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02-01 冒険者になる方法

 

本編が始まります。

二章ですけどね…

 



魔国を出た俺は人間の国を幾つも渡り歩き、漸く手掛かり――と言うか当たり――を見つけて今に至る。




長い長い回想を終えて、俺はアルフリーダ――アルフに向き直った。


「勇者の仲間の応募に何か条件はあるのかな?」


アルフは、見てるこっちが不安になるほど人を疑わないので、きっと素直に答えてくれるに違いない。


「御触れでは、勇者の仲間に相応しい実力と人柄を試すと書かれていました」


「実力は分かるとしても、人柄?」


「一緒に旅をするのですから、気が合うかどうかも大事なのではないですか?」


「…なるほど」


最終的にあいつらが面接でもするのだろうか。もしそうなら、そこまで辿り着ければ俺は合格間違いなしに違いない。




何故俺が仲間募集の試験なんて面倒な手順を踏んで、あいつらと再会しようとしているかと言うとだ。意外に思うかもしれないが、実は面倒を避けるためだったりする。リスクを避けるためと言い換えてもいい。


この十年で使徒共と何度もやり合ったお陰で、アイツらの能力が大よそ分かってきた。

実は使徒共の能力は俺に近い。精神に訴えたり操作したりと言った力に長けているのだ。

ここからは推測になるが、恐らくユスティスと異界の神とやらは、神として近い役割を持っているのではないだろうか。


精神・魔力はユスティスの方が強い。

でもその分、異界の神は空間操作に長けている。

俺の魂をユスティスの手の届かないところへ飛ばしたり、使徒が勇者召喚したりと、その片鱗が窺える。


閑話休題。


その勇者召喚が連中の策の一つとして考えると、ヒデ達の周辺には使徒がいる可能性が高い。

月の化身の能力を駆使してヒデ達に会いに行くとして、その途中で使徒と出くわさないと言う保証はない。そこでいきなりトラブルに見舞われるより、奴らの用意した手順に従って会いに行った方が、むしろ安全ではないかと考えたのだ。


(信用のおける案内役も見つけた事だしな)


俺はアルフに笑顔を向けた。


「試験ではライバルになってしまうけど、“それまでは色々教えて貰えると嬉しい”」


少しだけ言霊を乗せて、懇願の言葉を口にする。


「ええ、もちろんです。何でも私に聞いて下さい」


それが当然であるが如く、彼女は請け負ってくれた。アルフなら力を使わなくても大丈夫とは思ったが、念のためだ。







その後はトラブルも無く、乗合馬車は無事に城下町へと着いた。

入場料を払い、中へと入る。無論、正規の金額を払った。ここぞと言う時以外、強引な手は使わないのが俺の流儀だ。敵が近くにいるかもしれないのに、無駄に手掛かりを与えてやる理由は無い。


「しかし、人が多いな。ここは、いつもこうなのか?」


王城の城下町と言えば、つまり首都だ。人が多いだろうと予想はしていたが、これ程とは思っていなかった。


「いえ、恐らく勇者の仲間募集のせいではないかと…」


なるほど、そりゃそうか。じゃなきゃ御触れなんて出さないよな。

応募する人数が多ければ多い程、優秀な人材が期待できると考えたのだろう。

国中、手当たり次第に宣伝して回ったのかもしれん。


「これは、まず宿の確保から始めないと、下手したら町中で野宿する羽目になるかもしれないぞ」


「…う、そうですね。急いで宿を探しましょう」


こうして、俺達は宿を探して回る事になった。




結局、相場の宿は全て満室で、高級な宿にかろうじて空きを見つけた。

ここで逡巡したらきっと宿は見付からなかっただろう。運が良かったと言える。


「多少高くつきましたが、いい宿ですね」


「あ…ああ、そうだな」


俺の返答の歯切れが悪いのには理由がある。

宿は確かに見つかった。だが、それは一室のみ。しかも四人部屋だった。

にも拘らず、アルフは悩む素振りすら見せず即決した。

見知らぬ男と同室する事に同意したのだ。


(言霊が効き過ぎたのか?相当効果を弱くしたはずなんだけどな…)


何となく俺に協力したいと思わせる程度で、倫理やポリシーに反してまで従わせるような強力なものではなかった筈…


(元から暗示にかかりやすい上に、彼女の意に沿っていたのかもなあ)


催眠術や暗示と同じで、本人が望んだ事なら効果UPが期待できるのだ。

況してやアルフは騎士の父を持ち、本人も騎士を望むほど正義感が強い。きっと困っている人は放っておけない性格なのだろう。


「宿の心配も無くなった事ですし、冒険者ギルドに行きましょうか」


自分の考えに没頭していたら、アルフがそんな事を言い出した。


「冒険者ギルド?」


なんだってまた、そんなところに行く必要があるんだ?


「応募資格に冒険者ギルドのメンバーであることが明記されていました」


「え、まじで!?」


「はい。勇者様を助ける仲間として、旅の役に立つスキルが必須と言う事でした。冒険者ギルドのメンバーなら、戦力としても旅の仲間としても安心できると言う事なのでしょうね」


言われてみれば良い手だな。役に立たない連中の足切りには持って来いじゃないか。その上で仲間として必要な能力は期待できる訳だ。戦闘力然り、旅の知識然りと。


「――待てよ?だとするとランクは?それなら冒険者のランクも重要視されるんじゃないのか?」


当然、ランクの高い者が有力視されるだろう。


「はい。もちろん冒険者ランクは審査の上で重要視されます」


だよなー。しかし、そうなってくると、面接と戦闘試験の順番が重要になるぞ。

戦闘試験が先ならまだいい。高ランクの相手を倒したら、むしろ箔が付くってものだ。

でも、もし面接が先だったら?冒険者成り立てってだけで足切りされたら?俺はヒデ達に会う事も無く門前払いになる可能性が高い。


「ちなみにアルフの冒険者ランクは?」


参考までに聞いてみた。


「ありません。これから登録にいきます(にっこり)」


凄えいい笑顔で言い切られた。これだから天然ってやつは…


「試験までの日数は何日あるんだ?」


後は、本番までにどれだけランクを上げられるかにかかっている。

昇格試験も試験官に勝てばいいとか簡単なのが望ましい。


「あと十五日、ほぼ二週間後になりますね」


二週間か、一つ上がれば御の字だなあ。それも昇格の基準と試験が簡単な場合で。


「ま、やってみるしかないか」


ここで考えていても仕方ない。

まず冒険者になって、昇格の仕組みを聞いてから改めて考えよう。







冒険者ギルドとは、国が戦争ばかりで一向に“陽の迷宮”の攻略を進めない事を憂いた神殿が興した互助会だ。勿論バックには神殿が付いている。

そのため、人間の国であれば自由に各国を行き来できるし、犯罪でも起こさない限り、国に縛られる事も無い。冒険者の義務はただ一つ、迷宮を攻略する事だ。

(迷宮以外、フィールドの依頼も勿論あるが、それはオマケみたいなものだ)


無論、最大の目的は“陽の迷宮”だが、迷宮はそれ一つでは無い。

大陸には大小様々な迷宮があり、どの国にも一つくらいは迷宮があるもので、それらを攻略しても義務を果たしたと認められる。そうやって経験を積み、実力を身に着けてから“陽の迷宮”に挑んで欲しいってのがギルドの本音だろう。


各国は、神殿が後ろ盾となっているため、冒険者ギルドを排斥できないでいる。

神殿にそっぽを向かれると、戦争による犠牲者の数がとんでもなく増えてしまうからだ。それは国の運営が維持できなくなる程だと言うのだから恐ろしい。


(ペッテル国としては、神殿を味方に付けておきたいだろうしな)


だからこその冒険者の仲間なんだろう。

自分達の呼び出した勇者が、行く先々で迷宮を攻略するんだ。国としちゃあ、神殿に対していいアピールになるだろうさ。

そして勇者は経験を積み、魔国を滅ぼす程に成長する。


(そうはさせねぇよ)


俺は決意を新たにし、冒険者ギルドへ向かった。







「パーティー登録?」


俺はオウム返しに聞いた。

冒険者ギルドに行き、受付嬢から最初に聞かされた言葉がこれだ。


「はい。現在、冒険者登録希望者が非常に多く、処理が間に合わない状態なんです」


言うまでも無い、勇者の仲間募集における必須条件のせいだ。


「通常であれば、個別に試験を施して実力を計り、ランク付けを行うのですが――」


試験官が全くもって足りない程に新人が溢れ返っていると。


「そこで複数人によるパーティー登録をして頂ければ、最低ランクからとなりますが、すぐにライセンスを発行できます」


実は、実力が最低ランクにすら届かない新人が結構多いらしい。

その場合、訓練を施して最低ランクに達するまで実力を底上げするのだそうだ。

が、現状でそれをすると教官に人員を割かれてしまい、ますます試験官が足りなくなると言う、負の連鎖が起きている。

そこでパーティーを組む事で実力を底上げすれば、最低ランクはあると認めるよ、と言うのが真相のようだ。


「だからって、どんなメンバーでもいいって訳じゃないんだろ?」


死なないように配慮するって事は、バランスのいいパーティーでなければ意味が無い。当然、それを求めるのだろう。


「はい。壁役の前衛と、それにアタッカーは二名以上が必須です。アタッカーが後衛の場合は弓、魔術、又は錬金術のどれでも構いません。そこに魔法師がいれば、なおいいのですけど、そこまでは要求しませんのでご安心下さい」


当たり前だ。

魔国ですら魔法師は希少だったんだ。人間の国なら尚更だろう。

ここで魔法師必須とか言い出すようなら、パーティーを認める気がないと判断せざるを得ないレベルだ。


「とは言え、俺は一人だ。どの道、試験を受けなきゃ始まらな――」


「壁役は私として、投げナイフのゼンは後衛扱いでしょうか。…最低でも後一人は誘わなければなりませんね」


おい、アルフ。

お前は何故ナチュラルに()()パーティーを組む方向で考えているのかね?


「――今、冒険者登録したとして、実力判定はいつになるんだ?」


考え込んでいるアルフを放置して、俺は受付嬢に聞いてみた。


「申し訳ありませんが、十日以上先になるかと…」


げー、まじかい。

つまり最悪の場合、間に合わなくなる事もあり得るのか。


「真剣にパーティー登録を視野に入れる必要がありそうだ」


「それでしたら、あちらのホールにパーティー希望の方々が集まっていますので、探してみては如何でしょうか」


「ありがとう、そうしてみるよ」


俺は受付嬢に礼を言って、パーティー希望者の集まるホールへと足を運んだ。







「予想はしてたけど、碌なのがいないな…」


声を掛けて来るのはアルフ目当ての色ボケ野郎ばっかりだ。

まあ、それは予想できた事だけどな。俺は人間の国(ここ)では需要無い解除師だ。


「アルフは俺と組まなくても、“自分の気に入った相手がいたらそいつらと組んで構わない”んだぞ?」


念のために、先程の言霊を解除しながらそう言っておく。

俺の都合に彼女を巻き込んで、彼女の夢まで潰す訳にはいかない。

俺は最悪、応募できなくてもやりようはあるが、彼女はそうはいかない。俺の事情に巻き込む訳にはいかない。


「いいえ、気にしないで下さい。私は私の意思でゼンと組みたいと思っています」


だと言うのに、アルフははっきりとそう言った。


「あ、そう…」


俺としては、そう答えるしかない。

言霊を解除したのにそこまで言われては翻意を促すのは難しい。

溜息を吐いた俺の背後で、そんな俺達の会話に反応した奴がいた。


「ゼン!?今、ゼンって言ったか!?」


その声に振り向いた俺の目に映ったのは――




「ヒデ…?」




――ずっと会いたいと思っていた友人だった。







 

アイデアはあるのにストックが貯まらない。

シルバーウィークにどこまで書き上げる事ができるか…

緊急の呼び出しが無い事を祈るしかありません。


※追記

 伺える→窺える に修正。

 

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