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02-06 シンシア

 

投稿するつもりじゃなかったんですが、評価ポイントが頂けていたので、感謝の印に投稿します。

 


テアの手により、ヒデとアルフに一通り治療をして貰うと、再び休憩に入った。


「迷宮最深部の奥か、一体何があるんだろうな?」


興味津々で俺が問う。


「分からない。過去に無かった事」


「そう考えると凄い事ですよね、何て大それた事をしてしまったのでしょうか」


「攻略するための迷宮を攻略しただけだよ。大それた事なんかじゃないさ」


《うむ。その通りだ、主よ》


ま、行ってみなきゃ始まらないか。




休憩を終えた俺達は最深部の奥へと通じる扉を開けた。

ちなみに鍵は掛かっていなかった。


そこには巨大な宝箱と祭壇があり、祭壇には長さ2メートル程の棒とビー玉のようなサイズの球が安置してあった。


「ガラス玉…水晶かな?」


《主よ、その球を我に》


おや、ソルがビー玉を欲しがるとは。


「ソルに関係のある物なのか?」


《我とは限らないが、我のように自我を持つ武具には重要なアイテムだ》


「なら、いいか。それはソルの取り分な」


《忝い。感謝する》


「それで、具体的にはどうすればいいんだい?」


ヒデがソルに使い方を聞いている。

それもそうだ。やり方が分からなければ意味が無いよな。


《うむ。主よ、その球を我の柄頭に当てて欲しい》


「こう?」


ヒデがビー玉をソルの柄頭に在る宝玉?に触れさせると、一瞬眩く輝いた。


「うお!?」


「きゃあっ」


「眩しい」


「め、目があっ!?」


どうやらヒデは光を直視したらしい。間抜けな奴…


《ふう、完了だ》


「で、結局それは何だったんだ?」


《うむ。解り易く言うなら、自我を持つ武具のパワーアップアイテムだ》


「ほー」


「じゃあ、今のでソルは強くなったのかい?」


《そうだ、主よ。更なる力を主に捧げよう》


便利な物があったもんだなあ。


「これからも迷宮を攻略したら貰えるのかな?」


《それは分からない》


「そりゃそうか、やってみなきゃ分からないよな」


「やれば分かる」


「そうですよ!頑張りましょう!」


とは言え、それはまた今度の話だ。今は次を調べよう。


「で、こっちは…杖?」


2メートル程の棒を手に取った。

そのまま、威圧を籠めずに魔力を浸透させる。それだけで、この杖に込められた効果が解るんだ。そこに宿った魔力を読むって言うのかな、便利だろ。


「ふーん…魔法師用の杖だって。魔力回復補助、必要魔力低減、等々」


結構いい装備だな。


「ゼン」


「ん?」


テアに呼ばれたので、そっちを見ると「頂戴」のポーズを取るテアがいた。


「欲しいのか?」


「うん」


「でもなあ。お前には大き過ぎないか?」


この杖、お前の身長の倍くらいあるぞ?


「お願い」


「でもなあ…」


「それがあれば、テアはもっとゼンの役に立てる」


テアは必死に俺を説得する。うん、それも確かにそうなんだよなあ。


「バランス崩して転んだりするなよ?」


俺は、内心懸念していた事を注意して、テアに長杖を手渡す。


「テアは子供じゃない!」


俺が何を心配していたのか理解したテアが憤慨した。

背後には“がーん!”と言う文字が見えるようだ。

そんなにショックだったのか?


「あ、あはは…」


「気持ちは分からないでもないけどさあ」


アルフとヒデはそんな俺達を見て苦笑していた。


「さて、お待ちかねの宝箱だ」


調べてみたが、これにも鍵は掛かっていなかった。罠も同様だ。

重要アイテムっぽいのが祭壇に有ったって事は、こっちは金目の物だよな。

それはそれで嬉しいけどね。迷宮の攻略にはそれなりに時間が掛かっている。これまでに払った宿代や消耗品代など、費用はそれなりに費やしているのだ。


「開けるぞ?」


一応、皆に確認を取る。


「お、おう」


「は、はい」


「うん」


全員の返事を確認して、俺は宝箱の蓋を開ける。すると中から出て来たのは――




“Congratulation!”の文字だった。




え、なにこれ?

俺の目は点になった。


「は!?」


「え!?」


「………」


皆の目も点になっている。




「ふざけんな!?」




こんな苦労した挙句のこの仕打ち!

二、三のマジックアイテム貰っただけで満足すると思ってんのかあっ!?

バカなんじゃねーの!?

いや、間違いない。バーセレミはバカだ!

俺は力任せに宝箱の蓋を閉めた。


“ドカン!”


大音を響かせて蓋が閉まる。


すると――


“がちゃがちゃがちゃりじゃりじゃりじゃりん――”


そんな金属の擦れるような、硬い物に当たるような音が――いや、誤魔化さずに言ってしまえば、ゲームセンターのスロットで大当たりを引いた時のような音が宝箱の中でしたのだ。


「今のは…」


「ええ…」


「……」


皆も気が付いたようだ。

仕方ない、気を取り直してもう一度蓋を開けよう。


“ぎいぃぃ~”


音を立てて宝箱を開けると、そこには――


「うおおおおお!」


「うわあ…」


「凄い」


――今度こそ、大量の金銀財宝が現れたのだった。







結果的に、俺達は大儲けした。

アルフによると、俺達四人が三年は遊んで暮らせる程の金額があるそうだ。

贅沢しなければ五年はいけるらしい。


「しかし、あの仕掛けは頂けないと思う」


しかし、俺は愚痴を零さずにはいられなかった。


「ほんとだよな」


「あはは…」


「……」


ヒデが同意し、アルフは苦笑し、テアはそっぽを向いていた。


(この世界の神って奴は、みんなこんなのばっかりか)


間違いなく、バーセレミもユスティスの同類だ。俺は確信した。

恐らく星の神々も同じだろう。間違いない。

知りたくもない事実を知ってしまった迷宮攻略だった。







体だけでなく、精神的にも疲れた俺達は、一旦宿に戻る。

すると、宿には一人の少女が俺達を――いや、ヒデだけを待っていた。


「シンシア!」


ヒデは、少女をそう呼んだ。


「ヒデオ様」


駆け寄るヒデを嬉しそうに微笑みながら迎える少女。


(ほー、あれが噂のヒデの彼女か)


栗色の髪を結い上げ、メイド服に身を包んだ少女の顔は整っている。

めちゃくちゃ美人と言う訳ではない。でも、家庭的と言えばいいのか、笑顔が可愛いくて魅力的だ。そう、幸いな事に彼女は使徒ではなかった。


(まずは一安心だな)


いきなり殺し合いに発展しなくて済んだのは僥倖と言える。


「シンシアに紹介するよ。こいつは俺の親友でゼンだ」


「ヒデオ様の御友人ですね。私はヒデオ様の専属メイドで、シンシアと申します」


ヒデに紹介されると、シンシアはぺこりとお辞儀してくれた。


「ゼンだ。よろしく」


とりあえず、俺は無難に挨拶しておく。


「ゼンは俺と同じ世界から来たんだ。俺同様、力になってやってくれ」


だと言うのに、ヒデは余計な事まで口に出しやがった。


「え!?でも、どうやって…」


ほら、疑問を感じちゃったじゃないか。誤魔化す者の身にもなれ。


「途中で落っこちたんだ。そのまま逸れた」


嘘は言っていない。


「そんな事があるんですね…」


「それより、シンシア。いいところに来てくれたよ、頼みたい事があるんだ」


幸い、それ以上突っ込まれないうちにヒデが会話を続けてくれた。




「パーティー戦?」


ヒデがシンシアにした頼み事とは、勇者の仲間募集をパーティー単位にして欲しいと言う事だった。それを(したた )めた書状を城の関係者に届けて欲しいと言うのだ。


「だって、俺はもうザヴィア以外と組みたくないからさ」


だからザヴィアとして戦って勝つのだと言う。


「お前が混ざったら反則とか汚いとか、後から文句が出るんじゃないのか?」


「えー、そうかな?」


そりゃそうだろ。勇者は誰よりも強いって触れ込みなのに、その勇者と戦って勝たなきゃ仲間になれないなんて詐欺以外の何物でもない。


「迷宮を制覇したパーティーは優遇して貰えるように神殿に働きかける」


珍しく長台詞でテアがそう言った。


「そんな事ができるのか?」


「やってみる。でも、きっと大丈夫」


ほほう、自信があるようだな。なら任せてみるのもいいか。


「じゃあ、パーティー戦の方はどうする?」


「そのまま進めて」


「了解!じゃあ、シンシア頼むよ」


「かしこまりました」


どんどん話が進んでいくな。




そんな中、俺はヒデとシンシアの会話を注意して聞いていた。

出歯亀じゃないぞ。シンシアの言葉の真偽を確認しているんだ。


久しぶりに会う恋人らしい――と言っても離れていたのは十日ほどだ――甘々な会話に、聞いてる方が少々気まずいが、これも必要な事と我慢して確認していた。


結果から言うと、彼女はほぼ白だ。

ほぼと言うのは、たまに会話に嘘が混ざるからだ。その内容から言って、シンシアがヒデの監視として付いているのは間違いない。きっと上の命令でそうしているんだろう。


白と言ったのは、彼女のヒデに対する想いだ。

付き合い始めの恋人らしく、会話の中でヒデがシンシアに思いを確認するのだが、それに対する答えは真実だった。

ヒデに近付いたのは命令だったが、好意を持ったのは本人の意思だった訳だ。

頭の中を細工された痕跡も無い。これで、安心して二人を応援できる。


――ふう。


ほっと息を吐いていたら、テアが俺を見ていた。


「ゼン」


「なんだ?」


「羨ましい?」


あん?何の事だ?


「…まさかとは思うが、ヒデとシンシアの事を言ってるのか?」


「そう。羨ましいならテアとすればいい、さあ」


「間に合っている」


と言うか、俺には女といちゃらぶする余裕はないんだよ。


「残念」


どこまで本気だ、こいつは。







城へヒデの手紙を持って行って貰うのはシンシアで確定だ。


「お使いさせちゃってごめんね?もっとヒデと一緒にいたかっただろう?」


「え!?あ、あう…」


俺の言葉にシンシアは驚き、恥ずかしそうに縮こまってしまった。

あれ、意外に初々しい。まさかバレてないと思ってたのか?


「ヒデといい仲なのは本人から聞いちゃったよ」


「ええ!? ひ、ヒデオ様ぁ~」


シンシアはヒデに非難の目を向ける。


「え?いや、だって、ゼンは親友だしさ、応援して欲しかったから…」


「うう…恥ずかしい…」


「まあ、さっきの二人を見れば、聞いていなくても丸分かりだったけどな」


「はうっ!?」


「ぐはっ!?」


俺の言葉に、シンシアだけでなく、ヒデまでダメージを受けている。

付き合いたてのカップルは周囲が目に入らなくなると言うのは本当らしい。

しばらくは、これをネタに揶揄えるな。よしよし。


冒険者ギルドへの報告はヒデとアルフに任せた。

冒険者ギルドはヒデの勇者と言う肩書があれば有利に話が進められるし、アルフがいれば仮にヒデが暴走しても止められる。――多分。

迷宮初制覇の事実だけで充分とは思うけど、証拠が無いから、いざとなったら勇者の肩書を使う。念のためだ。


俺とテアは神殿だ。神殿は今後の事を考えると直に話をしておきたい。

活躍すれば向こうから寄って来るなんて考えていたけど、こっちから向かわなきゃいけなくなってしまった。中々思い通りに行かないもんだな。

できるだけ穏便に話を付けたいが、力押しも辞さない覚悟だ。

さて、どうなるかな。







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