表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/107

02-10 不本意な再会

冒険者ギルドで新たな企みを計画した俺(とテア)は、宿まで戻って来た。


ザヴィアは冒険者ギルド肝煎りパーティーとしての立場を手に入れた。

ギルドもあいつらに任せておけば勝手に大きくなっていくに違いない。


選抜戦は明日だし、後は体を休める事に充てるべきだろう。

この後の予定を休養と決め、俺は部屋の中へと入る。


「ただいま」


「あ、お帰りなさい」


「…………」


あれ?

いつもと雰囲気が違う?


違和感を探して部屋の中を見渡すと、ヒデがベッドに腰掛けて俯いていた。


「ヒデはどうしたんだ?」


「それが――」







俺達が神殿とギルドに行っている間に、城から手紙を携えて使いが来たそうだ。

その内容はヒデの身勝手な振舞いを責めるものだった。


半月もの間音信不通になった事。

勝手に冒険者になった事。

勇者の仲間募集の内容を勝手に変更しようとした事。


「なるほど」


でも、だからと言ってヒデが落ち込む理由にはならないと思うんだが…

何と言っても今更だし。


「それで、何でヒデは落ち込んでるんだ?」


「それは――そのう、何故か決闘する事になってしまったみたいで…」


「決闘? 誰と誰が?」


「――俺と騎士団長だ」


お、復活したか。ヒデが立ち上がって来た。


「何でそんなに落ち込んでんの、お前?」


身勝手な事したなんて、初めから解っていた事だろ?


「落ち込んでるんじゃない! 緊張してたんだよ!」


「緊張? お前が? 騎士団長って、そんなに強いの?」


リアルでチート染みたお前より?


「ああ、俺はこの世界に来て、一度団長にコテンパンにされた事があるんだ」


「ああ、そいつがそうなのか」


前に聞いた話だ。

そんな超ハンデ戦の結果なんて無意味にも程がある。参考にもならない。


「大丈夫、お前が勝つよ。なあ、ソル?」


《うむ。心配無用だ、主よ。主は、あの時とは違う》


ソルを巻き込んでヒデを元気付ける。

この世界に来て初めて知ったけど、ヒデって結構繊細なのな。


「本当にそう思うか!?」


「ああ、思うよ。騎士団長だか何だか知らないけど、そいつにあの護り手を倒せるとは思えないね」


「でもあれは、みんなで力を合わせて戦った結果で――」


「何言ってんだ、最終的にはヒデが一人で戦ってただろ」


「それは…あれ、本当だ?」


「な? お前は迷宮で経験積んで、以前より、もっともっと強くなってるんだよ」


「…そうか…そうか! 俺は強くなってたか!」


「そうそう、お前に勝てる奴なんて、元の世界にもこの世界にもいねぇよ」


ヒデはテンションをそのまま戦いに乗せてくるタイプだからな。

こうして煽てて乗せに乗せた方が、いい結果が出るんだ。


「よーし! やる気が出て来た!」


「よかったな」


やる気になったようで何よりだ。


「みんな、見ててくれ! 俺はやるぞ! 応援してくれるよな!?」


「もちろんです! 力いっぱい応援しますよ!」


「うん、頑張れ」


「はいはい、するする…ん?」


ちょっと待った。


「決闘って、どこでやんの?」


「この書状によると、王城の中に在る騎士団の訓練場だな」


「俺達、そこに入っていいのか?」


「もちろんだ! 俺の仲間だぞ、ダメな訳有るもんか!」


また適当な事を…

これはアレだな。門前払いも考えに入れておくべきだな。







そんな俺の懸念は、至極あっさりと払拭された。


午後になり、城門に出向くと、俺達は何の問題も無く城内に通して貰えたのだ。

え、何これ?

ヒデって、ここじゃそんなに敬われている訳? こんな権限持っちゃうくらいに?


「はあ~、これがお城の中ですか…」


アルフはアルフで、まるで御上りさんだ。

いや、まるでじゃないのか。まんま御上りさんだ。


「…………」


対して、テアはまるで動じない。その立ち居振る舞いは経験者のようだ。

俺は俺で他人事ではないのだが、魔国の城はここより何倍も荘厳だった。今更城門の中に入ったくらいで動じたりはしない。

俺の緊張は別の所から来ている。


(ここは俺にとって敵地のど真ん中だ。要注意だぞ、気を引き締めていけ)


ここで奴らに気取られず、且つ情報収集できれば最高なんだよ。

実際のところ気付かれてるとは思うけど、だからと言って努力を惜しむのはダメだろう。


と言う訳で、俺は今回ぼろいローブを被っている。フード付きの奴だ。

さらにマフラーで顔の下半分を覆って素顔を見られないようにしていた。

傍から見たら怪しい事この上ない。なのに通して貰えたのは、ヒデのお陰らしい。


(持つべきものは友達だな)


元ボッチの俺が言っても説得力が無いけどな。




「ヒデオ様!」


城の兵士に囲まれながら訓練場に向かっている俺達の元へシンシアが走って来た。


「シンシア!」


おーおー、ヒデの顔の嬉しそうな事。

サエとクミには見せられない弛んだ顔だ。


「申し訳ありません。アルヴィン様を説得できませんでした」


「いいんだ、シンシア。よくやってくれた。大丈夫、これでいい」


ヒデとシンシアは、お互いに相手しか見えていない状況だ。

今、二人の背景はピンク色に違いない。


「二人の世界作ってるところ悪いんだけど、アルヴィンって誰よ」


俺としても邪魔したくはなかったのだが、聞き慣れない名前が出てきたので、つい会話に割り込んでしまう。


「ふ、二人の世界って、そんな…ぽ」


「な、何だよ。普通に会話してただけだろ!」


ヒデは本気で動揺してるけど、シンシアは結構余裕あるみたいだ。

開き直ると女の方が強いって本当なんだなぁ。


「まぁまぁ、それでアルヴィンって?」


宥めながらも再度ヒデに聞く。


「団長の名前だよ」


「なるほど、そいつが決闘相手か」


まずは、そいつが使徒かどうかの確認だな。

一国をここまでいいように動かしてるんだ、国王は別としても、恐らくは複数の重要人物が使徒に乗っ取られている筈。

全員は無理でも、後々のためにここである程度目星を付けておきたいところだ。




“――たたたたたっ”


「ヒデちゃん!」


「サエちゃん、待ってよ~」


俺の思考を遮って、足音と共に聞き覚えのある――いや、違うな、聞き慣れた声が耳に届いた。


「ヒデちゃんのバカ! 一体、何やってるの!? 勝手に半月もいなくなったと思ったら、今度は決闘だなんて!」


駆け寄って来たと思ったら、サエはマシンガンのようにヒデに文句を言っている。


「はぁはぁ、こほっ、こほっ」


クミは余程息切れしたのか、咳をしている。

見ていて居た堪れなくなったので、つい水袋を差し出してしまった。


「――こほっ。え、誰!?」


ああ、そりゃそうか。今の俺は怪しいローブ姿の男だったわ。

いきなり見ず知らずの他人に水を差し出されりゃ驚くよな。

当然のように受け取っては貰えない。


「あ、ありがとう。でも――っ!?」


差し出した水袋のやり場に困った俺は、仕方なく元に戻す。

うん、失敗だったな。反省反省。


「カミくん?」


「――え?」


それは不意打ちだった。

いきなり名前を呼ばれて、不覚にも声を出してしまった。

水袋を無限収納袋に戻していた俺は、クミの様子の変化に気付いていなかった。

クミは俺の目を覗き込むようにして見ていたのだ。


「やっぱりカミくんだ!」


それにしたって、何でバレた!?

頭からローブをすっぽりと被り、顔の三分の二をマスクで覆っていたと言うのに。


「カミくん、会いたかったよ~」


動揺して動けない俺を置き去りにして、クミは抱き付いて来る。

俺は避ける事すらできなかった。


「カミくんですって!?」


俺の後ろで別の声が上がる。勿論、サエの声だ。


ああもう、何か色々と手遅れな気がする。

クミに抱き締められたまま振り向くと、俺はサエに向かって言った。


「よう、久しぶりだな。元気だったか?」


何とも冴えない再会だが、俺らしいと言えば俺らしいのかもしれない。

とほほ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ