02-16 疑惑
王様に一言文句を言ってやろうと執務室に押しかけたら逆に捕まった。
「いいところに来た、婿殿」
誰が婿殿だ。
「これから大臣を集めて、喫緊の問題に対する会議の事前調整を行う」
ふむふむ?
「婿殿は隠し部屋から化け物に成り代わった大臣を確認しろ」
「確認だけでいいのか? 俺なら一網打尽にできるが」
奴らを放置して良い事など何もないだろ。
「物事には順序があると言ったぞ。一網打尽にすると言うなら、それこそ根こそぎ集めるべきだ。違うか?」
即殺を持ちかけたら逆に諭されてしまった。悔しいが、確かに一理ある。
俺はそのまま別室――隠し部屋に通され、大臣達が来るのを待つ間、渡された席次と名前が書かれたメモを眺めていた。
出席者は思っていたより少ない。王様の他は、宰相と三人の大臣の四名だけだ。
宰相――ヘンリク・バルフォア
軍務大臣――グレンヴィル・ブレナン
外務大臣――オズワルド・ハイアット
内務大臣――ロベルト・アシュトン
聞き覚えのある名前があるな。
ロベルト・アシュトン――冒険者ギルドの実質的なパトロンだ。
内務大臣だったのか。そりゃ軍事よりこっち寄りのスタンスになるのも頷ける。
“かちゃ…”
ドアの開く音を耳にして、俺は気配を消したまま様子を伺う。
会議が始まり、四人の姿を確認すると俺は密かに安堵の息を零した。
(宰相と軍務大臣の二人が使徒か)
少し意外だった。
ぶっちゃけ、全員が使徒でも驚かなかったくらいなのだ。
むしろ外交と経済が乗っ取られていないのは幸いだったかもしれない。
「――以上を議題として話を進めたいと思いますが、異議のある方はいらっしゃいますか?」
バルフォア宰相が進行役らしい。異議の有無を確認している。
使徒の癖にしゃらくさい奴め。
「異議はないが、議題を一つ追加だ」
これは王様の発言だ。
おいおい、何を言い出すつもりだ?
「魔国と国交を前提とした交渉を検討する」
俺の心配をよそに、王様はさらっと重大案件を口にする。
“ガタッ!”
「なんですと!?」
王様の告げた言葉に、ブレナン軍務大臣が椅子を蹴って立ち上がり、バルフォア宰相が驚愕の声を上げた。
「本気ですか、王?」
「控えよ、不敬だぞハイアット」
「し、失礼しました…」
王の正気を疑うと言う不敬を働いたハイアット外務大臣を冷静に窘めるアシュトン内務大臣。
「皆、魔国との国交は不服か?」
一連の騒ぎを冷ややかに眺めながら王様が問い質す。
「は、恐れながら。これから攻め込もうと言う国と親交を深める意味が分かりませぬ」
「魔族を滅ぼしてしまえば、魔国の全てが手に入るのですぞ。文化や技術、最大の発展を遂げた種族の全てがです。躊躇う必要などありますまい」
バルフォア宰相とブレナン軍務大臣が揃って不服を申し出る。
こいつらは使徒だからな、そりゃそうなるだろう。
「私は賛成です。常々、王の手腕は外交によってこそ発揮されると考えておりました故に」
「ハイアットに同意です。侵攻は最後の手段、まずは交渉すべきかと」
ハイアット外務大臣とアシュトン内務大臣は国交に賛同するらしい。
今までは王様自身が侵攻を掲げていたから従っていただけか?
「半分に割れたな。では俺が決めよう。国交を前提とした交渉を魔国に申し入れる」
動揺するバルフォアとブレナンを尻目に、さっさと決定してしまう王様。
「かつての王が戻ってきましたな。年甲斐もなく興奮して参りました」
宰相とは反対に、目を輝かせ始めるアシュトン。
「ほう、最近の俺はそんなに頼りなく見えたか?」
すかさず王様はアシュトンを追及する。
「い、いえ、失言でした。決して、そのような――」
「許す。思ったままを述べてみよ」
王様は誤魔化しを認めない。鋭い眼光で睨み付け、本音を強要する。
「恐れながら、近年の王は性急過ぎるきらいがおありかと存じます。かつての王は交渉による実効支配を好まれた。このアシュトン、それこそが王の本質と愚考する次第でございますれば」
アシュトンは恐縮しながらもはっきりと己の意見を述べている。
王様は眉根を寄せながらも、その苦言を受け止めていた。
「――そうか。この十年、俺はそんなにおかしくなっていたか」
「恐れながら」
「安心しろ、それはもう終わりだ。シーラを預けるに足る男を見付けた。シーラはそいつに任せ、俺はまた国に注力していく」
「御意!」
いくつか突っ込みどころのあるやり取りだったが、使徒の介入が無ければこのペッテル国はそれなりに良い国だったのかもしれない。
(だが、使徒は心中穏やかじゃいられないよな)
事実、バルフォアとブレナンの顔は苦々しげだ。
十年掛けた計画が、これからって時に頓挫したのだから、それも当然だろう。
魔国で行っていた計画は、俺が全ての使徒を潰した事で完全に消滅した。
それに次いで、このペッテル国までも失敗となると、奴らが今まで控えていた強硬手段に訴える事も視野に入れて対応する必要が出てくる。
(この大臣二人にも俺の守護を掛けておく必要があるな)
味方におけるキーマンには漏れなく精神防御をかけていく。
現状、敵に回らないと言うだけで貴重だからね。
この後やるべき事を頭の片隅にメモしつつ、この会議が終わるまで様子を伺った。
最後まで眺める気は無かったんだが、こんな展開で放置する訳にもいかない。
会議が終わると結果を告げたが、王様は眉一つ動かさず聞いている。
まあ、あの展開で気付かない奴はアホだろう。
「三か月後だ、婿殿」
ん?
「三か月後にシーラのお披露目と婚約発表を行う」
「ぶっ!」
おいぃ!?
「その名目で、この国の重鎮、役職者全ての人員を集める」
おいおい、それはつまり――
「化け物どもを一網打尽にして見せよ」
「…奴らの数次第じゃ今後の国の運営に支障を来すかもしれないぞ?」
「構わん。その程度、乗り越えられんで何が王か」
あ、そう。
分かった。その覚悟があるって言うならやってやろうじゃないか。
三か月か…
シーラの体質から来る嫌悪を払拭する期間を仮に一か月と考えると、迷宮攻略に使える時間は二か月か。
俺達が初級迷宮を半月足らずで制覇した事も考慮しての時間だろうな、これは。
しかし、その間の守りを考えると心許ないんだよなあ。
その足で俺はシーラの部屋にお邪魔する。
漸く部屋の外に出られたのに、俺が動き回ったせいで、すぐ自室に逆戻りとなってしまったシーラを宥めるためだ。
「お兄さま!」
さぞや不機嫌だろうと思っていたのだが、輝くような笑顔で迎えられた。何故だ。
「今日は済まなかったな、せっかく外に出られたのに」
「いいのです、お忙しいお兄さまを責められませんわ」
ああ、いい子だな。
こんないい子には打算抜きで力になってあげたいと思ってしまう。
「シーラ、今後迷宮で必要な素材が手に入れば、俺に関わらず自由に部屋の外に出られるようになる」
「はい!」
「だが、今でも時間制限はあるが、俺がいなくても出られる方法があるぞ」
「――え?」
「魔力の運用を覚えれば、宝石に刻んだ魔力回路でも耐久度を上げられるんだ」
厳密には、消耗を抑える事ができるようになる。
まあ、それでも一日一個の宝石を消費する事になるけどね。
お金に困らないお姫様のシーラにしかできない方法だ。
「でもお兄さま、わたくしは魔力を扱えませんわ」
「シーラには魔法師の才能がある。ただ、それは月の――魔族の魔法師としての才能だ」
あの日、シーラの祈りは俺に届いた。
それはつまり、シーラには俺と契約できるだけの才能がある事を意味している。
「それでもよければ、俺と契約するかい?」
「はい、お願いします! わたくしは、お兄さまの魔法師になりたいです!」
即答だった。
少しは悩むかと思ったんだがなあ。
「そんなに簡単に決めていいのか? も少し考えてからでもいいんだぞ?」
老婆心ながら、つい、そんな事を聞いてしまう。
「いいえ。お兄さまとの繋がりなら、いくつでも欲しいのですわ」
やはり返ってくる答えは同じだった。
まあ、それだけの意思があるのならいいか。
元から契約するつもりで振った話だしね。
「じゃあ、初めて会った時のように、俺に祈ってくれるかい?」
「分かりましたわ!」
シーラは元気よく返事をして祈り始める。
その祈りは、すぐに俺に繋がった。
『お兄さま、お兄さま、お兄さま……』
おおぅ、強烈な祈祷だこと。
『聞こえている、シーラ。届いてるよ』
『お兄さま!』
『じゃあ、契約するぞ』
『はい!』
俺は心のチャンネルを開き、シーラと繋げる。
『完了した。シーラは今から俺の魔法師だ』
『はい! 嬉しいです、お兄さま!』
シーラの返事を確認すると、俺は祈祷のリンクを切る。
「じゃあ、少し練習してみようか」
「はい!」
そして、俺はシーラの魔法師と魔力運用の手解きを始めた。
「難しいです…」
「魔力の操作は人間には難しいだろう」
人間にとって魔力とは消費するものであって、操作するなんて概念すらない。
対して月の神の眷属である魔族は、発展を遂げて魔力の操作を身に付けた。
「だが、操作ができないと月の魔法師とは言えないぞ。月の特殊神聖魔法は魔力を操作するものが多いからな」
「そうなんですの…」
後は、大きな声じゃ言えないが、防御を含めた精神操作系な。
「――あれ?」
「お兄さま、どうかしましたか?」
「いや、何でもない、続けて」
「はい」
月の魔法師の特殊神聖魔法は、魔力と精神を操るものばかりだ。
何故なら、月は魔力と精神を象徴しているから。
(太陽って肉体を象徴してるんだっけ?)
あまり聞いた事がないような…
だが、太陽の神の特殊神聖魔法は身体強化系ばかりだ。
事実、テアはそれを使っている。
身体強化と、防御の強化…
でも、それって操るって言えるのか?
テアなら性格的に合わないなんて問題もなさそうだ。
重騎士を相手にした際、アルフにあんな作戦を授けるくらいだし。
敵の身体能力を下げたり操ったりなんて気にしないと思われる。できるならやるだろう。
やらないのは――できないから、か。
思えばソルだ。
聖剣であるソルの能力は、やはり魔法師の特殊神聖魔法と同じ身体強化だ。
防御能力もあるし、痛みの中和なんかもある。
やってる事は、ほぼ人間の魔法師と同じなんだよな。
確かに強力だけど、何だかパッとしない。
聖剣だけの特別な力って何かないのか?
確かに言葉を話せて、助言をくれるってだけでも凄いんだけどさ。
思えば初級迷宮制覇の褒賞。
魔法師用の強力なマジックアイテムと意志を持つ武具の強化アイテム。
強化アイテムばかりだ。
――ここから導き出される答えとは何だ?
そんな単純なものじゃないのかもしれない。
だけど…
(俺はもしかしたら、勘違いしていたのかもしれない)
俺だけじゃない、この世界の全ての人々が思い違いしているのかもしれない。
今後、年末から年度末にかけて繁忙期に入ります。
要は更新頻度が下がります。
でも、章のクライマックスから終わりにかけてって一気に読みたくなりませんか?
だから、比較的時間の取れる月の中旬や休日に頑張って書き貯めできるよう頑張ります。
つまり何が言いたいかと言うと、二章のクライマックスが近いです。
(次々回辺りに迷宮に入ったら、その後はクライマックスへ向けてGo!です)
更新頻度が下がっても(と言うか書き上がるまで更新しないかも)見捨てないで頂けると助かります。




