えを聞いてないぞ。悪の魔神が何でそこまでして戦ったんだ。放っておけば異界の神(そいつ)が世界を滅ぼしてくれただろうに」


『ああ、それかい。簡単だよ、僕は確かに悪だけど、それでもこの世界の一員なんだ』


それは確かにそうだな。




『僕はこの世界を愛している。例え僕が悪であろうと、この世界を侵略する(モノ)を僕は許さない』




ユスティスはハッキリとそう言った。

恥ずかしげもなく、むしろ誇らしそうに。


「ははっ、そうか」


確かに、俺の思い描くお前はそう言う奴だ。このツンデレめ。

でも、凄く納得したわ。ストンと心に落ちた。


俺はヒデ達のためなら命を懸けて戦える。どんな化け物が相手だって構わない。

俺にとってのヒデ達が、ユスティスにとってはこの世界なんだろう。


「分かったよ。俺は別に悪になりたいとは思わないけど、他の何かに遠慮して自分を抑える事はしないようにする」


『うん、それでいいよ』




じゃ、お互いに納得したところで、俺はそろそろ帰るよ。


『使徒がいなくなったから、もう異界の神(やつ)が回復する事はないよ。放っておけば勝手に死ぬから、僕は下界に干渉することをやめるよ』


「そうなのか?」


『うん、外の世界から来た奴は、この世界じゃ自然回復しないんだ。だから使徒の供物で回復していた筈だよ。その使徒がいなくなったから、もう奴は終わりだね』


「そっか、それじゃお前ともこれでお別れなんだな」


直接関わった時間は短かったが、随分と世話になった。

もう会えないと思えば寂しく感じるほどには親しみを覚えている。


『でも君には興味あるから、君にだけはちょっかい出すかもね』


「なんじゃそりゃあぁぁ!?」


最悪だよ! ちょっといい雰囲気だったのに、何もかもが台無しだよ!

スパッと消えろよ!


『そんな寂しい事言わないでよ、君は僕の化身じゃないか。兄弟と言ってもいい間柄だよね。僕をお兄ちゃんって呼んでもいいんだよ?』


「お前ら、やっぱり姉弟だな! 実にそっくりだわ、そう言うところ!」


『そうかなぁ? それは、ちょっとショックだよ』


やかましいわ!


『あはは。じゃあ、またね』


またって言うな!







 

評価をありがとうございます。感謝の更新。

まさかこのタイミングで頂くとは…私、頑張った。(更新を)

会話が多いのは、書くのが楽だから――ではなくて、元々の予定です。

説明回と言うか、設定暴露回ですね。

悪が人知れず世界を救うために戦う。燃える展開。書かないけど。

次回、二章最終話。

 

※追記

 使途 → 使徒 たくさん。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ