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02-04 迷宮を攻略しよう―初級編

「うらぁっ!“刺突(スラストブレード)”!」


ヒデの発する裂ぱくの気合い――と、厨二な技名――が迷宮に響く。

その度に迷宮の魔物――オーク共が倒れていく。


《もうモノにしたか。主よ、見事だ。その技は“溜め”の長さで威力の調整が可能となっている、覚えておくといい》


聖剣――太陽剣ソルブレイドの思念が仲間内(ザヴィア )に届く。

なるほど、ソルに教わったのか。

剣道の“突き”に厨二な名前を付けたのかと思っちゃったわ。


「剣道にも“突き”はあるからね。でも、それより自分の付けた技の名前を堂々と叫べるのが最高だ!」


やっぱり、ただの厨二病かよ!


後で聞いた話だが、以前に剣道の試合でそれをやって、反則で一本取られた事が有ったそうだ。ただのバカだろ、それ…


ヒデは以前のスランプが嘘のよう(本人談)に、勝利を積み重ねた。

いくら初級迷宮の魔物とは言え、全く危な気なく倒していく様は、正に勇者そのものだ。


“うぼう!――”

“ふごふご!――”


ヒデの刃圏から逃れたオーク共がこちらへと向かってくる。

だがヒデは慌てない。と言うか、まるで気にせずそのまま戦いを続行している。

何故なら仲間を信頼しているからだ。その信頼に応えるように仲間達(ザヴィア )が動く。


「いいのですか?そんなにホイホイやって来て」


アルフの挑発に乗って、オーク共が彼女に群がる。

元騎士団長の父親譲りなのだろうか、彼女のヘイト管理は完璧だ。

決してそこから先へ敵を流さない。


「“身体強化フィジカルエンチャント”――“全身体能力(オールステータス )”」


そんなアルフを支えるべく、テアが身体強化の魔法を掛けた。

身体系の補助魔法はバーセレミと契約した魔法師の専売特許だ。しかも全能力(オールステータス)とはね。頑張ると言ったテアの本気、魔法師の面目躍如と言ったところか。


「はあっ!」


テアから魔法の援護を受けたアルフは危な気なくオーク共を捌く。

時に剣で切り付け、時に盾で受け、殴る。


「ほいほいっと」


その合間に俺はナイフを投げてオーク共の数を減らしていく。

操り人形(マリオネット )”で強化された正確性によって、ピンポイントで急所に当てる事ができる俺ならば、ナイフでもオーク如き一投で倒せる。反応速度も上がっているから殲滅も早い。


「うらららぁっ!“破斬スラッシュブレード”!」


後ろの心配が無くなったヒデは、新たな厨二を発病させてオーク共を蹂躙していった。


《主よ、その技は“引き”と“流し”の量で範囲と威力を調整できる。覚えておくといい》


ソルはソルで淡々とヒデを指導していた。何だかいいコンビだな、あいつら。




「おお、宝箱だ!おいゼン、未開封の宝箱があるぞ!」


オークを殲滅したヒデが歓喜の声を上げた。


「ほー、珍しいな」


ここに来るまでに見た宝箱は全て開封されていた。と言っても数える程だけどね。

未開封は初めてだ。


「いけません!宝箱には罠が仕掛けられています、そのまま捨て置きましょう」


「迷宮で死ぬ理由でも宝箱の罠は上位。放置するべき」


だが、そこに待ったをかけるアルフとテア。

決しておかしな事を言っている訳ではない。これがこの世界の常識なんだ。


だが、その常識を知らないヒデは首を傾げた。

俺の趣味を知っているヒデは、何の疑いも無く俺に問いかける。


「えー、でも…大丈夫だよなあ、ゼン?」


「おー、任せろ」


何の気負いも無くそう答えた俺は、そのまま作業に入る。


「え!?ちょっと待って下さ――」


「ゼン!?」


“カチャ…ピン”


「開いた」


そして、二人が制止する間も無く解錠を終えた。

今更、初級の迷宮にある宝箱に後れを取る俺ではない。


「魔力付与された盾――カイトシールドか、これはアルフ用でいいよな」


「そうだな!異論は無いよ」


「と言う事でアルフ、これはお前の物な」


「…………」


む?反応が無い。ただのしかば――見ればアルフが呆然としていた。


「…………」


いや、アルフだけじゃない。テアまで一緒になって放心している。


「どうした?ほら、受け取れ」


無理やりアルフに盾を押し付けた。

その動作でショックから戻ったのか、アルフが再起動を果たす。


「ぜ、ゼン!あ、あなたは何者なんですか!?い、いえ、どうやって罠を避けて鍵を開けたのですか!?」


開口一番、怒涛の質問攻めだ。


「鍵も持っていなかったはず。どうやって開けた?」


お前もか、テア。そこで、ふと気付いた。


「鍵開けはともかく、ヒデは俺が罠の解除もできるって何故分かったんだ?」


俺は一言も言ってなかったと思うんだが。


「だってパーティー結成の自己紹介で、お前自分で解除師って言ったじゃないか。だから罠の解除も覚えたんだろうなあって思った」


「なるほど」


酔っていた癖に、そんな事は覚えてるんだな。

ヒデが昔から結構細かい所に気が付く奴だった事を思い出したわ。


「そう言う訳だ。俺は鍵開けや罠の解除を得意としている。鍵なんざ不要だ。今後もどんどん宝箱も扉も開けていくぞ」


俺はアルフとテアの二人にそう宣言した。


「解除師…ですか。何の事かと思ってはいたのですが、これほどだったなんて」


「同意。ゼンの事だから、きっと凄い職だと思ってた。でも、予想以上だった」


アルフとテアが感心したように呟いた。

しかも今日のテアは珍しく長台詞が多い。よっぽど驚いたようだ。


日本のゲームやラノベじゃ目立たないポジションなんだがな。名前からして盗賊だしさ。たまにスカウトなんて言うのもあるが、やってる事は一緒だ、マイナー職の代名詞。ある意味俺らしいと言える。







あれから十日経った。

俺達は冒険者パーティー・ザヴィアとして迷宮に挑み、最深部までやってきた。

最深部とは言っても、初級だからか階層は二十五層しかない。

この迷宮の場合、二十層から先を深層と言い、最深部は最下層である二十五層を指すのだ。


最初の三日はヒデの調子を見る事と連携の確認に費やした。

その三日間で、この迷宮の攻略は容易いと踏んだ俺達は、その後の五日で一気に攻略階層を増やし、中層までを制覇した。

更に三日かけて深層を攻略し、いよいよ最深部へと足を踏み入れたところだ。


「よーっし!この勢いで護り手を倒して、この迷宮の攻略を完了させようぜ!」


「はいはい、了解了解」


「いいですね!そうしましょう!」


「分かった」


最深部の手前、大部屋にいたオークの集団を危な気なく突破したどころか、宝箱から装備まで手に入れたもんで士気が最高潮に達してしまったようだ。


テアはセリフだけ聞くとそうでもないように見えるが、よく見ればうずうずしているのが分かる。まあ人間の領域じゃ、迷宮制覇なんて過去に一度も無かった偉業だから仕方がないのかもしれない。







そう、人間の領域では迷宮が攻略された事はこれまで無かった。ただの一度も。

人間は一つに纏まったことが無く、多くの国に分かれて争いを続けて来た。

他でもない、“陽の迷宮”の所有権を各国が主張したのだ。

どの国が神の恩寵を受ける資格があるか、肝心の迷宮攻略をせずに権利を巡って争った。種の発展より、争いに勢力を傾けたのだ。

これにより、人間と言う種は退廃していくかに見えた。

だが人間は、争いによって発展した。皮肉な事に、“陽の迷宮”の攻略ではなく、戦争によって発展したのだ。


この辺りは地球と同じだな。

戦争によって技術が向上し、その技術を平和利用することで種が発展する。

その結果、迷宮攻略は争うための大義名分と化した。


暗黙の了解で、“陽の迷宮”を持つ国が人間の首長国となる事が決まった。

現在はアークランドと言う国だ。


ピッテル国は首長国となった事は無い。

だが、過去に“陽の迷宮”から発見された聖剣――バーセレミを象徴する力を持つ太陽剣ソルブレイドを手に入れた冒険者を時の王女が婿に取り、国宝に据えた事で発言力を得たと言う経緯があった。




結局、何が言いたいかと言うと、人間は戦争によって発展できる事に気付いてしまった。無理して迷宮に挑むより、大好きな戦争をしていれば発展すると知った国々は、迷宮攻略を推奨しなくなったのだ。


神殿との関係があるから表立っては言わないが、国としては迷宮を攻略できる程の人材は戦争で活躍して欲しいと考えている。実際、ランクアップした冒険者は国に引っこ抜かれているそうだ。

つまり、俺とアルフがランクアップを急いだ事に意味は無かったと言う訳だ。

そして、ランクアップした冒険者は冒険者ではなくなる。例外は無い。


何故なら――――冒険者は儲からない。


ファンタジーによくある、魔物の素材を冒険者ギルドが買い取ってくれる――なんて美味い話は人間の領域には無い。

考えてみて欲しい。

種が発展していないのだから技術だって発展していないんだ。分かるな?

戦争によって発展しただろうって?それもよく考えてみろ。

迷宮に行きたくないからって戦争で発展している種族だぞ?そこで産まれた技術が迷宮産の素材を使う訳ないだろうが。


つまり、儲かるためのシステムを確立できない組織、それが冒険者ギルドって事だ。そして、それを支えるのは神殿なのだが、古来より聖職者は清貧と相場が決まっている。何が言いたいかと言うと、神殿だって金なんか無いのだ。権威はあるが権力は無い。それがこの世界の神殿の立ち位置だった。


これらは全てテアから聞いた話だ。

テアは魔法師だけあって、神殿の内部事情に詳しい。ちょっと詳し過ぎる気もするが、情報は全て本当だ。俺が確認したんだから間違いない。

テアが嘘を教えられた可能性もあるが、それを言い出したら何も始まらない。


神殿を俺達――と言うか、ヒデの後ろ盾にすると言う方法を思い付いた俺は、神殿の事情通であろうテアに話を聞いてみたのだ。

テアはあまり乗り気ではなかった。神殿には権力が無いから、と言うのがその理由だ。だが言い換えれば権威はあるんだ。俺にしてみればそれだけで充分だった。

金なら迷宮で稼げばいいんだしね。


ん?さっきと言ってる事が違うって?

俺を他の連中と一緒にしてくれるなよ。

俺は解除師だぜ?他の冒険者には無理でも、俺なら宝箱が開けられるんだ。宝箱には勿論お宝が入っている。俺なら迷宮は稼げる場所に早変わりと言う訳さ。







人間の領域初の迷宮制覇だ。一体どんなお宝が眠っているのやら。

俺は俺で、ちょっと気が逸っているのを自覚する。

だって仕方ないだろう?迷宮制覇は俺だって初めてなんだ。

魔国では“月の迷宮”の攻略階層を先に進めただけで、制覇した事は無いんだよ。




「と言う訳で――待ってろよ、お宝ぁ!」


思わず本音が口を突いた俺に、ヒデが声を掛けて来た。


「いや、あのな?その前に護り手との戦いがあるって話をだな――」


あ、はい。そうですね。







 

そこそこ進んだので投稿。

 

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