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05-09 昼と夜

 俺の“精神破壊(マインド・バースト)”に対抗していたレニアは、()()を防ぐ事が出来なかった。

 セレ姉の渾身の魔法――迷宮に備わった機能の一つ――“拒絶(リジェクト)”。

 それは、迷宮内の異物を排除するコマンド。

 これを、ただ奴にぶつけても防がれる恐れがあった。だから俺が隙を作った。

 それは見事に嵌り――今、こうして俺達は地上へと戦いの場を移している。


『…だからどうした。場所を変えただけでは何がどうなる訳でもあるまい』


 その通りだ。これだけでは何も変わらない。

 しかし、意味があるからこそ俺()は、こんな手の込んだ事をしたのだ。


「――天を見ろ」


「「「――!?」」」


 俺の言葉に釣られてヒデとクミとラウの三人が空を見上げた。

 いや…うん、奴にバレるのを恐れて何も教えていなかったからね。だからって、その反応はどうかと思うが。


『……』


 三人と同じく空を見上げたレニアは気付いたらしい。無言で空を睨み付けている。


「日が暮れていく…?」


 ヒデがポツリと零した。

 その通り。


 迷宮内では、俺は全力を出せない。昼でも同じだ。俺が全力を出せるのは夜の――それも月の出ている時間だけ。だから、それを作った。

 セレ姉とユスティスが力を合わせて、それでも足りなくて星の神々を説得した。

 全ての神が力を合わせて作り上げた奇蹟の時間。

 真昼に夜が再現される。


「“夜との同化アセミレイションオブザナイト”」


 月の光を浴びて、俺は魔神化する。


『その程度の変化で我に勝てるとでも思ったか』


 奴が揶揄してくるが、勿論それだけではない。


「なんだか夜にしては明るいわね」


 サエの声に、再び皆が空を仰ぐ。


「あ、太陽が…!」


 空にはまだ太陽が在り、大地を照らしていた。


「あ…これって」


 太陽と月が重なっていく。


「日食…それも皆既日食だわ」


 そうだ。これこそが神々の用意した、奴を倒すための秘策。ここからが本番と言う訳だ。


『夜との同化』


 セレ姉の声が頭に響く。


「昼との同化!」


 俺もまた、次なる呪文(コマンドワード)を唱えた。


 その瞬間、俺の髪が半分――黒かった左側――が金髪になり、右目が青く変化した。

 つまり、人間――魔族――だった部分が太陽神(セレ姉)化したのだ。


 昼と夜――本来、相容れないはずの両者が唯一両立する例外の時間、皆既日食(エクリプス)

 この時だけ、月の神(オレ)太陽の神(セレ姉)の境界はあやふやとなり、合一を果たす事が出来る。神の化身に過ぎなかった俺も、セレ姉の力を借りて神となれる。


「“魔力相滅ペアリッシュ・ウィズ・イーチアザー”!」


『ぐあっ!』


 魔力の絶対量が増え――それでもレニアには及ばないだろうが――奴の魔力を効果的に削る事が出来る。

 これでもう、奴とて好き勝手は出来なくなる。


「今だ!」


「はっ!?」


 俺の合図に仲間達が我に返る。惚けている場合ではない。今がチャンスなんだ。事前に説明しなかったのは悪かったが、今は頑張って欲しい。


「おおぉりゃあぁぁ! “刺突(スラストブレード)”!」


 真っ先に復帰したヒデがレニアに突っ込んだ。


『ぐおっ!』


「当たった!?」


 野郎、当てて驚いてやがる。

 まあ無理もないか。今まで掠りもしてなかったからなあ。


「“雷よ(サンダー)”――“繋がり(コネクション)”――“回れ(トゥターン)”――“雷鎖(チェインライトニング)”」


「“増えろ(インクリース)”――“荒れろ(デソレイション)”――“巻き込め(インボルブメント)”――“激流の渦(ワールドライブプール)”」


「おわっ!?」


 それを見て、改めてチャンスと思ったのか、サエとクミの術が炸裂した。――ヒデを巻き込む勢いで。

 何気にクミも四小節の大技を繰り出しているぞ。成長したなあ。


「お、おい、俺まで巻き添えにするなよっ!?」


「そんな場所にいつまでもいる方が悪いっ!」


 ヒデは慌てて逃げつつ非難するが、あっさり返り討ちにされていた。哀れ。

 もっとも、戦いの天秤はこちらに傾いた。このまま一気に押したいところだ。

 それは皆も理解しているのだろう。今までの鬱憤を晴らすかのように攻め立てる。

 奴の体力が、少しずつ少しずつ削られていく。

 しかし――


「はあっ!」


『くっ』


 ダグラスが槍を繰り出すが、レニアが避ける。

 ヒデやサエとクミの攻撃は受けてもダグラスの攻撃だけはまともに喰らわない。奴もあの槍の攻撃だけは受けては不味いと理解しているためだ。


「“極小黒洞マイクロブラックホール”!」


 業を煮やしたか、ヒデが大技を繰り出した。


「おいバカ、ダメだ! まだ早い!」


 さっきと違い、奴は立て直している。迂闊な術は逆効果だ。


『バカめ。吸収ロリウムマルチフォルム


「ああっ!?」


 そら見た事か。俺に出来るんだから、奴だって術から魔力を吸収するくらい出来るさ。


「“魔力相滅ペアリッシュ・ウィズ・イーチアザー”」


 ま、ここまで来てそれを見逃すほど甘い俺ではないがな。吸収しようが回復しようが、その都度魔力を奪い尽くしてやる。


『おのれぇ』


 恨めしそうな顔で俺を睨むレニア。しかし、それで事態が変わる訳もない。


『ならば、この肉体で叩き潰すまで』


 開き直り、肉弾戦に持ち込んできたか。

 実はそれが正解だ。純粋な近接戦闘となると、俺には覆す手段がない。

 ――と言ってもだ。


「“封鎖(ブロッケイブ)”」


 奴の“力”――魔力――を伴わない普通の攻撃なら、アルフにとって脅威ではない。


『ぬうっ』


 即死の心配がなくなった以上、傷を負っても治せば済む。魔力は俺が補充し続ける。

 つまり、今まで通りに対処し戦えばそれで済むという事だ。


 奴の優位は、その驚異的なまでの破壊力にあった。それが失われた今、負ける要素などどこにも無い。後は奴の体力が底を尽き、ダグラスが止めを刺せばそれで終わりだ。







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