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02-11 勇者の実力

騎士団が決闘の準備をしている間――いや、準備はとっくにできているのだが、サエがいちゃもんを付けて先に延ばしているのだ――俺はサエとクミに質問攻めにされていた。


「だから、聞きたい事があるのは理解したけど、こんな場所では話せない」


とは言え、何を聞かれても俺は話せないの一点張りだ。

こんな敵地のど真ん中で話せる事など何もない。


「――分かった、後で聞くわ。洗いざらい全てよ。クミもいいわね?」


「う~…分かったよ」


全く納得していないようだが、何と言われてもこればっかりはどうしようもない。


「話はあとで聞くけど、顔くらい見せてくれてもいいんじゃない?」


「そうだよ~、見せてよ~」


だから、分かんねえ奴らだな。こんな注目されてる時に素顔なんか晒せるかよ!


「――クミは何で俺だって解ったんだよ。顔も見えないのに」


「え~? それは解るよ~、長い付き合いだもんね!」


何だよ、カッコいいじゃないかよ。俺は多分、解んねえよ。

くそっ、何か負けた気分だ。


「ね~、サエちゃん?」


「そうね、解るわ」


「なら見なくても同じだよな」


悔しいので、この場では絶対ローブを脱がない事を誓う俺だった。


「何でよ!? 話もダメ、顔も見せられない、ダメダメばかりじゃ納得できないわ!」


そして何度目かのループに入る、と。


「もういいからさ、決闘始めちゃったら?」


俺は居場所なさげにしているヒデに話を振る。

ヒデも待ち草臥れたんじゃないか?


「え、でも…いいのかなぁ」


ヒデはヒデで、シンシアの件があったせいか、すっかり二人に頭が上がらなくなっているようだ。

アルフとテアは俺達から少し離れて、シンシアの傍でこちらの様子を伺っている。

人はそれを避難しているとも言う。一番頭のいいやり方だ。くそう。


「いいから、いいから。相手を待たせても悪いしさ」


どうせ一方的な結果で終わるんだし、さっさと済ませちゃった方がいいだろ。







ヒデは俺の言葉に頷くと騎士団員のいる方へ歩いて行く。

決闘の開始を告げに行ったのだろう。


それを勧めた俺の言動に不満があるのか、サエが言葉を荒げた。


「ちょっとカミくん、何で止めてくれないの!? カミくんは知らないだろうけど、相手の騎士団長さんは強いのよ!」


「そうだよ~、わたし達、()めさせるために来たのに…」


「ああ、知ってるよ。ヒデがぼろ負けしたって話だろ」


「知ってたのなら何で止めないのよ!?」


「何でって、ヒデが勝つに決まってるから」


むしろこっちが聞きたいんだけど。何で二人はヒデが負けると思ってんの?

そんな俺の疑問が顔に出ていた――マスクしてるのに――のか、サエが理由を話し始めた。


「前にヒデちゃんが騎士団長さんと戦った時にね、ヒデちゃんの剣は狙いがハッキリしていて防ぎ易いって言われたのよ」


「そうなんだよ~。きっと剣道って面、胴、小手と突きしかないからだよ」


まあ、確かにそうだけどさ。


「でもそれって今更じゃないのか?」


『え!?』


俺の言葉の真意が理解できていないのだろう、二人が揃って疑問の声を上げた。

だから俺は説明してやる。


「そんな理屈は、今まで剣道の試合で戦ってきた相手だって同じだろ」


「それは…だってそれが剣道のルールだもん、当たり前じゃない」


「うんうん」


「だからさ、それが当たり前の世界で、ヒデは勝ち続けて来たんだぞ? 相手に狙いがバレてるなんて今更だろ?」


「それはそうだけど…でも実際にヒデちゃんは負けたわ」


「そうだよ~」


「異世界なんて知らない場所に来て、心身共に正常とは言えない時の話だろ。参考にもなりゃしねぇよ」


実際はそれだけじゃないんだけどな。そこまで教える必要はない。


「狙いがバレていても防げない攻撃技術。それを競うのが剣道だと俺は思っている」


現代剣道の奥義とまで言われる技を使い熟し、応用までしてみせるヒデだぞ?

あいつが攻撃に回ったら誰にも止められないよ。


俺達の会話を、少し離れた場所でアルフやテア、それにシンシアまでが興味深げに聞いていた。







そんな俺達から離れた場所――訓練場の中央ではヒデと件の騎士団長が対峙していた。

鎧姿で解り難いが、見たところ彼は使徒ではないようだ。

使徒だったら、この場で縊り殺してやるんだがな。残念だ。

――勿論冗談だよ?夜を待って闇に乗じて縊り殺すに決まってるだろ。


「勇者ショージ、色々と勝手をしてくれたみたいだね」


「俺なりに思うところあっての事だ。あんたに文句を言われる筋合いはない」


「そうはいかないんだよ。私は君の指導役でもあるからね。少々痛い目に遭わせてでも、君を教育しなければならなくなったんだ」


「返り討ちにしてやるよ。俺を思い通りにできると思うな」


「そうだね。私に勝てたなら君の言う事に従うと誓おうじゃないか」


「聞いたぞ。後になっても撤回させねぇからな」


「是非、そうさせて欲しいところだ。勇者が私より弱いなんて、本来有ってはならない事だからね」


舌戦繰り広げてないで、さっさと始めろよ。

俺は始まるどころか、終わるのを待っているんだから。


さり気なく周りを見渡すと、周囲の連中より装飾の多い甲冑を身に付けた奴がいる。団長よりは少ないから、副団長だろうか。


――こいつが使徒だ、漸く一体見つけた。


俺はこいつの魔力を覚える。勿論、夜になったら襲うためだ。


「それでは――始め!」


お、やっと始まったか。

夜の事を考えていたら試合開始の合図がされていた。




まずは、じりじりと遠間からの鬩ぎ合いだ。

珍しいな、一気呵成に攻めるのが信条のヒデが待ちなんて。

前回負けたのが余程堪えたと見える。

でも、それじゃあヒデの持ち味が消えちゃうんだよね。


「おらおら! お見合いじゃねえんだぞ! 攻めろ攻めろ!」


俺は二人――と言うかヒデに野次を送る。


『カミくん!?』


サエとクミが信じられないと言った顔でこっちを見ている。

ついでに周囲の騎士団員と、腹の立つ事に使徒までもが蔑むような目を俺に向けていた。

にゃろう、奴は嬲って殺す。これは決定事項だ。


《主よ、友人の言う通りだ。主の良さは攻めにある事を覚えておくといい》


「そうか…そうだな。ちょっとビビってたわ」


そうだ、それでいい。お前の力を見せてやれ。


「――いくぜ」


「ようやく、その気になったかね? 来るといい」


余裕だな、騎士団長さんよ。だが、その余裕はすぐに消えるぞ。

何故なら、ヒデが本気になったからだ。


「うらあっ!」


独特の気合いと共にヒデが大きく飛び込んだ。

大上段からの一振り。面だ。


「何度も言っているだろう? 君の攻めは狙いが見え見えなのだ。それでは相手に簡単に防がれてしまう」


騎士団長――アルヴィンと言ったか――が余裕を見せて、盾でなく剣で防ぎに行った。そのまま攻撃に移る意図が伺える。バカめ、盾で受ければ傷は浅くて済んだ物を。


“しゃりん”


アルヴィンの剣はヒデの剣を受けること敵わず、刀身は狙いを僅かに逸れてヒデの後方へと流れていった。


“ギィイン!”


“ゴト、ゴトン”


甲高い音が響き、次いで重い物が二つ地に落ちた。


《見事だ、主よ》


静まり返った訓練場にソルの称賛が響き渡る。


「なん…だと…!?」


素顔を晒したアルヴィンが呆然と呟く。その額からは血が流れている。

彼の兜はヒデの面を受け、真っ二つに割れて地面に転がっていた。


「い、今のは――」


「いつものヒデちゃんだ!」


サエとクミの声だ。この二人には見慣れた結果だったろう。

兜が割れたのは別としても。


「な、何が起きたのですか!?」


「騎士団長の剣がヒデの剣を受けたと思ったら通過した」


「わ、私にも何が何だか…」


これは、アルフとテアにシンシアだな。

仕方ない、解説してやるか。


「今のはヒデの得意技、“面斬り落とし面”。その応用だ」


「何ですか、それは?」


まあ、これだけじゃ分からないのも無理はない。


「剣道と言って、俺達のいた世界、俺達の住んでいた国の剣術でね――」


剣を両手で持ち、攻撃も防御もその手に持った剣で行なう武術。

攻撃と防御を手に持った剣だけで行う以上、最も効率のいい技とは攻防一体である。


“面斬り落とし面”とは合い面――同時に面を打ち合う事――の際に、自分の攻撃動作がそのまま防御になる技の事だ。

自らの剣で相手の面を斬り落とし、そのまま自分の面を当てる事から“面斬り落とし面”と言う。

ヒデはその技を応用して、アルヴィンの剣を斬り()なしながら自分の面を当てたんだ。


「す、凄い。さすがヒデさんは勇者です」


「うん、凄い」


「ヒデオ様ぁ…(ぽー)」


それを可能にするのは相手の剣を完璧に見切る目と、ミリ単位で自分の剣を操る技術。この二つが揃って初めて可能となる絶技だ。

聖剣に細工されていたんじゃ使えなくて当然だ。恐らく勇者だからと言って、強引に聖剣を持たされたに違いない。

楔から解き放たれた今のヒデは無敵だよ。


あの騎士団長も、しっかりと受けるだけにしておけばこうはならなかった。この結果は、そのまま攻撃しようと色気を出したせいだ。


盾ならば相手の攻撃を面で受ける。剣なら線の受けだ。だが、アルヴィンは攻撃に繋げようと考え、点で受けようとした。自分の技術に自信があったからなのだろうが、遥かに各上のヒデ相手にそれは虫が良過ぎると言う物だ。


「――くっ、まだだ! まだ負けた訳ではない!」


いや、負けただろ。ヒデがその気なら、あんた頭割れて死んでるんだけど。


「いいぜ。気が済むまで付き合ってやるよ」


うわぁ、ヒデが悪い顔してる。今までの鬱憤晴らす気だぞ、あいつ。







「はあっ、はあっ、はあっ――――」


「…………」


凡そ十分後。

訓練場の中央には、膝を付き息を荒げて項垂れるアルヴィンと、ソルを片手に持ち、冷静にそれを見下ろすヒデがいた。

騎士団長の手には剣も盾もない。どちらも二つに割れて転がっていた。

身に着けた鎧もぱっくりと割れて――剣道で言う胴の部分だ――いる。

その喉からは血が流れていた。


「見たか? これで分かったろ、攻撃される個所が分かっていても防げない。それがヒデの剣だ」


そんな奴が聖剣持ってるんだぞ? 正に鬼に金棒だろうがよ。


「――参った。私の負けだ」


「…………」


やっと騎士団長が敗北を受け入れた。

ヒデは勝ったのに不服そうだ。

まあそうなるよな。

相手がいつまでも負けを認めなかったせいで、途中から嬲ってるだけだったもんな。


「二度とさせるなよ、こんな茶番」


やれやれ、やっと終わったか。




ヒデが圧勝したお陰で、俺達(ザヴィア )が勇者の仲間になる事が決定した。

アルヴィンの騎士の誓いと言うやつだ。

選抜戦なんてやらない。パーティー戦もない。決定したのだ。


「ただ、募集を掛けてしまった以上、選抜戦を行わない訳には行かないのだ」


中止なんて事になったら暴動が起きかねないそうだ。

すっかり萎らしくなった騎士団長さんが申し訳なさそうに言う。


「知らないよ。あんたらが勝手に決めた事だろ、俺は認めない」


対するヒデは取り付く島も無い。


「…分かった。勝ち残った一名は、更なる訓練が必要として、騎士団で預かろう」


最初の印象は俺様な奴かと思ったけど、この人ただの苦労人だったわ。

上司と勇者の板挟み。中間管理職そのものだ。

魔国にもいたよ、こんな人。ついさっき、再会したけど。

ま、それもヒデとの決闘に負けたからだけどな。自業自得だ。







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