05-11 平和な世界で(&おまけ)
本日2回目の更新です。
この話の前にもう一話更新していますのでご注意下さい。
戦いが終わり、疲労困憊だった俺達は誰もいない宿に戻り泥のように眠った。
『やあ』
止めろよ、疲れてんだよ、出てくるなよ。
『酷いなぁ、労ってあげようと思って来たんだよ?』
そういうのを余計なお世話って言うんだよ、世間では。
『ふ~ん。死んだ後で奴から奪った能力を君にあげようと思ってたんだけど、いらないって事でいいのかい?』
……何だよ、奪った能力って。
『転移』
なんだと!?
『だいぶ高性能だから、君のいた日本にも跳べるよ』
…マジか。
『欲しいよね?』
…………欲しいです。
最終的にこっちで暮らすにしても、親に挨拶くらいしたい。
一応、家族だし、親だし、それくらいには情を持っている。こっちに来て、ちょっと家族ってものを考えさせられたしな。
『じゃあ、あげるよ』
いいのか?
『頑張ってくれたからね。姉さんの相手までして貰ったし。それに、月の神と相性のいい能力だから、君に合うと思うよ』
あ、ありがとう! マジで感謝するわ。
『うんうん。じゃあね、ゆっくり休みなよ』
――――――
翌日。
「そんな訳で、日本に帰れるようになった」
こればっかりは、ヒデとサエ、クミに言わない訳にはいかないだろう。
「いや、俺は帰らないから」
まあ、ヒデはそう言うと思った。
「サエとクミは?」
「怒るわよ」
「わたしだって怒るよ」
この世界で俺と一生添い遂げると決めた二人には無粋な問いだった。いや、分かってたけど。
そうじゃない、そうじゃないんだよ。
「悪かった。そういう意味じゃなかったんだ」
「なら、どういう意味よ。言ってみなさい」
うわあ、本気で怒ってるわ、これ。
「こっちで暮らすにしても、今のままだと失踪だろ? 向こうでは心配してると思うんだよ。きちんとご両親に挨拶して来るとかだなあ…」
必死に言い募る俺。
「ああ、そういう…」
「それは、嬉しいかも~」
「だなぁ」
分かって貰えて、たいへん嬉しく思う。ああ、よかった。
――――――
また一夜明けて、サンシベルの街を発つ支度をしている最中にヒデが口を開いた。
「なぁゼン、結局九人って誰の事だったんだろうな?」
「あ、そうだね~、誰なのかな、気になる~」
そうか、気になるのか。
俺は正直言って、無事に終わった今となっては、もうどうでもいい。
「後世の童話らしいからな。抜けた情報なんかもあったのかもしれないな」
だから返答もいい加減だ。すまんね。
「作者が調べた時に追えたのが九人だけだったのかしらね」
「かもなあ」
悪いが、心の底からどうでもいいんだよ。
非常に冴えないが、異世界召喚から始まった一連の騒動はこれで終わりだ。
その後の事をさくっと紹介しておこう。
俺は魔国に戻ると、すぐにベル母様や姉達と結婚した。既に布告されていたらしく、本当にあっという間に準備が整ったのである。
「いいな~」
「あたし達とも式を挙げてよね?」
「それは、もちろんだ」
式を挙げないなんて、この二人に対してそんな不義理は出来ない。
結果から言うと、一月後に内輪だけで式を挙げた。当然のようにヒデとシンシアと合同だ。
内輪だけと言っても結構な人数になり、それなりに大きな式になった。
その三月後にはシーラとも結婚した。こちらは一国を挙げての盛大な催しとなった。
俺は魔国とペッテルを行き来する毎日だ。転移があるので移動は楽だし、苦ではない。忙しいけどな。
その内、機会を見て一度皆で日本に帰るつもりだ。ヒデは親に嫁さんを紹介したいと言うし、サエとクミも子供が生まれたら親に抱かせてあげたいと言う。
困ったぞ。俺はどうすればいいんだ。八人も嫁を連れて行ったら、両親も爺ちゃんも卒倒すんだろ。
テアは寿命を延ばす事を嫌い、ザヴィアを離れていった。
が、一年後にひょっこりと姿を現し、俺のハーレム入りを果たしている。
「ゼンよりいい男がいなかった」とはテアの弁である。そうか? そんな事はないと思うけどな。
アルフは、なんとダグラスとくっついた。
ダグラスが最終決戦でのアルフの勇ましさに惚れたらしい。
何度断られても諦めずにアタックした結果、最後には首を縦に振らせていた。
なんだかんだ言って二人とも幸せそうだ。良い事である。
ワイルドとラウはダグラスとアルフの二人と一緒に冒険者として行動している。
無論、カーティス、フォルダン、ルダイバーの三人とも一緒だ。
カーティス達は、その後獣人族の迷宮攻略で頭角を現し、獣人界を席巻した。その業績を評価され、黒狼族に呼び戻されるのだが、「今更一か所に腰を落ち着ける気はない」と飛び出して、前述の四人と一緒に他種族の迷宮を攻略する日々である。
シャドウはレディパンサーの元へ戻った。彼女の影に徹する日常に戻るようだ。
そのレディパンサーと言えば、今までと変わらず実力を隠し、儲けた金でウィルデカットを養う毎日だ。
そのダーマ・ウィルデカットも変わらず作品を作り続けている。
結局、彼女がいなければレニアを倒す事は出来なかった。もし、そのために犠牲になったのかもしれないと考えると複雑な心境だ。
セニョール・ポンテールは、そんな彼女を世話する毎日を送っている。これはこれで一つの幸せの形と言えるのかもしれない、と最近では思うようになった。
ヘンリエッタには、その後もちょくちょく会いに行っている。
特に未来や過去の話などはせず、世間話をしながら茶を飲む間柄だ。
世界樹の巫女の影響か、それともノームだからか、寿命は長いらしい。これからも付き合っていく事になりそうだ。
ユスティスは、もっぱらあいつの気分次第で現れたり長く姿を見せなかったりと色々だ。
現れた時に話す内容は様々だ。重要な事もあれば、どうでもいい事も多い。つまり、相変わらずな関係って事だ。
セレ姉も似たようなものだ。
ただ、最近一つ心配なのは、「昇華したら、お姉ちゃんの旦那様になってね」などと言い出すようになった事か。
釘を刺しておこうと「普通、姉弟で結婚はしないだろ」と言ったら「ジェスは姉弟で結婚したでしょう」と返されてしまった。ぐうの音も出なかった。なんとかせねば。
とまあ、一部を除けば概ね平和で幸せな日々だと言っていいと思う。
ムーンジェスター 完
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おまけの童話
昔々、この世界を侵略しようとした邪神がいました。
それに最初に気付いたのは魔神でした。
魔神は邪神を追い詰めますが、返り討ちにあってしまいます。
うっかりさんですね。
次に気付いたのは女神様でした。
ですが、人間達の愚かな行いのせいで力が足りません。
女神様は他の神々に助けを乞いますが、彼らはちっとも言う事を聞いてくれません。
役に立ちませんね。
ある時、邪神の使徒が異世界から勇者を召喚します。
自分たちの言う事を聞かせて操ろうというのです。
そこで女神様は一計を案じます。
勇者に自分の聖剣を持たせて正気に返そう。
その目論見は上手くいき、勇者様は真実を知ります。
正気に返った勇者様は、使徒たちの思惑に気付いて反対に倒してしまいます。
さすがですね。
そして勇者様は、世界の人々に邪神を倒そうと訴えました。
その勇者様の言葉に集まったのが、のちに英雄と謳われた九人です。
九人の英雄。
それは勇者を始め、勇者と一緒に異世界から召喚された魔術師と錬金術師。
人間の騎士と魔法師。
魔族の錬金術師。
獣人の戦士と巫女。
そして、妖精族の暗殺者です。
なんか変なのが混じっていますね。
それは長く苦しい戦いでした。
誰もが傷付き何度も何度も倒れます。
けれども、彼らはその度に立ち上がって邪神と戦います。
やがて彼らの努力は実を結び、とうとう邪神は倒れました。
英雄たちの勝利です。
ふと誰かが言いました。
つらい戦いだった。
でも、自分はこんなに強くなかったはずなんだ、と。
その言葉に、そういえば自分もそうだと頷く英雄たち。
勇者様でさえもそうでした。
なぜだろう。
でも、いくら考えても答えは出ません。
きっと女神様が力を貸してくれたんだと思い、帰ることにします。
ふと空を見上げると、そこには太陽ではなく、月が浮かんでいました。
英雄たちは思い出します。
邪神と戦っている最中も月が出ていたことを。
昼も、夜も、いつだって月は彼らを見守っていたのです。
おわり。
と言う訳で終わりです。
途中、長く間を開けてしましましたが、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
実は彼らで描きたい事はまだまだあるのですが、一旦区切って別タイトルで発表できたらいいなぁとか考えています。考えてるだけですが。
なろうに登録した頃とはリアル事情が大きく変わってしまったので、連載は厳しいのですよ。
※追記
字下げし忘れていたのを修正。最後の最後に何をやっているんだ、私は…