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02-02 再会

「ゼン!やっぱりゼンだ!」


半ば泣きながらヒデは俺を抱き締める。


「ヒデ…なんでここに?」


余りに想定外の事態に、俺は思考が追い付いていない。


「ゼン!ゼン!」


ヒデはヒデで感情が昂ってしまったようだ。はっきりと分かるほどに泣き出してしまった。落ち着けと言って落ち着く状態ではない。

背中をぽんぽんと叩きながら、自然に落ち着くのを待つ事にする。




「落ち着いたか?」


「お、おう」


一頻り泣いて落ち着いたヒデは、先程までの自分を思い出してバツが悪そうだ。

俺達は冒険者ギルドから出て、宿屋に戻っていた。ここなら人に話を聞かれる心配も無いし、四人部屋なので広さも充分だ。

アルフには申し訳ないが、“お願い”して外に出て貰っている。


「さて、何があった?」


「うっ」


「言っておくが惚けても無駄だぞ。お前が人目も憚らず泣くなんて尋常じゃないだろ」


「だ、だけどよう…」


言葉を濁すヒデは、話したいけど言い(あぐ )ねている様子。

重症だな。よっぽど何かやらかしたに違いない。

何よりサエとクミが傍にいないのがおかしい。こんな異世界なんて訳の分からない場所に来て、離れ離れになるような三人じゃなかった筈だ。

俺としては、ヒデには自分から話して欲しい。力を使って無理やり聞き出したくはない。


「なあヒデ」


だから俺の想いを打ち明ける。


「何だよ…」


「俺はお前を友達だと思っている」


「お、俺だって同じだよ。ゼンは俺の親友だ」


俺の一方通行じゃないと判ってはいた。

それでも、はっきりと口に出して貰えるのは嬉しいもんだな。


「お前は俺を救ってくれた。独りぼっちだった俺を助けてくれたんだ。いつか、この恩を返したいと、ずっと思っていた」


「…俺は恩を着せるためにやったんじゃない」


ちょっとムっとしながらヒデは言う。


「分かってる。それでも、俺はそう思っているんだ」


友達なら苦しんでいる時には助け、困っている時には手を差し伸べるものだろ?


「俺はいつだってヒデの味方だよ。どんな失敗したって、どんなにカッコ悪くたって、俺はお前を見捨てない」


これが俺の本心だ。

かつて俺を救ってくれた、その後も救い続けてくれた友人への偽りのない本心だ。


「ゼン…」


そんな俺の想いが通じたのか、ヒデはぽつりぽつりと何があったかを語り始めた。







「女ができただあ!?」


余りに想定外の出来事に、俺は一瞬気を失いかけた。


「お、おう」


きまりの悪そうなヒデの返事が生々し過ぎる。

ヒデとあの二人が一緒に行動していないワケ。それはそう言う事だった。


「こっちの世界に来てからか?」


「お、おう」


「それを、あの二人は…」


「知っている…気付いている筈だよ」


「おいおい…」


まさかの事態だった。予想の斜め上過ぎる。


「相手は誰なんだ?」


「城のメイドで、シンシアって子なんだ。俺専属のメイドさんでさ」


おいおい、それこそ罠なんじゃねーのか?

俺が見たら使徒でした、なんてのは勘弁してくれよな。

そうでなくても、明らかにお前の手綱を引くための手段だろうがよ。


「…何でそうなったのか、説明してみ?」


とは言うものの、こいつがそう簡単にそんな罠に引っかかる訳がないのは、俺自身よく知っている。何か理由がある筈だ。


「ううっ」


何やら言い難そうにしている。コイツ他にも何かやらかしやがったな。




しかし、聞いてみればありがちな話だった。

勇者召喚によって現代日本から呼び出された。

聖剣を抜いてみろと言われて抜いて見せたら「本物だ!」とおだてられた。

魔族に滅ぼされそうだから助けて欲しいと言われて承諾した。

戦いの実力を見ると言われて自信満々で挑んだらコテンパンにされた。


一度、自信とプライドを粉々に砕いておいて、自分達の言う事を聞くように仕向けるなんてのはよくある事なんだがな。

ヒデの場合、剣道で負け知らずだったから、思いの外ダメージがでかかったのかもしれん。そこを優しく慰められて、コロッといってしまったと。


サエとクミは、なまじ幼馴染のために落ち込んで弱った自分を見せられなかったらしい。

バカだなあ、そんな時はむしろ弱さを見せる方が、好感度UP間違いなしなのにな。

まあ、起きてしまった事を悔やんでも仕方がない。サエとクミのフォローは合流してからやるとして――


「一つ聞いておきたいんだけど、お前その子との事を後悔してるのか?」


もし一時の気の迷いだって言うなら、殴ってやろう。


「それは無いよ。シンシアは本当にいい子なんだ。間違いだなんて思ってないよ」


「そっか…」


ある意味、予想通りの答えを聞けた。

弱ってようが、落ち込んでようが、やっぱりヒデはヒデだ。


「なら俺はお前を応援するよ」


「…え?…いいのか?」


ヒデは信じられないって顔で問い返す。何だよ、そんなに意外か?


「だって、お前が選んじまったんだから仕方ないだろ」


俺のいない間にやってくれたなとは思うが、こればっかりはどうしようもない。

裏切られた形の二人をどうやってフォローすればいいのか想像もつかないが、ヒデがその子に対して真剣だって言うなら、俺はヒデを応援してやりたい。


「何より、そのシンシアさんはヒデを救ってくれたんだろう?二人ができなかった事をやってくれたのに、その子を責められないだろうが」


そう、本当ならサエとクミがその役をやらなければならなかったのだ。二の足を踏んでトンビに油揚げ掻っ攫われたからって文句を言うのは間違っていると思う。


シンシアって子の真意は、会って話してみないと判らないが、もし本心からヒデを思っての事だった場合、責めるような事はしたくない。


「ゼン!やっぱりお前はゼンだ!」


「当たり前だろ、何言ってんだ!?」


「だってよう、前髪も一部染めちゃってるし、何かカッコよくなってるからよう、別人になっちゃったんじゃないかって思ってよう」


「何だそりゃ!?俺がカッコよくなったらいけないってのか!?生き抜くために、多少は鍛えてきたんだよ!」


「うお!?わ、悪かったよ、そんなに怒るなよ」


「まったく…」


とりあえず、この場に二人がいない理由は解った。

そっちの問題は二人と再会してからまた考えよう。




さて、次の話題に行く前に、ちょっと整理しよう。

ヒデの話を聞いて、疑問に思った事がある。


鼻っ柱を叩いて言う事を聞かせるのは確かにありがちだし、常套手段でもあるのだが、ヒデの最も得意な分野でそれをやってのけたなんて、俄かには信じられない。

これには、何か裏がありそうだ。

いくら剣道と実戦は違うと言っても、コイツの才能は別格だ。

少し練習すればその程度の違いなんて、あっさり修正出来るポテンシャルを持っている。




『――彼らはこの世界では生きていけない。弱いからね』




かつてのユスティスの言葉が思い出される。

あいつの言う「弱い」とは恐らく精神(メンタル )の事だ。精神を司る神だしな。

ヒデの本来持つ才能は、この世界でも通用する。

それは魔国に滞在した十年でよく解った。


敵である異界の神は、恐らくユスティスと同じ精神を司る神だ。

つまりユスティスの言葉は、その使徒にいいように操られ、使い捨ての駒として死んでいく、そう言う意味だったのだろう。


(って事は、頭ん中に細工でもされたか…)


あり得る話だ。精神を司る神の使徒であるのなら、常套手段かもしれん。


(まあ、それはヒデが寝た後にでも調べればいいか)


《………》


(ん、何だ?)


とても弱々しい微かな思念を感じる…


《魔…の……》


どこからだ…?


《……よ……どう……を………ど…か…“ギャギャギャギャ――”


発信源を特定しようと意識を向けたら思念にノイズが乗って聞こえなくなってしまった。

だが、一度感じ取った思念だ、逃がしはしない。

あんなか弱い思念が届く距離なんて、たかが知れている。

少し集中しただけで特定できた。


(無理すんな、夜になるまで待っていろ)


思念を寄越した相手にそう答えて、一旦先送りにする。

夜にやる事が増えたが、まあいい。




と言う訳で、最初に戻る事にしよう。


「ヒデは何で冒険者ギルドにいたんだ?」


ヒデは勇者だ。その勇者が何故態々冒険者ギルドで冒険者を物色していたのか?

国が用意した仲間じゃ不満だとでも言うのだろうか。


「だからさ、俺は強くなりたいんだよ。アイツらの鼻を明かしてやりたいんだ」


「ああ、虚仮にされたままではいられないと?」


「そうだよ。だからあいつらには内緒で冒険者になる。経験を積んで、強くなって見返してやる」


「――なら丁度いいか」


「丁度いい?」


「ちょっと待ってろ」


そう言って俺は部屋を出てアルフの元へ向かった。







「初めまして、私はアルフリーダと言います。ゼンの友人なら大歓迎です」


そう、話を元に戻すが、俺とアルフは冒険者の資格が欲しかったんだ。そのために仲間を探していた。勇者はアタッカー枠でいいだろ。


「ああ、こちらこそよろしく。俺の事はヒデって呼んでくれ、ゼンが認めた人なら俺も安心だ」


おーい、ちょっと待て。

軽く名乗ってるがヒデなんて名前、こっちじゃそうそうない。その名で呼んだら一発で勇者ってバレるんじゃないのか!?


(お前、ヒデって名乗って平気な訳?まずくないのか?)


(ん?…ああ、勇者の名前はショージだ。だから問題無いよ)


なるほど、確かに漢字で見なければ、ショージってファーストネームに聞こえるな。

お互い、いつも通りに呼び合っても問題にならないなら、むしろ良いのか。


「なら、これで揃ったな。ギルドに行ってパーティー登録しようぜ」


「おう!」


「はい!」




と言う訳で冒険者ギルド再び。


「パーティー登録を頼む。メンバーはこの三人だ」


俺は受付嬢に向かってパーティー登録の申請を告げた。

壁役にアルフ。アタッカーにヒデ。俺は遊撃と言う事にしておいた。


「三名ですか…少々不安がありますが、先にパーティー名を伺ってもいいですか?」


「パーティー名?」


「はい。パーティー登録の場合、パーティー単位での扱いとなるため、登録もパーティー名で行なう事になります」


おおう、なんてこった。全く考えてなかったぜ。


「じゃあ“ヒデ(勇者 )と愉快な仲間達”で」


「やめんか!」


“すぱこーん!”


間髪入れずに後頭部をはたかれた。

無論叩いたのはヒデだ。


「何だよ、お約束だろうが」


「叩かれるのもお約束だ」


む。それは確かに。


「――ぷっ!くすくすくす」


アルフが堪え切れずに噴き出した。


「見ろ、笑われたじゃないか」


「笑われるまでがお約束だ」


む。それも確かに。


「お二人は仲がいいのですね。くすくすくす」


また笑われた…

まあ、おふざけはここまでにしておくか。


「じゃあ真面目に。――何か良い案のある人は?」


「…………」


「…………」


二人してそっぽ向きやがった。




仕方が無いのでシンキングタイムだ。三人してパーティー名を考える。


「アルフと愉快な仲間達」


「お願いしますから、やめて下さい」


だめか。


「俺と愉快な仲間達」


「愉快な仲間から離れろよ」


これもか。


「自分は案を出さないくせに文句ばかり言う奴らだな」


「ゼンのは酷過ぎるんだよ!」


「えっと…私も、もう少し普通の名前がいいです」


贅沢なやつらめ。パーティーの名前なんてどうだっていいだろ。どうせ二週間しか使わないんだから。


「ちょっと外の空気吸って来るわ」


そう言って俺はギルドの外に出た。




外に出た俺は、そのまま人気のない路地裏に入る。そして振り向いた。


「で、俺に何か用かい、お嬢ちゃん?」


俺の視線の先には十歳程の少女が立っていた。ちょっと無表情だが可愛い顔立ちをしている。

ギルドにいた時から俺はこの少女の視線を感じていた。その割に接触してこないから、こっちからお膳立てしてやったと言う訳だ。




「魔族の王子様、わたしをあなたのパーティーに入れて欲しい」




その子は俺の目を見ると、開口一番そんなセリフを口にした。

うん、ちょっとこのまま放置する訳にはいかなくなっちゃったな。







 

※ 使途→使徒に修正。


ああ、見直す時間が欲しい…

 

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