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05-06 迷宮の真実

 



3話投稿の3。




 



「シャドウ、悪いがお前には地上(ここ)に残ってもらいたい」




「っ!?」


 俺の言葉にアリスが息を飲む。信じられないのだろう。シャドウ(こいつ)の力量を、身をもって知っているのはアリスだけだからな。


「…そうか。お前がそう決めたのなら仕方がないな」


 本人は至って冷静に受け入れてくれたので、騒動にはならなかったが。


「迷宮に於けるシャドウの役割は俺と被るんだ。なら、俺がいれば済む」


 つまり、そういう事だ。

 シャドウの本領は狙撃(スナイプ)であり、迷宮でシャドウを使う利点は薄くなる。連れて行く意味が無いのだ。


 結果として、メンバーが決まった。

 勇者ヒデ、魔術師サエ、錬金術師クミ、騎士アルフ、魔法師テア、獣戦士ダグラス、白虎の巫女ラウ、錬金術師アリス、そして俺。以上九人で“陽の迷宮”を攻略する。


「前衛の――メイン盾はアルフに任せる」


「はい!」


「だが、奴は転移や巨大な円形盾(ラウンドシールド)を飛ばして後衛を直接狙ってきたりもする。だから、後衛の守りはアリスの役目だ」


「うん」


「アルフはヘイト管理よりも奴の動作――初動を潰す事を念頭に動いて欲しい。アリスは自在盾や衛星(サテライト)での防衛だ」


「了解しました」


「分かった」


 守りに関しては、この二人に完全に任せてしまうつもりだ。変に手出しするより確実だろう。


「前衛アタッカーはヒデとダグラスだ。とにかく奴の動きを止め、体力を削って欲しい。特にラストアタックはダグラスの役目だ。必ずお前が止めを刺せ」


「任せろ!」


「分かった、全力を尽くすよ」


 この二人も、止めを除けば特に言う事は無い。いつも通りにやってくれれば不満は無い。


「テアは、いつも通りアルフのフォローだ。特に指示は無い。いつも通りやってくれ」


「わかった」


「ラウは前衛への支援と癒し(ヒール)だ」


「は、はい!」


 獣人族の魔法師は、支援スキルが豊富だ。特に白虎族は前衛への支援が充実している。

 ラウを前に出すのは不安が残るが、固有魔法である金属操作で守りは堅いと言う。

 前回は冷静さを失って良い所がなかったけど、ダグラスが言うにはちゃんと成長しているそうだ。


「全員への魔力の補充と後衛の癒しは俺が担当する」


 これは当然だな。


「サエとクミは、基本は奴へのダメージソースだ。ただ、臨機応変に戦況に対応してくれて構わない」


「了解よ」


「は~い」


 皆を見渡し、各々が役割を把握した事を確認する。

 以上が基本戦術だ。要所要所で策は用意したが、それが嵌まれば充分に勝ちは掴める筈だ。




 ギルドの計らいで、必要な物資は揃っていた。明日から“陽の迷宮”の攻略を開始する。




 ――――――――




 翌日。


『今回は私も付いて行きます』


 珍しくセレ姉がこんな事を言い出した。無論、姿は消したままだ。つまり、俺にくっ付いていくのだろう。


 ――いいのか? 危険なんじゃ…


『バイウーを残してきた以上、誰か一人くらい神がいないと奇襲を受けるかもしれません』


 と、そういう理由らしかった。

 バイウーは両の前足を失った傷が完全には癒えていないし、そもそも奴の棲み処はワイルドの肉体だ。ここには連れてきていない。


 ――そういう事なら、よろしく頼むわ


『はい♪』


 なぜか上機嫌なセレ姉であった。







『~~~♪』


 迷宮に入ってもセレ姉の機嫌は変わらなかった。浮かれていると言ってもいい。


 ――ご機嫌だな、セレ姉。どうしたんだ?


『うふふ、多少想定とは違いましたが、ずっと憧れていたのです。多くの種族が力を合わせて迷宮を攻略する日を』


 ――へぇ。確かに、種族毎に目指す迷宮が違う以上、そんな場面は無いもんな


『ジェスは不思議に思いませんでしたか?』


 ――何を?


『迷宮の難易度。何か不自然だとは感じませんでしたか?』


 ――感じた。理由は幾つかあるが、特に鍵の難易度は異常だ。迷宮の攻略深度と合致しない


 と、そこまで言って気が付いた。


 ――つまり、あれか。単一種族ではなく、複数の種族が力を合わせて攻略しないと行き詰るように最初から設定されていたって訳か


『はい♪ 本来は、最低でも三種族以上が手を組まなければ攻略が頭打ちになるよう設定していました』


 ――つまり鍵開けを例に取れば、鍵開けの得意な種族がどこかにいて、そこの迷宮をある程度攻略しつつ他種族のパーティメンバーに迎い入れる必要があったと


『そうしなければ、誰も絶対神に成れないはずだったのですけどね』


 ――他種族と協力しなければ攻略できない本迷宮か。詐欺だな、そりゃ


『ジェスの力が飛び抜けていたのは想定外でした』


 ――勿論、内緒でやったんだよな? よくできたな、そんな事


『絶対神の力の殆どをそこに注ぎ込みましたから♪』


 ――力の無駄遣い…って事もないのか。そこが根幹なんだもんな


『全ての神が迷宮造りに馴染める訳ではない上に、競争ですから規格を合わせなければなりません。そこでテンプレートを用意しました』


 初めから複数の種族が力を合わせなければ攻略できない迷宮か。




「おーい! ゼン、頼む!」


 セレ姉と話している内に地下四十階に着いたらしい。

 ずっと難しい顔して考え込んでいるように見えたのか、誰も話しかけてこなかったな。

 この面子だと戦闘も任せっきりで問題ないし、いや~楽だな。


「あいよ」


 ――カチャ、ピン


「はい、あとよろしく」


 俺が立ちはだかる扉を開けると、一瞬の静寂に包まれる。


「…相変わらず早ぇなぁ」


「感動すら覚えるわね」


「先生、凄いです」


 上からヒデ、サエ、ラウだ。他の面々も頷いている。

 何もしなくても、要所要所で鍵開けてれば仕事してるように見えるんだから、楽でいいよね。




『――実は、そこには私の眷属である人間が活躍できるよう配慮したかったという思惑もあります』


 先へ進むと、またセレ姉が話し始めた。まだ話し足りないようだ。


 ――と言うと?


『人間は、ハッキリ言えば器用貧乏ですから、その道の一番にはなれなくとも、二、三番くらいなら、なれたりします』


 ああ、なるほど。


 ――つまり、得意な種族と仲良くなれなくても、人間と仲良くなれば迷宮の攻略は可能と


『はい。人間と組んだ場合のみ、二種族でも攻略が可能となります』


 計算高いな、腹黒セレ姉。


 ――それはつまり、人間だけが単一種族で攻略可能って事かよ


『いいえ。“陽の迷宮”だけは、本当に複数の種族と一緒でなければ攻略できないように造ってあります』


 ――それは、公平を期すためにか?


『いいえ、私がその光景を見たかったから』


 へ?


『多くの種族の協力を得て発展する。そんな人間達を見たかったの。もう叶わないと諦めていたのだけれどね』


 人間達は、迷宮の攻略より戦争に走ったからな。


『思っていたのとちょっと違ったけれど、やっと見る事ができたわ。ありがとう、ジェス』


 意図してやった事じゃないんだけどな。結果オーライだ。


 ――よかったな、セレ姉


『はい♪』


 なら俺は、本当に結果オーライになるよう全力を尽くすまでだ。




 ――――――




「それにしても」


 ん?


「これは神々の代理戦争なんですよね?」


 珍しくアルフが不機嫌そうな声音で言った。この戦い――奴との決戦を指しているのだろう。


「そう言えなくもないな」


「このような一大事に、なぜ神々は静観しているのでしょう?」


 それが不機嫌の原因か。何人か頷いているのもいるな。

 別に静観している訳じゃないんだけどな。現に一人、ここにいるし。


「あの…先日バイウー様は大けがを負いました。まだ衰弱から完全に癒えないまま邪神と戦ったせいで治りが遅いんです」


 バイウーを庇う様にラウが反論する。

 まぁ、あいつが怪我したのはラウを庇ってだしな。そう言いたくなるのも無理はない。


「そ、そうでしたか。それは、失礼しました」


「いえ、わたしこそ、出しゃばってすみません」


 ま、セレ姉もユスティスも、やる事やってるんだけどね。奴にバレたくないから、声を大にして言う訳にはいかないんだよ。すまんね。




 そんな一幕もありつつ、戦闘では連携を確認しながら“陽の迷宮”の攻略を進めていった。

 セレ姉の指示により、確実に最短ルートを選択し、途中で阻む扉は俺が解除する。

 超高速で最高到達階を更新していった。


「ズル以外の何物でも無いな」


 そんな感想を持ちながら。









今回は、これで終わり。

次回は――が、がんばります…



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