表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/107

02-24 警告

地上へと戻った俺達は驚愕をもって迎えられた。

村人達は勿論、付き添いで来ていた騎士団の人達も俺達が攻略に失敗したと思っていたらしい。そりゃそうか、俺だって彼らの立場ならそう思う。

上級迷宮攻略と言う事で、念のため仮の攻略期限と決めた二か月を過ぎるまでは、俺達が戻って来なくても待つように言い含めておいたのが功を奏したようだ。

中層まで攻略済みだと告げると彼らはとても驚いていた。




俺達は疲労を癒すために三日間村で過ごす事にした。

中層の攻略に予定より時間を食ったが、疲労を蓄積したまま慌てて進んでもいい結果には繋がらない。


サエとクミはお風呂お風呂と騒いでいる。


「風呂って、五右衛門風呂かよ!?」


こんなでっかい瓶を運ばせたのか。鬼だなこいつら。


「当たり前じゃない、この国にはお風呂の習慣がないんだから」


「わたし達が教えるまで、お城にもなかったんだよ~」


「へー、魔国にはあったぞ、お風呂」


「ええ~、いいなあ」


「これが種族の発展の差なのかしら」


「でもこれだと火の管理をする人が必要になるんじゃないのか?」


「エッチ! そんなの、あたしとクミがいれば必要ないわよ」


「冤罪だ。…でもそうか、なるほど便利だな。これなら迷宮内でも入れるって事か」


「え…あ、無限収納袋!」


「それだよ! カミくん、お願い~」


「余計な事言っちまったな…」


そんな訳で迷宮でも風呂に入れるようになった。ほんとに鬼だな、こいつら。







三日後、いよいよ俺達は深層の攻略へと向かう。

中層がアレだったので、皆戦々恐々としていたのだが、拍子抜けするほど普通のダンジョンだった。

出てくる敵は確かに強敵なのだが、中層の鬱憤を晴らすかのようなザヴィアの前に塵となった。

文字通り塵になったのだ。素材はどうしたお前ら。


実際のところ、他の冒険者達があの中層を越えて深層まで進めるとは思えない。

中層は遅効性の死の罠(デストラップ)だ。冒険者ギルドには立ち入り禁止を通達するように指導するつもりだった。


うっかりそれを口にしてしまったもんだから、サエとクミは深層に限って素材を残さず魔物を殺す事に躊躇しなくなってしまったのだ。

曰く「取りに行けない場所の素材なんて公表しても嫌味にしかならないでしょ」との事だ。口の回る奴らめ。




そんな俺達の道を深層で阻んだのは、魔物ではなかった。


「行き止まりか、でも何か書いてあるな。何々…」


【世界が静まり、空が染まる時、剣を振るう騎士が一人――色は何色?】


リドル(なぞなぞ)かよ。そもそも問題がおかしくないか、これ?」


「色はどこから出てきたのよ…」


「わたしも解んないよ~」


転移組は壊滅状態。勿論俺にも解らない。


「ソルは、これの答え知らないか?」


ヒデがソルを問い質す。そうだよ、ソルなら解りそうなもんだ。


《主よ、それは残念ながら適わぬ。我に答える事は許されておらぬのだ》


「そっか~、残念だ」


《我が答えては意義を失う。これは主達の試練故に》


なるほど、言われてみれば確かにそうだ。ズルしちゃダメって事だよな。


「しかし、そうなるとやっかいだな…」


「そうね」


一か八かで答えていい物じゃなさそうだ。失敗した時のリスクが怖い。


「私、解ります」


そんな中、自信を持って前に出たのはアルフだった。


「本当か、アルフ!?」


「はい。これは三騎士の一人、朝の騎士を指しているのでしょう」


「よし、任せた」


この世界の逸話となれば現地人に任せるのが一番だ。

アルフは問いの刻まれた石板に手を触れた。


「答えは赤です」


すると文字盤の文字が変化した。


【数は幾つ?】


「おいっ! 追加問題があんのかよ!?」


しかも、また脈絡のない問いだ。

だがアルフは全く動じず答えを返す。


「数は三」


【Congratulation!】


三度(みたび)石板の文字が変わり、通路が開く。

バーセレミぃ…、このクソ神め! 俺の中でバーセレミの株がどんどん下がっていく。もう何度目のストップ安か覚えていない。


「よく解るわね、アルフ」


「はい。朝の騎士の振るう両手剣(モーニングソード)は赤い刃を持ち、三つに分離して敵を襲うと言われています。だから、きっとこれだと思いました」


そもそも、その話を知らない俺達では答えられないって訳か。

手の込んだ仕掛け作りやがって。

八つ当たりと分かってはいるが、そう思わずにはいられない。

もしかしたら転移組だけでは俺Tueeeができないようになっているのかもしれない。


「アルフは、その三騎士?の話は親父さんから聞いたのかい?」


「はい。昼の騎士――白騎士は騎士の理想と言われ有名ですが、残る二人、特に夜の騎士はその詳細を知る人は少ないそうです」


「今の問題は朝の騎士なんだろ? よく知ってたね」


「朝の騎士は昼の騎士ほど有名ではないですが、時々現れますから」


「ん? 現れる?」


「はい。三騎士は代替わりします」


「へぇ、なら昼の騎士は頻繁に現れる。朝の騎士は稀に現れる。夜の騎士は滅多に現れないって事なのね」


「そうです」


「親父さんは元騎士団長だけあって、事情に詳しいのかな」


「いえ、ミーハーなだけですよ」


何だそりゃ。


「でも、そのおかげで皆さんの役に立てたので、今は感謝しています」


アルフは笑ってそう言った。その顔はちょっと嬉しそうだ。




そして、先へ進んでいくと再びリドルが現れた。


【剣の先を振り下ろし、空の中心が落ちる時、夏の王の墓は現れる――動かすのはどれ?】


またか。これも俺には解らない。早々にお手上げを宣言する。


「誰か解る人~?」


アルフとテアに向かって聞く。そう、丸投げである。


「解る。一部の国で有名な逸話」


するとテアが前に出た。

意外だ。振っておいて何だが、凄く意外だ。


「これは二代目冬の王が夏の王の墓を通過する際の仕掛け」


テアが誇らしげに説明する。いや、解説されても解らないんだが。

とりあえず理解したのは、初めから知っておかないと答えられない類の問題が出るって事だけだ。なら、知っている人に答えて貰うしかない。


「とにかく、回答してくれ」


「分かった」


頷くとテアは石板の前に立つ。そして石板に手を触れると答えを告げた。


「答えはS」


するとまたしても石板の文字が変化した。


【では次に動かすのは?】


毎回追加問題が出るのかよ、厄介だな。


「K」


だが、テアは何でも無い事のように答えた。


【Congratulation!】


正解だ、凄ぇな。


「今後の参考までに解説してもらってもいいか?」


どんな理屈なのか知っておきたい。切実にそう思う。


「簡単。(Sword)の先だからS、(Sky)の中心はK」


なんだそりゃ…


「クイズって言うか、トンチの類じゃないのか、それ?」


「テアのせいじゃない」


そりゃそうだ。

そりゃそうなんだけど、なんか納得がいかないと言うか…


「ま、まあ、先に進めるんだから、それでいいじゃないか。な!」


ヒデ、それで仲裁したつもりか。


「別にケンカしてる訳じゃないし、テアに当たってる訳でもないぞ」


俺の怒りは100パーセント、バーセレミに向いている。それは間違いない。


「あ、なんか文字が変わったよ?」


「なに!?」


これ以上出題されたら敵わんぞ。慌てて石板を確認する。


【そんなに怒らないで、愛しい子】


ぶっ!

バーセレミか、これ!? リアルタイムで操作してるのかよ!


「愛しい子ってどういう意味かしら…」


サエの冷めた声が俺に突き刺さる。

何故そこで俺を見る!? 勘か? それも勘なのか!?

そんなの俺にだって解らないぞ!? バーセレミとは会った事ないんだから!

そんな俺の心を読んだのか、石板の文字がまたしても変化した。


【弟の化身なら私の弟も同じよ。弟だけでなく、お姉ちゃんとも仲良くして欲しいわ】


おいぃ!?

バーセレミってユスティスの姉ちゃんだったのかよ!?

意外過ぎる事実にびっくりだよ!

てか、こんな事を皆の前でぶっちゃけてるんじゃねぇよ!


「なんて書いてあるの? あたしには読めないわ」


「俺もだ。おかしいな、俺達には自動翻訳される筈なのに」


ああ、やっぱりそう言うのあるんだ。召喚魔法陣の追加能力アディショナルアビリティか?

ちなみに俺のはユスティスによる肉体改造――魔族の身体に再構築された、死ぬほど苦しいアレな――の時に、組み込まれている。どうやらヒデ達の上位互換らしい。


「わたしも読めないよ~」


「私にも解りません」


「――――」


一応読めないように配慮はしてるんだな。態度からしてテアには読めてそうだけど。


【お姉ちゃんって呼んでいいのよ? いいえ、むしろ呼んで欲しいの】


懐かしいアリスとのやり取りを彷彿とさせる。

結局、アリスを姉と呼んだことは一度もなかったな。


当然、バーセレミを姉と呼ぶつもりはない。ないったらない。

一度も顔を合わせた事のない奴を姉と呼べるか!


【寂しい事を言わないで。最近は弟も呼んではくれないのよ】


そんなの俺の知った事か!

このままじゃ、何時まで経っても埒が明かない。さっさと先へ行こう。


「もういい。路は開けたんだ、先へ進もうぜ」


するとまたも石板の文字が変わった。しつこいな!


【Danger! Danger!】


「え?」


「危険、ってどういう事?」


あれ? 何だ、何が起きた?


【Emergency!】


【 気を付けて、愛しい子。この先に――】


“ザザザザザ――”


それっきり石板は文字を表さなくなった。

ノイズのような線が出ているだけだ。


「…………」


仲間達に沈黙が落ちる。

当然だ。予想もしなかった事態が起きた。

バーセレミから直接の交信。それだけなら――生暖かい空気が流れたのは別として――まだしもよかった。

だが、その後の危険を知らせるメッセージは見過ごせない。


“気を付けて、愛しい子。この先に――”


この先に――何かが起きた。

何があった?

分からない。石板は沈黙を保っている。


「考えても仕方がないか…」


「そうだな。進むしかないよ。今まで以上に慎重にいこう」


「分かった、ここからは常に俺が先頭で進む。いいな?」


「おう! 任せるぜ」


この先には迷宮とは違う危険が潜んでいると考えた方がいい。

魔力を直接見れる俺は他人より視覚から得る情報が多い。

その優位を活かすべきだろう。







 

三騎士と四季の王は伏線でも何でもないので気にしなくていいです。

昔、このネタでTRPGやったなぁと懐かしく思って出しただけなので。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ