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01-08 覚醒

「アリス!そいつから離れろ!」


俺は大声で叫んだ。


「え、何?何を言ってるの?」


アリスは戸惑っている。

声は聞こえている筈だ。だけど頭が追い付いていない。

状況を理解できないんだろう。


アリスの背後で、メイド服を着たモンスターが、爪を立てて振りかぶっている。

俺に正体を見破られた事に気付いて、行動に出たのか!

くそ! 騒いだのは軽率だった。


「アリス!」


「え?――きゃあ!」


俺の視線に気付いたアリスが背後を振り返った。

直後にモンスターが爪攻撃を繰り出すが、悲鳴を上げながらも、アリスは頭から床に飛び込んで致命傷を避ける。幼いながらも、さすが魔王の妹である。見事な危機回避能力だ。

しかし、次が続かない。床に倒れたアリスは何もできない。

だが、俺が追い付いた。


「喰らえ!」


走る勢いのまま、モンスターにタックルをかます。


「チロ!」


俺の体当たりを真面に喰らったモンスターは――


「え、うそ…」


――びくともしなかった。


所詮は五歳児。全力でぶつかろうが、モンスターには何の痛痒も与えはしなかったのだ。

ヤツは、先程空振った爪を易々と俺に突き立てた。


「がはっ!?」


血を吐いて倒れる俺。


「チロォォォオオ!」


アリスの悲鳴が聞こえた。

次はアリスの番だろう。ちくしょう、意識が遠くなる。




何故、俺は戦闘訓練で使った武器を持たずにここへ来たのだろう。

何故、俺は普段から武器を持ち歩かなかったのだろう。

何故…




――それは、俺が全然本気じゃなかったから。

口ばっかりで、本気で戦おうなんて思っていなかった。

まだ十年あると思っていた。

どうして、その十年の間に何も起こらないと思い込んでいたのか。

心構えからできていなかった。

そう、戦う前から負けていた。


くそったれ…


せめて、アリスは助けたかったな…







『――本当にそう思うかい?』


何だよ、またお前か。ここ、もしかして、あの世なんじゃね?


『違うよ。ここは夜の世界、僕の世界だよ』


ああ、はいはい。そうですねー。


『投げやりだね』


悪いな。俺は今、自己嫌悪の真っ最中なんだ。


『君が望むならやり直せるけど、どうする?』


大盤振る舞いだな。更に十年前に飛ばすってか?

でも、だめだ。どれだけ過去に飛んでも俺は弱い。


『重症だね――何故、君が僕と契約できないか教えてあげようか』


なんだよ、いきなり。

それも今更だ、そんなの俺に才能が無いからに決まってるだろ。


『才能はあったよ。君はただの因子持ちじゃない、魔王だ。魔王に才能が無い訳ないよ』


なら何で契約できないんだよ!?

俺に意地悪して楽しんでたとでも言うのか!?


『惜しい、ちょっと違う』


惜しいのかよ!!

八つ当たりだったのに、もの凄いカウンター喰らっちゃったよ!

泣いちゃうよ、俺!?




『――君はね、僕の化身になったんだ』




けしん?ケシンって何だ?

ケシーン、ゴー!


『面白くないね』


ぐはっ!


『過去に戻る際に、体を再構築したよね?』


ここでスルーかよ!どうせなら最初っからスルーしてくれよ!


『したよね?』


……何だよ、ここ大事なところかよ。


「ああ、めちゃくちゃ苦しかったアレな」


『うん、あの時にね?君の魔王の因子を僕の因子に作り替えちゃったんだ』


――何だって?


『だから、今の君は魔王じゃなくて魔神なんだ』


「おま――」


『それが無ければ、あんなに苦しい思いしなくて済んだんだけどね』


「――――!?」(ぱくぱくぱく)←言葉にならない


『従って、君は僕でもある。自分とは契約できないって事だよ』







『落ち着いたかい?』


「ああ、何とかな」


たっぷり五分程かけて心を落ち着けた俺に、ユスティスが声をかけた。


『それでね、君の中にある僕の因子を活性化させるには、条件があるんだ』


「条件?」


何で、そんな面倒な事を設定したんだ?


『無暗矢鱈に魔神を増やして、まかり間違って敵になったらどうするのさ』


「ああ、なるほど」


そりゃごもっとも。


「で、条件って何だ?」


『心の底から僕を受け入れる事』


「…………」


『“君の世界”は酷く狭い。その理由は君自身、よく理解しているよね』


ああ、嫌って程よく解ってるよ。


『その反面、一度受け入れた相手に対しては、とても寛容だ』


「…………」


『そんな君が僕の因子を活性化するためには、少なくとも僕の眷属である魔族を受け入れるくらい馴染んで貰うしか無かったんだよ』


「――そのための“家族”か」


俺の心が落胆で染まった。

仕組まれた家族。

仕組まれた愛情。

そんな物に浮かれていたなんて…


『勘違いして欲しくないんだけど、君を家族に迎え入れたのは、魔王の意思だよ』


「――え?」


『僕は、君をよろしくって頼んだだけなんだ。歓待しろなんて言ってないし、況してや家族に加えろなんて命令はしないよ。君もそう聞いたでしょ?』


まさか!?


「じゃ、じゃあ、ベル母様は何で俺を息子になんてしたんだ!?」


魔神から託された、未来からやってきた子供。そんな訳の分からない奴を自分の子になんて、する理由が解らない。


『さあ? ただ、彼女は伴侶を欲しがっていたのは確かだけどね』


「伴侶?」


『彼女は若くして魔王になった。結婚はおろか、恋人さえいないままにね』


「…それ関係あるのか? そんなの個人の自由じゃないか」


いきなり胡散臭くなったぞ、おい。

そんな俺をちらりと一瞥すると、ユスティスは言葉を続けた。


『君も聞いたでしょ?魔王の因子が活性化するとね、魔族は皆、魔王に畏れを抱くようになる。それは意志の力でどうにかできるような生易しいモノじゃないんだ』


ああ、例の威圧な。

だけど、それじゃ強制ボッチじゃないか。魔王になっても全然嬉しくないな。


『既婚者が魔王になった場合を除いて、魔王に伴侶がいた例は無いよ』


酷過ぎる…むしろ虐めだろ、それ。魔王になりたがる奴なんていないに違いない。


『その場合も魔王になったら関係は崩れるね、間違いなく』


俺の気分は最悪だ…早く、話を終わらせて欲しい。

コイツ、自分の眷属に対して容赦無さ過ぎだろう。


「でも、それが俺を息子にする事と何の関係があるんだ?…あ、そうか」


『そう、同じ魔王の因子を持つ者なら、畏れに対抗できるんだよ。因子持ちも魔王程じゃないけど威圧感出すからね』


そういやそうだったっけ。

あ、また嫌な事に気が付いてしまった。もしかしてあの姉妹、血が繋がっていないんじゃ…いや、もっと身近で重要な事に気が付いた。


「おい、念のために聞くが、魔神の因子が活性化したら…」


『魔王とは比べ物にならない程の威圧感が発生するね。魔王ですら気圧されて動けなくなるかなあ。気の弱い者なら失神するよ』


「おいい!?」


人に余計な荷物背負わせるんじゃねえよ!


『でもそれは魔王と違って自分で制御できるから問題無いよ。 君の事は誰も怖がらなかったでしょ?』


「それを先に言え!」


こいつ絶対楽しんでるだろ。


『そんな背景があってね?彼女は結婚を諦めていたのさ』


それと俺を息子にした理由にどんな関係があるって言うんだ?


『本来、魔王の因子を持つ者は限られる。魂に依存するから血脈は関係ない』


「もしかして、彼女達が妙に俺を可愛がるのって…」


『そう言う事だね。畏れないどころか、甘えてくれる男なんて、普通はいくら望んでも得られないからね』


それは言い過ぎだと思うけど、それでも少し寂しい話だな。兄弟すら得難いなんて。


『言い過ぎじゃないよ。魔王の因子は女性にしか現れなかったんだ。今まではね』


なんだってぇぇえええ!


「お、俺!俺は一体何者なんだ!?」


『突然変異か、はたまた唯の変態か』


痛いっ!

突っ込みが痛すぎるよ、お前は。


『でもね、だからこそ君は奴に異世界に追い遣られたんじゃないかって思うんだ。奴にとっても君は未知数なんだよ』


「…奴って?」




『君も見たでしょ? あのモンスターの親玉だよ』




あれか。


「なあ、アレはなんだったんだ? アレの親玉って?」


『この世界の外にある世界、異界の神とその使徒だよ』


外の世界なんてあったんだ。それが何でこの世界に来る?


『侵略だよ』


「分かりやすいな」


テンプレテンプレ。


『この世界を滅ぼすんじゃなくて、自分の物にしたいみたいでね、色々画策してくるんだ』


「何でお前は、それを知ってるんだ?」


『僕を欺く事はできないよ。僕は精神を司る神だ。僕を騙すことは何者にもできない』


ほうほう、そりゃ凄い。でもそれが、どう繋がるんだ?


『君、鳥頭?何を見て来たのさ』


「ひどっ!」


くそ、よく考えろ。ここまで言われて解りませんなんて言えるか!


「…………」


『…………』


――あ!ついさっき見たじゃないか。


「モンスター」


『うん、そうだね。君があれに気付けたのは、僕の因子が活性化を始めていたからだよ』


「なるほど」


『もう一つあるよね』


なぬ!?もう一つだと?


「…………」


『…………』


焦るな、焦るな、俺。

ヒントはあった筈だ。そう、あの夢見の悪かった、コイツのヒントだ。

確か、自分の目と記憶を信じろって言われたんだ。

目を信じろってのが、さっきのモンスターだろ?

なら記憶……あ。


「――マリア」


『そう、よく思い出したね。彼女は先代魔王の頃から城に勤めていた因子持ちなんだ』


「アリスの養育係だって言ってたな」


『うん、牢獄階で出会った彼女がそうだね』


「あのおばちゃんが本物のマリアか」


『使徒に食べられちゃったけどね』


うげ。俺はグロいのダメなんだよ、勘弁してくれよ。


『魔王の威圧は普段から発散されている。君と違って意識しなければ他者に向かないと言うモノではないんだよ。だから使徒と入れ替わった事に誰も気付けなかったんだ』


「使徒は威圧に耐えられるって事か」


『残念な事にね。更に言えば城にいた人達は、使徒の纏った容姿に合わせて記憶も操作されていたんだ』


つまり、おばちゃんが本物。妖艶な美女は偽物。でも、誰もそれを不自然と感じていなかった。


『そして、僕の因子を持つ君だけがそれに抵抗したんだ』


それが何を意味するか。さすがにここまで説明されれば俺でも解る。




『そう、奴らは僕が邪魔なんだ。奴らにとって、僕はこの世界を侵略する際の障碍なんだよ』







 

覚醒(2)に続く(ぇ


※ 追記:物→者に修正。

使途→使徒に修正。

 

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