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02-08 密かな再会と

時は前日へと巻き戻る。


エレインに神殿を追い出された後、俺は基本に立ち返った。

基本とは何ぞや? 決まっている、情報収集だ。

ヒデと再会して以来、トントン拍子に迷宮制覇まで進んでしまったので、本来真っ先に入手しておかなければならない情報を手に入れていなかった。


そう、ウィルベルト王の人柄、主張、野望、ペッテル国の情勢等、ハッキリ言ってしまえば敵の情報だ。それを知らなければ今後も後手に回る恐れがある。まあ、それを手に入れていたとしても、神殿に関しては手遅れだったけどな。


今回の件で、俺が感じたのは違和感だ。国王ウィルベルトの行動は使徒らしくない。人間など操り人形にして意のままに動かすのが奴らのやり方だ。

だと言うのに――エレインの言葉を鵜呑みにするなら――国王は洗脳すらされていないように感じる。

勇者であるヒデの時のように、要となる駒に対しては慎重だが、国王のように命令を出していればいいだけの人物には躊躇する理由がない。もし、国王が使徒に喰われていないのなら、それなりの理由があるのではないだろうか。


(洗脳するより、そのまま利用した方がいい理由――例えば洗脳するまでもなく、魔国侵攻に入れ込んでいるとか)


だが、それは禁忌だ――俺は自分の考えを否定した。


他種族との争いは神の許可無くしては行えない。言い換えるなら、他種族との抗争は神の意思により行われる。


親交は許すが侵攻は許さない。それが諸神のスタンスだった。


(だが、人間は神の思惑から大きく外れた存在でもある…)


自分で否定しても、内心では一抹の不安を拭えない俺だった。







俺とテアは、人がごった返す街並で買い食いをしながら――話を聞き出すためには売り物を買う必要がある――情報を仕入れた。と言うと聞こえはいいが、この街の住人なら皆が知っている事を集めて回っただけだ。

今は勇者の仲間募集特需の状態であり、国外から来た者も多いので、特に怪しまれずに聞き出す事ができたのは幸いだった。




現国王、ウィルベルト・ガウデスエイス・ペッテルは二十代半ばで即位した。若くして王となったためか、非常に野心家であったと言う。

だが苛烈な性格ゆえか、戦争に発展する事も多かったようだ。

しかし、意外にも猪突猛進と言う訳ではなく、慎重さも持ち合わせていたらしい。

外交にも積極的で、硬軟併せ持った対応を得意とし、完全なる服従よりも実効支配による同盟を好んだと言う。

無論相手の対応次第では、国ごと滅ぼす事も厭わなかったそうだ。


(この辺りは以前聞いた通りだな。戦争の繰り返しにより、国民は徐々に疲弊し、不満が溜まっていく訳だ)


ウィルベルト王は二十代後半に結婚した。

それも貴族ではなく、市井の娘を娶ったのだ。この事実に国民は沸いた。

王妃ベアトリスとは仲睦まじく、世継ぎも時間の問題と思われていたが、期待に反して長く子宝に恵まれなかった。


待望の王妃懐妊の知らせに国中が湧いたのが十年程前の事だ。

だが期待も虚しく、子は産まれなかった。

出産時に母体が危険と判断され、子を諦めたらしい。母体にも影響があったのか、その日以来ベアトリス妃は民衆の前に姿を見せなくなる。

ウィルベルト王が“陽の迷宮”を得るより、世界征服を企てる魔国征伐に注力し始めたのもこの頃だ。


それから凡そ五年後、ベアトリス妃が亡くなった。

喪に服す間も惜しむように、ウィルベルト王は魔国征伐を推し進める。

そして、とうとう聖剣の使い手――勇者を求め始めた。

しかし、国内外を問わず高名な冒険者や武勇に名を馳せた者を招いては試させるが、聖剣を抜けた者はいなかった。

そうした間にも、国は着々と魔国征伐の計画を進めていく。

だが、旗頭たる勇者の不在にその計画は頓挫する。

そこでウィルベルト王は最後の賭けに出た。

そう、異世界からの勇者召喚である。


ウィルベルト王は、その賭けに勝った。

ヒデと言う勇者を得て、ついに魔国征伐の計画は実行に移される時が来たのだ。


(つまり、国民は勇者特需と言うだけでなく、直に始まるだろう戦争に興奮している状態でもあるのか)


戦争で疲弊していた筈なのに、理由が変わればその戦争を再び受け入れるってのもおかしな話だ。人間ってのは、呆れる程戦争が好きなんだな。







宿に戻ると、ヒデとアルフは冒険者ギルドから戻っていた。

特にトラブルも無く、信用して貰えたらしい。但し、ヒデが勇者だと言う事は告げたと言う。


「申し訳ありません、私が付いていながら…」


まあ、それは想定内だ。むしろ、それを期待してヒデを冒険者ギルドに行かせたんだから予定通りと言える。だから、アルフはそんなに落ち込まなくていいんだよ。


「大丈夫だよ、トラブルにならなければ問題無い」


こっちは何の結果も出せていないんだし、文句を言えた立場じゃないんだよね。







夜になり、月が出ると俺は行動を開始する。


「“夜との同化アセミレイションオブザナイト”」


俺が開発した新能力の一つ、“夜との同化アセミレイションオブザナイト”。

これは、一言で言うと魔神化のステルスモードだ。

魔神化した時の有り余る存在感を何とかできないかと試行錯誤した結果できあがった能力だ。その際に浮かんだアイデアが色々と詰まっている。


簡単に説明すると、この状態の時は“気配遮断”に“空中疾駆”、更には“物質透過”等々様々な特殊能力が使えるハイパーモードなのだ。

但し、月夜の晩しか使えないと言う制限がある。言い換えれば、月夜の晩ならやりたい放題って事だ。


俺は前日に覚えたシンシアの魔力を辿る。そこが王城の中で間違いない筈だ。


「“位相転移制御フェイズシフトコントロール月光(スルームーンライト)”」


これまた新能力の一つで、“夜との同化アセミレイションオブザナイト”状態の時のみ使用できる転移術だ。

月の光の届く場所なら、どこへでも跳べる移動系の能力である。

跳ぶとは空間跳躍の事だ。月の光から月の光へと空間を繋ぐと言えばいいのかな。

これを使えば一瞬で魔国へと戻る事も可能だ。

向こうに月が出てないとキャンセル喰らうけど。




シンシアの目の前に出る訳にもいかないので、軸をずらして転移した。そこはバルコニーの外、空中だった。

屋外に出たのは偶然ではない。“位相転移制御フェイズシフトコントロール月光(スルームーンライト)”は月の光の届く場所――つまり、野外から準屋外の範囲にしか跳べないからだ。某名作RPGのように『石の中に~』とはならないので安心だ。その反面、迷宮内で使うなど望むべくもない。


取りあえず、空中疾駆を使って屋根の上に立つ。


(まずはサエとクミを探そう。使徒の傀儡になっていなければいいけど…)


なっていても、生きていてくれさえすれば治すんだけどね。


とは言え、俺は二人の魔力を知らない。地道に探すしかないのだ。

でも二人が魔術師と錬金術師だって事はヒデに聞いてすでに知っている。

有能らしいから、他より大きい魔力を辿ればいいだろう。

俺は魔力を感知するべく集中する。




『……お願いします……どうか……』




なんか変な思念を受け取ってしまった。

すっごい微弱なんだけど、妙に澄んでるんだよな。

祈りってこんな感じなのかもしれない。

サエとクミじゃないのは確定なので、放置してもいいんだけど、何か気になる。


(後で寄ってみるか)


頭の隅にメモを残し、まずはサエとクミを探す。




他者より大きな魔力の塊を見つけると予想通りクミだった。


「…ん…んんぅ…ああ…ああん…はぁはぁ」


「…………」


寝言がやたら色っぽいのは何故だ。

叩き起こして突っ込みたいところだが、実際はそれどころじゃない。


(かなり病んでるな)


異世界へ来た事への不安、ストレス、不信。ヒデの事もあるだろう。

相当精神に負担が掛かっている。使徒に手を加えられた痕跡も伺える。


「“精神治癒リカバリーオブザハート“」


「んあ…ああ、あ……すー、すー」


精神治癒リカバリーオブザハート“を掛けると、暫くして寝息が穏やかになった。やれやれ、危ないところだったな。


「“精神防御(プロテクトザハート)“」


更に“精神防御(プロテクトザハート)“を上書きする。

こうしておけば使徒も手が出せまい。

同時に俺の存在も使徒にバレる事になるが、クミの身の安全には代えられない。




俺はクミの部屋を出ると、隣の部屋に侵入した。

もう一つ感じた大きな魔力は、クミの隣の部屋からだった。サエで間違いないだろう。

クミはギリギリだった、サエは大丈夫だろうか。使徒の手に落ちてはいないだろうか。

不安を感じながら様子を伺うが、それは杞憂だった。


(まだ余裕がある。使徒の手も加えられていない)


それは、ほっと安堵の息を吐いたタイミングだった。


「…ヒデちゃん」


“びびくん!” 思わず俺は体を硬直させて身構える。

そのまま、恐る恐るサエの様子を伺うと――


「……ヒデちゃんのバカ……」


(びっくりしたぁ…寝言かよ。やっぱり色々思うところがあるんだろうな。そりゃ、あるよなぁ)


俺は念のため――と言うかヒデのため――サエに“精神治癒リカバリーオブザハート“を掛けた。


「“精神治癒リカバリーオブザハート“…あーんど”精神防御(プロテクトザハート)“」


これで一安心だ。

一つ不安があるとすれば、俺の守りを受けたサエとクミが、使徒に不要と判断され実力行使に出る事だが、それは明後日の選抜試験に受かれば済む話だ。合流さえしてしまえばどうとでもなる。







さて、次だ。

余裕があれば使徒を探して始末するのもいいかと思っていたが、先程の思念が気に掛かる。俺は集中して思念の主を探った。


『――神様、どうかお願いします。わたくしのお願いを聞いて下さい』


それは神への祈りだった。それも月への祈りだ。


(人間の国で月に祈る者がいる?)


訳が分からない。直接会ってみるしかないな。

俺は思念を辿り跳躍する。


「“位相転移制御フェイズシフトコントロール月光(スルームーンライト)”」


跳躍を終えると視界が戻る。さて、ここはどこだろう。

窓の外に結構な広さの庭園が見える。城の敷地のどこかかね。

外を確認して振り向くと、目の前には年齢一桁だろう美少女が跪き、俺を見上げていた。

その目は驚きに見開かれている。


「――あなたは、神様ですか?」


「惜しい、ちょっと違う」


最初のセリフがこんなのとは、少々残念に感じてしまうくらいには、この少女は美少女だった。

それ以上に残念なのは今の自分のセリフだ。これでは、まんまユスティスではないか。


「ウホン! それはともかく、お前は何故月に願う。その意味を知っているのか?」


「わたくしは太陽ではなく、月に願うのが正しいとお父様に教えて頂きましたわ」


父親? 月に願えと教えるのが親のする事か? それではまるで「お前は魔族だ」と言っているようなものではないか。


「血の繋がった親なのか?」


「?」


質問の意味が分からないのだろう、キョトンとした顔をされてしまった。


「まあいいか。で、お前の願いとは何だ?」


「はい! わたくしは皆さんと仲良くなりたいのです!」


「勝手になればいいだろう、神に頼らず自分で努力しろ」


聞けば、思わずそう説教してしまう程に呆れた理由だった。


「わたくしもそう思ったのですが、いくら頑張っても嫌われてしまうのです。それでお父様に相談したところ、それは月の神のせいだから月に願えと言われたのですわ」


「何だ、そりゃ」


訳が分からない。


「嫌われる理由は何だ? 何故そこで月の神が出てくる?」


「はい、えと…」


少女はチラリと俺を見上げると不安そうな顔をする。ああ、なるほど。


「別に訳を聞いたからって嫌いにはならないぞ」


「はい!」


やっぱりか、こうやって見ず知らずの人間と普通に話すだけでも、この少女にとっては貴重な時間なのかもしれない。ボッチはボッチを知る。何か嫌だ。


「お父様のお話では、わたくしには魔族の血が流れているそうです」


「ほー、混血なのか」


別に有り得ない事ではない。基本的に種族は固まって暮らしているが、外を見たいと出ていく者が皆無と言う訳ではないからだ。


「だが、それだけで嫌われると言うのは納得がいかないのだが」


いくら魔族への逆侵攻を掲げる国とは言え、こんな年端もいかない少女を虐げるものなのか?


「ですが事実なのです。…誰もわたくしとはお話してくれないのですわ…」


うーん…あれ?

この感じ、馴染みがあるな。物凄く微弱で、ちょっと変質してるけど。


「――因子持ち?」


そう、この感覚は因子持ちの威圧だ。

威圧と言う程圧力は無いし、きっと畏怖も感じないと思う。言ってしまえば、ちょっと距離を置きたくなるような、御近付きにはなりたくないような…


(混血な上に因子持ちとか、どう言う確率だ)


「神様、わたくしは皆さんと仲良くなりたいのです。もう独りは嫌なのです…」


涙を浮かべて訴える美少女。うむ、絵になるな。いや、そうじゃなくて。


「残念ながら、それは治らない。持って生まれた体質だ」


「そんなぁ!」


少女の顔が絶望に染まる。

残念だが仕方がない。気を強く持って生きて欲しい。

何、ボッチもそんなに悪いものではないさ、暇を潰せる趣味さえあれば楽しいものだよ。鍵開けなんてどうだい?


「後生です、神様。どうか…どうか…」


「そう言われてもなあ、俺の傍にいれば何とかしてやれんでもないが…」


「ほ、本当ですか!?」


あ、しまった。俺いま余計な事言ったわ。


「でも俺、忙しいから無理。命の危険もあるしな」


「神様、そこをどうか。何でも致します、お傍に置いてくださいませ」


「……両親の了解を得たなら考えてやらん事もない」


この場を逃れるために適当な事を口にする。

大体、俺の傍にいたって友達はできないぞ。俺だって友達は少ないんだ。


「分かりましたわ、きっとお父様を説き伏せてみせます」


だと言うのに、少女はやる気に満ちていた。

説き伏せるとか、難しい言葉知ってるね。




いい加減、精神的に疲れたので宿に戻ろうとしたら止められた。


「あの、神様!」


「何だ?」


「わたくしはシーラと申します。神様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」


「……ムーンジェスター」


「はい! ムーンジェスター様、またのお越しをお待ちしておりますわ!」


「――分かった」


なし崩し的に、また来ることを約束させられてしまった。




俺は直接宿へとは跳ばずに、一旦階下の庭園に降り立った。

周囲を見渡すと、やはりここはペッテル国王城の一角のようだった。


(随分と立派な庭園だ。これから戦争しようと言う国が庭園に力を入れるか?)


国王の意図が読めない。

ただ思った通り、使徒に取って代わられた事は無いように思う。




イレギュラーな事が起こったが、まずは今日エレインに会う。

そして明日の選抜戦に勝ち残る。そこに全力を尽くそう。







 

今期の期初は大忙しです。更新は週一回になりそうな感じです。


それはそれとして、ネット小説大賞(旧なろうコン)って、感想希望のキーワード入れたら本当に感想増えるんでしょうか…

作者としては、もう少し反応が欲しいところです。


追記

使途→使徒に修正…(吐血)

 

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