05-08 決戦2
この回、前半がダイジェスト風味だったのを書き直しました。(2017/5/24)
「クライマックスでダイジェストにする意味ってあるの?」と言う知人の意見を聞いて、それもそうだと納得したためです。それに合わせて、細かい部分を修正しました。
大筋に変化はないので、読み直さなくても大丈夫と思います。(でも読んで貰えたら嬉しい)
白狼化したレニアが迫る。
「“阻止”!」
初動を止めろとの俺の指示に従い、アルフがレニアを遮った。
『ふん』
しかし、レニアは軽く鼻を鳴らすと円形盾の縁を掴んで、そのままアルフに殴りかかった。
「きゃあっ!?」
アルフらしからぬ可愛らしい叫び声――などと言う感想を持つ暇もなく、事態は急転した。
「アルフ…!」
抑揚のないテアの声ですら焦りが滲んでいるのが分かる。
奴の一撃で、アルフが戦闘不能に追い込まれたのだ。
「ぅ…う…」
「テア、アルフを下げろ! 治療に専念!」
「わかってる」
くそ、あんな何でもないような一撃であのアルフが戦闘不能にされるとは。
ほんの一瞬。その一瞬を耐える事も出来ず、アルフの装備は砕かれアルフ自身もまた負傷した。戦闘続行不可能どころか、命に係わる大怪我だ。
「ひっ」
ラウが小さく悲鳴を上げたのが分かった。
覚悟を決めていたとは言え、万全を期した筈のこのメンバーから、あれほどの負傷者が――それもこんな序盤で――出るとは思っていなかったのかもしれない。
「ヒデ! ダグラス! 穴を埋めろ! 奴を後ろへ通すな!」
「わ、分かった!」
「…了解した」
同じく動揺しかけたヒデとダグラスに指示を飛ばす。ここで前衛が崩れたら終わりだ。何とか踏ん張って貰わなければならない。
『出来るのか、お前たちに?』
レニアの余裕は消えない。しかし、構わず二人は攻める。
「やって見せる!」
ダグラスの突き。それをヒラりと躱すレニア。そこをヒデの薙ぎ払いが追った。
「おおぉぉりゃあぁぁ! “破斬”!」
しかし、軽やかなステップでまたも躱し切る。ヒデよ、その技名叫ぶのやめないか?
「“落とし穴”」
そこに、ボソッと呟くクミの声。
『む』
すると、突如進行方向に出来た落とし穴にレニアの足が止まった。
「“電撃よ”――“降り注げ”――“雷の雨”!」
足の止まったレニアの周囲を包み込む稲光。サエの範囲攻撃だ。
『…やってくれる』
光が収まるとレニアが声を漏らした。
さすがのレニアも、足を止められての範囲攻撃魔術は避け切れなかったらしい。肩や脹脛の辺りから煙を立ち昇らせていた。
『小娘から先に片づけるか』
戦場を見渡した奴の目がギラリと光った。
「ひぃっ」
ラウの体が強張る。どうやら目が合ったようだ。
「させない」
ダグラスの目に決意が見えた。
『ソーサー』
そんなダグラスを余所に、レニアが円形盾を円盤のように放り投げた。前回も見た、後衛を攻撃する際の常套手段だ。
まずはサエとクミを狙うか。そりゃそうだな。実際にダメージを与えているのはあの二人だし、当たり前か。
「アリス!」
「任せて!」
すでに展開している“自在盾”でアリスが迎え撃つ。
――ギャィィンン
グラインダーで金属を削るような音を響かせる盾と盾。
「くうっ」
一枚では抑え切れず、三枚すべての“自在盾”を投入するアリス。
――イイィィンン
音の余韻を残し、レニアの元へ飛び去る円形盾。残されたのは無残に破壊され尽くした三枚の“自在盾”であった。
アリスのオリハルコンでもだめか。そうなると厳しい。守りの手段が無くなる。
「…アリス。お願いがあります」
テアの治療を受けながら、アルフがか細い声をあげた。
――――――
戦いは続いている。
「“囲いて”――“塞げ”――”石棺”!!」
「”雷よ”――”繋がり”――”回れ”――”雷鎖”!!」
“石棺”で奴を覆い、回避を妨げつつそこに“雷鎖”を叩き込み、単距離反射で威力を倍増するクミとサエの術コンボが炸裂する。
――ガガァッ!
しかし、円形盾を叩き付け、その“石棺”を力尽くで破壊、脱出し――
『ソーサー』
――その円形盾を円盤のように投げ、二人に攻撃を仕掛けるレニア。
「”斥力”!」
それを阻止しようとヒデがベクトル操作を発動。円形盾を引き戻そうとする。
「くそっ! 反転しきれない! 効果は出てるはずなのに! ――ソル!」
《これが限界だ、主よ。残念だが、奴の力の方が上のようだ》
しかし、レニアの空間操作能力に遮られているのか、その力を十全に発揮出来ない。
だが、微かとはいえ効果は確かに出ている。その証拠に、奴の円盤とて僅かにそのスピードを落としている。二人がその攻撃に晒されるまで、ほんの少しだけ猶予が出来た。
「“衛星:楯”――“三重唱”!」
その僅かな時間で、アリスが万全の守りを構築する。
――ギギギギィィィンンン!!!
金属同士が擦れる嫌な音を発しながら、円盤と化した盾と黄金の盾が鎬を削る。
――ィィイイイイイィィンン
結果は円盤の勝利に終わった。
何度繰り返されたかしれない戦い。そして、その結果は覆らない。しかし、その目的を考えれば、勝ったのは黄金の盾の方だ。
なぜなら、円盤の目的は後衛を殺戮する事であり、黄金の盾は二人を守ることであり――
「何度聞いても生きた心地がしないわね、あの音は」
「ホントだね。アリスちゃん、ありがと~」
――サエとクミ、ついでに俺も、その都度きっちり守られているのだから。
当初、“自在盾”を展開していたアリスだが、途中から“衛星”に変えていた。
都度作り直すのなら“衛星”の方が自立して動く分、初動が早い。その判断は間違っていない。
そして、なぜアリスが守りを常時展開せずに都度対応しているかと言うと、盾が毎回あの円盤に破壊されてしまうのもあるのだが、もう一つ重要な役割を急きょこの場で請け負ってしまったからだ。
「はぁ、はぁ、…“大傷治癒”」
何度目の治癒魔法だろうか、まだアルフの傷は癒えない。
「すみません、テア」
「――黙って、これがテアの仕事」
「アリスも、我儘を言って申し訳ありません。ですが――」
「黙って。必要なんでしょ? なら、やるだけよ」
レニアの円盤――円形盾は、オリハルコンに似て非なる謎の金属で出来ている。
それとまともにやりあえるのは、同じ金属で出来ているダグラスの槍か、神の手によって造られたヒデの聖剣くらいだ。アリスのオリハルコン製の盾ですら一秒と保たないのだから当然の結果かもしれない。
アルフの盾だって、曲がり形にも迷宮産の魔力の込められた装備だったのだが、奴にとっては正に鎧袖一触といった感じで、一撃で粉砕されてしまった。
それでも身に着いた技術はアルフの身を助けた。致命傷を避けた彼女はテアに引っ張られて退避し、治療を受けている。そのアルフが戦線復帰するための新たな装備を、アリスはオリハルコンで造っているのだ。
「ガントレット完成。膨張――ふう、レッグスの造形開始」
これで、多少はマシになる筈だ。しかし、それでも耐えて一秒足らず。あの円盤の存在がやっかいだ。
ダグラスの槍と同じ金属で出来ていると言っても、ここまでの性能差があるとは誤算だった。
いや、武器の性能ではないのか。ユスティスはダグラスの槍を、神をも殺せる槍と言った。ならば、そこまでの差はない筈だ。
と、そこで思い出した。戦闘前のダグラスの言葉を。
『魔力を一度変換しなきゃならないから、効率が悪いんだ』
そうか、つまり使い方の問題か。
“力”を温存しながら戦うダグラスと、それこそ湯水のように使えるレニア。その戦い方の差が出ているんだ。
誤算には違いないけどな、くそっ。
そのダグラスだが、いつもと比べて動きが悪い。理由は、ラウを庇っているからだろう。アルフのやられ方を見て、ラウが竦んでしまったためだ。
種族固有の特殊神聖魔法による防具の効果向上はアルフにも掛けられていた。
だが、それであの様では、そりゃ竦みもするだろう。
それでも以前と違い、必死に前線で耐えているのは覚悟の差だろうか。しかし、それでダグラスが彼女を庇ってしまうのは、これも誤算と言えた。
――ジリ貧
そんな言葉が頭を過ぎるが、それでも仲間達は戦意を失う事もなく戦ってくれていた。
奴を倒すための幾つかの策。ソレが嵌まれば、奴を倒せると確かに俺は言った。きっと、それを信じてくれているのだろう。
――だが
これでは、そこまで持って行けない。策を弄するための状況に持ち込めないのだ。
――時間が足りない
この場では、勝ち目がない。しかし、そこに繋げるためには、この場で時間を稼ぐしかない。
だと言うのに、その時間が稼げないとは。
――サエとクミの術が結果を出しているのが救いか
圧倒的優位な筈のレニアの動きを見ていると、二人の術を受ける時間を最小限に押し止めているように感じる。それは言い換えれば、二人の術は効果が有ると言う事だ。多少なりとも奴の体力を削っているのだろう。
――それと、もう一つ
奴は、ダグラスの動きを制限するためにラウを利用している。それはつまり、奴もダグラスの槍を警戒していると言う証拠だ。
「お待たせしました、戦線に復帰します」
手が無くなったと思っていた、その時。アルフが復帰した。その時、俺に僅かな――策とも言えない手が閃く。
「アルフ、頼みがある」
「ゼンが私に頼み? なんでしょう」
えらく不思議そうな顔をするアルフ。何だよ、俺が頼むのがそんなに変か?
「アルフは、もう奴の動きを遮らなくていい。その代わり、ラウを守ってくれ」
「――彼、ダグラスをフリーにするためですね?」
さすが、アルフは戦場をよく見ている。
「そうだ」
「しかし、私では長くは耐えられそうにありません…」
悔しそうな顔をするアルフ。
「そこは俺がフォローする。奴に全力を出せないよう、俺が手を尽くす」
やれても一瞬だろうが、その一瞬があればアルフならやってくれると信じている。アリスの造った装備を身に纏ったアルフなら――アルフの持つ技術ならば、やれるはずだ。
「分かりました。私も全力を尽くします」
「わたしも頑張ってフォローする」
俺の言葉にアルフと、その後ろにいたテアも頷いてくれた。根拠なんか何もない筈なのに、頼もしい限りだ。
斯くして、黄金の装備を纏った騎士が戦線に復帰した。
「ダグラス! ラウの守りは私に任せて下さい! 貴方の役目は攻撃に有るはずです!」
黄金騎士の姿を目にしたダグラスが何を思ったのか。
「承知した」
一瞬の躊躇もなく、ラウをアルフに任せてレニアへと走った。
『ほう、逃げ腰は止めたのか』
それを受けてレニアが揶揄するが、ダグラスに迷いはない。
「仲間の言葉を疑う意味はない。彼女は任せろと言った」
正解だ。この言葉を聞いて、アルフは更に奮起する筈だ。
それと意図した訳ではないだろうが、計算された言葉ではないからこそアルフの力になる。
『ぬ』
そして、攻撃に専念したダグラスは、やはり強かった。
訝しむレニア。前回は軽くあしらえた筈のダグラスの攻撃を、今はそう出来ない。
その違い。その差は後衛だ。前回とは後衛の充実度が違う。
「“岩壁”」
仲間の動きに合わせて、ボソッと牽制の一撃を入れるクミ。突然現れた“岩壁”に、壊すにしろ避けるにしろ、レニアは一瞬、動きを制限される。その一瞬を利用して、ダグラスは攻撃しているのだ。
「“雷撃”」
無論、その隙を利用するのはダグラスだけではない。後衛とは言え、サエも攻撃職なのだ。一瞬の隙なので単小節だが、攻撃しない手はない。
「いえぇぇぇい! “刺突”!!」
攻撃職と言えば、ヒデだってそうだ。敵の隙を、ただ見逃すような奴ではない。
技名を大声で叫ぶのは頂けないが、それで気分良く戦えるというのなら止める気もない。
『ぬう』
ここまで攻め続けていたレニアが、初めて受けに回った。
皆の動きが、良い感じで繋がってきた。
――連携
今まで――特に緩衝地帯で、俺が言い続けてきた事だ。それが、この流れを作り出していた。
そして、その流れを作り出したのはアルフだ。アルフが起点となって、この状況を作り出している。
ずっと悔いていた。
ヒデ達とすぐに合流出来なかった悔いがあった。
ヒデとサエとクミが別れてしまったのは俺のせいだと思わずにはいられない。
それでも、アルフと出会えたのは間違いなく幸運であった。そう断言出来る。
しかし――それを見落とす奴ではなかった。
『ふん』
何気ない投擲。とても力を入れているようには見えない。
――ィィイイイィィンン
だと言うのに、それはもの凄い唸りを上げながらアルフ――その後ろにいるラウとテアへと迫った。
「アルフ!」
思わず声が出た。まずい、俺のフォローは近接攻撃にしか効果が無い。
「“妨害”!」
盾を翳し、体ごと割り込ませるアルフ。あの金属同士が擦れる音が響く。アリスの造った防具が功を奏し、耐えている。が、長引けばマズイ。先ほどの再現となる。
「“遮断”!」
しかし、そんな俺の危惧を余所に、アルフは円盤の力をズラし、いなしてしまった。
「さすがです、アリス。これならば、私でも耐えられる」
「ふふ、ありがと」
アルフはアリスを褒めるが、そんな事はない。アルフの技術が無ければ、先ほどの二の舞になっただろう事は間違いない。
稼げたのは一秒足らずと言う、ほんの僅かな時間――しかし、それだけあれば、アルフはレニアの攻撃に耐えられるのだ。
絶望的な戦いの中、光明が見えた。
攻撃陣による行動の制限。ダメージの蓄積。打開するにも遠距離攻撃はアルフに無効化されてしまう。そんな中、レニアの取った行動は一つだった。
アルフを近接戦闘に巻き込む。
当然と言えば当然の成り行きだろう。しかし、それはこちらも読んでいる。
近接攻撃と遠距離攻撃の違い。それは、奴の“力”だけが乗った円盤と、奴の腕力に加え“力”を直接込めた円形盾との差だ。
近接攻撃ではアリスの造ったオリハルコン製の装備と雖も耐えられない。アルフの技術を割り込ませる一瞬の隙を作れないのだ。
だから、その隙を作り出すのは俺の仕事だ。
「“精神破壊”!」
俺は、自らの限界を超えた“精神破壊”を繰り出す。
手の中に握り込むのは、ウィルデカットの作った“遅延回路”の刻まれたオリハルコンだ。
これがなければ、俺は一発で退場してしまう。戦線を維持出来なくなってしまう。
『小癪な』
俺の全力程度では、奴に何の痛痒も与えはしない。が、一瞬でいいのなら隙を作れる。それで充分。
その隙さえ有れば、アルフはラウを守り通せるのだから。
そして、ラウが無事ならダグラスは何の憂いもなく攻撃に専念出来る。レニアも無視出来ない、ダグラスの槍。奴としても、ダグラスの攻撃だけは避けなければならない。
今度は、それが楔となり行動を制限されれば、他の攻撃陣がダメージを積み重ねる事が出来る。
事態の打開を狙って後衛を攻撃してもアリスの守りに阻まれる。
――とは言え
与えたダメージは微少だ。ダグラスの攻撃は勿論、サエとクミの大技等、喰らってはいけない攻撃を奴は必ず避けている。
膠着状態。
戦いは、そう言っていい状態になっていた。
――――――――
その後も戦いは大きく動く事はなく、仲間の疲労だけが積み重なる事態となっていた。
これはこれでジリ貧だ。しかし、文句を言うでもなく仲間達は戦線を維持してくれている。
恐らく、内心では疑問に思っている事だろう。
――本当に策はあるのか、と
だが、これでいい。
俺にとって、これは前哨戦でしかない。
俺の狙い。それは時間稼ぎだ。膠着状態? 戦線維持? それでいい。それこそが狙いなのだから。
そして、その時はやってきた。
『お待たせしました。ジェス――』
セレ姉の声が頭に響く。
待ちに待った、その時がやってきたのだ。
『――隙を作って下さい。それを合図に始めます』
簡単に言ってくれる。一瞬の隙を作る事でさえ俺には限界を超えた仕事だというのに。
しかし、やるしかない。これこそがレニアへの本当の反撃の狼煙なのだから。
「“精神破壊”!!!」
“魔力相滅”では、奴に何の効果も与えない。
ならば、俺にはこれしかない。命どころか魂さえ込めて――正真正銘、全力の“精神破壊”を仕掛ける。
『う!? おおおおおおおおお!』
「ああああああああああああ!」
――ピシッ
レニアと俺が叫ぶ中――仲間達は突然の事態に固まってしまっている――微かな音が迷宮のホールに響いた。
遅延回路――オリハルコン製のそれに亀裂が入った音だ。
このまま続ければ“精神治癒“が効果を発揮する前に魔力回路が壊れる。
――だからって、ここで止められるか
ここで止めたら二度とチャンスは来ない。これは、膠着状態で奴が油断していた今だからこその奇襲なのだ。
『拒絶』
セレ姉の声と共に“陽の迷宮”からレニアを含めた俺達は姿を消した。
苦手な(つまり、下手な)戦闘シーンが続きますが、基本ラストまでこんな感じです。
なぜ、こんな展開にしたのか。王道だから、としか言えません。とほほ。
ヒデの能力は重力操作とベクトル操作です。 ――という事にします(ぁ
一応、ソルの所持者がやりたいことのイメージを伝え、それが所持者に可能であれば(イメージが強固であれば)バーセレミは承諾するという設定にしてあります。
だから、物理法則とか関係ない。勘違いであっても、所持者のイメージが強ければできてしまうのです。
――こんな感じでどうですか。(台無し)
謎金属について
邪神が手を加えて造った金属なので、この世界では解析不能なのです。
戦線復帰直後のアルフとラウ(あとテア)の立ち位置について
前衛の少し後ろで、すぐに支援できる位置。やや前よりの中衛?
レニアは前衛が邪魔でまっすぐラウを狙えなかったため、弧を描いて円盤を飛ばしたのです。
※追記
レニアのセリフの大部分が「」になっていたのを『』に修正。がっかり。