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02-14 逢瀬

シーラの部屋へは、その後もちょくちょくお邪魔している。


イェルハルドを倒して以来、俺は使徒の暗殺に努めていたのだが、この暗殺と言う行為は正直心に来るものがあるんだよ。とても心が荒むんだ。

シーラとの逢瀬は一仕事終えた後、荒んだ心を癒すのにいいんだ。

純真な少女との会話に癒される至福の時間だった。


「お兄さま、それは何ですの?」


そんな事を繰り返す内、シーラは俺をお兄さまと呼ぶようになった。

いや、俺がそう促したんだけど。


「これは仮面だ。素顔を隠すための物だな」


ある時は魔神化した時に着ける泣き顔ピエロの仮面を作りながら――




「お兄さま、それはお帽子ですか?」


「そうだ。俺が被るための物だな」


ある時は三房のボンボンが付いた帽子、ジェスターハット――ピエロが被るアレな――をちくちくと縫いながら――




「お兄さま、それはお人形ですの?」


「ぬいぐるみだな。仮面を着けて帽子を被った俺に似せてみた」


「まあ! 本当ですわ! お兄さまにそっくりです!」


そこまで言う程そっくりか? 大分デフォルメしてあるんだがな…

これまた、ちくちくと縫いながら、ちょっと複雑な気分にさせられる。


「二つ作ったから、一つはシーラにやろう」


すでに出来上がった方を、ぽいっとシーラに放り投げる。


「えっ? えっ?」


いきなり投げられたので、慌てたのか受け止められずお手玉している。


「よ、よろしいのですか? せっかくお作りになったのに」


「元から一つはシーラにやるために作っていたんだ。だから、いいんだよ」


じゃなきゃ、こんな物を二つも作ったりしない。


「ま、こんな下手糞なの貰っても困るかもしれないけどな」


「いいえ! 嬉しいです! お兄さまが作って下さった、お兄さまそっくりのお人形ですもの!」


シーラはそう言って、ぬいぐるみをぎゅーっと抱き締めた。

うん、喜んでくれるのは素直に嬉しい。プレゼントした甲斐がある。

嬉しいのは確かなんだが、俺が潰されているみたいで居た堪れないので、潰れる程強く抱きしめるのは止めてあげて欲しい。お兄さまからのお願いだ。







「カミくん、最近何処に行ってるの? 部屋にいない事が多いわよね」


「そうだね~、気になるなぁ」


そんな事を続けていたある日、サエとクミに不在が多い事を問い詰められた。

あれ以来、俺達ザヴィアにはささやかながら城内に個室が用意されていたのだが、俺の不在時に何度か顔を見せていたようだ。

ちなみにこの場にはサエとクミだけじゃなく、アルフとテアも一緒にいた。

ヒデとシンシアはこの場にいない。何でかって? 推して知るべし、だ。


「ゼンに秘密が多いのは私にも解ってきました。でも全てを一人で抱える必要は無いでしょう? 私達にも手伝えることがあると思います」


「…………」


アルフが理詰めで責めてくる。くそう正論じゃないか。

テアは無言だが、睨む目が不満を訴えていた。


「迷宮攻略の許可が下りるまで暇だからな、街で情報収集していたんだよ」


相変わらず、嘘ではないが全ては教えない俺だった。

シーラの部屋に入り浸るのも、癒されるためだけじゃなく、他の目的もあるのだ。


「言ってくれれば、あたし達も一緒に行ったのに」


「そうだよ~、わたしも街に行きたかったな~」


「一人で行くから目立たないんだ」


一緒に来るというサエとクミに対し、暗に今後も一人で行くと伝える。

言っちゃなんだが、ザヴィアには俺も含めて情報収集に向いている奴が一人もいない。

俺が一番マシって点でお察しなのだ。足手纏いなんて連れて行けるか。


「あ、でも近い内にサエとクミは冒険者ギルドに一緒に行って貰うから」


「え、ほんとう~?」


「嬉しいけど、何故?」


「パーティー登録しなくちゃいけないだろ」


二人にもザヴィアに加わって貰う以上、登録は必須だ。

サエとクミは魔術師と錬金術師って話だから、後衛も充実して構成的には隙が無くなる。




善は急げと言う事なのか、それとも余程不満が溜まっていたのか、早速冒険者ギルドへ行く事になった。それもヒデとシンシアを含めた全員で。


「そう言う事は前もって言っておいて欲しいのだが…」


泣きそうな顔でそう呟くアルヴィンが気の毒に思えてならない。

気を強く持って生きて欲しい。


実際のところ、アルヴィンが忙しいのも迷宮攻略の許可が下りないのも俺のせいだ。

イェルハルドから始まって、俺が使徒を暗殺する度に化け物の死体が発見されるために、城内が大騒ぎになっているのである。

そして、その度に要職にある人物が行方不明になるのだから始末に負えない。

箝口令が敷かれてはいるが、城内では公然の秘密だ。

城外へと広まるのも時間の問題だろう。







選抜戦が終わり、街は静けさを取り戻していた。

と言っても、一国の首都である。

そこそこ以上に人はいるんだけどね。


ちなみに選抜戦は長柄鎚(ルシーンハンマー)使いの戦士が優勝した。

しかし、アルヴィンの誓いにより、彼はヒデの仲間になれず騎士団入りを果たす。

当然、勇者の仲間としてふんぞり返っている――他人にはそう見えるらしい――俺達に気付き、怒り狂う。

で、また決闘となり、アルフが相手をする事となるのだが…

アルフは前回で味を占めたのか、例の手を使って重傷を負わせてしまう。

その結果、彼は文句を言わなくなり、俺達の周りは静かになった。

うん、気を強く持って生きて欲しい。




冒険者ギルドへ着くと、その中は結構賑わっていた。

予想ではもっと閑散としているかと思っていたのに。


「あ、特別顧問!」


俺達に気付いた受付嬢――ルシアから声が掛かる。


「どうも。随分と盛況みたいだな」


「はい。特需は終わってしまいましたけど、でも残って活動してくれている人達がたくさんいるんですよ! これも特別顧問が初級迷宮を制覇してくれたお陰です!」


え、そうなの?


「特別顧問は、迷宮は制覇できるものだと証明してくれたんです!」


「勇者のパーティーって言うだけでもズルだと思うんだけどなあ」


「それでもです。たった四人で成し遂げたのですから、もっと人数を増やせば自分達にもできるんじゃないかって考える人達はいるんですよ」


なるほど、そう言う物か。

表向き、勇者以外は普通に成り立て冒険者だしな。中には勇者になんか負けるか!って言う反骨精神に溢れる奴もいるだろうし、他にも戦争に行きたくない奴は、食えるなら冒険者でやっていきたいとか思うのかもしれない。


「お、もう素材の買取りを始めているのか」


さすがに初級迷宮の上層で取れる物はリスト入りしていないが、中層からはぽつぽつと見て取れる。


「それも理由ですね。制覇しなくてもお金になるのは大きいです」


さすがに中層では儲かる程稼げはしないけど、下層までいけるようなら生活に困る事もなさそうなラインナップだ。

新生冒険者ギルドの滑り出しは上々なようだった。




その後、サエとクミのパーティー加入は滞りなく行われた。

もう街に用は無いのだが、女性陣の要望によりそのままショッピングと相成った。

行くのは大体が服とかアクセサリーの店だな。この辺りは向こうもこっちも大差ない。

ヒデも服やアクセサリーを手にしたシンシアにあれこれ意見を聞かれている。

彼女持ちは大変だな。暇そうにしているのは俺だけだ。


「…………」


と思ったら、テアも同様だった。

手持ち無沙汰で居心地が悪そうにしている。


「テアも一緒に買い物して来たらどうだ? 別に教義で禁じられてる訳じゃないんだろ?」


折角なので楽しめばいいと思って、そう声を掛けた。


「お金がない」


「え? ああ、そうか」


結局、あの試合は中断されたまま終わってしまったので、テアは無一文のままだ。

俺は魔国で稼いだ分があるから気にならなかったけど、こいつはそうじゃない。


「欲しい物があったら気にせず持って来い。俺が出してやる」


「いいの?」


「ああ、いいぞ」


「分かった、見てくる」


いつもの無表情に、ほんの僅か喜色を浮かべて買い物の輪に加わった。


(俺も何か買うか…)


テアを見ていて、俺の脳裏にはシーラの顔が浮かんでいた。

何かお土産でも買ってやろう。折角だから、俺の手を加えた特別性を。


(ベースは宝石がいいな。他の魔力()に染まっていないシンプルな物)


幾つかを手に取って吟味していると、サエが声を掛けてきた。


「あら、カミくんが宝石(そんなもの)買うなんて意外ね」


「そうか? 俺はこう見えても金持ちなんだ」


それとなく話題を逸らしてみた。


「後、これな」


そう言って、俺は以前、魔国で見つけた髪飾りをサエの髪に当ててみる。


「な、何よ、急に!?」


だが、サエは凄い勢いでバックステップする。

何だよ、傷つくなぁ。


「前にヘアピンくれたろ? あれ、凄く助かったからさ、そのお礼だ」


いつかお礼をしようと思い、似合いそうなのを見つけておいたのだ。


「あ、ああ…そうなんだ?」


「他意は無いから安心しろ」


そう言って、俺は紅い宝石が幾つか連なった髪飾りをサエに付けてやった。

うん、やっぱり派手なサエには赤い色が良く似合う。


「あ、ありがと…」


お、珍しくしおらしくなった。

だが、ここまでしたのにサエの追及を逃れる事はできなかったようだ。


「は、はぐらかさないの! 何? こっちで彼女でもできたわけ!?」


ばか、声がでけぇよ!


「え~!? カミくんまで彼女できちゃったの!?」


ほら見ろ、クミまで参戦してきやがった。

当然その声は周囲に響き渡り、全員の耳に届く。


「それは聞き捨てならないな。詳しく聞かせて貰おうか」


「そうですね、ゼンが選んだ女性とは、興味があります」


「ゼン、浮気はダメ」


収拾が付かなくなってきた。こうなるともう、適当な事言って誤魔化すのは無理だ。


「最近知り合った子へのお土産だよ。言っておくが、十歳前後の子だぞ」


「お前、だから犯罪は――」


“すぱーん!”


俺は突っ込み用に作っておいたハリセンを素早く取り出すと、皆まで言わせずヒデの頭を張り倒した。


「痛ってえな! まだ全部言ってないだろう!?」


「長い付き合いだ。お前が何を口にするかは読めている」


「ぐっ! 大体、いつの間にハリセン(そんなもん)作ったんだよ!?」


「二日前だ。ヒデに対する迎撃兵器として用意した」


「俺専用かよ!? 」


「ほんと、男子ってバカよね」


「いつもの二人らしくて、安心するよ~」


「ゼン様と再会してからのヒデオ様は生き生きとしています」


「仲が良くて微笑ましいです」


「楽しそう」


「…………」


「…………」


さすがの俺とヒデも、女性陣の冷静な感想を耳にしては黙り込まざるを得なかった。


「しかし、俺にも反応できないような攻撃をハリセンで繰り出すとか、ゼンも強くなったよなあ」


そうだろうか?


「俺は不意を突くのが得意なだけだ。まともにやり合うつもりは無いんだよ」


俺は戦闘に限らず、常にその場全体を広く観察するよう心掛けている。

その方が全体における違和感を捉え易いからだ。

違和感に気付くのが早いと言う事は、対処も早くなると言う事だ。

そうする事でパーティーを危機から一早く脱させる事も俺の仕事だと考えている。

面と向かって一対一で戦うとか勘弁して欲しい。考えただけでゾッとする。







その日の夜。

俺は真っ直ぐシーラの部屋に向かった。

シーラは歓喜の表情で迎えてくれる。


「お兄さま!」


「いい子にしていたか?」


「はい!」


「そうか、ならお土産をやろう」


そう言って俺は昼に買ったエメラルド――シーラの眼と同じ色――の指輪を渡す。

俺のお手製。“月の護り”を籠めた特別性だ。


「わ、わたくしが受け取ってもいいのですか?」


「当然だろう、そのために渡したんだ」


あの店には子供用の指輪など無かったので、今のシーラでは親指にしか嵌らない。そこはご愛敬ってことで許して貰おう。


「嬉しいです、お兄さま…」


それでもシーラは喜んでくれたようだ。俺に抱き付き、感極まって泣いている。


「喜んでくれたなら何よりだ。でも泣き顔は頂けないな。――ほら」


俺は“操り人形(マリオネット )”を使ってムーンジェスター人形を操作する。


ひょこひょこ、びたん、むっくり、ひょこひょこ、くるりん


ぬいぐるみを歩かせ、転ばし、起き上がるとまた歩き出し回転させる。


「まあ、まあ、まあ!」


ぬいぐるみの可愛らしい動きに目を輝かせ、その泣き顔はあっという間に笑顔に変わった。


穏やかな空間。満ち足りた時間。




「俺の娘から離れろ、魔族」




だが、不意の侵入者に和やかな空気は霧散した。


「五体満足でここから出られると思うなよ」


そう口にしたのは、この国の王。

ウィルベルト・ガウデスエイス・ピッテルであった。







「“操られる道化(マリオネットピエロ)”」


俺はぬいぐるみの操作を“操り人形(マリオネット )”から “操られる道化(マリオネットピエロ)”に切り替える。


そうしている間にもウィルベルト王は剣を抜き俺に斬りかかろうとしている。

俺は一瞬だけ王様に向けて威圧を発した。


「――ぐっ!?」


動きを止めたその一瞬に、ぬいぐるみを俺と王様の間に滑り込ませる。


「こんな人形如きに惑わされはせぬ!――ぬう!?」


はい、掛かった。これでおしまい。


「動けまい。共も付けずに来たお前の失策だ」


「おのれぇ…」


おお、こわっ。その眼光だけで人が殺せそうだ。計算すれば歳は四十前。一番脂の乗った年代か。


「お父様!」


そんな王様にシーラが駆け寄る。

予想はしていたが、やっぱりシーラは死んだ事にされていた王様の実子だったか。


「シーラ、奴に近付いてはならぬ。奴は魔族だ。現にこの城には奴の手に掛かって死んだ者が後を絶たぬ」


「いいえ、お父様。お兄さまは、わたくしのお兄さまです」


シーラは俺を擁護してくれている。

ここは様子見だな。シーラが説得してくれれば話がスムーズに進む気がする。


「そ、それに先ほど――」


王様の説得を続けるシーラは俺に目を向けると頬を染めた。

ん? どうした?


「け、結婚の約束までした仲なのですわ」


そう言ってシーラは先程俺が渡した指輪を嵌めた親指を見せる。


――は? なにそれ?


それを見た王様は血の涙を流すかのような形相で俺を睨み付けた。


「きっ、貴様ぁ…娘を勾引(かどわ )かすとは、百遍殺しても殺し足りぬ…!」


うわぁ、前より酷くなった!?


「お父様! めっ!」


だがそのセリフを聞き流すシーラではなかった。


「ぐぐっ…しかしだな、シーラ。こ奴は、この国の――」


「わたくしは、お兄さまの味方です」


「ぐぐぐっ」


余程の子煩悩なのだろうか、だんだんコントの様相を呈してきた気がするぞ。


「どの道、あんたは動けない。ここは腹を割って話し合おうじゃないか」


そう、この王様は使徒でもなければ操られてもいない。自らの意思で行動している。


(ようやく待っていた機会がやってきたぜ)


今が、その真意を聞くチャンスだ。







 

今回の連続更新はここまで。

決して、明日が飲み会だからではない。ないったらない。

次回更新日未定。

少し充電させて下さい。

 

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